43階層
リズと一緒にアイテム集め。
鍛冶屋であるリズには危ないと言ったのだが大丈夫ということで付いてきた。
「本当に大丈夫?」
迷宮に入る前にもう一度、聞いた。
「心配しすぎ。大丈夫だよ」
どうしても自分で集めたいようなのでゆっくりめに進む。
何週間ぶりの雪の降るステージ。
数分も歩けば…。
「来る!」
刀の柄を握る。
4匹のスノーウルフの固まりの中に素早く潜り込み、剣技を放つ。
《ヘリックス・ソアー》
刀を下から跳ね上げながら回転し、飛ぶ。
3匹の狼は螺旋に巻き込まれ2、3撃の斬撃を受け鳴きながら消えた。
「すごい…」
生き残った一匹は飛んでいる私に向かって噛み付いてきた。
「痛!」
とっさに腕でガードして噛み付いている狼を振り払う。
「この!」
刀を上段に構え、狼に向かって想いっきり振り下ろす。「ギャオ!」吠えながらも後ろに一歩バックして、鋭利な爪で襲い掛かってくる。
「遅い!」
師匠の速度をで目が慣れている者にとって、その攻撃はあまりにも遅い。向かってくる狼に目掛けて刀を下から振り上げる。爪と刀がぶつかり合い。鋭利な爪を切り裂いた。
「止め!」
そのまま、一歩踏み込み振り上げた刀を振り下ろす。切られた狼は同様に消えていった。
戦闘が終わり息を吐く。
「1個出たよ」
普段の笑顔でリズに声をかける。
「す、すごいじゃないですか!攻略組の戦闘を始めてみました!こんなに強いなんて思ってませんでした!」
感激のあまりテンションが高くなりすぎているリズ。
「私の師匠の本気はもっとすごいよ」
私の戦闘を見て喜んでいるリズに自分の最愛の人の自慢をする。
「師匠ですか。珍しいですねこの世界に師弟関係なんて」
自慢のほうよりもそっちが気になるか。いや、師弟関係なんて私たちくらいだろうから普通の反応なのかもしれない。
「師匠はすごいんだよ。風のように速くて、それでいて困ったときは助けてくれる。すばらしい師匠だよ!」
思わず師匠の自慢話に熱中してしまった。リズは少し引きつった笑い方をしている。
「えぇっと…。モンスター探そうか」
「はぃ…」
一気に気まずい空気になった。
それから3時間ほど。
「ずいぶん倒したね」
スノーバードを切り裂いて辺りにモンスターがいないのを確認する。
「そうですね。3時間も迷宮に入ったままですしね」
時間を見れば昼を過ぎていた。
「一回、町に戻ってご飯にしよっか」
「はい」
今まで来た道を進み町を目指す。
「牙が11個で翼が4個か…。バードの方は沸きが少ないね」
「本当に助かります。私1人だと1個も集めれること出来ませんでしたから」
その場に立ち止まって頭を下げる。
「良いよ。本当に暇だったか…!」
リズの方を振り向いた時リズに飛び掛るスノーウルフを見た。
刀を素早く握るが間に合わない。
狼の爪がリズの背後を切り裂こうとした瞬間。
横から回転しながら飛んできた剣の柄が狼に命中した。
「キャ!」
後ろで剣と狼がぶつかった効果音に驚きしゃがみこむリズ。
「遅いんだよ!」
全員が驚いている中で剣を投げた本人は疾風のような速さで投げた剣に駆け寄り。落ちる前にキャッチする。
上段から振り下ろし。素早い攻撃の後の突き、中級レベルの剣技に見られるエフェクトの奇跡が四角を描いた。狼はHPが尽きて消えていった。
「大丈夫か?」
あっさりと狼を倒してこっちを向く。
もちろんだが、師匠だった。
「え、あ、はい」
何が起こったのかわからないままリズは返事をした。
「師匠、一日用事だったんじゃないんですか?」
「勝手が変わった。半日で切り上げることになってな」
マップを見て駆けつけてみたら、頭を下げる少女が狼に襲われそうになっていて驚いたが誰だこいつ…。
「えっと。この子はリズベットっと言って。素材集めに困ってたようなんで手伝ってるんです」
「あ、はい。リズベットです」
ようやく立ち上がり、こちらに向かって頭を下げる。
「そうか、俺はクオンだ」
「この人がさっき話していた師匠なんだよ」
リズベットは頭を上げてこちらを確認する。俺の顔を見て少しすると表情がどんどん変わっていった。
「こ、この人が…。スラルさんの…?」
「そうだよ。普段は速いだけだけど、その気になったらすごく強いんだよ!」
「スラル。俺の話はやめろ。俺が話させてるみたいでいやだ」
前にも言ったがこいつはまだやっていたのか。
「良いじゃないですか悪口じゃな「嘘でしょ!」」
急にリズベットが大声で会話を遮った。
「だって、この人…。『人殺し』じゃない…」
この言葉が俺に届いたとき…。何かが崩れたような気がした。
リズベットが放った一言からしばしの沈黙が訪れた。
「なるほどな…」
納得した。
「32階層か」
あの事があった階層を言えばリズベットは面白いくらい反応を示した。
「あんたが…。あんたみたいに、戦う意思のない人を「やめて!」」
リズベットの事を止めたのはスラルだった。
「あぁ、やめなくて良い。それが真実なんだからな」
何を言ってるのだろうか。語らなくて良い物語だと言うのに。
「リズベットだったか、その通りだよ。32階層で俺は、剣を捨てた者を切った。これが真実だ」
言い終わると二人に背を向ける。
「俺が入ると不安だろう。消えるとしよう」
町のほうへ向かって、走った。
44階層
利用している宿の部屋に入り部屋の鍵を閉めた。
「まさか…。目撃している奴がいるなんてな…」
武器を投げ捨ててベットに横になる。誰もいない空間。普段なら、スラルが隣にいて寝る直前まで会話をしている。そんな彼女もいない。世界のすべてが憎らしくも思えた。
「馬鹿だな俺は…。罪を知る者がいなかったら罪じゃない。なんて思っていたのか?」
自問。しかし、回答することなどない。答えは知っていても答えたくはない。
「ハハハハ!」
しばらく笑い続けた。自分が狂って行くのを感じながら。
師匠が過ぎ去った後私は、動けなかった。
追いかけるべきだったと後悔する。
「ごめんなさい…」
冷静になったリズが言う。
「良いよ。師匠の事が少しわかった気がするから」
師匠の過去がどんなものかがわかった気がした。
「心配だから行くね」
作った笑顔で言う。
「ごめんなさい」
リズは小さく呟いた。
44階層
マップデーターを見てもどこにも表示が出なかった。
自分の居場所を出ないようにしているのかそれとも…。
考えると足が止まりそうになる。
利用している宿に入って。自分の隣の部屋、師匠の部屋のノブを回す。
ガチャ
そんな音がなりノブは回らない。
心臓が止まるかと思った。頭の中に残った師匠の最後の言葉
『消えるとしよう』
この言葉の意味は考え方しだいで…。
考えたことを頭から取り除く。
「師匠。いないんですか!」
ドアを何度も叩く。リアルなら部屋に響くがこの世界の宿の部屋は防音されており聞き耳スキルを持って、入れば聞こえるらしい。
師匠はそんなものを持っていないが、耳を良くするユニークスキルを持っている。
入ると信じて声をかけ続ける。
「いない…?」
混乱して、頭がどうにかしそうだ…。
その場に座り込む。
メッセージが飛んできた。
『タイトル:うるさい
本文:部屋にいるから。静かにしてくれ。』
そのメッセージをみて。全身の力が抜けた。
安心した。
『タイトル:良かった
本文:消えるなんていうから心配しました。安心しました。
過去にどんな事があっても。師匠は今を生きてるんですから過去に囚われないでください。
師匠にどんな過去があろうと。私は師匠の事好きでいますから。』
想いを乗せたメッセージを打ち込み。送信相手をもう一度確認してから送信した。
たとえ、過去に大量殺戮だろうが何をしていても私の気持ちは揺らがないだろう。