「そんな白熱した戦いになってたなんて……どうせなら僕も見たかったなぁ」
学校を出てしばらく歩きながら、真琴は祐樹とのバトルの顛末を蓮とねねに話していた。もちろん隣には七海と祐樹も並んで歩いている。バトルを見逃して残念そうに呟いた蓮に、ねねが不貞腐れた声でツッコミを挟んだ。
「……いちいちワタシなんか追いかけなきゃよかったのに。そうすりゃ見れたじゃん」
「馬鹿だな。泣いて飛び出してったねねちゃんを放っておけるわけないだろ」
「ば……ば、馬鹿はどっちだよ……もぅ」
差し込む夕日の所為かねねの顔が紅色一色に染まっている。祐樹の肩の上のベルと、それから隣を往く七海はニコニコと少々含みのありそうな笑みを浮かべている。真琴や祐樹は特に気にも留めていない様子。
『お嬢様も、もう少し頑張ってみては如何です?』
「が、頑張ってる……つもりなんだけどなぁ」
「? どうかしたの西園寺さん?」
「なな、何でもないです」
なだらかな坂道を抜けて真琴たちは御神楽町の大通りに出る。途中の交差点に差し掛かったところで蓮と七海と別れる。二人の家は真琴たちの家とは方向が違い、七海はとても名残惜しそうに手を振っていた。
真琴の家は大通りを越えた先にある住宅街でねねも同じ方向にあたる。祐樹も途中までは一緒だと教えてくれたので三人で再び歩き出す。鮮やかなオレンジ色に染まった道を進んでいくとやがて小さな児童公園が見えてきた。
「あ、ワタシはこの辺だからそろそろ行くよー。じゃあねー」
「うん、また明日」
『じゃーねー』
肩の上でニニも手を振りながら真琴は彼女の背中に手を振る。公園まで来てしまえば家はほとんど目と鼻の先だ。再三歩きだそうとしたところに――何処からか泣き声のようなものが聞こえてきて真琴と祐樹は足を止めた。
「……? どっかで聞いたような声だけど」
『マスター、あっちの方で小さな子供が泣いてるよ』
ガーネットが指差したのは児童公園の端にあるベンチ。よく見ると確かに小さな子供がうずくまっていて、その小さな肩が震えているのが見えた。
「ちょっと行ってみようか?」
『そうだね。困ってる人は放っておけないよ』
多少なら帰りが遅くなるのも構わない。真琴がベンチへと向かうと祐樹も無言でついてきてくれた。近づくにつれ子供の姿が徐々に見えてくる。すると、真琴たちの足音に気付いてフッと顔を上げる。バッサリ切り揃えられたショートカットに頬に張り付いた絆創膏。何処かで見たことがあるような……?
「……あ、あれ? 真琴……お兄ちゃん?」
「君、この前の神姫バトルの……確か、凛君だっけ?」
『一体全体どうしたのさ? クリームは……あれ? 今日はいないの?』
「く、クリームは……クリームは……う、うぅ……うわああああああん!!」
「お、おわっとッ?」
突然凛に抱きつかれるも事情がさっぱりわからない。泣きじゃくる凛の頭を撫でながら真琴は何があったのか詳しく訊ねることにした。
※
『えっと、要約すると……だ。神姫バトル大会の帰り道、道に迷っているフブキ型神姫を助けようとしたら君は急に意識を失って、気が付いたらクリームはいなくなっちゃってたってわけか』
「うん……うん……ひぐッ、ぐす……」
多少はなりを収めたものの凛はくしゃくしゃに顔を歪めながらこくこくと頷く。隣に腰掛けた真琴の腕に凛はぎゅっと抱きついている。
「色々、探してるんだけど……ぜんぜん、見つからなくて……それで……」
「……そういえば」
凛の話を聞いて思い当たることがあったらしく、祐樹は携帯端末を取り出しとあるページを表示すると真琴に見せた。それはニュースの記事で大きく見出しに【誘拐か? 謎の神姫失踪事件】と書いてあった。祐樹の肩に乗っていたベルが口を挟む。
『ここ最近多発してる謎の神姫失踪事件だよ。子供とか大人だとか関係無しに何人か被害にあってるみたいなんだけど。
もしかしてさ、その子のクリームって神姫もこれに巻き込まれたんじゃないかな。ほらここ、目撃者の証言のトコに黒い神姫を見たっていう証言が多いでしょ。フブキ型の基本武装って黒っぽいから、もしかしたらもしかするんじゃない?』
「でも、フブキ型って言ったって……」
グループK2社が開発した忍者をモチーフに制作されたフブキ型神姫は、アーンヴァルやストラーフと並ぶ武装神姫初期世代の機体。一度は廃れた過去があるとはいえ、その従順で一途に主を想う性格設定に惹かれるオーナーやマスターも少なくなく、その根強い人気から再版された過去のある神姫だ。一昔前ならいざ知らず、今現在となっては見掛けても特別珍しい神姫とは言えない。
「クリーム……どうなっちゃったのかな……オレ……オレ気になって……」
「凛君……」
放っておけばまた泣き出してしまいそうな凛の表情を見て、真琴は小さな肩を優しくポンと叩いた。
「……わかった。僕とガーネットがクリームを探すのを手伝ってあげるよ」
「ほ……ホント!? ホントにいいの真琴兄ちゃん?」
『そう言ってくれると信じてた。流石は私のマスターだね』
『どうするユーキ? ボクたちも手伝う?』
「……乗り掛かった船だし、付き合うよ」
「ありがとう、祐樹君」
「いいって。……それより、どうやって探す? 人より小さな神姫を探すのはとても大変だし、それと……真琴君、時間は大丈夫か?」
「時間……あー、えっと」
広場の時計を見上げると時刻は6時を過ぎたところ。門限は特に定められていないのだが……母や姉に余計な心配を掛けるわけにもいかない。一応連絡はしておこうか。自宅にコールすると、出たのは母ではなく姉の風花だった。
「はいはい一ノ瀬ですけど……って真琴? どうしたの」
「姉さん……でもいいか。あの、今日ちょっと帰りが遅くなりそうだから連絡しておこうと思って」
「遅くなりそう? ……姉さん、朝帰りは許さないわよ」
「そ、そんなに遅くならないよ。ちょっと友達の神姫が行方不明になっちゃってそれで……」
「神姫が行方不明……? ふぅん……」
「……姉さん?」
不意に風花の声のトーンが落ちドキリと心が冷える。余計なこと言ったせいで咎められるかと身構えるも、返ってきた返事は意外なことにあっけらかんとしたものだった。
「そういうことなら仕方ないわね。母さんには言っておくから気をつけて行っておいで」
「う、うん……なるべく早く済ませるから。じゃ」
連絡は済ませたし早速行動に移る。とりあえず公園に居続けても埒が明かないためひとまず移動する。
「さてと。じゃあまずは……何処から探そうか?」
『闇雲に探してもダメだよマスター。こういうのの基本は聞き込みだよ聞き込み』
「神姫センターに行ってフブキ型神姫を見かけてないか聞くべきだと思う。怪しい神姫を見れば覚えてるはず」
「それぐらいならオレだってやったよ! でも、全然で……」
「……時間も変われば人も変わる。新しい情報があるかもしれない」
「そ、そういうことなら……」
祐樹の言葉に従い三人は神姫センターへと向かう。以前訪れた時は日中で活気に溢れていたが、夕刻を過ぎた神姫センターもまた大いに賑わっていた。前に比べれば大人の割合が増えた感じだろうか。そんな中に制服姿のまま入るのにほんの少しだけ抵抗があったものの、3階フロアで同じ制服姿のマスターを見て考えを改めた。
「さて、聞き込み開始だね」
『何か探偵っぽくてワクワクするよね。……あ、そんな目で見ないでよユーキ。真面目にやるってば』
「お、オレももう一回聞き込みしてくる!」
「……聞き込みが終わったら、あそこの売店で待ち合わせしよう」
三人はそれぞれ別方向へと歩きだし聞き込みを開始する。神姫マスターやオーナーは老若男女問わず様々だ。真琴はマスターやオーナーに、ガーネットはその神姫たちにと物怖じせずフブキ型神姫の目撃していないか訊ねて回っていった。
……結論から言うと、結果は芳しくなかった。
一足先に売店へと戻った真琴はテーブルに突っ伏しながらぼそりと呟く。
「……ダメだね、全然」
『マスターってば諦めるのが早いよ。アニメやテレビみたいに上手くいくとでも思ってたの?』
「そりゃまぁ……そうなんだけどさ」
十人ほどに聞いて回ったのだがそれらしい情報は一切手に入らなかった。喉が渇いたので注文したオレンジジュースのストローに口をつけてから真琴はため息を一つこぼす。
「……凛君や祐樹君はどうなったのかな」
『凛君ならこっち向かってるよ。……ほら』
ガーネットの指差した方向には、真琴同様成果があまりよろしくなかったらしい凛がとぼとぼと肩を落としながら歩いている姿が見えた。
「…………ダメだった」
「そ、そっか……」
気まずい沈黙が流れ、真琴もガーネットもどう声を掛けたらいいのやらと困り果てる。どんよりと漂う重苦しいオーラに潰されてしまいそうになっていると、今度は祐樹とベルが戻ってきた。
『たっだいまー……って、そんな暗いお出迎えいらないって』
「いや、全然情報が無くって……祐樹君の方は?」
「……一つ、手掛かりになりそうな情報が聞けた」
「ほ、本当!?」
座っていた椅子をふっ飛ばす勢いで凛が身を乗り出し祐樹の報告を待つ。一拍間を開けてから祐樹は静かに語りだす。
「……ついさっき、ここに来る途中でフブキ型の神姫が走っているのを見たって話が」
「走ってたって……それじゃ別に普通じゃんか。神姫だってお使いぐらいは出来るんだし」
「入った先が、誰も利用していない空き家だとしても?」
「空き家……?」
『だいたいの場所も聞いておいたよ。地図のデータも……ほら』
アプリケーションで表示された地図に赤い点が明滅している。この神姫センターからほど近い住宅街の端にあたる場所だ。歩いて10分程度だろうか。凛は不安げな眼差しで地図を食い入るように見つめている。
「ここに、クリームがいるの?」
「行ってみなきゃ分からない。……どうする? 真琴君」
『ここで尻込みするようなマスターじゃないさ。だろ?』
「う、うん。もちろんだよ。凛君のクリームを助けなきゃいけないからね」
本当は然るべきところに連絡した方がいいんじゃないかとも思ったが、ここまで来たのなら後には引けない。空になったカップをゴミ箱に放り投げると、真琴たちは神姫センターを飛び出し住宅街へと向かった。
初代アーンヴァルを手に入れ、本文を読み返して一言。
あのランチャー絶対に盾の内に収まらないよね……(苦笑
次話は4月9日の予定です。
では、待て次回。