あの約束を   作:厨二王子

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21話 海堂高校の過去

 俺は明日の海堂高校への見学を決定した後、いつの間にか夕方になり、皆と別れて家に帰る。家に帰ると、玄関には靴が二足あった。この家は俺と親父の二人しか住んでいないので、お客さんが来ていることになる。俺は靴を脱いで、リビングに向かった。

 

「おう帰ったか、亮太」

 

「お邪魔してるよ」

 

 俺がリビングへと行くと、二人のおっさんが俺を出迎えてくれた。一人は俺の親父である茂野英毅、そしてもう一人は親父がプロ野球選手である関係で昔から顔馴染みのスポーツ記者である霧島栄二さんだ。栄二さんと親父は高校からの顔馴染みでもあるらしい。

 

「お久しぶりです。栄二さん」

 

「二ヶ月ぶりだな……。にしても、相変わらず行儀いいな、お前も少しは見習え」

 

「うるせぇ」

 

 栄二さんは親父に小言を言うと、親父はその言葉に一言返した。

 しかし、ここにスポーツ記者の栄二さんがいるとは……丁度いい。俺は後で栄二さんに連絡して聞こうと思っていた海堂高校について聞いてみることにした。

 

「あの栄二さん、海堂高校について何か知っていますか?」

 

「海堂高校?なんでまた……」

 

「何だ亮太。小学生でもう高校の心配か?」

 

「あんたは黙れ」

 

「俺の扱いひど!?」

 

 俺は親父を静かにさせ、栄二さんに海堂高校について聞く。栄二さんは俺が海堂高校について聞くことに疑問を抱きながらも、しっかりと話してくれた。

 

「海堂高校か。あそこはあの事故があるまではいい野球をしていたんだが……」

 

「あの事故?」

 

「ああ、あれは確か六年前……」

 

 栄二は静かに語り出す、甲子園を賭けた試合で起きた一人のピッチャーの悲劇を……。

 

「無理をし、投げ続けて命を落としたピッチャー……か」

 

「ところで亮太くん、何故海堂高校のことを……?」

 

「ああ、それはですね」

 

「それは?」

 

「女子高生を助けるためですよ」

 

「「?」」

 

 親父と栄二さんは俺の言葉に、首を傾げた。

 

 

 

「着いたか……。意外に時間掛かったな」

 

 俺は朝速く家を出ると、電車に乗り、海堂高校へとやって来た。しかし、海堂高校は思ってたより大きく、正門を探すのに時間が掛かってしまった。朝速く出て正解だったな。

 正門前に着くと、見覚えのある女子高生が声を掛けてくる。

 

「あら、時間通りね」

 

「あれ、待っててくれたんだ?」

 

「小学生が高校の正門前で、じっとしてたら変でしょ?」

 

「確かに……」

 

「あと、その鞄は?」

 

 彼女は俺の持っている大きい鞄に気付くと、気になったのか俺に聞いてきた。そして俺は一言答える。

 

「秘密です」

 

 彼女は俺の鞄の中身を気にしながらも、俺を連れて、海堂高校の中に入って行った。

 

 

 

「やっぱ、中も広いな」

 

「この高校には普通科とスポーツ科があって、野球部はスポーツ科に属しているわ。そして、スポーツ科は一切授業を受けることはないのよ……って、小学生に言っても分からないか」

 

「ああ、分かるから続けていいよ」

 

「あなたって、本当に小学生?」

 

「正真正銘の小学生です」

 

「勉強熱心なのね」

 

 俺は彼女の解説を聞きながら、高校の中を回って行く。今日は休日なので人はあまりいない。

 正直、俺の感想としては圧巻の一言だった。まず広い。なので移動の際にはバスを使ったりもしたんだが、本当に広い。なんか山もあったし。どこぞのテーマパークよりもデカいんじゃないだろうか……。

 そして次に施設。トレーニングルームがたくさんあり、機器も最新の物ばかりでとても充実していた。彼女は二軍の監督なので二軍の宿舎しか、見せて貰えなかったが、そこだけでも凄いと感じることが出来た。

 見学が始まって二時間経つと、最後に今二軍のエースがピッチングをしているというので、それを見せてくれるらしい。俺は待ってましたとばかりに彼女に付いて行った。

 

 

 

 俺は彼女に連れられ練習場に着くと、そこにはキャッチャーのミットにピッチャーの球が収まる音が鳴り響いた。

 

「どう、彼は二軍のエースよ。しかも、一軍に上がることも確定してるわ」

 

「いい球を投げるな……でも」

 

 まるで、何かに縛られているようだな。

 

 俺は球を投げている彼に、そんな感想を抱いた。

 

 

 

 俺は隣にいる早乙女に声を掛ける。

 

「なぁ、あんたはそんな野球でいいのか?」

 

「どういう意味?」

 

「昨日、知り合いから聞いたよ。六年前の事故……お前の兄さんのこと」

 

「なんですって……」

 

 俺が栄二さんから聞いたこの事件に対して思ったることは、なんとも言えないってことだった。投げ続けた早乙女の兄さんの意思、そしてそれを止めなかった監督やチームメイト。一概にどちらも悪いとは言えない。ギブソンのデッドボールと同じだ。でも、俺は……俺には早乙女の兄さんが妹に伝えたかった野球はこんなマニュアル野球じゃないと思ったんだ。

 

「あなたに何が分かるっていうのよ!」

 

「分かるわけないだろう。本人じゃないし、当事者でもないんだから。でも……」

 

 俺は少し間を置いて、言った。

 

「でも、お前の兄さんのプレーは昨日見たし、聞いた」

 

「兄さんの……」

 

「ああ。さてと……」

 

 俺は視線を早乙女から、二軍のピッチャーに視線を移すと声を掛けた。

 

「ねぇねぇ、お兄さん。俺と勝負しない?」

 

「はぁ?ガキが何を言ってやがる」

 

「えっ。もしかして、小学生に勝負で負けるのが怖いのかな?」

 

「ちっ、この手のガキはしつこいからな。速攻で片付けてやるよ」

 

 ……一応ほかの作戦も用意してたんだけど、バカで助かったな。

 

 

 俺は着ていたジャージを脱ぐと、ドルフィンズのユニフォーム姿になる。そして、俺は大きな鞄の中からスパイクを出すと、今履いている靴と履き替えた。

 

「ちょっと、何を勝手に。というか、あなた初めからこのつもりで……」

 

「まぁ、マニュアル野球で育て上られた選手が小学生に敗北なんていうのはないだろ。しっかり見ておけよ、あんたの兄さんが本当にお前に残したかった野球を」

 

「……」

 

「まぁ、もう答えは知っていると思うけどな……」

 

「何をぶつぶつ言ってやがる。速くバッターボックスに入りやがれ」

 

 俺はさっきから煩いピッチャーを無視しつつ、近く立てられていたバットを持ち、バッターボックスに向かった。

 

 さて、やりますか……。

 

 俺はバッターボックスでバットを構え、相手のピッチャーと向かい合った。




はい、皆さんどうでしたか。スポーツ記者はオリキャラです。後、二軍のエースはもっとクールにしたかったんですが、それじゃあ挑発に乗りそうになかったのでこんな感じになってしまいました。では、最後に次回予告。

突然の海堂二軍エースとの勝負、果たして亮太の運命はいかに!?

次回 『野球への思い』
約束の舞台へ駆け上がれ!!

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