あのクリスマスから時が過ぎ、俺は二年生、涼子は四年生になった。俺たちお馴染みの三人はいつも通り野球をしたり、たまにどこかに遠出したりして、楽しい時を過ごしす。……しかし、そんな楽しい日々は永遠に続くことはなかった。
「ジュニア……今日も来てないね」
「ああ、そうだな」
俺が二年生に進級した数日後、ある日突然ジュニアの姿が見えなくなった。
「明日には来るよね」
「来るだろ。あいつも黙ってアメリカに帰らないだろうしな」
涼子も心配している。
この日はとてもこの後、遊ぶ気力はなかったので直ぐに、アパートに帰った。
「ただいま……」
「おう、帰ったか亮太」
「なんだ、親父……帰ってたのか?」
「おう。どうした、最近元気ないみたいだが……」
「何でもないよ」
俺は親父に気にすることなく、荷物を自分の部屋に運ぶ。それとまだ親父には、メジャーリーガーになりたいことは、まだ言ってない。
「そうだ、亮太。大事な話がある」
「なんだよ、珍しい……」
親父が珍しく、真面目な顔をしてこちらを見てくる。
「実はな……引っ越そうと思うんだ」
「どこに?」
「北海道だ」
俺は突然引っ越しの話が、出て来て少し驚く。しかし北海道とか……遠いな。
「何で引っ越すんだ」
「これから先、登板がさらに増えそうでな。試合の影響で遠出しなきゃいけないんだよ。お前を一人残すわけにはいかないし……悪いな」
「そうかい……」
事実、子供一人で残すのは普通しないだろう。それに、お爺ちゃんがいるが、もう年だ。とても、俺を任せることなんてできないだろう。
「今さらかよ」
「それに関してはすまん。色々あってな」
「別に気にしないよ」
確かに、色々あったな。まぁ、それは俺もか。
「いつだ?」
「来週だ」
「また、急だな」
「お前が三年生なるタイミングで、引っ越したいからな。辛いと思うが、あの二人にも、お別れを言っておくんだぞ」
「分かってるよ……」
俺は親父に、一言告げると自分の部屋へと帰って行った。
「さて、どう話すかな……」
朝の教室、俺は二人にどう自分のことを伝えようか考えていた。俺は未だに登校してこないジュニアの席を見つめた。
……嫌な予感がする。
そして、朝のホームルームの時間になり、いつも通り先生が教室に入ってくる。すると、先生はある衝撃な言葉を口にした。
「突然だが。ジュニアくんが諸事情により、アメリカに帰ることになった」
この言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。俺は直ぐに意識を切り替えて、周りの声を無視し、手を上げて先生に質問する。
「ジュニアはもう……日本にいないんですか?」
「知らなかったのか……。昨日には、もう日本を出ているぞ」
くそっ、嫌な予感が的中しやがった。俺は自分の唇を噛み締めた。
朝のホームルームは終わり、俺は教室を出て行こうとする先生の元へ向かう。ギブソンの契約終了の期日までは、まだ少し時間があるので、ほかの理由があるはずだ。俺はその理由が聞きたかった。
「先生。まだ聞きたいことがあります」
「なんだ、またお前か。いいぞ、言ってみろ」
先生は扉を開けようとしたところで、俺の方へ向いて、答えた。
「彼の父親は日本で野球を続けると言ったはずです。それが何で突然?」
「言いたいのはやまやまだが、個人情報に関わるからな……」
「お願いします、教えて下さい!」
「しかし……」
先生は暫く悩む動作を見せると、頭を下げている俺の姿を見て、溜め息を吐く。
「分かったから、頭を上げろ。お前らしくもない」
「じゃあ……」
「ああ、教えてやる。でも、ここじゃダメだ、場所を変えよう」
俺は歩き出した先生の後ろを付いていった。
誰もいない教室で、俺は先生からジュニアがアメリカへ帰った理由を聞いた。
『アメリカにいる母と妹の事故死』
それが理由だった。葬儀とかいろいろあるんだろ。でも……。
俺は今までのジュニアとの……いや、三人との出来事を思い出す。
でも、一言くらい言ってもよかったじゃないか。
俺は今日の学校の時間、ずっとジュニアのことを考えていた。
帰りのホームルームが終わり、暫くボーッとして、俺は席から立つ。たく、一日中男の事を考えてるなんて、俺らしくないな。
俺が教室から窓を覗くと、涼子が校門の外へ走っていくのが見えた。先生がジュニアのことは仲が良かった涼子には伝えてあると言っていたので、彼女もショックだったのだろう。涼子の向かった先は大体予想できる。
俺は涼子がいるであろう、いつも野球をしていた公園へ向かった。
「やっぱり、ここにいたか……」
「亮太」
俺が公園に着くと、そこにいた涼子がこちらに向く。顔には汗なのか、涙なのか……水滴が付いていた。さらに、グローブとボールを持っていることから彼女のことだ、ずっとボールを投げていたのだろう。
「何してんだよ。ピッチャーにもなる奴がそんなに投げて……肩でも壊したらどうすんだ」
「亮太は何で平気でいられるの?私たち楽しく遊んで、野球して……あの約束までしたのに、何で……」
「あんな約束したからだよ」
「えっ……」
涼子は俺の言葉を聞き、驚く。
俺は思い出す。ジュニアが俺たちと野球をしている時も、その笑顔の裏には結局少しだが、自分の父親、ギブソンの嫌いな感情がそこにあった。さらに、アメリカでの交通事故。あいつは間違いなく、それはギブソンの憎しみに変わっているだろう。だが……。
「俺はジュニアが約束を忘れてないと信じている」
「どうして?」
「そんなもん、決まってるだろ。俺たちが約束したからだよ」
俺は堂々と答える。まぁ、ジュニアは約束忘れていても、絶対にメジャーに上がってくるだろう。だがそれは……もしかしたら憎き父親を野球で倒すためかもしれない。それでも俺はあいつが約束を忘れて、ギブソンへの憎しみで野球をプレーをするんであれば……。
「まぁ、忘れていても俺がメジャーの舞台で思い出させてやるだけだ」
「亮太らしいね」
「だろ?」
俺たち二人は笑い合う。そして、俺はこのタイミングで自分のことを話すことを決めた。
「涼子、俺からも大事な話がある」
俺の言葉に涼子は首を傾げた。
「そう、亮太も……」
「ああ、来週にな」
俺は涼子に、自分が引っ越すことを伝える。
涼子はジュニアのことで少し吹っ切れたのか、冷静に話を聞いてくれた。
「まぁ、同じ日本にいるわけだし。会おうと思えば会えるけどな」
「ふふ、そうだね」
涼子は俺の言葉を聞き、笑う。たく、本当は辛い癖に……。
「俺は夢のための第一歩として、ニ年後リトルリーグに入るつもりだよ」
「本当は三人で入りたかったけどね……。だったら私は一足速く、亮太が転校したら入ることにするわ」
そう、メジャーになるためには、強くならなきゃならない。だから、そのためにも……。
「まずは、お前からホームラン打たなきゃな」
「負けないわよ」
たく、涼子らしい……。
「じゃあ、次はリトルのマウンドで会おうぜ」
「ええ」
俺と涼子は再会の約束をした。
「おい、亮太。準備できたか。……って、あれ?」
俺は亮太の様子を見るために、あいつの部屋に来たんだが……いないな。どこ行ったんだ。
そして、俺は玄関を見て、亮太の靴がないこに気付く。こんな夜に何してるんだ。
俺も外に出ると、アパートの庭で亮太を見つける。
「八十八……八十九……」
なんと、亮太はバットで素振りをしていたのだ。あの野球に興味もなかったあいつが。まぁ、スイングはまだまだ突っ込みどころ満載だか。俺は亮太に声を掛ける。
「バカ。こんな夜中に子供がバット振るな。やるなら、朝にやれ」
「親父か……あと少しなんだ。百回終わったら、辞めるよ」
「そうか。つーか、どうしたんだお前、突然素振りなんて」
「……ならなきゃいけないんだ」
「何に?」
「メジャーリーガーに……」
メジャーリーガー……おい、本当にこいつに何があったんだ。俺は亮太の予想外の言葉に驚く。その後、俺は緊張した様子であいつの話を聞いた。
「そして……」
「そして?」
そして……なんなんだ?
「俺は最強の外野になる!」
俺はその言葉を聞いた瞬間、思いっ切りずっこけた。
これでこの三人の幼少期の話は終わりで、次回から原作のリトル編へ行きます。北海道編はないです。それと明日はちょっと投稿できないので、次の投稿は明後日になります。それにしても次のジュニアの登場はいつになるのか……。