「母さま~。」
あと三ヶ月ほどで五歳になる我が娘がこちらに向かって元気に駆けてくる。
生まれて間もない頃はその身体になかなか妖力がなじまないのか良く熱病に侵されるなど病気がちだったものの、最近ではそんなことも無かったかのように元気に邸内の庭を走り回って遊んでいる。それでもまだ幾分妖力が不安定なのか偶に体調を崩すことはある。こればかりは娘に頑張ってもらうしかないのであろう…。
「あねさま、まってよ~」
晴の後ろから、祥子さまとの間にお生まれになり一月ほど前に三歳になった、
晴の異母弟にあたる
とてとてと追いかけてこちらに向けて走ってくる。
「母さま、昨日読んでくださった竹取物語の続きが聞きたいです!」
「おばさま、わたしもです。」
小さな子供たちは最近数年で京で出回り知られるようになった竹取物語に夢中のようで毎日のように私のもとに来ては続きを知りたいとねだってくる。
そうしてしばらく読み聞かせていると、今日は遊び疲れたのか二人仲良く可愛らしい寝息を立てて何時の間にかすやすやと眠りに落ちていた。
「あらあら、風邪をひいてしまいますよ。」
夏も終わり秋口に差し掛かり二人が風邪をひいてはいけないと、苦笑しため息を吐きながら葛の葉は側にあった小袖を二人にかけてやる。
葛の葉は二人に目を遣る。
二人はお互いに向き合って気持ちよさそうに眠っている。
本当に仲の良い姉弟である。
幼いながらも姉として弟の前では一生懸命ふるまおうとして頑張る姉に対し、
弟の方はそんな姉が本当に大好きなようである。
彼女はそんな娘の
一年程前から晴には狐火や変化の術をはじめとした狐妖の妖術を教えている。
だが、教え始めてからすぐに晴は私のそれを上回るほどの腕前を持つようになった。
だが、寝ているときに限っては気が抜けてしまっているのか今のように耳や尻尾を顕現させてしまうことある。
これは早々に直させないといけない。
それはさておき、尻尾の本数からも考えて妖力も既に尻尾が
霊力に関しても既に莫大な量をその小さな身に宿しているようだ。
和歌等も最近では教えてもらった祥子さまを齢四つにして凌ぐほどの腕前である。
妖術等も考えられないほどの凄まじい早さで習得したことから、どうやら彼女は何かしらの能力を生まれつき持っているようである。
これも人と妖の間に生まれた事が原因なのであろうか?
まあそれでも娘は、妖の血を引き圧倒的に長命であるが為に、特に仲の良い弟をはじめ出会う様々な人との間でいずれ多くの離別をすることになるだろう。
だが、永い時を人の世に紛れて暮らすのは辛すぎるのではないか?
妖である私はもはや慣れたものだが、娘も半分妖の血を引くとはいえ、もう半分は人である。
人の身にはやはりそれは耐えられるものだろうか?
そして何より・・・
娘が
浮かび上がってきた不安を胸の奥にとどめ、葉を紅に染めた周囲の樹々をより一層朱く染め上げ暮れ行く夕日を目に映しながら、葛の葉は家族の平穏をただ願うだけであった。