半端者の半生   作:八連装豆鉄砲

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五話

母である葛の葉が屋敷を去った後、晴改め童子丸は父の取り計らいによって弟の吉丸と共に貴族の男子として漢籍、武術、馬術等を教えられるようになる。

弟の吉丸まだ齢三にして着々と身に着けていく秀才であったが、『兄』の童子丸はまさしく鬼才であった。

童子丸はそれらの事を恐ろしい程の理解力で半年にも満たないうちにはそれぞれの師の腕を越えるようになり、師たちが自信を無くし匙を投げてしまうという事態が発生したことも有り、神童との噂まで出始める。その噂はある男の興味も引いた。

その男は古くから続く陰陽道の家系の当主で現在陰陽寮の長である陰陽頭の職にあった。名を賀茂忠行という。

 

◆◆◆◆◆

 

「いつぞや狐と通じておったと噂のたった事のある監膳殿の嫡男が神童か……、

その弟も一角の秀才とも聞く、何かあるかもしれんな。

そやつらを弟子にとってみるか?何か面白いことになるかもしれん。」

 

公卿たちの激しい泥沼の権力争いの続く内裏での宮仕えに飽き飽きし、家の跡継ぎで陰陽寮での後継者でもあり先頃早めではあるが元服も終えた息子の賀茂保憲の育成もひと段落していた忠行は、そんな興味本位で童子丸らを弟子にとりたいと益材に書状を送る。

そして童子丸と弟吉丸は陰陽頭である忠行に弟子入りすることとなる。

だが吉丸はまだ当時四歳とあまりに幼かったため、二年後六歳になった後に弟子入りすることとなった。

童子丸が弟子入りした初めは、忠行や一番弟子であり忠行の嫡男の保憲らの身の回りの雑用に始まり、その合間を縫って少しずつ術を教えられていったが教えられるのも術の中でも簡単なものであった。

だがそれは半年ほど経ったころのある一件で激変することとなる。

 

◆◆◆◆◆

 

ある夜、忠行が牛車で弟子数名を連れ下京へ行った時のこと、童子丸はいつものように天を見上げる。

 

丑の刻二つを少し過ぎたばかりか…

 

用事を済ませ一団が朱雀大路に差し掛かった頃、それらは起きた。

 

一団の先頭近くを歩いていた童子丸が、いち早くその異変を察知した。

(何かが近くにいる……)

母親譲りの狐妖の嗅覚が何か血生臭いような臭いを察知し、周囲を警戒していた際にそれは見えた。

 

『鬼』である。

 

百鬼夜行である。

いかがわしい数の鬼が向こう側から歩いてくる。

それを見つけた童子丸はすぐに雑用の合間に覚えた気配を薄くする術を周囲にかけ、一団を止め主である忠行の乗る牛車の前に跪いた。

 

「忠行様、お報せしたきことがございます。」

 

「童子丸か、何事だ、述べよ。」

 

「はっ、大路の北側より鬼たちが近づいています。

まだこちらは築地の陰であちらからは見えていないようですのであちらはまだこちらには気づいていないようです。

ご指示をお願いいたします。」

 

「そうか、わかった。ところでこの周囲の結界は誰がかけた?」

 

「…わたくしにございます。」

 

「ほう……、そうか、練習はしたのであろうが実際に使うのは初めてではないのか?」

 

「はい、確かに初めてではあります。」

 

「(初めてでこれほどの精度か、うわさ通りの神童じゃな。)わかった、これより儂が結界を重ね掛けするゆえ、よく見ておれ。」

 

周囲の者は鬼が見えていないようだが、前方より近づく鬼に気付いた忠行は姿と気配を消す結界を一団にかけ周囲の者に、

 

「こやつの言う通り前から鬼共が近づいてきておる。今姿と気配を消す術をお主らにかけたが物音までは消しきれん。おそらく奴らはこの路を通り過ぎることは無いだろうが念のため道脇に寄っておけ。それらの姿を見て驚いても決して声などはあげるでないぞ。」

 

という。忠行の発言に腰を抜かした弟子たちは這う這うの体で道脇の築地まで這って行ってがくがくと震えながら蹲っていた。

一方童子丸と忠行は道脇に寄ったものの鬼たちの姿をその目に映していた。

鬼たちは京の大路を我が物顔で練り歩き通り過ぎて行った。

近くを通っただけで体が震えるほどの莫大な妖力を放ち、傍目から見ると幾分滑稽に見えるが数人の大鬼を側に置きながら悠々と歩く小鬼。

瓢箪で酒を飲みながら無邪気そうに嗤う不釣り合いなほどの大きな一対の角を持つ鬼の姿が童子丸の目には残っていた。

(あの鬼、こちらに目を向けた様な気がしたが気のせいだったか?)

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「これだけの大人数で都の大路を堂々と練り歩いても武士どもはおろか、人っ子一人も出て来ないなんて都の人間には腰抜けしかいないのかねぇ?」

 

「頭ぁ!!、だれも出て来ねえんなら、どっかの屋敷でも襲っちまおうぜ?」

 

「そうだねぇ、まあ華扇は置いてきたし、四天王は勇儀しか連れて来てないから今日は止めとくかねぇ~……って、ん?」

 

この小鬼、伊吹萃香は彼女の能力、『疎と密を操る程度の能力』で彼女達から拡がる妖力があるところだけ一切無いことに気づく。まるで結界か何かで防いでいるように。

 

(あの小路の築地塀の陰になんか居るなあ。

姿は見えないし気配もしないけど、視線は感じるんだよな~。

術者なんかが居るかな?

姿隠してこそこそやるのは気にくわないが、まあ…、今日は良いか。)

 

「おーい、勇儀~?」

 

「なんだいいきなり?、萃香?」

 

「適当な屋敷から酒をかっぱらうよ、せっかく都まで降りてきたんだ。

帰ったら宴会するよ。」

 

「酒か、貴族達は旨いのを飲んでるだろうしな。」

 

「そうさ、さあ、さっさと酒持って大江山に帰るよ!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「行きましたね、忠行様。」

 

「ああ、そうだな。どうやらあの鬼どもの頭はこちらに気付いていたようだが、何もしてこなかったことが良かったな。」

 

「やはりそうですか……。」

 

「その口ぶりだと、お主も気付いておったか。あの鬼、酒呑童子がこちらに気付いていたことを。」

 

「はい、何度かこちらに目を向けていたので。」

 

「そうか……、よし、ならば明日より儂が直々にお主に教えてやる。

それで良いか?」

 

「はいっ!、ありがとうございます!」

 

「よし、それでは明日儂の部屋まで来るがよい。

それでは、術を解いて帰るぞ。」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

それが童子丸、後の稀代の陰陽師安部晴明と酒呑童子伊吹萃香の最初の遭遇であった。

 

 

 

 

 

 

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