「……すっ、すまん」
「たく、なにがすまんだ。いてぇ、だからキャッチャーは嫌いなんだよなぁ」
さすがに心配になった吾郎が俺の元にかけよってくる。遅れて監督もこちらにやってきた。
「大丈夫か?」
「問題ありませんよっと」
審判にも大丈夫だと言い、思わず転んでしまったので尻についた土を払う。すると吾郎がこちらをみずどこか遠くを見ていて体も震えているのを確認した。どこからどう見てもピッチャーとして球を投げられる状態ではない。
俺はため息を吐くと審判のグラサンにタイムを取り吾郎の後ろに移動する。
そして……
「膝カックン」
「ぐわっ!」
俺は必殺、膝カックンを吾郎に直撃させる。まったく体に力を入れられなかった吾郎はその衝撃に耐えられるはずもなく地面に崩れ落ちた。
「なに済んだこのやろぉーーー!!」
「ははは、なんだ元気じゃねぇか」
俺は大きな声で怒鳴りつけてくる吾郎を見ながら笑ってやる。
「そんな人殺しちゃった顔しやがって。よく見ろちゃんと生きてんだろ」
「なっ、それはマスクがあったからだし……」
「小4のお前がなにを心配してやがる。うぬぼれ過ぎだ。それともお前はそんな顔面狙いまくってしまうノーコンピッチャーなのか?」
「んな訳あるかよ!」
「んじゃ、答えが出てるじゃないか」
俺は吾郎の肩をつかんで目を見て語りかける。男と見つめ合う主義はないがここは仕方ない。
「この前はああは言ったがそれは俺らはお前がインコースに投げれる男だって知ってるからそう言ったんだ」
「……でも」
「後ろを見ろ」
「……」
吾郎は俺の指示を聞き、後ろに振り返る。チームメイト全員がこちらの方を向き心配そうな視線を送っていた。
「ここまでの大量ボールを出しても誰もお前を下げようなんていうやつはここにはいない見たいだぜ。信頼されてる証拠だ」
「……」
「きばれよ、本田吾郎」
俺は吾郎にボールを渡すと彼は元のポジションへ戻っていく。
「もう、いいのか?」
「さて、どうでしょう」
「ふん……プレーボール!」
審判の声がグラウンドに響き渡る。
俺は吾郎の方に視線を向けると彼は真っ直ぐと俺のミットに集中していた。
乗り切ったみたいだな。
そして吾郎の投げた速球は彼の狙い通りに俺の構えていたインコースに収まった。バッターは思わず打ちにくいインコースの球に振り遅れてしまう。
「ストライク!!」
審判のジャッチの声がまたもグラウンド上に響き渡る。それはまさしく本田吾郎復活の証明に他ならなかった。
「たく、なんだよあの野郎。俺がインコースに投げた瞬間、試合を終わらせやがって」
「文句言うな。試合を受けてくれただけでも感謝するんことだぞ。なのにお前と来たらお礼さえ言ってなかったとは……。礼儀だろう」
「うっ、それはあのグラサンが直ぐにいなくなったから……」
「嘘つけ。ずっとガーガー文句を言って言わなかっただけだろ」
「くっ!」
俺は夕方、吾郎を引き連れて横浜リトルの監督の元に向かって言った。ちなみに監督はもう先にその横浜リトルの監督の元に向かっていた。俺は吾郎をそこに連れてくように頼まれた訳だ。まぁ、聞きたいこともあったし別に良かったんだけど。
そんなことを言う内に目的の部屋に着く。俺はドアをノックする。すると、中から声が聞こえてきた。俺たちは中に入っていく。
「来たね、二人共」
「君たちか」
「……今日試合、わざわざ俺のためにありがとうございました」
おいおい、不満なオーラが出てるぞ。
一応、俺も流れで頭を下げる。
すると、横浜リトルの監督は大人の対応で言った。
「別に構わない。君のために試合をした訳ではないからな」
「なんだと!」
「落ちついて吾郎くん」
「では何故?」
「ふっ、それは……」
横浜リトルの監督はなにやら昔話を始める。それは彼がリトル時代の話しだった。当時、リトルの中でレギュラーをかけて行われた紅白戦でエースを争うライバルにデッドボールを与えてしまったらしい。しかしその友達であった相手は当たってしまう方も悪いんだと笑ったそうだ。
「さてそいつがいたらあの試合の場でどういうかな。こう言うだろうさ、誰にだって間違いはあるさ。だから当たってしまったオトサンが下手くそだったんだ。たがら頑張れよ、吾郎ってな」
「まさか……」
「そう、その人こそお前の親父、本田茂治さ。あいつが残したかった野球……まぁ、今のお前なら分かるだろう」
「……ありがとうございました!!」
「ならいい。次に君たちと戦える日を楽しみにしている」
その後、監督が再度お礼を言い部屋から出る。
吾郎の顔を見るといつも通り……いや、それ以上に晴れ晴れとした顔をした。
やれやれ、これで問題解決かな。
時計を見るともう時刻は夕飯の時間を指していた。俺たち三人は三船ドルフィンズが集まるところへ戻ろうとする。
しかし……
「……嘘。亮太、ねぇ、亮太だよね!?」
突然と懐かしい声が俺の耳に届いた。