涼子が仲間になってから数ヵ月が過ぎて、夏休みになった。明日には子供達の夏休みの代名詞であるあの行事が開かれる。
「親父、明日夏祭りだから、お小遣い頂戴」
「あっ、そういえばそうだったな。ていうか、お前去年まで興味ないって、感じだったじゃないか」
「ああ、そうだな」
「やっぱり、友達ができれば、変わるもんだな」
親父はにやにやしながら、俺にお小遣いを渡してくる。
……なんか、うぜぇ。
「楽しんでくるんだぞ」
「分かってるよ」
親父にからかわれた次の日、ついに祭りの日はやって来た。
「後は涼子だけか……」
「そうだね」
夜、俺とジュニアは待ち合わせをした、祭りが行われる神社に来ていた。俺とジュニアは待ち合わせの時間、五分前に来たんだが、涼子の姿が見えない。
「やっぱり、女性はこういうの準備に時間がかかるって言うけど……」
「どうかね」
「おまたせ」
俺とジュニアが会話をしていると、後ろから声が掛かる。どうやら、涼子が来たようだ。
「遅かったな、俺らが……」
俺はその服装を見て驚いた。浴衣だったのだ。
祭りの日に浴衣は当たり前のようなものだが、これが涼子にはまた似合っていた。
「わお、浴衣似合ってるよ」
「……似合ってる」
「亮太は素直じゃないね」
「うるさいわ」
「ありがとう」
ジュニアと俺は浴衣が似合っていることを伝える。涼子は笑顔で、お礼を言った。
「どこから回るの?」
「どうしようか?」
「ただ屋台を回るだけじゃつまらない、ゲームしながら回ろうぜ」
「「ゲーム?」」
俺の発言に二人が首を傾げる。
「そう。金魚すくい、輪投げ、射的、玉当てで一番成果を出した奴が勝ち」
「面白そうだね」
「うん、やろう」
「じゃあ、決定」
最後に俺が一言告げると、俺たちは屋台の方へ走って行った。
「へへへ、甘いなジュニア」
「僕、三匹」
「私は二匹」
「俺は十匹だ。金魚すくいは俺の勝ちだな」
「悔しい」
金魚すくいは大差で、俺の勝ち。こいつらもまだまだのようだな。
「そういえば、何で金魚貰ってこなかったの?」
「んっ、……ああ、貰っても育てるの面倒くさいしな」
「僕も似たような理由かな」
「そうなんだ。私は大事にするけど……」
涼子は手に持っている金魚の袋を大事に抱えた。
「次は輪投げだな……ついてこれるか?」
「もちろん」
俺とジュニアはその一言を告げると、勢いよく走り出した。
「くそ……勝てたの玉当てだけって」
「はっはっは、これで俺の勝ちは確定だな」
俺はジュニアに向かって、大きく笑う。とても、大人げない。そして、俺はあることに気付いた。
「そういえば、涼子は?」
「あれ?さっきまで付いてきてたけど……」
「「……」」
俺とジュニアは思わず、顔を見合わせた。
アカン……。
「はぐれた?」
「そうみたいだね」
「マジか……。俺は輪投げの方を見てくるから、ジュニアは玉入れのところを頼む。とりあえず、見つけたら奥のお賽銭箱のところに集合な」
「分かった」
俺とジュニアは、涼子を探すためそれぞれ行動を開始した。
私がほかの屋台を見ている間に、二人は走ってどこかへ行ってしまった。私は必死になって、二人を探す。
「もう、どこ行っちゃったのよ……」
私はひたすら、探す。しかし、一向に見つからない。私の目から涙が出てくる。
私は男子にも負けない強い子なんだから……こんなところで泣かないもん。
私は精一杯、涙をこらえた。
「……」
「おっ、やっと見つけた。ここにいたのか」
すると、私の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「勝手に……どこか行かないでよ」
「わりぃわりぃ、ちょっと興奮しちゃって」
そこには、いつも私を……いや、私たちを導いてくれる男子……茂野亮太がそこにいた。
「ずっと、探してたんだから」
「ごめんって。今度ははぐれないように手でも、繋いでおくか」
「……」
亮太は私に手を差し出してくる。私は無言で彼の手を取った。すると亮太は私の手を引き歩き始めた。
「しかし、どうして付いてこれなかったんだよ」
「……ほかの屋台見てた」
「なんだよ。言ってくれれば、止まったのに」
「んっ、まさか泣いてるのか?」
「泣いてないもん」
「本当か?」
「男子にも負けない強い子だから、泣かないもん」
「はいはい、すいませんでした」
亮太は軽い感じで謝ってくる……バカ。すると、私はある屋台で止まった。
「……」
「んっ、もしかしてこの髪飾りが欲しいのか?」
私の目に止まったのは、くじの屋台の景品の花柄の髪飾りだった。
「というかこれ、ハズレの景品じゃん。これがほしかったのか?」
「……うん」
私は亮太の質問に、頷く。
「しゃあない、そこで待ってろ」
亮太は私に一言告げると、屋台の方に行き、くじを引いていた……えっ?
私は亮太の突然の行動に、驚いた。
「ほら、あげるよ。しかし、本当にこういうくじって当たらないものだな」
「……ありがとう」
「んっ?ああ、気にするな。今日の侘びだと思っていいよ」
亮太にとってはくじのはずれくらいしか、思ってないだろうけど、私にとってはとても大切な宝物になった。
亮太は再び、私の手を取って歩き出す。私には何故か、年下である亮太の背中がとても大きく感じた。
暫く歩いていると、ジュニアの姿を見つける。
「おう、ジュニア。見つかったぜ」
「よかった、それとごめんね。……涼子大丈夫?」
「うん……」
ジュニアが心配して、声を掛けてくる。私は静かに頷いた。
「これで一件落着。後は花火だな」
「もう、始まるみたいだよ」
「楽しみ!」
私は先程までの迷子がなかったかのように、声を出す。
そして、その声を出した同じタイミングで、花火が打ち上がった。
「きれい……」
「今日は楽しかったね」
「ああ」
今日は色々あったけど、私にとっては思い出に残る最高の夏祭りだった。
すいません、オリ主とジュニア、涼子の年齢を変更しました。
オリ主とジュニアが一年生。涼子が三年生です。