武装神姫 《Another/Side》   作:夜斗

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序章 【中】

 校舎の階段を駆け下り、北にある理科棟の最奥に彼ら神姫部の部室である理科室はあった。先陣を切るねねが扉を開くと、一人の男性が中央のテーブルで何やら作業をしていた。

 

「失礼しま……って、あー! 先生ってばまたべっこう飴作ってる!」

「いいのー。これはオレの数少ない趣味の一つなんだから――ってオイぃ、勝手に食べるんじゃない! そりゃ会心の出来の……あぁ」

「んまーいから許したげる♪」

 

 爪楊枝に刺さったこげ茶色の小さな飴を頬張るねねはご満悦の様子。反面、会心の出来の飴を奪われた先生はかなり悔しそうな表情を浮かべていた。

 

「先生、相変わらずねねちゃんには勝てないですね」

「バカ言え。オレが本気出したらコイツの成績を赤点にすることが出来るんだぞ」

「それじゃ職権乱用ですよ」

「んなこた知ってるわ。……で? お前ら何の用だ? 今日は部活動の日じゃ……お?」

 

 見慣れた部員の中で見つけた見慣れない少年の姿に、眼鏡の奥の瞳がキラリと輝く。

 

「もしかして、新入部員か?」

「はい、うちのクラスに転入してきた一ノ瀬真琴君です。最初は仮入部ってことで」

「お、一ノ瀬だって?」

 

 瞳の光が強さを増し、真琴の方へと顔ごとぐぐっと近づける。ほんのりただよう甘い匂いは件のべっこう飴の所為だろうか。

 

「い、一ノ瀬です……」

「もしかして、あの戦女神杯優勝者の弟くんか? はぁー、こりゃなかなか凄い逸材を連れて来たもんだ」

「でもね先せ――」

「オレは『杜若(カキツバタ) 功治(コウジ)』。見ての通りの理科担当の教師で神姫部顧問。で、こっちが相棒の『ジョッシュ』だ」

『よろしく。僕の名前、そのまんま“助手”から取ったものなんだ』

 

 そう言って彼の手の平に飛び乗ったのは、ねねの持つマオチャオ型とよく似た神姫――犬型MMSのハウリンだった。マオチャオ型が“猫”をモチーフにデザインされたのに対し、ハウリン型は“犬”をモチーフにデザインされている。犬らしくマスターに対し従順で素直であり、老若男女を問わず愛好家が多いというポピュラーな神姫だ。

 

「それで、真琴君の神姫は? いやいや皆まで言うな、オレがズバッと当ててやるから。……そうだなぁ、その地味な見た目からしてアーンヴァルか? ……その申し訳なさそうな顔は違うな。あーまてまてまて、分かってる、分かってるからそのままで。あれだ、礼儀正しそうな雰囲気からして飛鳥だろう。なに、これも違う? ということは……あれか、実は巨乳好きでイーアネイラとか? ま、まさかイーダ型か? その歳で既に上級者の域に……!?」

「先生ってばー、暴走してないでちゃんと真琴君の話聞いたげてよ」

「その……僕はまだ、自分の神姫を持ってなくて……」

「……ほへ?」

 

 近くて遠い何処かから、砂糖の焦げる香ばしい匂いが漂ってきた。

 

 

 ※

 

 

「なるほど、だから今は仮入部でってわけか……ほい、出来たての飴ちゃん」

 

 爪楊枝にくっついたべっこう飴をかじりながら真琴たちは各々適当な席に座る。ふぅんと唸りながら、杜若先生は黒板の前を行ったり来たりしている。恐らく、入部させるか否かを判断しかねているのだと思われる。

 手持ち無沙汰になった真琴は、たまたま向かい側の席に座っていた七海にこっそりと声を掛ける。

 

「ところで、神姫部って何をするの?」

「ひゃぅわ! あ、あの……!」

 

 かなり小さな声で声を掛けたのにも拘らず、彼女の華奢な肩がピクンと大きく跳ねた。もう少し小さい方が良かったかなと思っていたつかの間、蚊の鳴くような声で彼女から返事が来た。

 

「し、神姫部の主な活動はほ、ほほ、奉仕活動……です」

「奉仕活動? ……えっと、神姫と一緒に掃除したりするってこと?」

 

 こくこくと頷き、そして彼女はそのまま言葉を継いでいく。依然として七海の声は耳の神経を研ぎ澄ませていないと聞き落としてしまいそうなほどに小さい。

 

「き、今日は居ませんけど、私たちの他に一年生や二年生と一緒に校内外の清掃活動をしたり、時々レクリエーションとして近隣の幼稚園や老人ホームで神姫を使った劇などを披露したりし、します……」

「……かなり本格的なんだね」

 

 部活動というより課外授業のような感じだろうか。神姫をフルに生かす活動であるのに対し、神姫を持たぬ自分がこの場にいていいのだろうかと思いふける。

 

「そ、それに加えて、三年生にはもう一つ大きな目標があるんです」

「大きな目標?」

「それはもちろん! 夏に行われる戦女神杯チームの部に参戦し、優勝することだぁッ!」

 

 バァン! と黒いテーブルは小気味よ過ぎる音を炸裂させ、突然の大きな音に七海と真琴の肩が大きく跳ね上がった。

 

「ひぃッ!?」

「うわぁああ!? せ、先生聞いてたんですか!?」

「ったりめーだ。部活動の内容を教えようと思っていたのに、全部七海ちゃんがやっちまったじゃねーか」

「ご、ごごごめんなさいぃ!」

「や、説明の手間が省けて助かった。礼を言っておく。それはさておき……」

 

 顔を上げると、いつの間にか黒板はカラフルなチョークで書かれた雑多な字で埋め尽くされていた。神姫部の、主な活動内容や実績、諸注意など様々だ。字が汚いのを除けば、これだけ見れば概ねを理解できそうである。

 

「今言った通りだ。三年生になると……いや、正確に言うと満十五歳以上でこの戦女神杯――通称、ヴァルキリーカップへの出場権利が得られるんだよ。ってのは、真琴君を始めここにいる全員知ってるか。概要は……よし、蓮答えてみ」

「はい。――戦女神杯とは、ここ御神楽町が誇る大規模神姫バトル大会のこと。夏季と冬季の二つに分かれて行われ、夏季はチーム戦、そして冬季は個人戦となります」

「教科書ばりな正確さだ、サンキュ。そして真琴君の姉上が有名なのは、後者である個人戦の方だな。さてそこを……ねね、飴の恨みだお前が答えぃ」

 

 未だ根に持っていたらしい。存外子供っぽい先生である。

 

「えー、ワタシー? ……しょーがないなー。えっと、夏のチーム戦は優勝してもトロフィーと商品が出るだけなんだけど、冬の大会は神姫バトルで一番凄い、F大会へのシード権が得られるん……だったっけ?」

「なかなか分かってるじゃないか、その通り。真琴君の姉上である一ノ瀬風花は、この冬季大会を三連覇している猛者だ。初回はともかく、去年のFバトルは準優勝手前までほとんど無傷で勝ち上がっていったんだ」

「……まぁ、そこでストラーフmkⅡ型の人に負けちゃったんだけど」

 

 真琴の余計(、、)な一言により、場の空気が一瞬にして沈みかける。杜若先生の咳払いで辛うじて免れたが、関係者である真琴はやや落ち込んでいる様子。

 

「それにしたって、彼女は我が町で誇れる人物に違いないのさ。今年のF大会も期待してるって伝えてくれ。……お? 話が脱線しちゃったな。とにかく、うちの部のことは分かったか? ざっくばらんに言えば、神姫と一緒に奉仕活動して、そして最終的に戦女神杯、夏季チームの部の優勝を狙う。そんな感じさ」

「でも……やっぱ、神姫の無い僕じゃ……」

 

 彼らには全員、一年生や二年生も含め自分用の神姫がある。神姫ありきの部活動なのに、神姫を持たない自分がいてもいいのだろうか。

 

「まーなんだ、そこは気にしなくてもいいさ。現に君と同じように神姫を持たない部員だって多少はいるし。ウチの部は、神姫が好きなら誰でもウェルカムさ」

「ほ、ホントですか?」

 

 真琴の表情に光が差す。小さな躊躇いは、杜若先生の言葉と微笑であっという間にかき消されてしまった。周りの友人も、それを祝福するかのように笑顔を浮かべていた。

 

「んじゃ、これで正式に入部ってことだねー」

「これからまたよろしく、真琴君」

「わ、わわっわ、分からないことがあったら、わ、わわた、私が教え――」

 

『もちろん、アタシ達だってサポートするわ』

『私に出来ることであれば、お嬢様共々サポート致します』

『これからよろしくねー、真琴クン』

 

 新たに出来た友人、そして個性豊かな神姫たちに見守られながら――真琴はこの日、御神楽中学神姫部に正式に入部と相成った。




上中下の、三部構成の序章の【中】です。
あらすじにも書いてある通り、真琴君はちゃんと自分の神姫を手に入れるのでご安心を。
というか次回手に入れます。


ところで、設定を考えているときはまったく気付かなかったんですが、『まこと』って名前と『さいおんじ』って名前が重なるとその……なんかアレを連想させる気が……(苦笑

なお、作者は言葉一筋です。
大好きですああいう子……ってあれ?
これ武装神姫の二次創作だよね!?

で、では次回もお楽しみに。
明日の同時刻を予定しております。

PS

『小説家になろう』ではオリジナル作品を公開してます。
お暇な方は、そちらもご覧いただければ幸いです。
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