半端者の半生   作:八連装豆鉄砲

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十話

「御加減はもうよろしいのですか?晴明殿?」

 

「はい、まだ仕事を熟すのは厳しいですが、もう大丈夫でしょう、あと四五日で出仕もできましょう。大変ご心配をおかけしました。母上…。」

 

…怒ってる、明らかに怒っている。顔の方は心配がとれたような微笑みだが、目が据わってる。

私が倒れて半月部屋内に漂っていた妖気のせいで継母上(ははうえ)はここへ見舞いにすら来ることができなかった。

吉明が言うには、最初に倒れているのを見つけた時、結構、いやかなり危険な状態でそれを聞いた継母上は真っ青になって心配していたらしい。…継母上も既に五十歳越えてるんだから吉明も吉明でもう少し(ぼか)して伝えてくれれば良いのだが…。

まあ、そういうこともあり完全に妖気を仕舞い変化も維持できるようになった今になりやっと見舞いに来ることができた目の前の方は非常にご立腹だ。

まあ、継母上は先程も述べた様に既に五十は越えているのだが完全に怒ってる時の怒りかたが、『私怒ってるんですよ!』という感じが出ていてなんだか歳不相応で少しだけ幼く可愛らしい。まあもし年齢通り老け込んでいたならば『年齢自重すれば』だとか内心思うのだろうが継母上は皺は殆どなく未だに若々しいため様になっている。話が大分逸れたが、兎も角正直今の方が恐い。だが、それをちょっとでも要らぬ事を口に出せば絶対に堪忍袋の緒が切れる、今の方が恐いのだが、機嫌を直す労力が馬鹿にならないので、とりあえずこれ以上に怒らせたくはないため平謝りに徹する。

 

「御義兄様、私達も大変心配致しましたが快方に向かっているみたいなので安心致しました。」

 

「伯父上ー、私もです。」

 

「わたしもー!」

 

梨華殿、甥の平太、吉丸もそれ相応に心配してくれていた様だ。

 

「義妹殿にも心配をお掛けした様で、平太、吉丸もすまなかったな。」

 

平太と吉丸の頭を撫でながら彼らにも謝る。

私と吉明のように数え年一つ違いの兄弟、あの頃が懐かしい。私達は滅多に姉弟喧嘩をしなかったが、この子達はよく喧嘩をしている、まあ内容はとても可愛らしいものだ。喧嘩するほど仲が良いとも言う。

ともあれやはり、子供は可愛いな、私にも子供が居ればこのような感じなのだろうか…?

いかんな、下らんことを。

私は『男』なのだ、考えるだけ無駄だ…。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

うーむ、鍛冶師に太刀を頼んでいたのができたから大和まで行って来たのは良いのだが…、これはちょっと…、うん、どうしてこうなった…、

 

「兄上?新しい太刀を眺めてどうなされたので?」

 

「いや、私がこの前大和までこの太刀を受け取りに行ったのは知っているな?」

 

「はい、それがどうかしましたか?」

 

「いや、太刀は素晴らしく良い出来なんだが…、」

 

「それでは何が?」

 

「いや、この太刀の銘がな?」

 

「銘が?」

 

「私の事を知ってか知らでか、銘が『狐切(きつねぎり)』なんだよな…。名乗ってはないし私の事は都の陰陽師位しか伝えてないから、まあ、偶々だとは思うのだが…。」

 

「…、ああ…、…また、それは…、…なんと言いますか…。」

 

「…はは、やっぱりそういう反応になるよな…。」

 

「まあ、それは置いといても素晴らしい太刀ですね。」

 

「よし、私はこれからこの太刀を()()と呼ぼう。なんというか縁起悪いし、狸には申し訳ないが。」

 

「私の話を無視しないで下さいよ、まあ、気持ちは分かりますが狸切ですか…、それにしてもなんか冴えない名前ですね。」

 

「それは、知らん、狸に文句を言え!狐に名前負けする狸が悪い!」

 

「…その呼び名が狸に知られなければ良いですけど…。」

 

「だいたいなぜ狐なのだ、虎切とかの方が良さそうだろ!雷切とか、鬼切とか!」

 

「はぁ、いい加減落ち着いて下さい、五月蝿いです、黙って下さい。竹光とか名付けられなかっただけましです。」

 

「…まあ、そうだな…。」

 

◆◆◆◆◆

 

さて、久しぶりに琵琶でも触るとしますか、

 

塗籠めから愛用の琵琶と酒器を手に蔀戸を開け外へ出て廊に腰掛ける。

 

満全と金色に輝く月輪の浮かぶ夜空を肴に酒を呑みつつ琵琶を鳴らす。

 

静寂にぽつりぽつりと落とされる和音、

 

一時的に出仕できない期間が続いたが本来の陰陽寮での仕事以外にも常に皇族や上達部を始め多くの者から占い・退治の依頼が次から次へ舞い込む私にとって、最も落ち着く時間だ。

 

元々琵琶の名手として名の通っていた継母上に師事して、今では継母上からは『私よりもお上手いのですからもうお教えする事はありません』とも褒められてもいる。まあ、披露する事は滅多に無いため邸の者以外には殆ど誰にも知られてはいないが。

 

「?」

 

そう思っていると視界の一部に一本の煙の線が入っていることに気が付いた。

 

次の瞬間その煙が一気に太くそして朱く染まった。

 

「火事か!?」

 

方向とおおよその距離からして京の誰かの邸であることは間違いないだろう。

火の不始末かはたまた盗賊か、それとも…




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