その瞬間は突然やってきた。
街を歩き宿に帰っていた時だ。
「今日も大量ですね」
「あぁ、今晩は豪華に行こうぜ」
「はい、それじゃ買い物に行きましょうか」
いつものような会話。
「あぁ、豪華にしておけよ。明日、晩飯を食える体じゃないかな」
俺とスラルの会話に割り込んできた。そいつは…。
「ゾック!?」
オレンジプレイヤーがどうどうと街に入ってくるなど…。
「さぁ、クオン。殺し合いのお誘いだ」
それから奴は手短に話した。
明日の午前10時。50階層ボス部屋にて、HPが尽きるまでの決闘。ルールなんてものは無いが、来なかったり、逃げ出したり、1人でなかったりすれば、掲示板に『殺人スキル』の習得条件を掲載する。
『殺人スキル』とは、ゾックが会得したユニークスキルの事らしく、その能力は殺したプレイヤーのステータスを20分間自分のものにすることができる。
確かに、前の戦いで『3人分』とか仲間を殺した後に強くなることがあった。殺人スキルがこの世にあるのは間違いないだろう…。
もしも来なければそのスキルを掲載する。そういって、去っていった。
「クオン君は、戦いに行くんですか?」
晩飯を食べている。時にふと話しを切り出した。
「当然だ。俺はあいつを、あいつは俺を殺したいだけだ」
殺人衝動。俺の殺したいと言う気持ち。
「そこまでして、殺したいんですか…」
「あぁ、殺したいな。あいつは、俺が殺す。そうでなきゃ…。殺人スキルが世の中に出てしまう…」
スラルはため息をついて負けたかのように言った。
「解りましたよ。クオン君は止めれませんからね…」
「じゃ、俺は9時ごろに出かけるよ。1人で来いって言ってたから。付いてくるなよ」
明日の死闘を心がけ、普段はしない目覚ましをセットして眠る。
私は卑怯だ。
これから私は、好きな人を裏切る。
6時ごろに目を覚ました私は、彼の部屋に入り、彼の手をつかんで操作する。
目覚ましの設定を消去した。
クオン君は、誰かに呼ばれればすぐに起きるが、誰にも呼ばれなければなかなか起きない。
これで、クオン君は戦いに行かないでいい…。
いつものように、朝食を作って、メモを隣に置いておく。
そして、戦場に向かう。
50階層と51階層をつなぐボス部屋。
そこに、殺人鬼が座っていた。
「おぃおぃ、お前は、クオンに引っ付いてた奴じゃないか。クオンはどうした?」
聞きながらキャラクターの3倍はある大剣を持ち上げる。
「来ません。師匠は来ません。いえ、来る必要がありませんから」
刀の柄に手をそえる。
「あいつの弟子か、なんかしやがったな。あの死に飢えてる奴が来ないはず無いからな」
「信用してるんですね。私が細工をしました」
「そうか、せっかくの気分が台無しだ。死ね」
一歩でかなりの距離を移動した。かなりの重さがある得物なのに、移動速度も速い。
速いといっても私よりではない。さらに、攻撃も見える。
大剣の振り払いが来る。
「はぁ!」
地面をけり、空中で抜刀。そのまま首を狙う。
確実に捉えたと思った。
「弟子といってもこの程度か」
体を後ろに倒すことで攻撃を避けられた。
馬鹿な…。その体勢じゃ、振っている剣でバランスを崩す…!?
殺人鬼は巨大な剣を捨てていた。
一撃目の横払いは、罠…。
そう気づいたときには、もう遅い。
蹴り飛ばされ、さらに空中へ飛ばされる。
「あっけない」
そうつぶやいて、捨てた大剣をつかみこちらに狙いを定める。
「死ね」
こちらに向かってくる大剣。それを刀で受ける。
「無駄だ」
その通りだ。巨大な剣を刀で受け止めるはずが無い。刀は簡単に折れた。
「あぁぁ!」
激痛。
わずかにHPが残ったが激痛で腕が動かせない。
とっさに腕で防御することで、命はつなぎとめたようだ。
「死ななかったか。だが、虫の息」
地面に落ちた私に向かって駆けてくる。
体が痛み、動きたくないと言うが無視して、動かす。
地面を転がって攻撃を回避する。
もう、私の死は目前である。腕が使えない以上、攻撃を避けるしかない。
ここからは、攻撃を避けるだけの長期戦になる。
目覚めた俺は、時間を見て驚いた。
「10時過ぎかよ…」
おきた俺は、朝食が用意されているのを見つけた。
「スラルは起きていたのか?なぜ起こしてくれなかった…」
次にメモを見つけた。メモには
『おはようございます。
失礼ですが、タイマーをいじらせてもらいました。
今回の戦いは、クオン君が行くべきではないと思ます。
クオン君がどこか遠くに行ってしまう気がしたからです。
なので、私が戦いに行くことにしました。
このような事をする私を許してください。
貴方に死んで欲しくないのです。私は、好きな人に死んで欲しくないのです。
どうか、生き続けてください。そして、『殺したい』なんて悲しいことは言わないようになってください』
メモを読みきった俺は朝食をそのままにして、駆け出した。