半端者の半生   作:八連装豆鉄砲

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一話投稿から一年経ちました。遅筆ですいません。


十六話

「母上、本当に宜しかったのでしょうか……。」

 

「元々は、貴方が私に提案した事ではありませんか…。」

 

吉明は僅かに顔を顰める

 

「しかし…。」

 

「ああもう!貴方を見ていたら貴方の父親を思いだしますよ!本当にどうでもいいどころが似て……見ててイライラします!!」

 

「……」

 

「一応言っておきますが、おそらく大丈夫ですよ。」

 

「どうして、そう思えるのですか?」

 

 

 

 

「勘です。」

 

 

 

 

「……そうですか……。」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

夜明け前の紫色に染まった東の空が開け放たれた蔀戸から顔を覗かせ、ちらついていた雪はうっすらと白く降り積もっていた。

 

◆◆◆◆◆

 

祥子様達親子がこの場を退出して半時ほど、まだこの目の前の少女は目を覚まさない、倒れた当初よりは幾分はましにはなっている様だが、依然として苦しそうに浅い息を繰り返しています。

 

吉明様の話では彼の数え一つ上の年齢で二回り、とまではいきませんがそれなりに私よりも年上であるはずの彼女、だが見たところ私と同じ位もしくは年下にしか見えません。まだ幼さを残してはいてもその私よりも遥かに整った顔を歪め額に汗を浮かべる彼女を前にして、私はその汗を拭ってやることしか出来ません。

 

だがその額を拭う私の手は振えていました。

 

この目にはどうやっても映りこんでしまうのです。彼女から僅かではあるが確かに滲み出す彼女の妖力が……。

 

私の家族を皆失ってしまったあの事件で晴明様に助けられ、さらにこの邸にお世話になって、はや一年程になります……。

 

私は当初、一族の中で唯一私だけが生き残ってしまったことをひどく悲しんでいました、

『どうして、どうして私だけ、私だけが生き残ってしまったの?』

こんなことばかり考えて、ろくに食事さえ受け付けず、ただ私だけを助け出した晴明様を怨んでいました……。

 

おまけにあの事件以降、私の目は人ならざるモノを映すようになり、そういったモノを見たくもないのに目に入ってしまうそれらに、当初お世話になっていた亡き母上の親戚筋の家にいることができなくなり、結果として私をこの忌むべき定めへと陥れた憎き陰陽師の家で過ごすこととなりました。

何故この私をこのような地獄へと叩き落としたこの男に何故頭を下げねばならないのか!あの時私はそんな事を考えていました。

 

陰陽頭様の仰られた通りその日から過ごすこととなったこの邸は晴明様達の施す幾重にも厳重に重ねられた結界に守られた邸だった。それについて一つ少し疑問に思って晴明様に聞いた事がある、それは

『内裏はここまで幾重にも結界が掛けられているのですか?』

というもので、それに返ってきたのが

『いや、内裏の結界はここまで厳重ではなくてな、誰とは言えないが得体の知れないモノを施されるのを嫌う者がいるのだよ。そうだな……、よっぽど右大臣などの邸の方が厳重だな。』

その時は聞いたあとに聞かなければ良かったと思ったのは秘密です。

 

ですが晴明様たちのお母上の祥子様は、とてもお話しやすい方で何か事はある毎に細かく気を配って、気さくに話しかけて下さいます。

例えば晴明様たち兄弟の小さい頃の話であったり、晴明様に琵琶をお教えしたは良いが何でもすぐに熟す晴明様だからすぐに祥子様よりも巧くってしまった時のことを若干…ではなかったですね、大分拗ね気味に話されたりして、最初はふさぎこみがちだったそんな話をしているうちに私も次第に元気になれたように思えます。

 

そんなこの邸に入って数日が足った頃、なかなか寝つけず、邸の中を歩いていた時に、ふと琵琶の音が聞こえてきました。音のする方へと歩くと、縁に腰掛けた晴明様が酒器傍らに満天の夜空を見上げながら琵琶を弾いていらっしゃいました。

その横顔はどこか儚げであったのを今でも覚えています。そこで少し話し、私が箏を嗜んでいることを伝えるとその内一緒に弾きましょうと誘われ、それを私は承諾してその日はそのまま床に入りました。

 

その後、一緒に楽器を弾く時が何度かあり、他にも親切に相手をしてくださる晴明様を私はいつの間にか想うようになっていました。

 

あっ!

 

◆◆◆◆◆

 

倒れたときに頭を何かで打ったのか頭が痛い。

 

痛む頭が働かないのをよそに私は周囲を窺う。周囲に継母上(ははうえ)や吉明の姿はない、一つ問題、いや特大の問題を挙げるならここに春子殿が居ることだろう。私は今、本来の女の姿のままである。

どうやら春子殿は此方を心配そうに見ているように見える。

私は一つ溜め息を吐き、

 

「見られてしまいましたか、今、貴女の御覧の通り私は女であり、私の体を流れる血は半分は狐妖の血です。」

 

彼女は何も言わない、黙ったままである。

 

「貴女は、これからどうなさりますか?私を突き出しますか?」

 

「そんなことは……」

 

「ここに継母上たちが居ないのが疑問なんですが、継母上たちに何か言われましたか?」

 

「……晴明様の、妻になってはくれないか、と……。」

 

「……は?私は女ですよ?」

 

「……」

 

「……実は貴女が前から私に対して好意を持っていることは気付いていました。」

 

「!」

 

「恐らく継母上たちが私のこれからのことを鑑みての提案なのでしょう。私からは何も言うことはありません。あの人たちに迷惑をかけたくはないので……。ですが貴女はそれで良いのですか?」

 

「……私は、これを受けようと思います。」

 

「え?」

 

彼女の顔を見上げると振り切ったような清々しい顔をしていた。

 

「前々から想っていたのです。こんな事情があれば余計お側でお支えしようと思いました。」

 

「……同じことを言いますが、私は、女で、しかも半妖ですよ?」

 

「関係ありません。それでこんな私でもあなたの役に立てるですから。」

 

◆◆◆◆◆

 

私の言葉に驚いたのか、私よりも断然美しい顔できょとんとした顔になったのには思わず笑いだしてしまいました。

 

「何が面白いのです。」

 

その少し膨れた顔も面白い。

 

「はあ……、少し積もりましたね……。」

 

ふと、晴明様が外に視線を移しました。

 

「雪は、嫌いなんですよね……。」

 

その時の顔は酷く寂しそうに見えた。だがそれについてはなぜか聞こうとすることはできなかった。

 

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