武装神姫 《Another/Side》   作:夜斗

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第二章 【神姫誘拐事件】
第二章 第1話


「今日もバリバリ戦えて楽しかったね、クリーム!」

『はい、マスター。残念ながら大会は初戦で敗退してしまいましたが、私も良い経験が出来ました。今日の結果を、次のバトルから積極的に生かしていきたいと思います』

 

 夕暮れの差し込む帰り道。陽向居凛は道端の石ころを蹴りながら、ふと同じ大会に出場していた真琴のことを思い出した。

 

「でも、真琴兄ちゃん……残念だったなぁ。2回戦はあんなにカッコよかったのに、次の試合であっさり負けちゃってさ。応援が足りなかったかなぁ」

『ふふ。マスターがもっと一生懸命応援してあげたら、今度は真琴さんも勝てますよ』

「そうかな? へへ、じゃあ今度はもっと頑張ろ……ぅん?」

『どうかしましたか、マスター?』

 

 目の前の四つ辻を北に抜ければ自宅なのに何故か立ち止まった凛の視線を追うと、夕焼けを背に立つ小さな人影が見えた。人影の大きさは15センチ程度、つまり神姫と同等のサイズなのだが、足元まで伸びた影は凛を易々と飲み込んでしまえそうなほどに大きく長く伸びている。

 

「誰かの神姫……かな? もしかして迷子?」

『話しかけてみましょうか。もしかしたらお力になれるかもしれませんし』

「そうだね。困ってる人も神姫も助けてあげなきゃだもんね」

 

 クリームと共に神姫へと駆け寄り凛は片膝をつく。迷子と思しき神姫は狐の面のせいで顔は分からなかったが、銀色の髪が夕日に反射して宝石のように輝いていた。

 

『こんにちは、フブキ型神姫さん。何かお困りですか?』

『あ…………えと、すみません。実は、マスターの命令で人を探してるんですけど……その、地図のアプリケーションデータを失くして道に迷ってしまって』

 

 面越しのくぐもった声は小さく、彼女が困り果てている様子が良く分かる。凛は無意識のうちに手の平を差し出していた。

 

「じゃあ、オレも手伝う! もちろんクリームもね!」

『はい。お供しますよ、マスター』

『そんな……でも、よろしいのですか? ご迷惑では』

「へーきへーき。ちょっとぐらい帰りが遅くったって大丈夫だよ。クリームと一緒だし」

『ではその……お言葉に甘えて』

 

 フブキ型の神姫は凛の小さな手の平に飛び乗り、それを合図に意気揚々と歩きだす。

 とはいえ、彼女が探しているという人物の情報が無くては凛も協力しようがない。歩きながらそれとなく訊ねてみると、彼女はぽつりぽつりと語りだした。

 

『えっと、まず女性で、髪は金色。白い衣装の似合う、真面目で優しそうな方です』

「ふぅん……? 何だかそれ、オレのクリームみたいだね」

『私と似ている方をお探しですか……? 人間の方で金髪ともなれば目立ちますし、すぐに見つかりそうですね』

『えぇ……というか、既に見つけてますので』

「え? 何か言っ――?」

 

 凛が視線を落としたその時、手の平に乗っていたフブキ型神姫が突如フッと霞のように姿を消し、次いで凛の耳元でパチン! と何かが弾けるような音と衝撃が響いた。

 

「ッあ――?」

『マスター? ……マスターッ!?』

 

 全身に緩い電流が奔ったような感触に襲われ、凛の小さな体がゆっくりと崩れ落ちていく。異常事態を目の当たりにしたクリームが驚愕に目を見開き、何が起こったのか状況を把握しようとした――瞬間だった。

 

『申し訳ありません。少しの間、貴方の身柄を預からせていただきます』

『何を――ッ、くああ!?』

 

 全身を駆け巡る電流に視界がぼやけ、やがてクリームの意識がゆっくりと吸い込まれるようにして薄れていく。

 刹那、朧気な視界のその先に――不気味な笑みを浮かべるフブキ型神姫の姿を垣間見た。

 

 

 

 ※

 

 

 初の公式戦を終え数日経ったある日の火曜日。

 昇降口を越えた辺りで、傍を通り過ぎる生徒たちからこんな話を耳に挟んだ。

 

「知ってる? また転校生が来るんだって。ほら、前の子と同じクラスに」

「隣町の男の子で、神姫バトルがメッチャ強いって話だろ?」

「ミステリアスでクールな人だって噂よ? どんな人なのかなぁ、イケメンかなぁ」

 

「……転校生、か」

 

 かくいう真琴自身も転校生。転校生が来る直前のそわそわとした生徒たちの合間を歩きながら教室へと辿りつくと、連やねねも同じ話題で話をしていた。机の上にはハヤテとニニもいる。七海は――今日はまだ来ていないらしい。

 

「おはよう蓮、ねねちゃん。転校生の話ってホントなの?」

「おっはよー。うん、ホントみたいだよ」

「しかもうちのクラスに。さっき、職員室に行った人が見たって言っててさ。肩に神姫を乗せてたらしいよ」

「どんな人なんだろう? 何だかちょっと緊張するね」

「あれ? 真琴クン、ガーネットちゃんは?」

『ん? 呼んだかい?』

 

 制服の胸ポケットがもぞもぞっと動いたかと思うと桃色の髪がぴょこんと飛び出す。学校に来る時のガーネットの定位置であり、本人も割と気に入っているポジションだ。

 

『にしてもさ、転校生ってのはそんなに待ち遠しいモノなの? 私のマスターの時も、こんな感じだった?』

『うぅん、今ほどじゃないけどこんな感じだったよ。風花さんの弟って分かったのは転入した後だったしね』

『でもでもー、やっぱり転校生が来るのはドキドキするよー。どんな人か興味湧くもんね』

「お、おはようございます~!」

 

 遅れて七海も加わり、再度転入生に関して話を切り出そうとしたところでチャイムが鳴ると、担任の先生が早速転入生の事を話し始めた。

 

「はいはい、皆静かに。今日は、もう一人の転入生を紹介するからね。……じゃあ、どうぞー?」

 

 先生に促され現れたのは噂通りの肩に神姫を乗せた少年だった。15センチ基準の神姫にしては少し小さめで、薄紫色の髪を両サイドで短く結っている。素体のカラーリングは黒。紅色の瞳が周囲をぐるっと見回すと、マスターよりも先に口を開いた。

 

『ここがマスターのクラスか……うんうん、良い感じなんじゃないかな』

「えぇっと……水城君、まずは自己紹介をお願いしてもいいかしら? その、出来れば自分で」

「……ベル、今はいい。自分でやる」

『えー? ……じゃあ、しょーがないなぁ』

「……水城君、だって?」

 

 転入生の名字に覚えがあるらしく、前の席の蓮がこっそりと呟きを漏らす。真琴は覚えがあるようなないような少々あやふやだった。転入生は以前の真琴と同じように白いチョークで名前を書いていく。真琴の時は名字を書いた辺りで背後がざわついたのだが、今は終始ざわつきっぱなし。特に女子が。何せ、件の転入生が男の真琴から見てもかなりの美少年だったからだ。やや癖っ毛の黒髪にダークブルーの瞳。しっとりと落ち着きある雰囲気に穏やかな表情で、女子は既にメロメロらしい。隣の七海とねねもぼんやりと彼を見つめていた。

 

「……水城祐樹です。よろしく」

「やっぱり……」

「やっぱり? やっぱりって?」

「覚えてない? 神姫センターのエキシビジョンマッチで20連勝以上してた人。……あの人だったんだ」

 

 蓮にそこまで言われて真琴もようやっと思い出した。青サイドで23連勝していた人物の名前は水城祐樹とモニターに表記されていたのだ。

 それからは真琴の時と同じように、細かな質問は休み時間にやれと先生に促され、そして休み時間になった途端質問タイムの始まり。前回と違って、圧倒的に女子の質問量が多い。

 

「蓮君、もしかして結構気になってるにゃ?」

「是非とも神姫部に欲しいなぁと思ってさ。……応じてくれるかな?」

「んー……よくある、自分より強い人じゃないとダメって言われるかもよ?」

「それは困るなぁ……でもま、誘うだけ誘ってみようか」

 

 周囲の女子がようやっと離れつつある頃を見計らって蓮とねねが彼の席へと向かう。一応、真琴と七海もその後ろに着いていく。

 声をかけると彼は特に反応を見せず、逆に彼の神姫が反応してくれた。

 

『あれ? またユーキに質問? 転入生ってのは大変だね』

「ちょっと訊きたいんだけど、いいかな? 前に神姫センターで20連勝してたのって君たちだよね?」

 

 すると、蓮の声に無反応だった祐樹が僅かに顔を上げた。穏やかだが、間近で見ると何処となく虚ろな印象を受けた。

 

『あー、そういえばそんなことしたっけね。こっちに引っ越してきて退屈だったから、近くの神姫センターに遊びに行ったんだよね。で、適当に戦って適当に連勝してただけなんだよねー』

「そんなに神姫バトル強いならさー、一緒に神姫部やらない? ワタシたち夏の戦女神杯出るの目標でさ、強いマスターなら大歓迎だよー」

『へぇ、夏の戦女神杯ね……どうする、ユーキ?』

「…………」

 

 沈思黙考とはこのことか、蓮とねねの誘いに祐樹はしばらく俯いて考えていて――やがて小さく頷いた。

 

「……ちょっと興味あるから、見学させてもらう。入部するかどうかは、その後で」

「んじゃー、今日の放課後に案内するよー。楽しみにしててね。……あ、ワタシは鬼灯ねねで、こっちは天城蓮君」

「それと、後ろの二人が西園寺七海さんに、一ノ瀬真琴君」

「……一ノ瀬?」

 

 ダークブルーの瞳が真琴をちらりと見据える。名字で反応されるのは既に慣れっこだったので、真琴は苦笑を浮かべながら改めて名乗った。

 

「やっぱり、水城君も姉さんのこと知ってるんだね」

『御神楽町の神姫マスターで一ノ瀬風花を知らない人はモグリだもん。へぇ、キミが噂の真琴君か』

『で、私が相棒のガーネットだ。ヨロシクね』

「……水城祐樹。こっちは、俺の神姫のベル」

『ボクの名前はベ――って、ユーキがボクの分まで名乗っちゃ意味無いじゃん!』

 

 よろしく、と差し出された右手を握り返すと祐樹は僅かに笑みを浮かべた。

 その視線は、何となく真琴にだけ向けられているような気がした。




つい先日近くのお店で大量に神姫が入荷しまして、念願の初代あんばるさんとこひるちゃんをお迎えすることが出来ました。
他にもまだまだ大量の神姫が残っているのですけど、これから給料日の度に少しずつ減らしていく予定です(笑)

お話は二章に入り新キャラ&神姫の参戦、そして何やら不穏な気配も漂ってきて第二章はややシリアスパートになりそうです。

次話は来週のこの時間に。
では、待て次回。
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