今日は休日で昼頃、いつもキャッチボールをしている亮太の家の近くの公園に来ていた。
「よーし、今日はバッティングやろうぜ」
「相変わらず、元気だね……」
「おうよ」
今日も僕の唯一の友達は元気に叫んでいる。あの元気は一体どこから来ているのか。昨日、雨で遊べなかったから、余計に元気である。
亮太には見たところ僕以外に友達はいなさそうだ。じゃあ、僕と一緒に遊んでいる以外の日は何をしているのか、気になったので聞いてみることにした。
「亮太は僕と遊んでいる日以外は、何をしているの」
「……そうだな、ゲームとか古すぎてやってないからな。美少女ウォッチングとかかな」
「……」
最後のは聞かなかったことにして、ゲームが古いって……何年前のゲームをやっていたんだろうか。
「そんなことはいいんだよ。最初は俺が投げるから、ジュニアが打ってくれ」
「僕が最初でいいの?」
「いいんだよ、ギブソンのボールを打つんだろ。だったら、たくさんバット振らないと」
「……そうだね」
こんな変な友達だが、とても優しい性格をしていると思う。いじめているのをわざわざ助けたり、気を遣うところとか。
「でも、それ大人用のバットだと思うよ」
「やべ、間違えた。直ぐに変えてくるわ」
ただちょっと、抜けてるところがある。亮太は走って、アパートの方へ戻って行った。
「さて、気を取り直してバッティングやるか」
「フォームとかいいの?」
「テレビに出てくる選手の動きを大々覚えてるし、大丈夫だろ」
僕は亮太の言葉を聞くと、とりあえずバットを持ち構える。亮太はピッチャーをやってるつもりなのか、大きく振りかぶり右手で……投げた。投げられたボールはなんと、僕の顔近く数センチを通り、後ろの木に当たる……って。
「危ないな!」
「わりぃ、わりぃ。本当に、なかなかコントロール出来ないな」
「しっかり、投げてよ」
「分かってるって」
僕は溜め息を吐き、再びバットを構える。そして、結局亮太のボールがちょうどいいところに入るようになったのは、一時間後のことだった。
「じゃあ、次俺がバッターな」
「僕全然打ってないんだけど……」
「まぁ、気にするな」
「だから、ゆっくりでいいって言ったのに……」
僕が文句を言ってると、当の本人は聞いているのか、聞いてないのか、バットで素振りを始めている。プロ野球選手の動きを思い出しながらやっているからなのか、少しぎこちなく感じた。
「んじゃ、こい!」
「はいはい……」
僕は元気いい亮太のセリフを聞き、とりあえずコントロール意識しながら、右手で投げてみる。狙いはど真ん中。投げたボールは狙い通り、真ん中にいく。……だが、亮太のフルスイングは見事にボールを捉え、甲高い音とともに僕の後の上空へとんでいった。
「よっしゃ!」
「嘘……」
僕はコントロールを意識したとはいえ、それなりに自信があったボールを打たれ、ショックを受ける。そして、とんでいったボールは止まることをいざ知らず、公園の近くの家の花瓶に直撃した。
「「あっ……」」
思わず僕と亮太の声が重なる。
「……どうする?」
「いや、普通に謝ろうよ……」
「仕方ないか」
僕たち二人はこの後、花瓶を割ってしまった家に行き、そこに住んでいる人へ謝りに行った。出てきた人物は優しいお婆さんで、僕たちは丁寧に謝る。すると、お婆さんは笑顔で僕たちにボールを返し、許してくれた。
「いやー、怖いおじさんじゃなくて良かったぜ」
「反省してるの?」
「してる、してる」
……絶対にしてないな。
僕が一人確信していると、僕たちは公園へと戻って来た。すると、亮太がバットを僕に渡してくる。
「俺は打てたし、次ジュニアがバッターでいいよ」
僕はこの言葉を聞き、少しイラッとする。
「いや、三振するまで投げる」
「やれるもんなら、やってみな」
亮太は余裕そうに言うものの、直ぐに見事な空振りをして結局、あっさり僕がバッターになったのであった。
遊び始めてから、数時間経つと夕方になっていた。今日は休日で沢山遊べたけど、時間は直ぐに過ぎていってしまう。
「ふぅ、今日はここまでにするか」
「そうだね……」
「まぁ、そう暗い顔するな。明日には会えるんだし。それより……あっ!」
突然、亮太が大きな声を出す。一体どうしたのだろうか。
「かわいい女子高生発見。というわけでじゃあな、ジュニア」
亮太は僕に一言言い残すと、走ってどこかへ行ってしまった。僕の唯一の友達は将来がとても心配です。なんか僕は亮太と関わってからか、少し大人になった気がする……気のせいかな?
僕は一人首を傾げながら、自分の家に帰って行った。
僕の家は高級マンション、その一室に住んでいる。もちろん、今日も誰もいない。僕は自分の部屋に行くと、亮太から借りたグローブを机に置く。
「……楽しかったな」
僕は今日のことを振り替える。亮太と出会ってから、毎日が楽しい。すると、玄関から扉の音が聞こえた。どうやら、あの父さんが帰って来たらしい。そして、僕の部屋までやって来る。
「いるのか、ジュニア?」
「……いるよ」
「夕飯を買ってきた。リビングに置いてあるからそれを食べてくれ……グローブ?」
「父さんには関係ないよ……」
「そうか……」
僕は一言父さんに、言い残すと自分の部屋を出て、夕飯があるリビングに向かう。この時僕は、父さんが嬉しいそうに笑っていることに気付くことはできなかった。