武装神姫 《Another/Side》   作:夜斗

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第二章 第5話

 逃走した誘拐犯を追いかけて飛び出した真琴は、ROGに表示されているガーネットの信号を辿って街の外れにある寂れた工場跡地に辿りついた。

 錆が張り付いた鉄製の門はボロボロでほとんどその機能を果たしていない。ほんの少し小突いただけで錠前が崩れ落ち、ギギィと悲鳴にも似た甲高い金属音を立てながら工場の正門がゆっくりと開く。

 

「……か、勝手に入って大丈夫……だよね」

 

 砂利に混じってネジやボルトのような細かな部品がいくつも散乱していて歩く度にカチカチと音を立てる。真琴はROGのデータを頼りに薄暗い工場の中へと進んでいく。

 

「ガーネット……? 何処にいるの……?」

『……マスター、聞こえる?』

「わ、っと……うん、聞こえてるよガーネット」

 

 ROG越しに聞こえる神姫の声に安堵を感じながら、真琴は近くの物影に隠れてから返答する。そのまま待機していると、足元から所々黒い埃にまみれたガーネットが飛び込んできた。

 

『一番奥に倉庫みたいな建物があるんだ。さっきの男はそこに入ってったよ』

「ご苦労様。それで凛君は?」

『トライクモード全開でここに来たけど……凛君の姿は何処にも見なかったよ』

「……どうしよう。先に凛君を探した方がいいのかな」

 

 あの時の顔を見る限り、怖くなって先に帰ったとは考えにくい。むしろ自分の神姫を意地でも取り戻して帰りたいと思っているのではないだろうか。……そう考えた時、嫌な予感が頭を過ぎる。

 

「誘拐犯に捕まってたりしてないよね……?」

『それはそれで最悪なパターンだけど……どうする、マスター?』

「じゃあ、凛君を探しながら倉庫に行こう。……と、その前にガーネット」

『ん? 何マス……ぶわっぷ』

 

 真琴はポケットからハンカチを取り出すと、ガーネットの頭から優しく拭って黒い汚れをいくらか落とした。

 

「帰ったらちゃんとクリーニングとかするから、それまで我慢しててね」

『あ……ありが、と。マスター』

「よし、行こう」

 

 錆ついたベルトコンベアが並ぶ工場内を抜け、真琴とガーネットは件の倉庫に辿り着く。大きな鉄製の扉とそれから従業員用の勝手口が見える。既に使われていないはずの工場なのに、何故か勝手口の方から蛍光灯の明かりがチカチカと漏れ出ていた。

 

「まだ電気が通ってるんだ……?」

『つまりまだ使われてるってことだね。で、どうする?』

「他に入り口……なさそうだね。あっちから入るしかないか」

『私が先に行って様子を見るから、マスターは私が安全を確認した後に来て』

「でも……いや、うん。お願いするよ」

 

 危険だと言いかけた言葉を飲み込み、真琴はガーネットを信じて先行させることにした。祐樹とベルの二人を見た時、真琴はもう少し自分の神姫を信用するべきだと思っていた。大切な神姫だからといって過保護にするのもよくない。彼女らは大切なパートナーだ。マスターである自分がそのパートナーを信じないでどうする。

 なるべく音を立てないようドアノブを回し、僅かに開いた隙間から武装したガーネットが侵入させる。何かあればROGに知らせる手筈になっている。それまで、真琴は近くの物陰に待機することしか出来ない。

 

『……マスター、聞こえる?』

「聞こえるよ。でも、随分早いね。何かあった?」

『あー、えっとさ……』

「……なせ、放せってばぁ!?」

「うるさいぞガキ! もうちっと静かにしてろよ!」

『……聞こえた?』

 

 ROGから聞こえた噛みつくような声に真琴はハッとなる。凛が誘拐犯に捕まっているという最悪なパターン。恐らく、あのまま猪突猛進に突っ込んで逆に捕まってしまった……というとこだろう。

 

「怪我とかはしてない?」

『ちょっと待って…………ん、無事みたい。椅子にぐるぐる巻きに縛り付けられてること以外はね』

「他に、仲間とかはいる?」

『いないよ。さっきの男一人だけ。神姫の姿も……見当たらないなぁ』

 

 それなら、どうにか真琴だけでも凛を救出できそうだ。真琴は声を潜めながらガーネットに指示を出す。

 

「わかった。まずは凛君を助けよう。ガーネット、少しの間注意を引きつけてもらえる?」

『もちろんだよマスター。……具体的にはどうする?』

「銃の音とかで気付かせてガーネットは適当に逃げる。その間に僕が凛君を助けるから、それが終わったら連絡するよ」

『誘拐犯はどうするの?』

「……凛君を助けた後、そのままやり過ごして」

『わかった。じゃ、早速始めようか!』

 

 薄く開いたドアの間からパンッ! と乾いた発砲音が響くと、奥から慌てふためくような声が聞こえてきた。

 

「な、何だ今の音……あ、お前はさっきの神姫!?」

「……隠れなきゃ」

 

 聞き慣れた駆動音に次いでドタドタと忙しない足音とが迫り真琴はドラム缶の影に隠れてやり過ごす。

 

「ガーネット、無事でいてよ……」

 

 小さく祈りつつ真琴は倉庫内へと侵入。中はカビっぽい匂いと埃が充満していて軽く呼吸をするだけで胸の奥が不快感に包まれる。倉庫自体はそこそこの広さなのだが、放置されているのか廃棄されたのか分からないコンテナや木箱、何に使うのか分からない物体などが雑多に積み重ねられている。

 ちょうど部屋の中央だけぽっかりと空いたスペースがあり、その中心に椅子に縛り付けられていた凛を見つけた。

 

「ま……真琴兄ちゃん!?」

「しーッ。今解くから、ちょっと我慢してて……」

 

 何か切れるモノ――足元に散らばっていた尖った瓦礫を手に取り縄を強引に千切ると凛の身体に自由になる。真琴がホッと安堵の息を漏らした途端、凛の身体が真琴の身体に飛び込んできた。

 

「わ、ちょっと……!」

「遅いよ兄ちゃん! 助けに来るなら、もっと早く……さぁ……ッ!」

「ご、ごめん。えっと……だからほら、泣き止んで」

 

 小さく震える凛の頭を優しく撫でながら、真琴は念のためにと周囲に注意を払う。ガーネットの言うとおり警戒の神姫などは見当たらない。監視カメラだとかそういった類の物もない。となればガーネットに連絡して早々に逃げなくては。

 

「でも、でもさ……み、見つけたんだよ! 誘拐された神姫の隠し場所!」

「え、本当? そりゃお手柄じゃないか! それで何処に?」

 

 目元を腫らした凛は、この倉庫の端にある小さな扉を指差す。事務室か何かだろうか。

 

「アイツがあの部屋に神姫を持って行くのを見たんだ。……入ろうとしたらバレちゃったんだけど」

「わかった。じゃあ、調べてみようか」

 

 一応、灰色のドアに聞耳を立ててみる。……特に物音は無し。ドアノブに手を回すと鍵は掛かっておらず思いの外すんなり開いてくれた。

 内部はというと、予想通り事務室らしい。職員室で見るような事務机には埃が山のように積もっていて、部屋の端に設えられてる棚も中に数冊ほどファイルが散らばっているだけ。だが、肝心の神姫は見当たらなかった。

 

「おかしいなぁ……この部屋の何処かにあるはずなのに」

「隠し部屋とかあったりしてね。棚の裏に秘密の扉とかさ」

「……ま、真琴兄ちゃんって結構ロマンチストだね!」

「む、無理してフォローしなくても……ん?」

 

 棚の根元に小さく光る何かを見つけた真琴はそっと手を伸ばしてみる。それは小指の先ほどの小さくて白いパーツなのだが、何処となく神姫のパーツのようにも見える。

 

「凛君、このパーツに見覚えある?」

「どれ……? って、それクリームのパーツだ! 腕に付けるヤツ!」

「……この棚、もしかして動いたりする? スイッチとか……あ!」

 

 真琴がファイルを退けてみると、奥に小さなタッチパネルのようなものが見えた。恐る恐る触れてみると、数冊のファイルだけを収納していた棚がカタカタと揺れ始め右方向にスライドしていく。

 

「秘密の扉だ……スゴイ!」

「ホントにこんなモノあるんだ……っと、ボケっとしてちゃダメだ。ガーネットが引きつけてくれる今のうちに神姫を探しに行かなきゃ」

 

 棚の裏に現れた銀色の自動ドアを越え真琴と凛は奥へと進んでいく。ぽつぽつと小さな照明が照らす細い廊下を進んでいくと再び扉に突き当たった。

 

「何だ……この部屋……?」

 

 部屋は先の事務室と同じぐらい。白い壁に四方を囲まれ、そしてこちらにも収納棚がいくつかと中央にテーブルが一つ。何の飾り気も無い無機質な部屋だ。

 

「真琴兄ちゃん、棚の中に神姫が入ってる!」

「ホントだ。でも、みんなクレイドルに入って……眠ってる?」

 

 クレイドルとは神姫の充電用の機械のことで、所謂神姫のベッドのようなものである。誘拐された神姫たちは無造作に放り投げられたり分解されたりなどはされておらず、全て丁重にクレイドルの中に収納されていた。棚にも鍵が掛かっておらずすんなりと開いた。

 

「クリームは? オレのクリームは!?」

「えっと……アーンヴァルタイプはこの子だけみたい。ほら」

 

 棚の左端のクレイドルに眠っていたクリームをそっと持ち上げると真琴は凛へそっと手渡す。受け取った凛は両手でひしと抱きしめると、スリープモードに入っていたクリームを起こした。

 

「クリーム? ……クリーム!」

『……あ、マスター! ご無事でしたかって……あれ? ここ……は?』

「よかったぁ! 怪我も無いし、無事なんだねクリーム!」

『はい、私は大丈夫です』

「積もる話は後にしよう。ここで捕まったら意味が無いよ」

 

 ガーネットが外で時間稼ぎしてくれているとはいえそろそろ不審に思われていてもおかしくない。後はここの場所の事を警察に知らせることが出来れば神姫誘拐事件は全て解決することになる。立役者になれることは大いに嬉しいが、自分が帰れなくては意味が無い。

 部屋を後にし、事務室から出ようとしたその時だった。

 

『はぁ~い、そこまで。動いちゃダメっすよ~お二人さん?』

「み、見つかった!? でも、何処に……ッ」

「真琴兄ちゃん、上の窓に神姫がいる!」

 

 見上げたその先、夜光が差し込む窓の端に小さな人影がこちらを見下ろしている。大きな翼をはためかせ、影は颯爽と真琴たちの前に舞い降りると姿を露にした。

 

『ヒヒッ、もう帰るつもりだったんすけど……侵入者さんを発見しちゃったら帰れないっすよねぇ』

「蝙蝠の神姫……ウェスペリオー型? でも、あの人の神姫ってフブキ型じゃ」

『フブキ型って……あー、あっちの捨て駒さんのコトっすね。アタイのマスターはあんなチンケな人じゃないっすよ。もっとイケメンで高学歴でマトモな人っす』

「やっぱり仲間がいたか……くそッ、どうしよう」

『仲間……あぁ、はいはい。アタイはあの人の仲間っす。だから君たちを放っておくことは出来ないっすねぇ。大人しくしてもらえません?』

「い、嫌だよ! せっかくクリームを取り戻したんだから! 絶対にここから脱出してやる!」

「凛君……」

 

 頑なな決意を見せる凛の手からクリームが飛び出すと瞬時に白の武装に身を包む。

 

『真琴さん、ここは私たちがお相手します』

「でも、君たちだけじゃ危ないよ! 僕が何とかするから、二人とも――」

「今は真琴兄ちゃんのガーネットがいないじゃん。ここはアタ……じゃない、オレとクリームが戦うよ。お兄ちゃんに、恩返ししたいからね!」

「……」

 

 一度、真琴はウェスペリオー型神姫を見上げる。

 彼女は余裕たっぷりの表情で、時折欠伸をしながらこちらを見下ろしている。次いで、周囲を見回す。彼女のマスターらしき人物は見当たらない。マスターの存在は彼女の言葉から明らかになってはいるが、肝心の姿は見当たらない。何処かに隠れているのだろうか。

 

『そろそろいーっすかー? 待ってるのって凄い退屈なんすよー』

「……無理しちゃダメだよ。危ないと思ったらすぐ逃げてね?」

『了解です、真琴さん』

 

 年下の子を残して逃げるつもりはない。

 勝手口から這い出た真琴はすぐさまROGを起動させガーネットを呼び出す。

 

「ガーネット、聞こえる? 緊急事態なんだけど!」

「お前の神姫ならここだよ!」

 

 突如、建物の影から男の声が響き視線を向けて――絶句した。

 

『ご、ゴメン……マスター……ドジっちゃったよ……』

「が……ガーネットッ!?」

 

 男の手には武装解除状態のガーネットが握りしめられていた。駈け出しかけた真琴を怒声が遮る。

 

「動くなよガキ。動いたらコイツを……壊すぞ」

「こ、壊すって……ッ」

「邪魔されるとこっちが困るんだよ。神姫は何体持ち出した? まだこっちの仕事が終わってないんだ、さっさと元の場所に戻せ」

「……ッ?」

 

 不意に、何かがキラリと真琴の瞳に映り込む。

 男が立つ後ろ、ちょうど工場の屋根の上に小さな人影が月を背後に立っている。それが神姫と分かるのにさほど時間は掛からなかったが、何故か真琴はその小さな影をじぃっと凝視して固まってしまった。

 

「……おい! 無視してるんじゃねえぞお前! コイツがどうなっても――」

 

 ――パチィンッ!

 まるで静電気が爆ぜるような音が響いたかと思うと、男の手からガーネットが解放されコンクリートの地面に放り落とされた。

 

「え……あ、が、ガーネット!?」

 

 その一瞬何が起こったのか分からず呆けてしまったが、ハッと我に帰った真琴はガーネットに駆け寄ると彼女の身体を抱え上げた。

 

「ガーネット、大丈夫……!?」

『こ、これぐらいどうってことないよ……それより、今何が?』

『……少年』

「え……う、うわッ」

 

 清流のように澄んだ声が足元から聞こえたかと思うと、見知らぬ神姫が仏頂面でこちらを見上げていることに気付いた。

 夜空のような黒いショートカットに、ほとんど裸同然のような素体をクリアパーツの鎧で身を包んでいるだけの神姫はジト目でこちらを見つめている。

 

『ジールベルン型……だね。しかも、特別仕様のアメジストタイプだ』

『……確認。少年、名前は?』

「え? あ、真琴……一ノ瀬真琴……です」

『……了解』

 

 それだけ言い残すと、ジールベルン型神姫はゆっくりと歩きだし凛やクリームのいる倉庫の方へと向かっていった。残された真琴は数秒ポカンと間の抜けたような顔をしていたが、やがて彼女を追いかけるため走りだす。

 

「ちょ、ちょっと! 君は一体何者? そっちに行って何するの?」

『……アーンヴァル型神姫の援護、及び誘拐された神姫の救出。それが、私の任務』

「任務って……え? 何で倉庫にいるのがアーンヴァルって知ってるの? 誘拐された神姫のことも」

 

 真琴の質問には答えず、ジールベルン型神姫は何の躊躇も無しに勝手口のすき間へ体を滑らせていく。

 

「……えぇっと」

『マスター、ボーっとしてないで追いかけなきゃ』

「あ、うん……」

 

 口数が極端に少な過ぎて、何を考えているのか全く分からない。

 そんなわからないままの神姫を黙って見送るわけにもいかず、真琴とガーネットは彼女の追いかけて走りだした。




ちょっと急ごしらえ感のある第五話です;
神姫+人間で書いていくとキャラクターの数が尋常じゃなく増えていきますねぇ……;
このままだと3章が少し恐いな……w
そしてウェスペリオー&ジールベルンが初登場。
ウェス子欲しいなぁって探してたらお値段なんと2万円でビックリしたことがあります。
相方のグラ姉9千円だったのに……

次話は……うぅん、ちょっと遅れるかもしれませんがまた来週辺りに。
では、待て次回。
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