「はっ……いけない、ついつい気を失ってしまった」
「はぁ、何言ってんだよ。それより、速くここから離れようぜ」
沢村は俺に速くコンビニから離れるように提案して来た。隣にいる小森も見てみるが、沢村の意見に賛成のようだ。しかし……。
「悪いな、二人とも。女子高生が困っているんだ」
「おいおい、嫌な予感が……」
「もしかして……」
沢村と小森はこの後、俺の行動を予想できたのか二人共溜め息を吐いた。
「なら、やることは決まっている」
「あの~、拒否権は……?」
「俺に作戦がある。聞いてくれ」
「ないのね……」
こうして、沢村と小森は亮太が立てた女子高生救出作戦に巻き込まれた。
「お嬢ちゃん、一緒に遊ばない?」
「楽しいことしようぜ!」
「……」
私は周りの不良の話を無視して、先へ進もうとする。しかし、不良品たちは彼女の進む道を拒んだ。
「あれ~、どこ行くの?」
「どいて」
「何、聞こえないな~」
すると、一人の不良の手が私の肩に触れる。
「すいませーん、そこ通りたいんですけど」
その瞬間、一人の少年の声が響いた。
「すいませーん、そこ通りたいんですけど」
俺は不良たちに話し掛ける。すると、彼らはテンプレ通りの反応をした。
「あぁ?ガキが何言ってやがる。あっち行きな!」
「しっしっ!」
ここまでは予想通り。そして俺は作戦第二段階に移した。
「あのねー、お兄さんたちが退いてくれないから、さっきお巡りさん呼んじゃった。もうすぐ来ると思うよ」
「あぁ、んなことあるわけ……」
「「お巡りさん、こっちです」」
不良がありえないと言おうとした時、コンビニから少し離れたところから、警察を呼ぶ声がした。すると、不良たちの様子が変わる。
「ちっ、仕方ない。引くぞ」
「おっ、おう」
不良たちは警察のことは半信半疑のようだが、最悪の可能性を考えてコンビニから去って行った。
「大丈夫ですか?」
俺が子供らしく、女子高生の安否を確認した。すると、彼女は俺の姿を見て一瞬目を丸くし、笑顔で言葉を返してくる。
「大丈夫よ。ありがとう」
「どういたしまして」
俺も子供らしく、笑顔で照れたふりをした。すると、彼女は……。
「アイスでも奢るわ。そこに隠れてる二人にもね」
彼女が一言告げると、コンビニの裏に隠れていた沢村と小森が出てくる。
「あっ、本当ですか。ありがとうございます」
「えっ、えっと。どうも……」
沢村はあからさまに嬉しそうな顔をし、小森は遠慮がちに返事をした。
「……」
そして、俺だけは気付いていた。彼女が見せた、俺たちが着ている野球のユニフォームを見た変わった反応に……。
不良に絡まれいた女子高生にアイスを奢って貰うと、彼女が俺たちに質問してきた。
「あなたちはどこかの野球チームに入っているの?」
「はい、三船ドルフィンズっていうところに。聞いたこともないかもしれないけど……」
「ふーん」
「じゃあさ、お姉さんはどこの高校に通ってるの?」
俺がまた子供らしく質問すると、彼女は目を鋭くさせて答えた。
「私、これでも高校野球部の監督やってるの。だから、人を見る目はあるんだ。だからその演技、やめていいわよ」
「なんだ、気付いてたのか。それで、どこの高校?」
俺は彼女に素を暴かれても、気にせず質問した。
「海堂高校」
……海堂高校。確かここ神奈川の甲子園、常連高だったな。
「すごいや、あの名門高の監督やってるんだ!」
小森はその高校のことを知っていたのか、興奮しながら答える。沢村はやっぱり知らないらしい。
「二軍だけどね……」
「それでも……すごいです」
「ありがと」
彼女は笑顔で小森にお礼を言った。そして次に、俺が質問した。
「ねぇ、海堂高校って確か神奈川でも横浜の方の高校だよね。何で三船まで来たの?」
「夏の予選の調整に練習試合に来たのよ」
「……」
俺は彼女の今の言い方が気になった。そして、俺は彼女にとって、核心を突く質問をする。
「じゃあ、名門海堂の二軍監督に質問。あなたにとって、野球で最も大事なものってなんですか?」
「……結果よ」
俺はこの時、彼女に小さな迷いを感じた。
「結果、ね……」
「そうよ、悪い?」
「いや、別に」
俺は彼女の言葉を軽く返す。彼女の仮面が少しずつ剥がれてきた。すると、沢村がこの空気を変えるべく、口を開く。
「そういえば、他の選手たちはどうしたんですか?」
「高校に帰ったわ。私もこれから帰るとこだったの」
「はは、そうなんですか……」
沢村は乾いた笑顔で言うと、再び静かになる。
そしてこのまま解散しそうな時、俺は彼女に一つ御願いをした。
「そうだ。ぜひ、名門海堂高校の練習を見てみたいな」
「なんですって?」
彼女は俺の発言を聞き、睨めつけた。すると、彼女はこちらを睨めつけた後、にやりと笑って答える。
「いいわ、今回助けてくれたお礼よ。小学生のあなたには少し速い気がするけれど、見せて上げるわ。海堂のマニュアル野球を」
「それは、楽しみだ」
俺が挑発的に言うと、彼女は懐から二千円を取りだし、俺に渡した。
「それは交通費よ。明日の二時に正門前に来て頂戴。後、海堂高校の正門に着いたら、警備員に言いなさい。話を付けておいて上げるから」
「それで、なんて言えば?」
「早乙女静香に呼ばれ来た……ってね」
「はいよ」
こうして突然、俺の海堂高校の見学が決まった。
はい、まさかの早乙女さん登場回でした。ちなみに年齢は予想です。大体このくらいかな~的な。なので、あんまりそこは突っ込まないでくれると嬉しいです。では、次回もお楽しみに!