武装神姫 《Another/Side》   作:夜斗

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第二章 第2話

 場所は変わって、神姫部の部室である理科室。

 顧問の杜若先生の姿は無く、代わりに『今日は各自自由で!』と書き殴られたメモが黒板に張り付けてあった。

 

「……また職員会議かな」

「んじゃーヴィジュアライザー借りて神姫バトルしようよ! 後輩たちにはいつも通りの指示を出しておけばいいよね?」

「ん、了解」

 

 神姫部の部長は蓮で下級生たちに今日の清掃場所についての指示を出している。意外なことに副部長はねねらしい。部活動で使うヴィジュアライザーを準備室から引っ張り出してくると慣れた所作で早速電源を点ける。

 

「と、こ、ろ、で、さ? よかったらワタシと神姫バトルしてみない? 水城君の腕前を体験してみたいんだけどー?」

『ニニも興味あるぞー』

 

 ねねの唐突な申し出に困る様子もなく祐樹は静かに頷いて承諾。

 ベルをヴィジュアライザーのステージへ乗せるとそれを合図にニニもステージへと飛び移る。

 

「……準備が出来たら、いつでもいい」

『ボクも準備万端だよ。何時でもどこでもかかって来いって感じかな』

「ねねちゃん、フィールドはどうするの?」

「じゃ、これ使ってくんない?」

 

 ねねは小さなディスクを取り出すと蓮に手渡し、連もそれをヴィジュアライザーの中へとセットする。マップディスクと呼ばれる代物で、市販されている物の他に個人でもある程度改造することが出来、オリジナルのフィールドを作りだすことも出来る。今手渡したものはねね手製のディスクである。

 

「……もしかして、ねねちゃんのアレ?」

「ふふん、それは見てのお楽しみ。じゃあそろそろやりますか!」

 

「「ライド・オン!」」

 

 ビジュアライザーが起動し、セットされたマップデータを読み込み仮想空間を構成していく。以前ここで使用されたのはこの理科室そっくりなフィールドだったが、ねねのディスクによって作りだされたフィールドは緑一色の世界だった。

 

「あれ……ジャングルステージ?」

「ねねちゃんのお気に入りだよ。あのステージ出す時って、大抵本気出すって時なんだ」

 

 神姫を遥かに凌駕する大木が並び立つ、さながら熱帯雨林がそのままバトルフィールドになったかのような有り様。アルトアイネス型のベルもジャングルフィールドで戦うのは初めてなのかあちらこちらに視線を巡らせていた。

 

『はぇ……何だか、凄い空間だね。普通のバトルを想像してたんだけど……』

『んっんー、久々にこのバトルフィールドだぁ。腕が鳴るねー』

「……でも、どうしてお気に入りなの?」

「見てたらわかるよ」

 

 蓮に言われるまが、真琴と七海はヴィジュアライザーの中を食い入るように見つめる。対峙し合う二人、先に動きだしたのはニニだった。まっすぐベルに向かって駈け出し両腕に装備した大型クローを展開。

 

『来るよ、ユーキ』

「ニニ、いつも通りで行くよ!」

『あいあいさー』

 

 そのまま振りかぶるのかと思いきや、ニニはベルを大きく飛び越えそして大木の中へと姿を消してしまった。

 

『……どうする? こっちも追いかける?』

 

 祐樹はベルの言葉に首を横に振って答える。相手の動きを見てから決めるつもりなのだろう。時折木々の揺れる音に最大限警戒しながら、ベルは右手に小剣を握りしめる。がさり、と木の葉が揺れるたびに体を強ばらせ振り返る。右に左に前後、全方位に神経を尖らせニニの攻撃に備える。

 そしてフッ、とベルの頭上に影が差した。

 

『……もらったッ!』

 

 脳天目がけての急襲。落下速度も相まって反応できなければ大ダメージは免れない。どうやら、ねねは正面から堂々と戦うことよりも闇討ちのような相手の隙を突く戦術の方が好みらしい。真琴だったら反応できるかどうか怪しい一撃を――しかしベルはあっさりと受け止めてしまった。

 

『まぁ、悪くないかな。普通の神姫相手だったら効果あったかもだけど』

『わ、わ、わわわ!?』

 

 黒い剛腕がニニの両腕をがしりと掴み放さない。受け止めた、とはベル自身がではなく彼女が装備しているバックユニット『ノインテーター』の腕が受け止めたと言った方が正しいか。アルトアイネス型、そして同系機のアルトレーネにも装備されている神姫自身とは別の大型のアームユニット、所謂『副腕』と呼ばれる両腕に掴まれたニニは全く身動きが取れず足だけをじたばたと暴れさせていた。

 

『うわーん! は、放せったら!』

『しょーがないな……ほらッ』

 

 放り投げられたニニは本物の猫さながらにくるくると回転しながら着地すると、一度バックステップしてからジリリとベルを睨みつける。

 

『ど、どうする……? もっかいやる?』

「今度は別方向から突撃! こうなったら突撃あるのみ!」

 

 再び急襲を仕掛けるためニニは木々の中へと姿を消していく。やれやれと言った感じでベルが首を振る。

 

「……もう見切ってるってことだよね、アレ」

『20何連勝ってのは伊達じゃないみたいだね、マスター。……というか、かなり戦い慣れてる感じだ』

 

 木陰から縦横無尽に飛び掛かってくるニニの攻撃を、ベルは小剣と副腕に取り付けられていた盾を上手く使って受け流している。徐々に攻撃の精度は高まっているはずなのに傷一つつくことがない。ニニとマスター共々、少しずつ顔色に焦りの色が見え始めてきた。

 

「ぜ、全然攻撃が当たらない……何で?」

『やられっぱなしってのもアレだし、今度はボクから行こうかな――ッ!』

 

 何度目かのニニの攻撃を弾き返すと、ベルは手にした小剣とは別の大型の剣を取り出すと、二つの剣の柄を繋ぎ合わせ一振りの合体剣――ダブルブレードを形成する。刃渡りが微妙に異なるダブルブレードを副腕でくるくると調子を確かめるように振ってから構える。地面をめり込ませるほど強く踏み込むと刹那の速さでニニに肉薄する。

 

『いッ!?』

『せぇ――のッ!』

 

 短い掛け声と同時にベルの姿が霞と消えたかと思った矢先、ニニの身体が大木に叩きつけられていた。損傷こそなかったものの、ダメージの所為でニニは目を回しながらダウンしてしまった。戦闘終了後、ステージから上がってきてからしばらくしてようやく気が付いたようだ。

 

「…………」

『……す、凄い……な』

 

 その一瞬、祐樹とベルを除く全員には何が起こったのか全く理解が出来なかった。絶句する面々を前に、ベルは快活に笑いながら頬をかいていた。

 

『あっはは……もしかして、やり過ぎちゃった、かな?』

「ねねちゃんだって相当強いのに、こんなあっさり……」

「う、うぅぐぐぐ……う、うわあああ、ああああああん……!!」

 

 唸り声かと思って真琴が視線を向けてみると、そこには大粒の涙を浮かべ号泣寸前の表情のねねの姿が。唸り声は泣きべそに、泣きべそが完全に嗚咽に変わるととうとう泣きだしてしまい、ニニを抱えて何処へと走り去ってしまった。

 

「……あぁ、えっと……ごめん、ちょっと行ってくる」

 

 蓮が泣きだしたねねを追いかけ、残った祐樹やベル、真琴や七海たちも少々気まずい雰囲気に呑まれ中々言葉を出せずにいた。

 

「……ベル」

『あ、ちょ、ボクの所為にするつもり!? そりゃないでしょユーキ。挑んできたのはあの子なんだから』

『そうだよ。君たちに落ち度はないさ。気にすることはないよ』

「……あ、あれ? ガーネット? 何時の間に?」

 

 いつの間にかガーネットは真琴の胸ポケットから離れヴィジュアライザーのステージ上に仁王立ちしていた。その背中には、いつになくやる気を感じる。覇気というか、何というか。

 

『次は私と勝負しようよ。ここで君に勝って、ねねちゃんとニニの両方の仇を取ってやるよ!』

『うわぁ……完全にボクが悪役なんだけども……』

 

 ちらとベルが祐樹を見上げるとこくりと首肯するのが見えた。祐樹としても真琴には少し興味はあった。

 

『……わかったよ。じゃ、準備して』

『私は出来てる。マスター、頼むよ』

「いいけど……僕なんかじゃ、てんで相手にならないような気がするんだけど……」

 

 ヴィジュアライザーの前に立ちROGを構え――ようとして、ねねのマップディスクが入れっ放しなことに気付く。

 

「水城君はマップディスクとか持ってないの?」

「……持ってない」

「じゃあ、代わりに僕のを使おうか」

 

 ねねのディスクを取り出してから真琴は自分のディスクをセットする。といっても、今朝になって風花が唐突に手渡してきたもので詳細は知らない。

 ただ、風花はガーネット好みのステージだと言っていた。ガーネット付き合ってまだ間もないので彼女の好みというものが少し分からなかったのだが……

 

「じゃあ、行くよ?」

「……ん」

 

「「ライド・オン!」」

 

 上書きされたマップデータがフィールドを再構築していき、やがて熱帯雨林のような空間は一変してライトブルーの世界へと変貌していく。地面は楕円形に窪み、周囲の壁も同様に丸みを帯びていく。例えるなら、丸いトンネルの中に入ったような感じだろうか。今まで使ったことのないフィールドに好奇心と同時に不安が過ぎる真琴だったが、フィールドで戦うガーネットはやや上機嫌でその場でステップを繰り返していた。

 

『うわ……何だろ、コレ。体が軽いって言うか、足元がフワフワしてて気持ちがいいね』

「足元がフワフワ……? 別に柔らかい材質ってわけじゃないみたいだけど」

『チューブステージ……だよね、コレ。今日のボクたちってばとことんアウェーなワケだ』

「……チューブステージ?」

 

 確かに見た目は円形に張り巡らされたチューブ内部がそのままバトルフィールドになったような景観なのだが、それがどうしてガーネットの好みのステージなのか全く見当が付かない。フィールドの中のガーネットは確かにご機嫌なのだが、真琴としてはちんぷんかんぷんである。

 

「あの……その、チューブステージっていうのは、神姫の足と地面との間で磁力反発が起こって、足が速くなるステージの事なんですよ」

「……えぇっと、つまり?」

『ガーネット様のような“速い”神姫に持って来いのステージと言うことですよ。持ち前のスピードをさらに加速させることが出来るんですから』

「……そ、そっか」

『気付くのが遅いよマスター!』

 

 だから足元の調子を確かめていたのか。七海とプリュイーに教わらなかったらそのまま気付けなかったかもしれない。

 

「あ、ありがと二人とも」

「こ、ここ……これぐらいは……その……」

『……ホントに素質あるのか疑っちゃうね』

『あん? 何か言ったか君?』

『何でもないよー。んじゃ、始めよっか!』

 

 パチン、と小さく爆ぜるような音が響くと同時ガーネットの目の前にベルが躍り出た。

 

『ッ、と!』

 

 緋色の一閃をバク転で回避し、そこからライフルによる射撃で反撃に転ずるもこちらも避けられてしまう。磁力の反発という条件は同じ。ごく普通に繰り広げられる剣戟や銃撃も、普段に比べればかなりスピーディでスリリングだった。幸い、ベルは銃のような遠距離武器を持っていない。となれば元々高速射撃戦闘が基本のアーク型に分がある。

 

「ガーネット、無理に近づかないでライフルメインで行こう!」

『了解だよ、マスター』

 

 脚部ホイールを逆回転させ、ベルに背中を向けないようにしながらライフルを掃射。ベルはガーネットの射線から体をずらしながらこちらに距離を詰めてくる。

 

『ねぇねぇユーキってば。ボクにも銃とかそういうのが欲しいんだけど?』

「……考えとく」

 

 名の通り張り巡らされたチューブの中を駆け巡りながら、時折フェイントを交えてトリガーを引いても手応えは無し。回避、或いはダブルブレードの刃で弾丸が弾かれたりと、ガーネットの攻撃が決定打へと繋がるのか雲行きが怪しくなってきた。

 

『加速するよユーキ!』

 

 背部のノインテーターが左右に展開され、さながら巨大な黒の翼と姿を変形すると、それまで互角だったスピードの均衡が崩れる。後方に見ていたベルの姿がぐんぐんと近づいてくる。風を切る音がガーネットに伝わり、ROGを通して響いてくる。ハッと気づいた時には追い越され、ベルのダブルブレードが目前まで肉薄していた。

 

「フォールディングナイフを!」

『間に合わな――りゃあああッ!』

 

 ナイフの展開が間に合わないと判断したガーネットは一瞬の隙にライフルを横向きに向けてブレードの切っ先にぶつける。衝撃は弾倉内に装填されていた弾丸が起爆し、お互いに反対方向に吹き飛んでいく。

 

『あぁ、クソッ! またライフルが壊れちまった!』

『これで銃の攻撃はなくなったね。今度はこっちが一気に詰めて勝たせてもらうよ――!』

「ガーネット!」

 

 副腕で握っていたダブルブレードを分離させ大剣『ジークムント』に組み替えるとベルは跳躍。磁力の反発を受けた一蹴りはあっという間に至近距離へと達する。咄嗟にナイフを振るも威力も重さもケタ違いで文字通り刃が立たなかった。

 

『ぐ、ッぅぅ……』

『これで、二連勝だ――ッ!』

「ガーネット、後ろに飛んで!」

『り、了解!』

 

 轟々と唸りを上げる剣戟をくぐり抜け、ガーネットは真琴の指示で後方にバックステップ。磁力反発の効果のお陰で予想よりも遠く飛んでしまったが避ける分には問題ない。

 

「……いい? タイミングは僕が言うから、ガーネットはそれに合わせて」

『マスター……? いや、何でもない。信じてるよ』

 

 一度折り畳み、V字状に変形させたフォールディングナイフを逆手に持ち変えると、ガーネットは静かに腰を引いて低姿勢で構える。脚部ホイールは地面に付けたまま、ベルの方へ鋭い視線を送る。

 

『何考えてるのか知らないけど、もうこれで、終わり――ッ!』

 

 二度目の跳躍。前のそれよりも早く鋭く、上段に振りかぶった緋色の刃がガーネット目がけて振り下ろされる。直撃すればまず助からない。それでも、真琴は叫んだ。

 

「今! 突っ込んで、ガーネット!」

『おっしゃああああああッ!!』

『え、えぇ!? 何考えてんのさホント……ッな!?』

 

 副腕の感触に覚えた違和感に視線を向けると、ジークムントの根元がフォールディングナイフのアーム部分で挟み込まれていた。予期せぬ事態にベルは反応できず驚きに目を見張る。

 

「そのまま圧せッ、ガーネット!」

『うおおおおおりぃやぁああああああッ!!』

『うわ、わわわ――ッ!?』

 

 アーム部分はそう長くは()たない。短期決戦を仕掛けるべく、ガーネットはジークムントを挟みこんだまま強引にホイールを回し、ベルごとチューブステージの外壁に思い切り叩きつける。

 

「か、勝った……ッ!」

「……ベル、今だ」

『へへ、りょーかいっと!』

『んな……ッ!?』

 

 立ち込めた白煙の向こうから躍り出るや否や、ベルはガーネットの懐に潜り込み盾を装備した左側の副腕を忍ばせる。

 マズイ、と思った時には既にガーネットの身体は反対側の壁に激突していた。

 

『ランドグリーズ・ジュバルツ……ヒット確認。ふぅ、危なかった』

「が、ガーネット!? 大丈夫!?」

 

 ステージに帰ってきたガーネットは先ほどのニニと同様に、目をくるくるとまわしながら完全に気を失っていた。

 そして、同時に下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響き戦闘終了の合図と相成った。




ランドグリーズ・シュバルツってのは、バトルロンドでのアイネスのスキルですね。
バトマスでは存在すらしなかったけど……一応パイルバンカーのような武器です。

今日から再び更新再開です。
では、待て次回。
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