スラルの剣と俺の剣がぶつかり合う。
正直な話を言えば…。弱い。
あの世界での強さは無い、今のこいつは剣を振っているだけだ。
感情も何も乗っていない、ただ振っているだけだ。
俺は簡単にそれを弾いていていくだけだ。
ひどいな…。ヒースクリフ…。なんで、俺にこの役目を出したんだよ…。
IDを貸してくれたヒースクリフを憎む。俺が貰ったということは…。戦わなければならない…。
スラルと…。
キリトでも、良かっただろ…。キリトの方が適材だろ…。
俺は劣っている。キリトより、何段階も下だ。確かに俺は速い…。だが、あいつはそれ以上の物を持っている。だから、あの世界で二刀流を会得し、世界を終わらせることができた…。
俺は、負けたんだ。ヒースクリフに…。
スラルの攻撃を受け止めながら話す。
「覚えていないのか?28階層。俺とお前が出会った時のこと」
問いかけても剣を振り続ける。
「私は妖精王様のためにいる!」
大振りに振る。
「あの時から、始まったんだよな。俺達は」
剣を弾く。
「くそぉぉ!」
須郷が後ろから切りかかってくるが、遅い…。
後ろに飛び、蹴りを放つ、避けれず蹴られ地面を転がり叫ぶ。
「妖精王様!大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけあるか!役立たずが!さっさと、殺せ!」
「は、はい」
「その後あったのは。40階層だな。あの時は、驚いたぞ…。行き成りかわいい女の子が師匠なんて読んでくるんだかな」
思い出を語り続ける。戻ってくるなんて思いはしないが…。可能性に賭けるしかない。
「はぁ!」
スラルは聞いているのか解らない。ただひたすらに攻撃を仕掛けてくる。
「44階層で…」
目の前の敵は何を一生懸命に話しているのだ。
私は剣を振りながら思った。
階層とか意味の解らないことを話し続ける。
殺そうと剣を振っているのに簡単に弾かれる。
こちらに攻撃をしてこないのは余裕なのか?
「殺せ!殺せ!」
妖精王様は殺せと言う。
私は彼の下僕、彼の言うことなら何でも実行する。
私は彼のために生きている。
剣を振っても、振ってもあたらない。遊ばれている。
「お前はリズに嫉妬したこともあったな」
敵は長々と語り続ける。
私の剣が通用しないのはわかるが振り続ける。
「本当に覚えていないのか?指輪を渡したことも…」
敵は悲しそうに話す。
私は彼の望むままに剣を振る。
「結婚しようって言ったことも」
剣が止まった。いや、止められてしまった。
胸の奥が痛む。
「スラル?」
「あぁぁ!」
剣を無理やり振るう。敵も油断していたのか頬に剣がかすった。
「っ…!思い出せ!遠くに行かないって約束しただろ!」
胸が痛んでいく。
「殺せよ!何をやってる!さっさと殺せ!」
「お前が、遠くに行くなよ!駆け寄ってるのに、遠くに行こうとするな!」
「あぁぁ!」
悲鳴をあげる。胸が痛い!
「帰ってきたんだ。お前と一緒にいるために!だから、帰って来いスラル!」
「あぁぁぁ!」
胸を押さえて膝を突く。
「スラル!」
胸を押さえる彼女に近寄るが必死に剣を振る。
悲鳴を上げ続け、倒れる。
「はぁ…。はぁ…」
呼吸を乱してこちらを見る…。
「クオン君?」
スラルがそう答えた…。
「やっぱり、生きてたんだね。死ぬはず無いもんね…」
そういって目を閉じた。
「スラル!スラル!」
駆け寄り、抱き抱える。
「ここにいるぞ!俺は帰ってきた。長い間待たせたな…」
涙を流す。
「なんだか、変な夢を見てたよ…。私がねクオン君と戦うんだよ」
「あぁ、夢だ。俺はお前と一緒にいるんだ」
「そうだよね。一緒だよ」
「あぁ…ぐっ…!」
後ろから刺される。
「ははは、どいつもこいつも…。役立たずが…」
後ろで須郷が笑う。
「さぁ、目覚めの時間だ。眠り姫」
そして、スラルを強制ログアウトさせた。
この舞台には俺と須郷の二人になる。
俺は背中から剣を刺されている。
「役立たず…役立たず役立たず!!」
腹の剣が奥へ奥と進む。
痛みはすごいが…。さほど気になるものじゃない…。
なぜなら…
「さぁ、殺しあおうぜ」
痛みを超える怒りの感情が体の中で渦巻いているからな。
「ひぃ…」
須郷は後ろに倒れる。
聖剣はその場に落ちる。
「どうした?剣が落ちたぞ」
俺は聖剣を拾い上げ…。
想いっきり、須郷に向けて投げる。須郷に受け止める事はできない。剣は肩を切り裂いて地面に刺さる。
「お前は、終わりだ」
「イアァァ!」
須郷が悲鳴をあげる前に、須郷の目の前まで走っている。
「お前は、妖精たちの夢を奪った」
感情の載せた剣で切り裂く。
「アァァ!こ、このガキが!」
「そして、あの世界の住民を奪った」
須郷より早く切り裂く。
「い…痛ァァァ!」
悲鳴を上げ地面を転がる。
転がる体を踏み、動きを止める。
頭を持ち上げる。
「お前の実験体にされた奴は!どれだけ苦しんだと思ってる」
「悪かった。僕が悪かった!」
「悪いが俺は偽善者だ。お前を許すとでも?」
空に向かって投げ、もう一本エージスを取り出す。
「これで終わりだ」
二刀流、右と左からの神速の剣撃。
「はぁぁ!」
落ちてくる須郷に向けて、すべての力をこの攻撃に
右の切り上げに左の切り払い、回転切り、左右で突き、外へ切り払い、止めの十字に切り裂く。
「ギャァァァァァ!!」
須郷は、消えた。ゲームの安全装置が起動してログアウトしたんだろう…。
気が抜けてその場に倒れこむ…。
あー、腹痛い…。
刺された痛みが今になって効いてくる。
「いるんだろ?ヒースクリフ」
何も無い空間を見て言う。
『久しいな、クオン君。もっとも私にとっては、あの日のこともつい昨日のようだが』
その声は先ほど頭に響いた声と違って、どこか遠くから聞こえているように感じた。
「ニュースで死んだって聞いたけど。俺と同じで生き残ったか」
『そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。私は茅場晶彦という意識のエコー、残像だ』
「難しいこと言いやがって…。とりあえず、ありがとう。助かった」
『礼は不要だ。君と私は無償の善意などが通用する仲ではなかろう。もちろん代償は必要だよ、常に』
「須郷を潰したのが礼じゃダメか…。何が目的だ?」
すると、銀色に輝くものが落下してきた。手を差し出すと、かすかな音を立てて収まった。それは小さな、卵型の結晶だった。内部に微弱な光が瞬いている。
「これは?」
『それは、世界の種子だ』
「意味が解らない」
『芽吹けば、どういうものか分かる。では、私は行くよ。また会おう、クオン君』
そういって気配が消え声も聞こえなくなる。
「さて…。この世界も終わりだ…」
ログアウトをできるようにして、ログアウトする。
おきれば、深夜だ。
深い疲労感に襲われるが目をしっかり開けて、体を動かす。
「さぁ…。姫様を迎えにいこうか…」
自転車を出して、走り出す。
走っていくと空から白いものが落ちてきた。
「雪か…。寒いはずだ…」
スラルの病室に急ぐ。
病院だが、深夜になれば門は硬く閉ざされているがガードマンの詰めるボックスは無人だ。
「警備薄いな…」
呟きながら駐輪場に自転車を置く。俺の横に見覚えのあるMTBがある。
「俺も迎えに行こう」
「あれ……右目がボケるんで狙いが狂っちゃったよ」
入り口に向かう途中に殺気に満ちた声を聞いた。
濃い色のバンと白いセダンの間で男がキリトを押し倒している。
男がナイフを振り上げる。
「うぁぁ!」
走って、俺は思い切り、男を蹴る。
「ぐ!」
男は地面を転がる。
「大丈夫か?」
「あぁ…」
キリトは立ち上がるが、足が切られていてふらふらだ。
「何の力も持たないガキが!この僕に…。神に歯向かいやがって!」
俺に向かって切りかかってくる。
言動で、須郷だと解る。
確かに、力はない。ヒースクリフがいなければ、俺達は世界樹でやられていた。
だが、力が無いだけだ…。俺達には、あの世界での経験と覚悟を持ってる。
ナイフを左腕で受け止める。ザシュと腕を切られる嫌な音がした。
「ふざけるな!」
右腕で相手の肩を掴みこちらに引き寄せ、頭突きを入れる。
「ぐぅ!」
須郷は後ろによろける。
「力が無い…。あぁ、そうだ。力なんて無い。だが、ここで倒れるのはお前だ」
腕に刺さったままのナイフを抜き…。
「こんなもので死ぬわけには…。いかないんだよ…」
地面に捨て、刀身を踏む。柄と刀身の間の部分が綺麗に折れた。
「クソ!クソ!」
須郷は殴りかかってくる。
奴の拳がしっかり見える。
拳を避けて、顔面に俺の拳をぶつける。
「お前の…。勝利は死んでるんだよ…」
須郷は車にうつぶせに倒れる。
「がぁぁぁ!」
怒りに身を任せ、もう一度殴ってくる。
それを避けて、左の拳を入れる。
「ぐ…」
殴った俺の腕が痛む。
続けてけりを放つ。
「ヒィィィ!」
後ろにバタリと倒れて、立ち上がる気配がない。
「終わったか…」
腕を押さえて、須郷を確認する。
須郷は、倒れて、口から血と混ざった白い泡を大量にこぼしながら眼球は裏返っている。
「動けるか?」
足がやられているキリトの心配をする。
「あぁ、問題ない」
肩を貸して、病院に入っていく。
病院には行くと、看護師の女性二人が現れた。警戒の目でこちらを見たが、怪我を見て慌てる。
「どうしたんですか!?」
「駐車場で、ナイフを持った男に襲われました」
ありのままを伝えるとガードマンを呼んだ。
「君、結城さんのご家族と鈴切さんのご家族ですよね?傷はそこだけ?」
お互いに頷くと、「ドクターを呼んでくる」と言って廊下を走っていった。
俺は、誰もいないのを確認して、カウンターに入ってゲスト用のパスカードを取る。
「行くだろ?」
再び、キリトに肩を貸して歩く。
エレベーターに乗り目的の病室まで…。
足がやられているキリトを優先して、病室まで連れて行き、鍵を開けたら俺の目的の病室に向かう。
何度も通った病室の扉の前まで来た。
目覚めないと解っていても何度も足を運んだ病室だ。
向こうには眠り姫が目を覚ましているはずだ。そのことで頭が一杯になる。
鍵を開け、緊張で震える右手で扉を開ける。
「よぉ。眠り姫」
いつもの台詞を言う。
いつも座っている椅子に座る。
「スラル」
呼びかける。スラルの体がビクと反応をした。
しかし、目を開けない…。
「眠り姫が起きる方法を知ってますか?」
のんきなことに、そんなことを言った。
その声は、あの世界で毎日耳にした声と異なる。あの世界で感じた声より、綺麗だ。
「はぁ…。仕方ない姫様だ」
緊張の糸が解けて、微笑む。
そして、片手で彼女の頭を抱え、唇を重ねる。
唇を離して、目を覚ました彼女は綺麗な緑の瞳で俺を見つめる。
「おかえり…。俺がクオン。九藍 音哉だ」
涙があふれ、彼女の顔がはっきり見えない。
「ただいま。鈴切 奈夕です」
お互い涙を流し抱き合った。離れないように強く…。