鳥たちを倒した後スラルに説教を受けながらボス部屋へと向かった。
「師匠はいつでも自分の力を信じすぎです。一歩間違えれば死んでいたんですよ!」
「いや、俺死なないから…」
そう答え終わる前に怒鳴られる。
「師匠は命を無駄にしすぎです。死ぬんですよ。リセットじゃなくて本当に死ぬんですよ。良く自分の心臓を突くことができますね。スキルが誤作動するとか考えないんですか!?」
「しないさ、もう、30回はやってるからな」
寂しげに言った俺にスラルは何も言わなかったいや、いえなかったのかもしれない。
「さぁ、ついたな」
「…うん」
彼女にとっては付いてしまったのかもしれない。
「じゃ、予定通りに行くぞ」
「あの、鍛冶屋でも言ってたけど、人を集めたほうが…」
いつもの敬語が不安定になっているときは何かに迷いがあるときだ。
彼女の頭を撫でる。
「俺は死なない。いつでも、俺は生き残った。だから、大丈夫だ」
理由になっていない理由で安心させるように言った。
そして、扉の中へ入っていく。
中は明るかった。まぁ、暗闇の中で戦えるわけなどないからな。
グオォォォォ!!
獣が雄叫びを上げる。
「俺は耳が良いんだよ。そんなに大声だしたらうるさいだろうが!」
雄叫びを上げた獣はスノーウルフの5倍以上の体格を持った狼。
爪や牙は鋭く見るからに危ない。白い毛は美しくも見える。大きなサファイア色の目が俺を見つめる。
「行くぞ!」
自分に気合を入れる。そして、武器を投げた。
投げられた剣は毛という鎧に弾かれて地面に落ちる。狼が怒ったのか飛び込んできた。
新たな武器を取り出し敵の攻撃を避ける。
右の爪を振り下ろしてきたが遅い。俺の速度なら難なく回避できる。
「頼む!」
「はぃ!」
扉の向こうで合図を待っていたスラルが剣を一本投げ込む。狼はそれを素早く避ける。
その隙に俺が狼の頭に目掛けて飛ぶが器用に回って尻尾で攻撃をしてきた。近づいているのが聞こえたからとっさに防御をしたがかなりのダメージを負った。
ライフを見れば半分にはなっていない。
「後3本だ」
スラルに指示を出す。次の一本がボス部屋に送り込まれる。
狼は自分の方へ飛んでこない剣を無視して俺のほうに体当たりしてきた。最高速度で突っ込んでくる狼をぎりぎりのところで回避する。狼は壁にぶつかりすぐにこちらを見つめた。
「怯んでくれたって良いだろう…」
そうつぶやきながら持ってる剣を投げ捨てる。
後…。1本…。
狼の口から青い炎が漏れてるのが見えた。
まずい!
反応するのはできたが攻撃範囲が広すぎた。狼の口からでた青い炎が俺の左腕を焼く。
「あぁぁ!」
冷たすぎて痛い。少し動かすだけで激痛を感じる。ダメージを受けないのが幸いだ。
「師匠一旦引きましょう」
扉の向こうで弱気になっている。
「このままいく!」
叫んだ。士気を上げるためにも、弱気にならないためにも。
ライフは1で止まっていた。スキルの『脱死』が俺を殺させない。
少し冷静になって考える。奴の攻撃パターンを…。
その時間は1秒、考えがまとまった時には狼が目の前にいる。
「師匠!」
その、声より早く。音を超えて、光の中へ…。
《リニアー・スラッシュ》
すべてがスロー映像に見える。狼の足の間をすり抜けて、片足を切り去って行く。
ダメージにしたら0.1%も与えてないだろう。
だが、俺は確信する。
「悪いが…。お前の勝利は死んだ」
ボスに向かって言う。
武器を捨てて落ちている武器を拾う。
《リニアー・スラッシュ》
「スラル!次だ!」
大声で叫びながら攻撃を繰り出す。
敵が振り向くより早く、移動して攻撃。
武器を捨てて落ちている武器を拾い剣技(ソードスキル)を発動。
俺の見つけ出したシステム。装備を変えたら、クールタイムがなくなる。そして、落ちてる武器は武器を装備していない場合、ウィンドに行くのではなく、即時に装備される。
この二つがあると言うことは、落ちたアイテムを拾い剣技をひたすらに発動するという無限ループが完成する。
さらに、俺のスキルの『バーサーク』はライフが少なくなればなるほど攻撃力と移動と攻撃速度が加速される。
他にも、ユニークスキルの『脱死』は半分以上のライフがあるときに即死を起こさず、1だけ必ず残る。これがバーサークと良いつながりを持っている。
最後に、ユニークスキルの『聴力』がすべての音を捉える。剣を振る時の風の音などでも解る。
これらのスキルが集まった俺は何も恐れない。一瞬でも止まれば死ぬ可能性がある。
この戦闘が始まってどれくらい経ったのか解らない。俺の見える世界は常に加速されている。止まりかけの世界をひたすらに駆ける。
いつになればこの戦いは終わるのか…。そんなつまらない考えはじめるようにもなる。
『能天気で良いね。それでも死なないから』
俺の記憶の中に残された呪いが頭に蘇った。
「うわぁぁぁ!」
絶叫しながらその言葉を消し去るように剣を振る。
キン!
振り回した剣が止められる。その時になって思い出す。ここがボス部屋だと言うことを…。
俺のライフが1だということ。
驚いて、後ろに座り込むように倒れる。
「どうしたんですか?」
俺の前に立っていたのは狼ではなく、スラルだった。
「ぼ、ボスは…?」
「ついさっき、倒したじゃないですか」
「倒した?」
「はい。それでもずっと剣を振っていて急に叫んだりして驚きましたよ」
どうやら、ボスを倒したのはかなり前のようでアイテムウィンドを見ればボスを倒したときのアイテムがあった。
「どうしたんですか?」
「あぁ、ちょっと、気が抜けてな」
「ボスと戦ってるのに?」
「あぁ、ずっと同じことをしてるとな」
適当にごまかすことにした。この話は誰にもしたくない。俺の能力を持ってしまったゆえに起こってしまったことだから…。
「そうですか。解りました。ただ、気が向いたら言って下さいね」
「あぁ、いつかね」
スラルをごまかすことはできなかった。もしかしたらどんなことがあったか解ってるのかもしれない。
「師匠は1人ですべてをこなしてしまう事をやめて欲しいです」
つぶやいた言葉がばっちり聞こえていたが俺は触れなかった。
俺は、スラルにすら心を開くことが怖いのだ…。何を言われるのか…。怖い。