ソードアート・オンライン『疾風の狂戦士』   作:神滅

44 / 46
果ての先にいた者

 たどり着いたのは光妖精の都市なんかじゃない、白いだけの世界だ。

「大丈夫ですか、パパ?」

「あぁ。たどりついたのか…?」

 声をする方を見たら驚いた、ユイが小さい妖精じゃなく昔のような10歳の姿だった。

「どうやら、俺の読みはあっていたようだな」

 見た感じ、ゲームマスターの管理室だろう。

「マップ情報が無いのでそうかもしれません…」

「アスナのいる場所はわかるか?」

 それから、ユイに誘導されてアスナのいるとこまで行く。

 

 白い空間を歩いて行くと、沈みかける太陽が見えた。

「あぁ、そうだ。俺は戻ってきた」

 それを見て、キリトがつぶやく。

 そこから下を見れば、世界樹の上だとわかる。

「無いじゃないか…。空中都市なんて…」

「これが現実だ…」

 俺としては門の時点でわかりきっていた事だ。

「許さないぞ…」

「当たり前だ。妖精たちに夢を与え、こんな事をするなんて許せない」

 ユイがキリトを引っ張る。

「そうだな。行こう」

「あぁ」

 少し歩けば、鳥かごを見つけた。

 近づけば人がいるのはわかる。

「アスナ!」

「ママ…ママ!」

 二人が叫び、走っていく。

 それから3人は抱き合い、涙を流し再開したことを喜ぶ。

 俺は複雑な気分でそれを見て、少し距離をとる。

 

 3人が涙を止め、こちらに来る。

「クオンくん、ありがとうございます」

 アスナに礼を言われるが俺は自分の疑問を聞く。

「そんなことはどうでもいい。スラルはここにいたか?」

「そのことだけど…」「きゃあっ!パパ…ママ…クオンさん気をつけて!何かよくないモノが!」

 急にユイがフラッシュして消えた。

「ユイ!?」「ユイちゃん!」

 同時に叫ぶ、俺は冷静に周りをみた。

 派手な格好をしている奴が見れた瞬間、重力に襲われる。

 全員が倒れこみ、床に両手をつける。

「やあ、どうかな、この魔法は? 次のアップデートで導入される予定なんだけどねえ、ちょっと効果が強すぎるかねえ?」

 俺達を見下ろしてそいつはあざ笑う。

「須郷!」

 キリトが叫ぶ。

「チッチッ、この世界でその名前は止めてくれるかなあ。君らの王に向かって呼び捨ても戴けないね。妖精王、オベイロン陛下と…そう呼べ!」

 須郷…。キリトが言っていたアスナの婚約者…。ソードアートオンラインのサーバー管理をしていた…。

 俺の中で今更繋がった…。

 須郷はキリトの頭を踏みつける。

 油断してる…。

 

 この場にいる3人の剣士相手に油断してやがるのだ。

 ゲームマスターの権力を使って…。

 

 なぜか、ヒースクリフとかぶって見えた…。

 そんなこと…。ヒースクリフに悪い…。

 奴は、ゲームマスターでありながら俺達と真剣勝負をした。その結果が俺の死だったが、悪くは思わない。

 あれは、俺とあいつの真剣勝負だったから。

 

 そう、思い出せ…。あの世界で生きた俺を…。

 オレンジプレイヤーや、人を襲わなければ食べていけない奴…。色んな奴と剣を交えたあの経験を…。

 

 嫉妬、悪意、罪悪感、怒り、辛さ、殺意そういった感情のこもった剣を受けてきた…。

 だったら、これはなんだ?

 悪意はあるがそんなものは感じない…。ただの重力…。

 感情の無い…。システムの動作…。こんなものに屈しているのか?

 その程度で…。

 

 スラルが救えるのか?

 

 俺は立ち上がった。

 

「ふん、まあいい。すぐに分かるさ、君の頭の中身はね」

 立ち上がる前にずっと会話が続いていたようだ。

 気になるところだが、こいつを切らなければ、気がすまない。

 重力に負けずに剣を持ち、切りかかる。

 

 ざす

 

 刀身が刺さる。

 俺の腹を貫通させる刀身。

「がは…」

 前に倒れる。

「そういえば、君もいたんだね。クオン君だっけ?君も良く来たね」

 須郷がこっちを向く。

 俺のHPはまだまだある。剣の威力が低いようだ。

 後ろで刺した奴が気になるが動けない。

「なんで…」

「嘘だ…」

 キリト達は驚いている。

「紹介するよ」

 足音が聞こえ、後ろにいた奴が前に来るのが解る。そして、須郷が俺の髪を引っ張り強引に向かせる。

「僕の下僕だよ」

 俺が見たのは何度も顔を会わせたことのある…。

 

 |ス(・)|ラ(・)|ル(・)だ。

 

「え…。あぁぁぁ!」

 叫ぶ。ひたすらに、声がかれるまで…。

「私は、妖精王様の下僕です」

 いつもは、俺に向けられる笑顔を須郷に向ける…。

 どす。

 須郷が俺の腹を蹴る。

「うるさいよ」

 蹴り続ける。

「ラルの記憶を…」

「あぁ、いじってやったさ。僕に忠誠を誓う下僕にな」

 悪意に満ちた目を見た。

 本来、そんなことはできないと思うが…。スラルを見れば一目瞭然。

「君達の頭をいじるのなんて簡単だ」

「絶対に許さない!」

「小鳥ちゃんの憎悪が、スイッチひとつで絶対の服従に代わる日も近いよ」

 気持ち悪いことを言いやがる…。

「二人とも!今すぐログアウトして。現実世界で…「無理だ」

 アスナの言葉を否定する。

 ログアウトができないのはキリトたちが再開しているときに確認した。

「キャハハハ!すごいね。ちゃんと見てるなんて、しっかりと逃げなかったのは失敗だったね」

 須郷が笑う。

「ここは僕の世界だ。誰もここから逃げられないさ!」

 いきなり、鎖が空から降ってくる。そして、アスナの体をホールドして巻き上げる。

「きゃあ!」

「貴様…何を…」

 キリトが須郷をにらみつける。

「小道具は色々用意してあるんだがね。まあ、まずはこの辺からかな」

 言いながら、リングをアスナの左手首に嵌め、鎖を引く。そちらもジャラっと巻き上がり、アスナは両手を強く引かれる格好で宙吊りになった。重力はまだかかっているらしく、優美な眉の曲線が苦痛に歪む。

 須郷は、アスナの前で腕組みをすると、下品な口笛を吹いた。

「いいね。やっぱりNPCの女じゃあその顔はできないよね」

 アスナは須郷をにらみつけて目を閉じる。須郷の笑いがうっとうしい。

 動こうとすると、俺の手を踏みつけられる。

「あぁ!」

 スラルだ。俺の手を踏み体重をかけている。

 キリトの体に剣が刺される。

「が…!」

「き…キリトくん!」

 心配そうにアスナが悲鳴を上げる。

「システムコマンド! センスフィードバック・アブソーバ、レベル8に変更」

 須郷がそういってからキリトの痛みが増えているように見えた。

「おいおい、まだツマミ二つだよ君。段階的に強くしてやるから楽しみにしていたまえ。ま、レベル3以下にするとトラウマが残る恐れがあるらしいがね」

 どうやら、数値が低くなれば痛みが増えるようだ。

 おれも、刺されている手が痛い。

 

 どうしてだ…。どうして、俺達は床に転がってる…。

 助けに来たんじゃないのか?

 この程度の力で何が救えると思っていたんだ俺は…。

 

 天狗になっていたことを自覚する…。

 俺には何も救えない…。

「いや…いやぁぁ!」

 アスナの悲鳴に気づく。

「須郷…貴様…貴様ァァァ!」

 必死にもがくがキリトの体に刺さっている剣が邪魔で動けない。

「殺す!殺す!絶対に殺す!」

 キリトが涙をし叫ぶ。

 

 所詮俺達はプレイヤーでしかなかったのだ…。

 勇者と言われても、相手が対等な立場に合わせてくれたから勝てたのだ…。

 そう、俺達はちっぽけで無力な人間…。 

 「くだらない」など言って置いてこのざまだ…。

 悔しい…。自分の弱さが憎い…。

「ほらおいで」

 須郷がスラルを呼ぶ。

 スラルはうれしそうに須郷の横に行く。

「見てるかいクオン君?」

 須郷がスラルの頬を撫で…。胸に手をかける…。

 スラルが気持ちよさそうに声を上げる…。

 そのたびに…。俺の中で1つ1つ…。壊れていく…。考えたくない。考える頭などいらない…。

 頭に何かが聞こえた。

 

『逃げ出すのか?』

 

 現実を見るだけだ。

 

『屈服するのか?否定したシステムの力に?』

 

 それが、奴の力。俺は無力だっただけだ。

 

『それは、あの戦いを汚す言葉だな。私との真剣勝負を汚すつもりか?」

 

 勝負?これは勝負じゃない…。虐殺だ。力があるものを無いものが食う。

 

『それは真実だ。力が強いものからの攻撃は虐殺でしかない、君は弱いのか?私と戦った君はそんなにも弱かったのか?』

 

 どうしろって言うんだよ!

 

『そんなことは、鋭い君なら解っているはずだ。さぁ、立ちたまえ。立って剣を取れ!』

 

『立ちたまえ、クオン君!!』

 

「うるさいんだよ!」

 その声に言われ、立ち上がる。重力など感じない。

 怒りに身を任せ立ち上がる。

 体が限界だと言うが、聞く耳持たない。

 須郷は俺を見て、ぽかんとした顔をして、スラルから手を離した。

「やれやれ、オブジェクトを固定したはずなのに、妙なバグが残っているなあ。開発部の無能どもときたら……」

「やっぱり、お前かよ…。ひどいだろ…」

 頭に響く声を繰り返す。

「システムログイン…。ID、()()()()()()

 長いパスワードを言い終わった。その途端、重力が無くなった。

「な、なんだそのIDは!」

 スラルは須郷の態度から読み取って、俺に攻撃をしかける。

 須郷はシステムメニューを出す。

「システムコマンド、スーパーバイザ権限変更。IDオベインロンをレベル1に」

 頭に響く言葉を繰り返す。それと同時にエージスを取って、スラルの攻撃を防ぐ。

 須郷のウィンドは消えた。須郷の王の力は失った。

「ぼ…僕より高位のIDだと? 有り得ない…僕は支配者…創造者だぞ…この世界の帝王…神…」

 スラルの剣撃を防ぎながら言った。

「お前は盗みすぎだ。ヒースクリフの世界を盗みすぎたんだ。だから、奴のIDが残っていたんだ。お前は、盗んだだけなんだよ!住民と世界を!」

「こ…このガキ、僕に、この僕に向かってそんな口を!後悔させてやるぞ、その首を吹っ飛ばせ!」

「妖精王様の望むままに!」

 スラルの剣が首にめがけて振られる。

「システムコマンド。強制ログアウト。IDキリト、IDアスナ」

 剣を受け止めながら言う。

 できるとは思わなかったが試す価値はある。

「クオン、おま…」

「クオンくん!」

 二人は消えた。このゲームからログアウトしたのだろう。

「さぁ、残ったのは3人。泥棒と操り人形。そして、俺だ」

「っつ!」

 須郷はウィンドを操作する。

「システムコマンド!ログアウト防止エリア指定!」

 須郷のウィンドを操作する手が止まる。

「このガキ!調子に乗るなよ!システムコマンド!! オブジェクトID<エクスキャリバー>をジェネレート!!」

 須郷のコマンドは受け付けない。

 攻撃をし続けるスラルの剣を受け止める。

「システムコマンド!! 言うことを聞けこのポンコツが!! 神の……神の命令だぞ!!」

「システムコマンド。 オブジェクトID<エクスキャリバー>ジェネレート」

 須郷の言葉を復唱。すると数字の羅列が流れ、一本の剣が出来上がる。それを須郷の前にめがけて投げる。

「決着をつけようぜ。ヒースクリフみたいに、剣で決着をよ!」

「ば、馬鹿が!」

「システムコマンド、センスフィードバック・アブソーバをレベルゼロに」

「な……なに……?」

 痛みの限界である0に設定をする。

 スラルは恐れること無く切りかかるが須郷の足は止まる。

「まずは、お前を黙らせるぞ。スラル」

 好きだった人との殺し合いが始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。