「なんとまあ…」
彼方此方に黒々と焼け焦げた梁や柱が散らばり、火の回りが遅かった場所などでは未だに白煙を吐き続け、ぱちりぱちりと音が鳴らしながら火の粉を散らしているこの場所、この日の本の国の中心である内裏が在った場所である。
◆◆◆◆◆
それは新たな雨乞いの祈祷のことについて
にわかに
「主上っ!」
「
兼家殿だったか…煙?
「左兵衛陣より火が、火が出ております!火は風に煽られ既に温陽殿にも移っており、火は消せぬ程にまで大きくなっております!加えて左兵衛陣に詰めておった者達の中に鬼を見た者も居るとかっ!」
火だと!?それに鬼!?先程通った際にはそれほどまでに強い妖気を感じることなどなかったが一体何が!?
「何じゃと!?、ならばや…いや中宮と春宮はいかがしておる!?この内から他所へと既に移したのか!?」
「まっ、まだでございます!」
「何をしておる!早うせぬか!」
「ハッ!ハハアッ!も、申し訳ございませぬ!が、しかしどうにも火の回りが早く、ここも危ういと考えますので先ず主上にはお早く火より遠い場所へとお移り頂きたくっ」
そう言い残すと兼家殿はそのまますぐに下がり退出していった。
重宝の類いの焼失は
「主上。」
帝が此方に向き直る。
「如何し
「はっ、火の手も此方まで及ばないとも限りませぬ、よってお早く何処かに御移りになられた方がよろしいかと。」
「うむ、そうじゃの。では如何する?」
「とりあえず、まず火から離れた中院へ一旦御移りになられた後、暫く様子を見るべきだと考えます。」
「そうか、ではそのように致そう。だが桓武帝が御遷都なされてからこの内裏が焼け落ちるようなことは無かったのじゃ…。右府の死といいこの火といい余の失政を天が咎めておるのであろうか…。」
「お、畏れ多くも主上…、そのようなことは…」
保憲様が帝を宥めようとしているが帝がそれを手で抑える。
「よい、一旦庭に出て様子をこの目で
こう仰られば我等から何も申し上げることはできない。
御座の
我等も外に出ると仁寿殿の奥、兼家殿の言が正しければおそらく温陽殿から轟々と火の手が上がっているのが見える。燃え上がる焔で紅蓮に染められ
まずいな…、
帝に付き従い内裏の南庭へと出たときには既に南殿にまで火が移っていた。
火の手に包まれつつある内裏を目にし帝は言葉を失っているようであった。
「主上」
「…何じゃ?…。」
帝が此方へと目を向ける。
「はっ、此方もそろそろ危のうございます。先程申し上げた様に一旦そちらの承明門から内裏をお離れになった方がよろしいかと。」
「うむ、そうじゃな。では何処へと向こうた方が良いのか?」
「まずは火の回りつつあるこの内裏より離れることが先決でありますゆえ先程申し上げた通り、中院へと移られた方がまず無難でございます。されど中院は内裏からしますと
帝は暫し思案しそれに了承の意を示した頃合いに、丁度よくこちらに運び込まれた輿に乗り保憲様を伴い内裏からお移りになられた。
帝の輿が承明門を抜けたのを確認したあと向き返ると、清涼殿にまで既に火が回り、紫宸殿の破風から轟々と真っ赤な焔が上がり天を突こうとしていた。既に大棟の一部からも火の手が上がりつつあり長くない内にも棟が落ちるであろう。
視界の端には真言院から駆けつけた僧達が火を止めるべく誦経を行っているが、何せ遷都から幾星霜、加えて雨も降らず乾ききっているのだからどうにもならぬ。むしろこの火と東風では真言院もどうなることか…
◆◆◆◆◆
夜半に左兵衛陣で上がった火の手は瞬く間に
このようにして大内裏の中央は未だ煤の薫り漂う焼け野原となった。
幸い死人も出ず、温陽殿に納められてあった三種の神器は含まれてはいないが、
「やはり熱で銘文が潰れ、折れてしまっているか…」
破敵剣や護身剣など宝剣をはじめとした古より受け継がれてきた累代の数々の重宝までもが喪われるという憂き目となった。
◆◆◆◆◆
そして今、我が家にて、帝にご同行してそのまま詰めていた太政官庁から2日ぶりに帰宅したらしい上司が目の前に居るのである。いかにも厄介事を押し付けそうな出で立ちで。
保憲様に聞けば、帝は仮の内裏を冷泉院に定められたという。
「それでだが晴明、」
やはり来たか
「お主が見つけた宝剣の復元、頼まれてくれるか?」
まずは、このような拙作をお気に入り登録していただいた方々に、
物凄く長い期間の放置、本当にすみませんでしたぁっ!!
尚、次話投稿については全く以て未定。(土下座)