旅館大和においでやす   作:たくみん2(ia・kazu)

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どうも、たくみん2です。そして、本当に飛男さんの作品を待っている方々、並びに本作品を待っている方々本当に申し訳ないです。
投稿スピードがどうしても速くないのでどうしても遅くなってしまいました…。すいません…

今回は旅館営業3日目(初日抜いて)です。主人公が仕事に慣れるところから始まりますね。ではどうぞ!


第七話 大切な友達

今日で研修を始めて三日目。大絶賛修行中だ。

俺は夏弦さんの下で、研修を受けている。ちなみに大和は京子おばさんの下で、同じく研修中である。

向こう側の研修内容はよく知らないが、俺の研修内容は夏弦さんのお手伝いが基本だった。お手伝いといっても、ずっと仕事しているわけではない。夏弦さんの基本となる仕事はフロントでの待機だ。そのため暇な時間が多い。その時間を使い、他の裏方の仕事を教えてもらっていた。

 そして、ちょうど今一通りの説明が終わったところだった。

「とりあえず、3日使って教えたけど、やっぱり実践を積むべきだな」

 大体手元のメモ帳に書いたのだが、やはり口頭での説明ではよくわからない部分もあった。

「そうだ、質問とかある?」

 唐突に質問タイムが始まった。だが、そこまで聞きたいことはない。だけども、一つだけ気になったことを聞いてみる。

「夜ってどうしてるんです?例えばフロントとか、夜にも誰か一人はいないといけないんのでは?」

 その質問に対して夏弦さんは答えた。

「拓海君が来たときに“全員で8人”と言ったけど、あれは半分嘘なんだ」

俺は言っていることがよくわからなかった。そんな俺の表情を見て夏弦さんが説明を続けた。

「実は後2人旅館スタッフがいるんや。その二人が夜の担当で、フロント待機とか巡回をしてるで」

 そういうことかと、俺は理解する。全員が昼間に活動して夜になると帰り、夜の待機するのは誰なんだと考えたがその答えがやっとわかった。

「その二人は交代制で大体夜の10時から朝の6時くらいまでの勤務なんだ。拓海君の働かない時間帯の人たちだから紹介するのを忘れていたわ。すまん」

 夏弦さんはかるく謝罪する。そこまで気にしていない俺は、思い煩わずに言った。

「別に大丈夫ですよ。ただ夜まで仕事をすることになるのはちょっとと思いまして…」

 夏弦さんは顔色を変えて言った。

「そこは大丈夫やで。拓海君担当の仕事内容も大体決めたから、君が夜に仕事することは多分ないよ」

「俺の担当って?」

 俺担当の仕事というのはなんなのか?この口ぶりからして伝わったと思うけど、まだ明確には伝えられていないんだ。夏弦さんや宇治原さん達のヘルプを頼まれていたのだが、どうやら自分だけの仕事もあるらしい。そして内容を、夏弦さんがえらそうなそぶりを見せて、教えてくれた。

「拓海君は、お客様のヘルプ対応と裏方の仕事が担当になる予定やで」

「裏方の仕事…とは具体的になんですか?」

「お客様の忘れ物管理とか、足りなくなった備品などの発注…、最終的には予約の管理までやってもらおうかな」

「ファ!?」

 裏方の仕事と言われてそこはかとなく重要であるとは思ったが、そのラインを思いっきり超えるくらい重要な仕事だった。

それもそのはず、忘れ物管理はどうにかなりそうだが、残りの二つに関しては、もし俺がミスをしてしまった場合、当然旅館の評判を左右してしまう。そんなことを考えると俺は寒気がして、体が固まってしまった。

そんな俺の姿を見て、夏弦さんは笑いだした。

「拓海君、そこまで緊張することないやろ。明日からとかじゃないから数カ月かけてやり方を学んでいけばいいさ。確かに重要な任務やけどお前ならできるって。失敗したって気にするな。次に生かせばいいんや。俺だって何回も失敗してやってきたから」

 夏弦さんは俺の方を叩いた。何気ないフォローだが、俺の中では大きな安心感をもたらしてくれた。その姿は、まさに頼りがいのある立派な先輩に見えたのだ。俺はその姿を見て、心が楽になった。

 その時、客間の方から一人フロントの方へ歩いてきた。

「夏弦さん、交代の時間です」

「もうこんな時間か、後頼んだで」

「わかりました」

 すると、夏弦さんは席を立ちフロントを出た。それに続いて、俺も出る。そのとき、宇治原さんに声をかけられた。

「拓海君、仕事はどう?」

 ふいに聞かれたので困惑したが、少し考えたのちに応えた。

「まあまあですね…」

 その答えを聞いた夏弦さんは笑って言った。

「何頼りないこと言ってるん?お前にはフロント係を任せる日もあるかもしれないんやで?」

「マジっすか!?」

 衝撃の事実。まさに驚きで変な声が出てしまう。そんな俺の姿を見て、彼らは気持ちのいい笑いを見せてくれた。

「拓海君、“冗談”はさておき、飯食いに行くぞ」

冗談…。みごとにからかわれてしまっていたようだ。とても、恥ずかしい気持ちとなった。

 

 

フロントも代わってもらい、ようやく、ライチタイムだ。いつもはおばさんが用意してもらえる弁当を食べているけど、日曜日のみは違った。おそらくだけど、発注している弁当屋さんが定休日だからであろう。そんな弁当がでない日曜日には、自らが買ってこなければいけない。と、言えど俺の場合、おばさんの家にあるインスタント食品を勝手に食べておいてくれという指示があるため、あまり関係はないんだけどね。

しかし、今日は夏弦さんと外に食べに行くことになった。これはおばさんにも連絡済みだ。俺は一度家に戻り、私服に着替える。そして、待ち合わせ場所であるガレージへ向かった。聞くとちょっと同じタイミングに、夏弦さんが来られた。

「よし食いに行くか。俺の軽に乗って」

「了解です」

車のカギを開け、乗り込もうとしたその時、俺がなにかに気づいた。

「あれ、あの人って…」

そういって旅館の入り口を指さした。夏弦さんはその先を見てみる。そこには一人の大生の姿をしていた。俺には誰なのかしっかり思い出せなかったが、夏弦さんはすぐに気づいた。

「お!あの人って拓磨さんやん!おーい!」

大きく手を振ると向こうがこちらに気づき近づいてきた。

「拓磨さん、どうかしましたか?」

「飯食いに行こうかと…」

「本当ですかい?今から拓海君を連れて食べに行こう思てたんですわ。一緒にどうですか?」

西京さんは少し考えたのちに答えた。

「じゃあ、いっしょに行かせてもらうかな」

「おっしゃ、早速行きましょ!」

西京さんは助手席に座ると、まもなく車が発車した。車内には陽気な音楽が流れており、とても夏弦さんらしい。

そんなことを思っていると、夏弦さんが俺に言葉を投げかけてきた。

「拓海君、食べたいものとかある?」

「特にないですよ」

「じゃあ拓磨さんは?」

「別に何でもいいよ」

二人とも指定がなかったため、夏弦さんは困った表情を見せる。

「二人とも何でもいいのか…。じゃあ選んじゃっていい?」

俺と西京さんは同時に頷く。夏弦さんは少し考えた後、何かひらめいたのか唐突に答えた。

「そうだ、ハンバーガーを食いに行こう」

この一言により、俺ら三人はハンバーガーショップを目指した。

 

*

 

 ハンバーガーショップは意外に近くにある。山道を降りて5分圏内だ。そこで食事をとることにした。

「いただきます!!」

俺は早速注文したバーガーにかぶりついた。久しぶりに食べたハンバーガーの味は、大げさだけれども格別だった。

「本当に申し訳ないね。奢ってもらって」

夏弦さんは、文字通り申し訳なさそうに言う。そう、西京さんが2人の分まで払ってくれたのだ。

「いや、連れて行ってくれたお礼さ。これぐらいさせてくれ」

西京さんは少し照れくさそうに言う。

「では遠慮なく、いただくで」

夏弦さんはサイドメニューのポテトを食べ始めた。その姿を見て西京さんも自分が注文したセットを食べ始めた。

 

 

食事中、仕事の話をしていた。旅館の歴史とかを細かく教えてもらった。しかし、いつの間にか脱線してしまい、今は夏弦さんの話となっていた。

「俺は中学の頃からホテルマンにあこがれてたんや。そうやさかい、学校の進路もホテルマンになる道を進んだッた。そして大学卒業後、念願のホテルに就職してホテルマンになったんやな」

「でもホテルに就職したのに、どうしてこの旅館に努めているんですか?」

俺が夏弦さんに聞く。

「それはなぁ…辞めたんや」

気まずい雰囲気になってしまうが、続けて夏弦さんが言う。

「具体的には言えないけど、喧嘩みたいなもんやな」

何らかのトラブルがあったらしい。この話は西京さんも聞くのが初めてのようだ。

「まぁその後に、京子さんと出会い今の旅館にいるんやな」

夏弦さんの過去が暗すぎて話せる雰囲気ではなかった。そんな中、口を開いたのが夏弦さんだった。

「えっと、あの、拓磨さんの過去も教えてくれませんかね?」

ここぞという時に気遣って、次に振ってくれた。それに応えて次は西京さんが話し出す。

「俺も正直夏弦さんと同じ感じなのだが…。まぁ話そう。俺はとある居酒屋の息子として生まれた。母は生まれてすぐ死んでしまったが、父が俺を育ててくれた。そんな父は店主としても俺を育ててくれた。いろんな料理を学び、仕事もたくさん手伝った。そんなこの店も繁盛して人気店と呼ばれるようになった。行列こそできなかったが、たくさんの常連客ができた。その一人が京子さんご夫妻やった」

おばさんとは複雑な関係があったようだ。奥が深くて回想世界が想像できた。

「でもとある日。父が倒れた。あれは大学を卒業する一日前の事だったね。だから証書はあるが、式には参加していない。そして、店を継ぐ気持ちにもなれなかった俺に一本の電話が。それが」

「京子おばさん?」

「そう、正解」

俺は察して口を開くと、まさに正解だったようだ。そのことを受け、夏弦さんが話し出した。

「つまり俺ら3人は全員京子おばさんにここで仕事できるように道を切り開かれたということか?」

「!?」

確かに、三人がこの職場に働くのにはすべて京子おばさんが関わっている。このことを深く考えていると、珍しく西京さんが俺に聞いた。

「拓海君って…どうなの?」

「ん?何のことですか?」

本当にわからない。俺は問い返す。すると、西京さんはもう一回言うことができなかった。そんな西京さんを見てあの人が話を察して堂々と聞いてきた。

「拓海君と和さんってどんな関係?」

「フ、ファ!?」

俺は思わず、顔を赤らめた。なぜ、このタイミングで…!?

「や、やま…いや、ナゴミちゃんとはそんな関係では…」

「「和ちゃん?」」

墓穴を掘ってしまった。俺はもっと赤面した。

 

 

楽しかったり、切なくなったり、恥ずかしくなった食事タイムは終わりを告げ、旅館へ戻るために車を向かわせていた。その途中、夕ご飯用の飯や、フロントを代わりにやってくれている宇治原さんなどへのお土産を購入するために、コンビニ寄る。俺の場合夕食はしっかり用意されているため、行く意味がないのだが、ひやかしに車から降りた。店の中を散策していると、とあるコーナーで足が止まった。菓子コーナーだ。菓子なら夜に小腹が空いたときつまむことができると思い、購入をしたくなったのだ。俺は近くのカゴをとり、好きな菓子をいれていった。次にコンビニへ行ける日がいつになるのかわからないので、多めに買っておく。

結局、スナック類からさきいかまで、たくさんの種類のつまめる物を二千円分購入した。その袋を持って車に乗ると、やはりというべきか、突っ込まれる。

「拓海君、そのお菓子はなんや?パーティーでも開くんか?」

「違いますよ、“備蓄”です!」

 なんか名言みたいになっていた。とりあえず、一人ですべてを食べるかどうかはわからないが、これで夜にのんびりすることができそうだ。拓海はあと一カ月は戦える。

 

 

その後問題もなく、旅館へ帰ってきた。先に西京さんが降りると、こちらへと顔を向ける。

「夏弦さん、拓海君ありがとう。おかげで楽しかった」

「いえいえこちらこそ奢ってもらって…」

「ちょっとだけさ。ほんの気持ちだ。では、先に失礼するよ」

 夏弦さんは会釈をして旅館の方へ歩いて行った。その様子を見つつ、俺は夏弦さんに確認をした。

「この荷物置いたら、着替えてフロント集合でいいですか?」

 すると、夏弦さんは言った。

「そのことなのだが、拓海君はもうちょい休んどいて」

「へ?」

「いや、教えることは3日間で大体教えたし、忙しくないこの時間だけでも休んでくれたらのちのちも助かるから…ね?」

「そ、そうですか?」

 何か気を使われている気がしたので聞いてみた。俺が気にしているのを感じ取った夏弦さんは、素直にわかりましたと言わない俺に対し困っていた。

「気にすんなって。とりあえず休んどいて。今一時やし…、三時!三時に着替えてフロント集合な」

「わかりました。休ませてもらいます」

 せっかくの気遣いをそのまま受け入れた。俺は一礼し、ガレージの裏にある家へと続く階段を上り始めた。

 この階段はもう10回ほど上り下りしたが、やはり長く感じる。まぁ、運動がてらにいいのだが…。そんなことを考えながら登っていると、いつの間にか登り切ったみたいだ。

家のドアを開けようとすると、どこからか鼻歌が聞こえてきた。俺はとりあえずドアを開けて、コンビニで買った袋を玄関に置くと、歌が聞こえる方へ進んでいった。

裏庭へ続く道を進んで行くと、人影が見えた。誰かが庭の花に水をあげているようだ。俺は顔を確認しようとしたとき、水やり中の人と目が合ってしまった。その瞬間、二人ともが互いに名前を呼んだ。

「や、大和!?」

「拓海さん!」

水やりをしながら、鼻歌を口ずさんでいたのは大和だった。

 

 

 大和もこの時間は休みだったようだ。12時ごろに京子おばさんと自宅で食事を済ました後、京子おばさんに水やりを頼まれたついでに休みをもらったということらしい。その水やりの任務も終わり、二人で縁側に座り日向ぼっこしていた。

「花、きれいですね」

「本当にそうだね」

庭には10種類程度の花々が植えられていた。さらにはその花々に引き寄せられたのか、蝶が飛んできており、この庭を引き立てていた。その光景がとても美しく、見ているだけで気持ちが落ち着いた。太陽の照っているのだが、その暑さをちょうど無くすかのように涼しい風が流れてくる。ここはまるで別世界のようだった。

そんな景色を見て和んでいた二人だが、俺が突然大和に聞いた。

「大和、仕事ってどう?」

「順調ですね。京子おばさんにみっちり教え込まれてますけどね…」

 みっちり…。なにかスパルタ教育のようなものが感じられた。俺は不安に思い、大和に焦りながら訊ねた。

「仕事、大変じゃないか!?無理に仕事を引き受けなくてもよかったのに。今辛い思いしてるなら辞めてもいいんだよ!?」

急に立ち上がり大和に言いかけた。そんな俺はとても必死だったので、最初大和は驚いたが、クスッと笑った。

「そんな…、私、無理なんてしていませんよ。仕事はやっていても楽しいですし、皆さん優しいし…、なんといっても拓海さんと仕事ができるなんて…」

二人とも互いに赤面した。俺はもう一度縁側に座り直し、今度は縁側に寝転んだ。

「俺の心配しすぎだったみたいだわ。すまんな…」

「いえいえ…私の言い方も…」

沈黙ができてしまった。声をかけようとしたが、何かいい話のタネが思いつかない。そんな、困っている俺の下に一匹の蝶が俺の鼻の上に止まった。その様子を見て大和はまた笑った。そんな大和を見て俺も笑みがこぼれた。やがて、蝶は舞い上がりどこかへ飛んで行ってしまった。その姿を見ながら俺は上半身を起こした。その時、ちょうど話のタネが思い浮かんだ。

「そうだ、大和ってどうしてここに来たの?」

「あっ、それは…」

そういえばこの前も聞いたが秘密と言って答えてくれなかったっけな。そんなことを言った後に思い出してしまった。だが、大和は口を開いてこう言った。

「もう答えてしまった方がいいですね。もうお教えします。実は明石さんが向こうの世界からこの世界へ来ることができる機械を作ったんですよ。その機械を使って戦艦の6人で拓海さんの家へお邪魔しようかと思って。6人で転送システムの上に乗ったのですが…、地図係の私が一人だけ転送されました。そして、どれだけ待っても誰も来なかったんですよ。ずっと待つのもアレなんで、先に拓海さんの家だけでも場所を確認しようと探し回った結果、やはり迷子に…」

何しに来るんだよ!なんで地図あるのに迷子なるんだよ!まずなんで地図持ってるんだよ!そしてなぜ方向音痴に地図係を任せるんだよ!

いろいろツッコミ所が満載だったが、とりあえずそんな疑問はぶん投げることにした。ともかく、そんなこんなでトラブルがあって。大和が一人でここにいるということだけはわかった。

まあ、こんな突拍子もないトラブルがあったにも関わらず、なんだかんだいってこうやって大和と話ができるということに俺は嬉しさを感じた。

 

 

大和と様々なことを話した。まず俺はこんなに女性と話すことなどしたことがないくらいいろいろなことを話した。しかし、大和は何気なく話してくるため、俺も普通に話すことができた。まぁそんな時間は長くは続かない。時計もう2時50分を示していた。

「俺、先に旅館に戻るわ」

「わかりました。頑張ってくださいね!」

俺は先に縁側から立ち上がり、自室へ行き、脱ぎ捨ててある俺の仕事服に着替えてすぐに旅館へ向かった。

 

 

夏弦さんの下に戻り、仕事に復帰した。まず、念押しのためにマスターキーで全ての客間へ行き、清掃などがしっかりできているか確認した。この仕事が初めての俺のために夏弦さんが事前にチェック項目を作ってくれており、俺にしたがってすべての部屋を確認した。その作業が一時間くらいで終了した。すべての部屋を確認したチェック表を持って夏弦さんのいるフロントへ向かうと、ちょうどお客さんが到着のようだった。

「木村様、2名様ですね。本日はようこそおいでくださいました。部屋は二階の203号室になっております」

「ありがとうございます」

 お客様はキーを受け取り階段の方へ歩き始めた。俺は廊下ですれ違った。

「いらっしゃいませ」

 しっかり挨拶をこなす。声、手、腰の曲げる角度、全て自分なりのベストを尽くした。こんなこと、つい一週間前にできなかった行為だ。自ら成長したと褒めたい。そんな俺にお客様は、軽く会釈をして階段を昇っていった。その様子を一部始終見ていた夏弦さんは俺と目が合うとグッドサインを送ってくれた。普通に嬉かった。

 チェック表も見てもらい、またフロント待機になった。今日のお客様は10組。部屋の数の半分だ。少々忙しくなるらしいので気を引きしめて次の任務をこなす。と言ってもフロントで夏弦さんがこなすチェックインの作業を観察することだ。お客様が印象を悪くしないように違う作業をしているかの如くメモの作業をする。

「遠藤様、3名様ですね。本日はようこそおいでくださいました。部屋は二階の101号室になっております」

次々とお客様が到着する。それに伴い、一階から二階にある風呂へ向かう人が増えてきた。俺は研修3日目にして5時に風呂が賑わうことに気が付く。それをメモに残したその時、30過ぎくらいの女性に声をかけられる。

「すいません、208号室ってどこにあるんですか?」

部屋を案内しなければいけなくなった。俺は夏弦さんにコンタクトを取り、案内することにした。

「わかりました。私がご案内いたします」

と言って先を進んで行った。階段を上り、208号室へ着いた。

「ここですね」

「助かったわ。ありがとう」

「ごゆっくりおくつろぎください」

 女性はお辞儀をして、中に入っていった。その後、階段を下りて一階には行かずに風呂の方の様子を見に行った。ちなみにこれはサボっているのではない。ただ、夏弦さんにこまめに巡回はしておけという指示があったからだ。確かに、何かあったときにすぐ対処できるという点ではとてもいいことだ。まぁ、そうそう何も起こらないという点もあるのだが…。

その発言をかき消すかの如く、事案がは発生した。風呂近くの自販機前で一人の5歳くらいの少女が泣いていた。そして、その近くで大和が困っていた。

「何があった?」

「この子、泣き止まないんです。泣いている理由も聞いているんですけど…」

 俺は少女に駆け寄り、訊ねた。

「どうしたの?」

 やはり、大和と同じように少女は泣き止まない。どうにかしなければいけないが、どうしようもできないと思った矢先、俺はとあることに気づく。少女の左手が自販機を指していた。俺は自販機とその周辺を調べた。すると、とあることに気づいた。自販機と床の間になにか光沢のあるものが見えた。俺は目を擦って二度見したがやはり何かあるには間違いなかった。よく見てみるとその物体は銀色で回りがギザギザ、そしてなにより100という文字…、100円玉が落ちていたのだ。俺はとりあえず聞いてみた。

「落としちゃった?」

 すると、少女はうなずいた。そうなれば早い話、取ればいい。しかし俺は手を伸ばすがあと少しのところでとれない。さすがに大和でも届かなさそうだ。何か、長いもの…。その時、一人、掃除の用具一式を持った人がいた。八坂さんだ。

「拓海君、どうしたんだい?」

「そのモップ貸してもらえませんか?」

「いいけど…」

 そういって貸してくれた。その先端を自販機の間に入れて器用に100円を取り出した。そして、少女に渡す。

「今度は落とさないようにしろよ」

少女は泣き止み、俺に言った。

「ありがとう!」

 そして、ほしい飲み物を買って去っていった。部屋に入る前にこちらを見て手を振った。こちらも振り返す。

「さすが拓海君、優男やね」

「そんなことないですよ。俺は厳しい方だと思いますけど?」

「じゃあ ロリコン かな?」

「ファ!?」

 八坂さんは俺をからかった後、逃げるかのように颯爽とどこかへ向かっていった。

「拓海さん…」

「今のは忘れて!あっ、俺行かないと!」

 俺も颯爽とフロントへ帰っていった。大和は何か言いたそうな顔をしていたがとりあえず逃げることにした。

 

*

 

 午後十時。今日の仕事は終了した。少しずつ、仕事に慣れようとしているがなかなか厳しい。教えてもらってもうまく活用ができないというのが現状だ。どうにか頑張らなければと思いつつ家に帰り飯を食べた。

8時くらいに先に帰った京子おばさんが用意してくれており、それを食べた。大和と京子おばさんはもうちょい仕事があるため俺だけだった。俺はさっさと食べて先に風呂まで入らせてもらった。その後、十二時くらいまで久しぶりにPCをつけてゲームをすることにした。

 PCゲームをするとき、たいていスカイプを使って友達と話しながらやっている。しかし、ここに来て一度もやっていなかったので、テストを兼ねて通話に参加することにした。

「こんばんは」

「こんばんわー」「こんー」

「みんたくか、ひさしぶりやなぁ」

「そうですね」

 みんたくというのが俺のプレイヤーネームである。まんまである。

「仕事はどうだい?」

「まぁまぁですね」

「なんじゃそりゃ?ちゃんと答えろよ~」

 久しぶりのテンションで馴染むのに少し時間がかかったが如何にかなった。

 

 

 そして、十二時過ぎ。俺もそろそろ疲れてきた。すると、なんか終了の流れになっていた。

「じゃあ解散しますかね?」

「そうですね、おつです!」

「おつ―」「おつかれー」

 と言って通話が切れた。久しぶりで楽しかったゲームを閉じて、PCをシャットダウンした。そして、俺は伸びをして、ベットに寝転んだ。今日はいろいろあったが面白い一日だった。その時、ベランダの窓から見える星空に気づいた。あまりにもきれいだったので俺はベランダに飛び出した。夏の大三角形、天の川…。餓鬼レベルのことしか知らないが、それでもわかるような満点の星空だった。そんな空を見ている俺は小学生のようにはしゃいでいた。すると、隣から声がした。

「拓海さんも見に来たんですか?」

 俺は隣のベランダを見た。すると大和がいた。

「綺麗だったからね」

 なんか似たようなことを数時間前に言った気がしたがそれは気にしなかった。すると、大和が声をかけた。

「拓海さん、女の子の件、ありがとうございました」

「いいって、いいって。気にしないで」

「拓海さん、とてもかっこよかったです…」

「そんなこと言われると照れるなぁ…」

 俺は頭をかいた。よく考えると、少女を助けて褒められるなんて、それはそれで複雑な気分だった。その時、空に一筋の光が通った。

「あっ、流れ星」

「本当だ」

 あんなにくっきりとした流れ星を見たのは2回目くらいだった。この前の一回目はいつかはっきりと覚えていないが、その時と同じくらい綺麗だった。その流れ星が通った後にもかかわらず、大和は手を合わせてお祈りをしていた。俺は聞いてみた。

「何をお祈りしているんだい?」

「えーとですね。こんな楽しい毎日がずっと、ずぅーと続きますように…と」

 とてもいい夢だった。なんか嫉妬したのか、俺も手を合わせ祈り始めた。それを見た大和は尋ねてきた。

「拓海さんはなんと?」

「大和の夢がかないますように…てね」

 大和は恥ずかしそうにした。その姿を見て笑った。

「いい夢だしね。是非叶ってほしいからね」

「ありがとうございます…」

 しばらく、星を眺めていると大和が話し始めた。

「どうして、私だけ転送されたのでしょうか…」

 昼間の話の続きだった。確かに6人同時に転送システムの上に立ったはずなのに一人だけ来ていることはおかしいことだと思う。でも、それが現実に起こっているということだ。不安そうに言う大和に対して俺は適当に言葉を返した。

「思いが強かったからでしょ。6人の中で誰よりもここに来たかったからじゃない?」

 今適当に考えた割にはありそうな答えだった。筋は通っていないわけではないと思われる。しかし、ここに来たい理由というのがなんなのか、検討が付かないというのが弱点だった。しかし、この発言で大和は顔を赤らめた。さっきから恥ずかしそうにしていたがより一層赤くなったような気がする。

「どうしたんだ?大和?」

「拓海さん、一ついいですか?」

「なんだい?」

 俺は大和に尋ねた。大和は何かを決心し、大声で言った。

 

「拓海さん、わ、私…、拓海さんの事が…大」

 

“グゥゥゥゥウゥ”

 

 腹の音だ。俺ではない。となれば…。大和だった。俺は何が言いたいのか分かった。なので、俺は言い返した。

「なんだ、腹減ってたのか…。どうだい?俺、お菓子買ったんだけど、一緒に今食うか?」

 ちょうどコンビニの奴があったので下に行かずとも食べることができる。せっかくなんで言ってみた。突然のことで大和も動揺を隠せなかったが、返事が返ってきた。

 

「はい!」

 

 今回はしっかり聞き取れた。すると、大和は部屋に入り、隣の部屋の室内灯が消えた。そして、ドアをノックする音。どうぞと言うと入ってきた彼女は泣いていたがそれと同時に最高の笑顔をしていた。

 

 

 大和は“大切な友達”だな。俺はこう思った。

 

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