武装神姫 《Another/Side》   作:夜斗

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 ※本作品は『武装神姫』シリーズを題材とした二次創作です。
 作者考案のオリジナルキャラクター、独断と偏見による設定などが含まれています。
 それらが苦手な方はご注意を。


プロローグ
序章 【上】


「それでは、自己紹介をお願いするわね」

 

 クラス担任の先生に促され、彼は自分の名前を白チョークで黒板に書いていく。ちょうど名字を書き終えた辺りで不意に背後がざわつき始めた。

 

「……あれ、もしかして……?」

「偶然じゃね?」

「いやでも……」

 

 小声でひそひそと話し合う言葉の(おおよ)その見当は付いている。そのまま名前まで書き進めると、彼は少々ぎこちない動作で振り返った。

 

「その、初めまして。『一ノ瀬(イチノセ) 真琴(マコト)』と言います。……よろしく」

「はいはーい! 質問です!」

 

 真琴が名乗り終えたところで、活発そうにツインテールを揺らす女子が我先にと言わんばかりに大きく右手を上げた。その瞳は好奇心の光に満ち溢れ、爛々と輝く視線が光線のように真琴に注がれている。

 

「あー、こほん。色々気になるとは思うけど細かな質問は後でお願いするわ。それと……真琴君の席は、あそこね」

「は、はい」

 

 やや上ずった声で返事を返し、真琴は先生に指示された座席――窓際の最後列にぽつんと空いた席へと移動する。右隣には俯いている女の子、前には眼鏡を掛けた男の子が座っていて真琴に振り返ると優しく微笑みかけてくれた。

 

「真琴君でいいかな。僕は『天城(アマギ) (レン)』って言うんだ。よろしく」

「よ、よろしく」

 

 転校初日に向こうから話しかけられて、真琴は内心でホッと安堵の息をついた。自分から話しかけるのが得意ではないし、人生で初の転校ともなると不安で胸がいっぱいに埋め尽くされてしまうのだ。

 

「僕も、蓮君でいいかな」

「呼び方は自由でいいよ。それより、僕も色々聞きたいことがあるんだけどいい?」

「うん、休み時間になったら」

 

 わかった、と小さく頷くと彼は正面に向き直ってしまった。彼も僕のこと、それよりも“姉”のことに興味津津なのだろう。一部の生徒――先ほどのツインテールの少女も含め――も熱のこもった視線をこちらに向けている。彼らも休み時間が待ち遠しいのだろう。反面、熱視線を一身に浴びる真琴はあまり快い気分にはなれずにいた。

 

 ※

 

 そして生徒待望の休み時間――ただし、真琴は除く。

 定時を知らせるチャイムが鳴るのと同時、ホームルーム中に熱視線を送っていた生徒たちがこぞって真琴の元へと集まり、次から次へと矢継ぎ早に質問攻めを浴びた。

 

「真琴君って、もしかしなくても風花さんの弟?」

「風花さんって、普段はどんな人なの?」

「風花さんってどんな武器が好きなの?」

「こ、好みのタイプとかは?」

「今は何処にいるの?」

 

 質問の内容のほとんどが予想通り“姉”に対することばかりだったのは少々救いだっただろうか。真琴は当たり障りないよう言葉を選びそれぞれに対し丁寧に答えていく。

 ある程度姉への質問が終わると、やがてその対象は真琴へと移り変わる。

 

「真琴君は“神姫”持ってるの?」

 

 真っ先に恐れていた質問が投げかけられ真琴は一瞬言葉を詰まらせる。返答は既に出来上がっているのだからそれを素直に答えればそれでいい。だけど、そうすることで目の前で嬉々と返答を待つ彼らを失望させてしまうのが酷く嫌だった。

 とはいえ、誤魔化すわけにもいかない。真琴は首を横に振って正直に答えた。

 

「えっと……その、僕は自分の神姫持ってないんだ。……ごめん」

「なぁんだ、そっかぁ……」

 

 途端に彼らの熱が失せ集まっていた生徒が誰からともなく真琴の席を去っていく。ぞろぞろと、まるで蜘蛛の子散らすかのように。最終的に残っていたのは最初に手を上げていたツインテールの少女と、真琴の席に隣接する蓮に、未だ俯きっぱなしの少女だけだった。

 

「やっぱり、がっかりさせちゃった……よね」

「そりゃーアタシもガッカリだよー。戦 女 神 杯(ヴァルキリーカップ)チャンプの弟さんだから、てっきりすっごい神姫持ってて強いんじゃないかなーって思ってたのに、まさか神姫すら持ってないだなんて。ねぇ、ニニ?」

 

 ツインテールの少女が自分の肩に向けて声を掛けると、ひょいと三角の耳が飛び出しそのまま彼女の肩に小さな姿を見せた。

 

『そだねー、ニニもワクワクしてたのにショボーンだよー』

 

 少女の肩の上に現れたのは、全長15センチ程度のフィギュアロボット『神姫』だった。俗にマオチャオ型と呼ばれる彼女はネコをモチーフとされた非情に愛くるしいデザインで、どちらかと言えば子供に人気のある神姫だった。ニニと呼ばれた神姫は、まるで顔文字のようにコロコロと表情を変化させながら持ち主(マスター)である少女と会話している。

 

「君は神姫を持ってるんだ?」

「見ての通りでしょー。あ、そういえば名前言ってなかったっけね。ワタシは『鬼灯(ほおずき) ねね』って言うんだ。で、こっちは相棒の『ニニ』」

『ニニだよー。よろしくー』

 

 ぺっこりと、礼儀正しいというよりも勢いでお辞儀したような形でニニが名乗る。少し気後れを感じつつも、真琴も軽く会釈で挨拶を返しておく。

 

「鬼灯さんと、ニニちゃん……だね。うん」

「えー? 何それ。そんな“さん”付けとかしなくていいよー。ワタシのことはねねで、ニニのことはニニでいいよ!」

「えっとじゃ……ねねちゃんもニニも、よろしく」

『はいはいー。よろしくー』

 

 マオチャオ型といえば、語尾が『~にゃ』だと勝手に思い込んでいた真琴からしてみれば、ねねの持つニニは少し変わっていて面白かった。マスターが違えば神姫も違う、そんな典型的な光景だ。

 

『じゃあ、次はアタシが名乗る番かな』

 

 次いで、今度は蓮の方から凛とした女性の声が聞こえてきた。いつの間にか彼の肩にもねねと同様に神姫が立っていた。腕を組み仁王立ちする彼女はエウクランテと称されるセイレーン型神姫。素体のペイントやその立ち振る舞いから凛々しいお姉さんのような印象を受けた。

 

「改めてだけど、天城蓮。そして僕の神姫の『ハヤテ』」

『蓮の友達はアタシにとっても友達だ。よろしく』

「よ、よろしく」

 

 既に目の前には二人の神姫とマスターがいる。中学生で個人用の神姫を持っているとは羨ましい限りだった。

 神姫は、一介の中学生に変えるほど安価な代物ではない。

 昨今の神姫の普及につれ数年前に比べれば値下げされたとはいえ未だに高額なのである。それこそ、神姫一体の値段で高性能のPC一式が買い揃えられてしまうほどに。だから、今ここで手にしている彼らはある種“幸運”な人たちだ。

 

「そうだ、彼女の事も紹介しておくよ。ほら、西園寺さん」

「は、はひぃ!」

 

 蓮の呼びかけにそれほど驚いたのか、ガタンと椅子を後方に吹き飛ばしながら――西園寺と呼ばれた少女はギコギコと油の切れた人形のような動作で真琴に振り向いた。

 

「さ、ささ、さいおん……じな、なな……み……」

「七海ちゃん、そんなノミみたいな声じゃ聞こえないよ」

「で、でもあの、だからその、あのあの、えっと……」

 

 極度の人見知りなのだろうか、それとも極度の上がり症なのか、或いは両方なのか。ねねに促されても真っ赤な顔を右往左往させながら慌てふためくばかりで自己紹介も何もあったものではない。そんな彼女のようなタイプの人と初めて接する真琴もまた同義ではあったが。

 

『では、僭越(せんえつ)ながら私からご紹介いたしましょうか』

 

 またも聞こえた女性の声に視線を落とすと、彼女の机の上に別の神姫が現れた。黒のシックなスーツに身を包んでいたのは火器型MMSのゼルノグラード。本来であれば、その名の通り全身を火器を纏うミリタリーな神姫であるはずなのに、今の彼女はそんな火薬の匂いとは程遠そうな出で立ちである。メイド。いや、執事だろうか。女性が執事というのはどうにも違和感があるような気が。

 

『申し遅れました。私は七海お嬢様の身の回りのお世話などをさせていただいております『プリュイー』と申します。そして、こちらの――』

「ぷ、プリュイー! あの、じ、自己紹介ぐらい、出来ます! だから」

『では、どうぞ』

「あ、あぅ……の、えっと」

 

 何度も視線を彷徨わせ、幾度と髪の乱れを整え、やや大げさに見えなくもない挙動で息を整え――彼女はようやく真琴に向き直った。

 

「わ、私……さ、『西園寺(サイオンジ) 七海(ナナミ)』って言います。じゅ、十五歳で趣味は読書と、あとあの、茶道と、あとヴァイオリンも、それからえっと……」

『お嬢様、頑張って』

「はは、相変わらずだねぇ西園寺さん。とまぁ、見ての通りの人だよ彼女は」

「普段から人見知りする子だとは思ってたけど……なぁんか今日は感じ違くない?」

「そ、そんなこと、ない! ……で、です!」

「西園寺さん……だね。うん、覚えた。これからよろしく」

「は、はい! あ、あのあの、こちらこそ、末永く、よろしく……や、その変な意味じゃなくて、あのあの……!」

 

 終始パニクりっぱなしの彼女を見て、思わず真琴は笑みを浮かべた。転校初日、不安ばかりかと思ったがそうでもなさそうだ。少なくとも、既に三人の友人が出来たではないか。ただ、強いて言うなら真琴にだけ一つ欠けている物があるのだが。

 

「あ、あの……ま、真琴君は、神姫がお嫌い……なのですか?」

 

 予想外の質問に真琴は思わず面喰ってしまったが、真琴はゆっくりと首を振ってそれを否定する。

 

「まさか。小さい時から姉さんが目の前で神姫と遊んでたりしてたから、むしろ大好きだよ。ただ、ウチにはもう神姫が二人いるから、自分用ってのは無いんだ」

「だ、だったらあの……私たちの部に来ませんか?」

「……部活?」

 

 すると、隣に立つ蓮やねね、そして彼らの神姫も同時に笑みを浮かべる。七海の言葉を継ぐようにして蓮が言葉を挟んだ。

 

「僕たちが活動している部活、御神楽中学神姫部さ」

「し、神姫部? 神姫部って、いったい何をするの?」

 

 名前だけではいったい何をするのか予想もつかない。そんな真琴の反応を興味アリと受け取った彼らは頷き合った。

 

「神姫無いのはちょっと残念だけど……仮入部くらい出来るよねー?」

「まずは見学、どうかな?」

 

 友達の次は入部のお誘い。転入時の不安など何処かへと吹き飛び、今目の前には自分が体験したことの無いような世界への入り口が真琴を手招いている。

 魅力的な友人たちと、魅力的な神姫で織りなす部活動――未知への想いが真琴を突き動かした。

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 じゃあ、善は急げだね――そう言ってねねを皮切りに教室を飛び出すと、真琴たちは神姫部の部室であるという理科室へと足早に向かっていった。




初めましてのかた、初めまして。
夜斗《ヤト》と申します。
そうでないかたは、お久しぶりです。

本日より武装神姫の二次創作『武装神姫 《Another/Side》』を公開いたします。
本作は、PSPソフト『武装神姫バトルマスターズmk2』の勝手な続編というスタンスで進めていきます。神姫の設定の他、バトマスで登場したキャラクター数名もキーキャラクターとして参加予定です。
武装神姫大好きですが、まだまだ若輩者ですので、何か設定的な間違いなどありましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ。

……とはいえ、神姫もキャラクターとして扱うため、“一部の行動”に関してはご了承ください。

なお、次話は明日の同時刻を予定しております。
それでは、完結までしばしお付き合いくださいまし。
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