半端者の半生   作:八連装豆鉄砲

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十一話

夏のある日、京に激震が走った。

 

ある参議、中納言の邸が鬼共に襲撃され鬼共が火を放ったのかどうかは不明だが中納言の邸から出た火は周囲の者達の邸も焼き、朱雀大路を始めとした幅の広い大路で延焼は防がれたもののそれでも結果として右京の五分の一、京の一割にも及ぶ範囲が焼け落ちる大火となった。中納言を初め邸の男たちは皆、女たちも殆どは死亡、亡き中納言殿の姫君を初め一部の邸の女たちが大江山へと拐われたとみられる。

 

今回山の鬼の棟梁、酒呑童子は京には下りて来てはいなかった様だが、その配下四天王の金熊童子、虎熊童子の二人が下りて来ていた様だ。

 

中納言邸の襲撃や大火の一件で言うまでもなく帝は激怒し、すぐさま陰陽師達と武官達に兵を動かす(みことのり)を出し、火も完全には止んではいないその日の内に討伐の軍を出した。

 

これは時間との勝負だ。既に山陰道を下る馬上の人となっている晴明は考える。奴らが山に戻ってしまえば救出は難しいしこちらもかなりの被害が出る。奴らが棟梁酒呑童子やその腹心茨木童子、そして四天王が揃い、さらに山の砦に籠られたら手も足も出せない。こちらが大被害を受けかねない。幸いこちらは陰陽師たちと荷駄を除けば殆どが騎馬武者だ。移動速度は稼げる。因みに陰陽師たちも鎧までは着てはいないが馬に乗っている。

 

「吉明、先程の策を後続の将達に伝えてくれ、鬼共が山に戻る前に拐われた姫君を奪還した後、奴らを始末しなければならん、この二三日の内に鬼共を退治することになると。」

 

「はっ、兄上」

 

吉明が馬を返し、後続する将達のもとへ向かう。

 

…さて、この策を弄して奴らを始末できるかどうか…。

 

◆◆◆◆◆

 

「…とのことですので、どうか、お願い致します。」

 

「うむ、分かり申した。」

 

「待て、何故我等が貴様等陰陽師などに従わねばならぬのだ。」

 

やはり出るか、鬼相手に我等陰陽師の助言に耳を傾けない愚か者が、

 

「相手は人間ではございません、鬼です。人間相手の戦ではないのです。それが貴方様には理解しかねますか?兵衛佐様?」

 

「っ!貴様っ!誰にものを言っておるのかわかっておるのか!」

 

「それがお分かり戴けぬなら貴方様が御命を喪うだけにございます。」

 

「落ち着かんか!左兵衛佐!すまぬ、下の者の押さえが効いておらなんだ、分かり申したと先行する陰陽師の方々に伝えられよ、安倍殿。」

 

「はっ!左近衛大将様、確かに御承りました。」

 

「ふんっ!陰陽師如きが付け上がりおって、化け狐めが!」

 

「!」

 

「兵衛佐!控えぬか!」

 

はぁ、今からあの大江山の鬼共と一戦交えるという時に…、気が滅入る…。

ただ、姉上がこちらに来なくて良かった。こんな時に要らぬ心労を掛けなくて済む…。これを受けるのは特に今は私だけでよい…。

 

さて、姉上達に合流するとしよう。

 

◆◆◆◆◆

 

ほんの少しではあるが戻って来た弟の顔に苛立ちの色が見える。

恐らくは向こうで何かを言われたのだろう。大体のことは想像するのは難しくはない。恐らく私の考えることとの間にそう違いは無い。

 

「吉明、何時もお前に苦労を掛けて本当に申し訳ない。」

 

「!…顔に出ておりましたか?」

 

「本来であればお前には一切関係の無いことなのだ。それなのにお前まで謂れの無いことで一緒に陰日向で罵りを受けている、お前の出世を妨げているのは私なのだ。」

 

「いえ…、兄上…、私は心から兄上をお役に立ちたいのです。」

 

「…吉明、一つ忠告しておく。お前にはもう妻子が居るのだぞ、彼らが悲しむ様なことだけは絶対にするな。それを努々忘れるな。」

 

「!…はい。」

 

「今から鬼共と対峙するのだ、気を引き締めろ。」

 

「はっ」

 

おそらく奴らは無駄に堂々と山陰道を行くだろう。そこで我等は別の道から先回りし式神を用いて砦を作る。まずは奴らがどの道を通っているのか突き止める、そこからだ。

 

◆◆◆◆◆

 

斥候の兵が戻って来た。やはり奴らは山陰道を堂々と通って大江山へ向かっているらしい。

そして場所も遥か一日分の距離程の後方、やはりすでに我等は追い越していたらしい。ここもまだ大江山までは二日の距離があるここから少し京側に戻って谷の最も狭い場所に砦を築く。何度か赴いたことの有る大宰府の水城のようなものだ。

 

大きな築地の前に一時的に堰を築きそこから引いた由良の川の水を用いた浅い水堀を敷いたもの、陰陽師達で式神を用いれば大した時間はかからない。そこに姫君を奪還した後に追ってくるであろう鬼共を誘いこむ、まずはそこからだ。

 

当然だが十二天将等の式神を用いる事はあっても妖術の類は用いない。

陰陽師達からはそうでもないが、ただでさえそれ以外の者からの私に向く視線は良いものではないものが多い。

 

私だけならまだ良い。だがそれが吉明や甥達を初めとした家族まで向かうのだ。

 

今でこそ面と言ってくる者は居ないが、決して心地の良いものではない。それが一層酷いものになることは私には耐えられない。

 

そのためこれから行う策、いや罠は些か悪辣なものになっている。嘘や謀を嫌う鬼の性質から、これを鬼達が知れば、間違いなく怒り狂うだろう。だから一人たりとも逃がす訳にはいかない…。

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