武装神姫 《Another/Side》   作:夜斗

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第一章 第2話

 真琴たちが住む御神楽町の中心、町を横断するリニアモーターカーの駅のすぐ傍に『御神楽町神姫センター』はある。

 神姫センターとは神姫の武装やメンテナンス、衣服やアクセサリーの全般を取り扱う大型施設の総称のことで、地方によって多少の差異はあるが基本的にはどこの神姫センターもその役割は同じである。

 御神楽町神姫センターの外観は一般的な大型百貨店とほとんど相違ない。全三階建の建物で、一階には神姫の武装や防具を取り扱うショップやサポートセンター、二階は神姫専用のエステショップに休憩所を兼ねた喫茶店などが軒を連ねており、最上階は神姫バトル専用の大型フロアとなっている。

 

「何だか久々に来た気分だよ。前に来たのって……いつだったかなぁ」

『活気があっていいね。なんかこう、血が騒いでくる感じだよ』

「……今日は練習なんだから、そんなに派手には戦えないと思うよ?」

 

 建物内部中央にある噴水広場が真琴たちの集合場所となっている。時間には少々厳しい真琴は約束の時刻よりも十分も早く到着していた。前日、やや興奮気味で眠れなかったというのもあるが、やはり自分が一番楽しみしているからだろう。何せ人生初の神姫バトルを経験できる日だ。テレビや姉の後ろで見ていたのとは違う、今度は自分自身がマスターとなって指示を出して戦える。今まで出来なかった事に手を伸ばす未知への期待というものは、想像以上に心を震わしてくれる。

 

『にしても皆遅過ぎじゃない? いや、私たちが速過ぎたんだね。まー、そりゃ私ってば最速の神姫だししょうがないかぁ』

「たしかにちょっと早過ぎたかも。……それとも、集合場所を間違えてるとか」

「お、お待たせしてすいませ~ん!!」

 

 正面の自動ドアから息を切らせて現れたのは七海だった。藍色のワンピースと白くつばの広い帽子がとても可愛らしかった。深窓の令嬢、といえば分かりやすいだろうか。実際、彼女は西園寺財閥の一人娘で正真正銘のお嬢様らしい。先日の帰り道に蓮から聞いたばかりだ。

 

「あの、その……ごめんなさい。服選ぶのに時間掛かっちゃって……」

「いいよ全然。僕もガーネットも大して待ってないから。ね?」

『服だぁ? 今日は神姫バトルの練習だろ? そんなもん気にしてる場合じゃないだろ』

『もちろん淑 女(レディ)としての嗜みにございます。本日の衣装、お嬢様も少々気合いを入れて厳選したんですよ?』

「ぷ、プリュイー! あの、恥ずかしいから、そ、そういうのはあの……」

「へぇ、そうなんだ。似合ってるね、西園寺さん」

「ひぇッ!? あ、あの、あのあのその……は、はぅ……ぁ」

 

 それは真琴の何気ない感想だったのだが、受け取った本人はというと頭から湯気が出そうなほど頬を真っ赤に染めて俯いてしまった。

 

『……なるほど。お嬢様の目に狂いは無いようですね』

『あぁん? いったい何の話だ?』

「それにしても皆遅いね。西園寺さん、待ち合わせ場所はここでいいんだよね?」

「は……は、はい。私も昨日ねねちゃんにメールして確認もしましたし……」

 

「お~い! ごめ~ん!!」

 

 先刻の七海と同じように、自動ドアの向こうから蓮とねねが走ってくる。額に汗を浮かべているのを見れば相当に急いでいたのが一目で分かる。

 

「いやぁ、遅くなってごめん。僕の自転車がパンクしたり、ねねちゃんが寝坊したりして散々だったもんで……」

「やはは……めんぼくない」

『これで全員揃ったな、マスター』

「うん。じゃあ、三階に行けばいいんだよね?」

 

 エスカレーターを乗り継ぎ最上階へと辿り着いた瞬間――割れんばかりの歓声が真琴たちを盛大に迎えた。

 

「こ、これが……」

 

 正面、フロア中心部に特設された大型ヴィジュアライザーの中で飛び交う二つの光が見える。神姫だ。その身を武装に包み、マスターの勝利のためにぶつかり合う小さな戦士達。真琴はいつか見た姉の後ろ姿を思い出す。戦いに赴くマスターもまた戦士だ。そして今、真琴もその道を辿ろうとしている。

 

「へぇ、何か凄い盛り上がってるじゃん。今日って何かイベントあったっけ?」

「エキシビジョンマッチって書いてあるね。……うわ、すごいな。青サイドの人23連勝もしてる」

『水城祐樹……だって。蓮、聞いたことある?』

「聞いたことないなぁ……」

『そーんなことより、今日はハヤテと決着付けるの! ついでに、真琴クンの練習も!』

「え、僕はついでなの……?」

 

 エキシビジョンマッチの行方も気になるが、今日は観戦に来たのではなく真琴とガーネットのために神姫バトルの練習をするのだ。ラウンジを右に進んでルーキーエリアと区分された場所に向かう。大会申請やID登録もこちらで行うらしい。蓮に横で説明されながら、受付のお姉さんと共にROGの登録をしていく。

 

「……はい、登録完了いたしました。以後はROGを提示していただければこちらのフロアを使用することが出来ます。他、何か質問などはございますか?」

 

 その後、簡単な諸注意を受けてからルーキーエリアへと向かう。ルーキーエリアとは名の通り神姫バトルを始めたばかりの人が集まる場所で、全体的に真琴と同い年くらいか、或いはもっと年下の子供の姿も見受けられる。神姫に推奨年齢こそあれど実際に小学生が神姫を持つケースも少なくないらしい。簡易的な保護者のような形になるのだろうか。

 

「まっこと~! こっちこっち!」

 

 バトル用ヴィジュアライザーの前で手招きするねねの姿を見つけ走る真琴と蓮。既に彼女は準備万端らしく、相棒の神姫も既に定位置にスタンバイしていた。

 

「そいじゃ、まず昨日の模擬戦の続きね!」

『リベンジするぞぉー!』

「ねねちゃん、今日ココに来た目的は?」

「蓮と決着付ける!」

「……ごめん真琴君。練習は少し時間掛かりそうだ」

「う、うん……」

 

 ねねは右腕をぶんぶん振り回し気合い十分と言った様子。ニニも同様で、シャドウボクシングらしき動きを見せている。蓮とハヤテはやれやれといった面持ちで準備をしていた。

 

「あ、あ……あの……」

「え?」

 

 二人の戦いを見学しようと横にあったベンチに腰掛けた時、不意に横から七海に声を掛けられ真琴が顔を上げると、彼女は隣にあるヴィジュアライザーを指差していた。

 

「あ、あっちのヴィジュアライザー空いているみたいですので、その……よ、よかったら、私と……れ、練習しませんか?」

『お、そりゃ良いね! 私も早く体動かしたくてウズウズしてたとこなんだ』

「二人とも熱中しちゃっててアレだし……うん、お願いしてもいいかな?」

「は、はい! がが、頑張ります!」

 

 隣のヴィジュアライザーへと移動し、自分の神姫をセットするステージにガーネットを乗せROGを起動させる。

 (ライド)(オン)(ギア)とは3年前から急速に普及した、神姫と疑似的に一体化する“神姫ライドシステム”を搭載した神姫バトル支援用デバイスのことである。バトルデータの蓄積や解析、神姫の状態を明確に表示したり武装の管理など多様なアプリケーションが内蔵された、神姫マスターにとっての必需品である。当初はやや大型だったものの、わずか数年で小型化に成功し、今では腕時計程度のサイズにまで縮小している。

 真琴と七海がROGを構え、互いに向かい合う。ガーネットとプリュイーもステージ上で静かに睨みあう。

 

「じ、準備は、よろしいですか? よろしければ、トレーニングモードを開始しますよ?」

「うん、大丈夫。いつでも行けるよ」

『へへ。マスター、今どんな気持ち?』

「……練習だけど、すっごくドキドキしてるよ」

 

 ROG越しに神姫の声が直接伝わってくる。ドキドキしているというのは誇張でも何でもない、正真正銘本当の心境だ。僅かに声が震えているのが、七海に聞こえていなければと内心心配しているほどだ。

 

「では、始めます!」

 

「「ライド・オン!」」

 

 ROGの神姫ライドシステムを起動するのと同時、大型ヴィジュアライザーも同様に起動し戦闘フィールドを形成していく。トレーニング用のステージに選ばれたのは、正方形でほとんど白一色のステージである『神姫実験場』。所謂テストコースで、神姫の性能を確認したりするのによく用いられている。障害物の一切無いこのステージでなら自由に動き回れるし練習には持って来いだ。

 

「あの、神姫にライドした感想はどうですか……?」

「……何だか、不思議な感じ。自分の腕に、誰かの腕が重なってるみたいな……うぅん、上手く口で言い表せないけど」

 

 自分の腕がぶれて二重になっている、とでも言えばいいのだろうか。軽く動かそうとして見ると、普段そうするよりも幾分か重く感じる。かといって、真琴が右腕を動かすことでガーネットの右腕が動くということは無い。このシステムは、マスターが“疑似的”に一体感を得られるシステムに過ぎないらしい。

 

「えっと……その、マスターである私たちは、基本的に神姫に指示を出して戦ってもらうんです。私たちが神姫を操作するということは出来ない。ここまでは、知ってます?」

「うん。ある程度は姉さんから聞いてきたよ」

 

 予備知識があれば練習が円滑に運ぶと考えた結果である。……その間、手取り足取り姉ちゃんが教えてあげようかと五十回以上言われたが全て却下しておいた。

 

「じゃあ、感覚だけ掴めればもう戦えるかもしれませんね。……プリュイー、攻撃準備をお願いします」

『了解です、お嬢様』

 

 バトルフィールドに視線を落とすと、当然ながら武装に身を包んだプリュイーの姿が見える。全身をグレーのアーマーで覆い、背部には大型ガトリングガンとライフルをマウントし、そして手には小剣付きのハンドガンを握りしめている。ミリタリートイメーカー『アームズ・イン・ポケット社』のノウハウが凝縮された火器型の名に恥じない力強い出で立ちだ。

 

「ゼルノグラード型……見た目通り、遠距離からの砲撃戦がメインだよね」

『へへっ、どんなに強力な砲撃だろうと、当たらなければどうでもいいんだよマスター』

 

 赤い神姫がそう言うと少し雰囲気があるから面白い。

 そして無論だがガーネットも戦闘用の装備に身を包んでいる。レースマシンをモチーフに赤くスポーティなフォルムの武装の数々。脚部に装備されたユニットには車 輪(ホイール)が備え付けられ、地上での高速移動を可能にしている。武器は大型のライフルに折り畳み式のナイフ。アーク型の基本はハイスピードな射撃戦闘だ。トライクモードによるスピードで翻弄し、あらゆる角度から射撃を繰り出し迅速に勝利へと猛進していく。流石は、モータースポーツで名を馳せる『オーメストラーダ社』入魂の神姫である。

 

「そ、それでは……撃ちますよ!」

 

 七海の掛け声を合図に模擬戦が始まる。プリュイーは素早い動作で背部のガトリングガンを構え、ほとんどラグ無しで銃身を回転させる。高初速で叩きだされる銃弾の嵐に、ガーネットはすぐさまホイールを走らせ大きく横に回避した。

 

『流石はアーク型、その脚は称賛に値します』

『マスター! 呆けてないで、次は君の番だよ!』

「わ、わかった!」

 

 ガーネットはガトリングガンを掃射するプリュイーを中心に円を描きながら高速で移動してくれている。ガトリングガンを撃っている最中ならほとんど防御には転じれないはず――それなら。

 

「ライフルを!」

『了解ッ』

 

 真琴の指示を受けガーネットがすぐさま大型ライフルのトリガーを引く。射撃中のプリュイーは身動ぎ一つ出来ないため被弾するもアーマー部分を削ったに過ぎなかった。

 

『射撃のセンスも中々……ですね』

「練習だけどスムーズに動けてる……普通は、マスターがなかなか指示を出せなくてあたふたしちゃうのに」

 

 自分が初めて神姫バトルした時の事を思い出して、ほんのちょっぴり嫉妬する七海。同時に憧れもするのだけど、今はそんな場合ではない。

 ガーネットの動きは戦闘を開始してからまだ数分と経たないのに少しずつ良くなっていっている。真琴の反応速度とガーネットの反応速度が同調して、七海が割と本気で狙った攻撃も易々と回避されてしまう。

 

『いい反応だよマスター! 本当に、今日が初めての神姫バトルなのか疑っちゃうくらいにね!』

「ホントだよ。でも、何て言うか……体が反応しちゃうっていうか」

『私もそんな感じだよ! 私とマスター、良いコンビになれそうだ!』

 

 段々とガーネットの動きが高速化していく。知れず知れずのうちに通常モードとトライクモードとを使い分け、フォールディングナイフを織り交ぜた格闘戦まで繰り広げるようになっていた。完全に初心者を相手するつもりだった七海とプリュイーも、徐々に本格的な焦りが見え始める。

 

『し、初心者の動きとは思えません。既に、今の私たちで追いつける速度では……ッ』

「う、撃ちまくって牽制して! 距離を取り直してから立て直しを――!」

「ガーネット、そのまま行けるよねッ」

『もちろん! 私と一つになって、マスター!』

 

 瞬間、真琴の意識とガーネットの意識が完全にシンクロする。トライクモードへと高速変形し、襲いかかる弾丸の雨に真っ向から立ち向かい、そしてその全てを回避していく。ガーネットがアクセルグリップを強く握りしめる。最高速に達したトライクモードそのままに――ガーネットはプリュイーに向けて一直線に突っ込んでいく。

 

『ま、まさかそのまま体当たりを――!?』

『全開で行くよ――ッ!!』

 

 最高速に達したトライクモードの衝撃は予想以上に凄まじく、プリュイーはステージの中央部分からステージの端まで吹き飛ばされ、同時にヴィジュアライザーがプリュイーを戦闘続行不可能と認知し機能を停止させた。ステージに上がってきたプリュイーは損傷こそ少なかったものの、目を回しながら完全にダウンしてしまっていた。

 

「ぷ、プリュイー!?」

「あ……ああ!? ご、ごごご、ゴメン西園寺さん! あの、つい勢いで……!」

「いえ、トレーニングモードだから直接的なダメージは無いはずですから、あの、気にしなくて、大丈夫です」

『勝ったあああッ!』

『うぅ……ゆ、油断大敵でした。申し訳ありません、お嬢様』

 

 七海の手の中で目を覚ましたプリュイーはそう言うと申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「うぅん、いいよ。私たちも、良い経験になったし……その、真琴君の初めての練習相手になれたし」

「プリュイー、大丈夫だった?」

「はい、大丈夫です」

 

 七海の笑顔を確認してホッと胸をなで下ろす真琴。プリュイーの様子を見ようと真琴が一歩踏み出した――その時だった。

 

「お兄ちゃん、すげー!」

「え……えぇッ!?」

 

 今の今まで神姫バトルに熱中していたせいで全く気付かなかったが、いつの間にか真琴と七海のヴィジュアライザーの周りには大勢のギャラリーが出来上がっていた。主にルーキーエリアの子供ばかりではあったが、遠くには大人や同い年と思われる人たちもいて、連とねねも一番近くのベンチで見物していたらしい。

 

「本当に凄かったよ真琴君。神姫バトル未経験者だなんてのが嘘みたいに思えるくらいだ」

「やっぱり才能あるじゃーん! ねぇ、次はワタシとバトルしよッ!」

 

『だったら、いっそ大会に出てみない?』

 

 気がつくと、真琴たちの使っていたヴィジュアライザーの上に神姫の姿があった。ライトグリーンのセミロングヘアに、小さなマイクを片手に握る牧師服のような黒いペイントの神姫。

 

「ハーモニーグレイス型……? え、大会って?」

『もっちろん、神姫バトルの大会ですよ。ルーキー限定のトーナメント! もちろん、商品もありますよ♪』

「で、でもいきなり大会は」

『いいね、乗った!』

「が、ガーネット!?」

 

 マスターよりも先に返答した自分の神姫を見下ろすと自信に満ち溢れた瞳で見返される。

 

『マスターの素質は十分だった。それに私の力が加われば、敵はいないって!』

「で、でもさ」

『ふふん。それでは参加登録というわけでよろしいですね!』

「わ、ちょっと!」

 

 強引に話が進み、ハーモニーグレイス型の神姫がヴィジュアライザーから部屋の中央のモニターへと飛び移るとモニターが『ルーキーズカップ開催!』とポップで鮮やかな画面へと移行した。

 

『とゆーわけで、これより神姫バトルルーキーズカップを参加しますよ! 参加費、ポイントは一切不要! 参加条件はここルーキーエリアの神姫マスターと神姫のみ! さぁさぁ、我こそはと思う人はこの私、メリッサに参加登録をば、よろしくお願いしまーす!』

 

「な、なんか凄いコトになっちゃったんだけど……」

「いーじゃん! 真琴の練習その2って感じでさ。アタシも参加しよーっと」

 

 肩にニニを乗せたねねはメリッサの元へ飛び込むと、人ごみの中へ姿を消してしまった。

 

「何だか忙しない展開だね」

『いいじゃないか。今の私たちなら優勝だって出来るさ、マスター』

「……頼りになるね、ガーネットは」

 

 本当に、優勝できるような気がしたのは気のせいなのだろうか。

 小さな自信を胸に、真琴もメリッサの元へと一歩踏み出していった。




練習試合から一転、突如開かれた神姫バトル大会に参加することを決めた真琴は、ガーネットと共に初陣を勝利することが出来るのか?

タグにバトマスとありますが、バトマスに出ていない神姫ももちろん出して行きます(既にウェルクストラが出てますし

次話は、恐らく来週のこの時間に。
それでは、待て次回。
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