武装神姫 《Another/Side》   作:夜斗

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第二章 第7話

 真琴たちが激闘を繰り広げていた倉庫から、やや離れた場所にある小さな自動販売機。

 そこに寄りかかる女性と、女性の肩に乗る神姫の姿が自販機の白い明かりに照らし出されている。手には、今しがた買ったコーラとレモンティーのパックが握られていた。

 

「お疲れさん、でいいのかな? (スバル)君」

「……どうも」

 

 差し出されたレモンティーのパックを受け取った青年は短く答えると早速開けて中身を一口。

 

『相変わらず無愛想なヒトですねぇっておわぁ!? 今、首筋にヒュッて! ナイフ投げられたですよぉ!?』

『言動の訂正を要求。マスターは決して、断じて、絶対に、無愛想ではない』

「……クレス、ナイフを投げるのは良くない」

 

 名前を呼ばれ、マスターに窘められたクレスは武装を解除すると即座に彼の襟元にキュッと身を寄せた。それを見たマリアベルがやれやれと息を吐く。

 

『初めて会った時も思いましたけどぉ、ほんっとマスターにべぇったりな神姫ですぅ。……ちょっと病気なんじゃないかってぐらいにぃ』

『………………こ、恋……の?』

『……自分で言って真っ赤になって恥ずかしくないんですかぁ? 流石にドン引きですぅ』

「マリアヴェル、ちょっと静かにしてて頂戴よ」

 

 マリアヴェルと呼ばれたマリーセレス型神姫の主――一ノ瀬風花はコーラを一口流し込んでからニッと笑みを見せる。

 

「まずは、ありがとね。弟とそのお友達を助けてもらってさ」

「仕事のついでだから別に……それに、困ってる人を見捨てるのは出来ない」

「お優しい事。……で、肝心のお仕事の方はどうだったの?」

 

 昂の瞳がわずかに細まる。芳しくない、と力無く首を振って返す。

 

「また逃げられた。状況が状況だったし、追いかけるのも不可能だった」

『……申し訳ありません、マスター』

「気にしなくていいよ」

 

 しおらしく項垂れたクレスの頭を指で撫でると、彼女はほんのりと頬を染めしばしその感触に身を委ねる。

 

「……前から聞いてみたかったんだけどさ」

 

 不意に風花の瞳に光が宿り、昂を上目遣いに見つめる。

 それは、野良ネコが面白い遊び相手を見つけたかのような表情で、昂は黙ったまま彼女の言葉を待つ。

 

「昂君が追いかけてるのって“一人”なの? それとも……何かの“グループ”だったりする?」

「……」

 

 見た目以上に利発な風花の言葉に昂は一瞬だけ言葉に詰まる。

 そんな昂の反応を知ってか知らずか、風花はそのまま滔々と言葉を続けていく。

 

「一人の人間が神姫の戦闘データを欲しがるってのは変でしょ。しかも強い相手だけじゃなく老若男女、神姫のコアから直接吸い出して収集するなんて個人の趣味にしては頑張り過ぎ。どう見ても、裏があるよね?」

 

 それを私に教えなさいよ? とでも言いたげな風花の挑発的な瞳。昂はそれを静かに受け止め、小さく息を漏らす。

 

「……少し前の、神姫テロ事件を覚えてる?」

「2年……や、3年前の? 都心の方でFバトルが一時中止にもなったあの事件よね」

 

 3年前、突如神姫を用いた爆弾テロが勃発し多くの神姫ユーザーを震え上がらせた。テロ行為は主に都心を中心に広がり、一時期は神姫への風当たりがかなり強くなっていた時があった。

 真琴たちの住む御神楽町でも同様で、一部の神姫ショップに苦情が殺到したり、マスターやオーナーを非難する声なども多数あった。しかし、実際にテロ行為のあった都心に比べれば実害はほとんどなく、程なくして解決へと進んでいった。

 

「アイツが、その神姫テロ事件の時に使われてたアプリケーションを作っていたグループと関わってるって噂を耳にしたんだ。……ホントかどうかは知らないけど」

「もう捕まったグループの……なるほど、残党狩りってヤツね。でも、爆弾アプリ作れる連中が戦闘データ集めるってのは何でなの?」

「……それを調べるのがオレの仕事」

「神姫探偵さんも大変ねぇ。あの刑事さんといい勝負な感じ?」

「あの人とオレとじゃ天と地ほどのキャリア差があるけどね」

 

 神姫絡みの事件を専門とする刑事の話は有名でその界隈で知らない者はいないだろう。昂も数回会って話をしたこともある。見た目は冴えない中年男性なのだが、時折鋭い瞳を見せる時がある。初めて会った時は神姫の惚気話ばかり聞かされていたのだが、人は見掛けによらないという事を目の当たりにしたような気がする。

 この事件のことも、いつかは彼の耳にも届くかもしれない。

 空にしたレモンティーのパックをゴミ箱に捨てると、昂は風花に背を向けて歩き出す。

 

「……レモンティー、ご馳走さま」

「いいわよこれぐらい。それと、また何か面白そうなコトがあったら教えなさいよー」

 

 そんな言葉を背中で受け止めながら昂は苦笑していると、クレスがちょんちょんと襟元を引っ張ってきた。

 

「……? クレス、どうかした?」

『……今後の計画の、確認』

「残念だけど、しばらくは動けそうにないかな……二、三日はお休み」

『じゃあ……あ……ぁ、の…………』

 

 蚊の鳴く声よりさらにか細過い声が微かに耳朶を打つ。とても恥ずかしそうに、クレスはおずおずといった様子でぽそぽそと言葉を紡いでいく。

 

『……い……ぃ、一緒に、寝ても…………いい?』

「? それぐらい、別に大丈夫だけど……クレスはオレと寝るの好きだなぁホント」

 

 仕事中は氷の刃のような冷徹さを見せるのに、主と二人きりになると途端に甘えてくる。

 そんな極端な相棒の顔を見つめながら、昂はゆっくりと帰路についた。

 

 ※

 

 そして、事件の翌日。

 登校してきた真琴を一番に迎えたのはねねとニニの二人だった。

 

「おっはよー真琴クン! 聞いたよ聞いた、神姫誘拐事件を解決したのって真琴クンなんでしょー!」

 

 噂とは激流の如き速度で伝搬していくもので、ここに至るまでにも何人かの生徒に同じ理由で話しかけられていた。鞄の中身を机に移しながら真琴は答えていく。

 

「解決したって……そんな大袈裟な事してないよ。友達の神姫を助けに行ったら、成り行きでそうなっちゃったっていうか」

 

 解決したといっても真琴が実際に犯人を捕まえたわけではない。当の誘拐犯は気が付いたら気絶していて、いつの間にかパトカーに乗せられていたし、誘拐された神姫を全て取り返したわけでもない。真琴がやったことは微々たるもので、それだけで解決したとは到底言えないものだと思う。

 そんな真琴の心境は露知らず、ねねは何処かうっとりとした瞳を中空に彷徨わせていた。

 

「あの後そんな凄い事件に巻き込まれてたなんて! いいなぁ、羨ましい! ワタシも行ってみたかった! 

誘拐犯ってどんなだった? 神姫は持ってたの? 誘拐された神姫ってどんなだった? 教えて教えて~」

「え、えっと……」

 

 矢継ぎ早に繰り出される猫なで声に圧されながらも、真琴は本日何度目かの説明を繰り返す。

 まず、犯人の目的は神姫の戦闘データだった。

 本来、神姫の戦闘データはROGに蓄積されるのだが、今回の犯人が狙っていたのは神姫自身に蓄積されたデータだった。ROGのデータと神姫自身のデータにどんな差異があるのか真琴にはわからなかったが、犯人にとっては重要だったらしい。個人の趣味で蒐集していたという話だ。

 そして、真琴も真琴で事情聴取を受けていた。

 といっても、犯人に比べたら非常に簡単なもので、ほんの二言三言程度話しただけで解放された。祐樹もほぼ同じだった。

 

「あ、そういえば……」

 

 事情聴取を終えて警察署を出る時、風変わりな人と話したことを思い出す。

 肩にアーンヴァルmk2型神姫を乗せた中年の刑事で、聴取を終えた真琴に気さくに話しかけてきたのだ。他愛のない世間話をしながら、時折彼の神姫であるアトラの惚気話を聞かされていた。

 

「事件の後の僕をリラックスさせようとしてくれたんだと思うけど……何か面白い人だったよ」

「ぶー……何であの時ワタシ帰っちゃったのかなぁ……もったいない」

「そんな楽しいコトでもなかったけどな……」

 

 ふと、あの時見たジールベルン型神姫の姿が頭に思い浮かぶ。

 彼女は何者だったのだろう。

 どうして真琴の事を知っていたのだろうか。

 

「ん? どしたの真琴クン。ボケっとしちゃってさ」

「……うぅん、何でもないよ」

 

 既に事件は解決した。

 これ以上真琴が気に病む要素は一つも無い。

 始業のチャイムを合図に、真琴は気持ちを切り替えることにした。




これにて第二章は終了。
次回からは第三章が始まり、その次は外伝を挟む予定です。

ところで、武装神姫のノベライズ作品を読んだ人はいます?
ゲームやアニメとは打って変わってハードボイルドなお話ですがとても面白いですよね。
神宮司さんとアトラも登場させたいなぁ……と、こっそり思ってます。
(っぽい描写はありますけどもw)

次回は少し遅れるかもしれないです。
予定は21日ぐらいなんですが……予定が早まったり遅くなったりする可能性が。

では、待て次回。
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