魔法少女リリカルなのはStrikerS~機動六課と妖精の尻尾~ 作:ZEROⅡ
「ん…う~ん……」
「あ、なのはさん! 目が覚めましたか?」
「……ウェンディ?」
グレイとなのはの戦いから数時間後……医務室のベッドの上で眠っていたなのはが目を覚まし、そんな彼女の顔を、髪をポニーテールにしたウェンディが覗き込む。
「えっと……私、どうなって……?」
なのはの疑問に、ウェンディの隣にいたシャルルが答える。
「覚えてないの? アンタ…あの後気を失ってここに運び込まれたのよ?」
「あぁ、そうなんだ……」
シャルルの説明を聞いて納得したなのはは、腕を伸ばして「う~ん」っと伸びをする。すると、なのはは身体の違和感に気がつく。
「あれ? なんだか身体が軽いような……」
「あっ、それはですね、シャマルさんが治療ついでになのはさんの身体を調べてみたら、凄い疲労が溜まっていたらしいんです」
「ウェンディに感謝しなさいよ? グレイにやられた傷を含めて、ウェンディが全部天空魔法で治療してくれたんだからね」
「そうなんだ……ありがとう、ウェンディ」
「いえいえ♪なのはさんも、無茶しないでくださいね?」
そう言ってウィンディにお礼を言うと、なのはの脳裏にふとティアナとグレイの姿が浮かぶ。
「あっ、そうだ! ティアナとグレイさんは!?」
「わわっ! シィーー!! 大声を出しちゃダメです」
「彼女なら横のベッドで眠ってるわよ」
そう言ってシャルルはなのはのベッドの横で眠る、ティアナを指差す。
「あ、ごめん……ティアナの容態は?」
「大丈夫ですよ。シャマルさんが、なのはさんの訓練用魔法弾は優秀だから、身体にダメージは無いと言っていました。ただ…なのはさんと遜色ないほどの疲労が身体に溜まっていたらしいので、今もまだグッスリです」
「そう……」
ティアナの中の〝闇〟に気づけなかった事と、教え子の過ちを正すためとは言え、彼女にあのような事をしてしまった事に、なのはは辛そうな表情を見せる。
「それで、グレイさんは?」
「グレイさんなら、もう大丈夫と言って結構前に医務室を出て行きましたよ」
「今、どこにいるかわかるかな?」
「えっと、たぶん今頃ですと……食堂じゃないでしょうか?」
「そう、ありがとうウェンディ!」
そう言うと、なのははベッドから降りて立ち上がる。
「あ、なのはさん! まだ寝てた方が……」
「大丈夫! グッスリ眠ってスッキリしたし、ウェンディの魔法のお陰で身体が軽いから全然平気♪」
「そうですか? ならいいですけど……」
「心配してくれてありがとう。それじゃ」
そう言ってなのはは医務室から出ると、足早に食堂へと向かって行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「えっと、グレイさんは……」
食堂へとやって来たなのははすぐに目的の人物であるグレイを探す。しかし、今はちょうど夕食時なので食堂の利用者が多く、この中から見つけるのは一苦労である。
「グレイてめぇ!! それはオレの最後の肉だぞ!! 何勝手に食ってんだコラァーー!!!」
「はっ! さっさと食わねぇテメェが悪いんだよ!!」
「やめなよナツー……モグモグ」
と思っていたが、意外と早く見つかった。
なのはは聞こえてきた怒声の方に目を向けると、そこにはテーブルに乗り出していがみ合っているナツとグレイ、そしてそんな2人を棒読みで止めながら生魚をかじっているハッピーの姿があった。
「この変態タレ目野郎ーー!!」
「んだとこの燃えカスツリ目野郎ーー!!」
「「やんのかテメェーー!!」」
「貴様らいい加減にしろっ!!!!」
「「ぶほっ!!?」」
ついに取っ組み合いのケンカに発展するかと思われたその時、ナツとグレイの脳天にエルザの拳骨が叩き落され、そのケンカは強制的に終了した。
「あ…あはは……」
そんな光景を見て、思わず苦笑いを浮かべるなのは。
あんな事があったにも関わらず、こんないつも通りのやり取りを繰り広げられるあたり、さすが妖精の尻尾
フェアリーテイル
と言ったところである。
「ってて……お? なのはじゃねぇか!! 気がついたのか?」
「えっ? あ、はい!」
突然グレイに話しかけられ、なのはは戸惑いながらも返事をする。
「よぉなのは!」
「気がついたんだね!」
「傷の方は大丈夫か?」
グレイに続いて、ナツとハッピー、そしてエルザもなのはに声をかける。
「はい! ウェンディのお陰でもう大丈夫です! ご心配とご迷惑をおかけしました!」
そう言ってグレイ達に深く頭を下げるなのは。
「心配はしたが、迷惑などとは思っておらん。お前とグレイの戦いは、お互いの意志がぶつかり合って起きたこと……
「そーそー! ナツとグレイがしょちゅう喧嘩してるのと同じだよ」
「「一緒にすんじゃねえよ!!」」
「あははははは♪」
四人のやり取りを見て可笑しそうに笑うなのは。そしてひとしきり笑った後、今度は真剣な表情でグレイに声をかける。
「あの…グレイさん。少しお話いいですか?」
「オレに?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
その後…なのはとグレイの2人は場所を変え、人気のない隊舎近くの林へとやって来た。
「なんだよ、話って?」
「えっと…お話というか、お礼がしたかったんです」
「お礼だぁ?」
「はい! グレイさん、私を止めてくれて……ありがとうございました」
そう言ってなのははグレイに深々と頭を下げる。それを見たグレイは照れ臭そうにしながら答える。
「気にすんじゃねーよ。さっきエルザも言ってただろ? オレはオレの意志をお前にぶつけただけだ」
「それでも……グレイさんのお陰で私は、大切なことを思い出すことができました。いつの間にか忘れちゃってた……大切な言葉を。だからこのお礼だけは、しっかりと受け取ってください」
「……わかったよ。どういたしまして」
なのはの言葉に、グレイは諦めたように苦笑し、彼女の言葉を受け取った。
「でも……どうしてあんなに必死になってまで、私を止めてくれたんですか?」
「……………」
問い掛けられたグレイは一瞬だけ目を丸くし、沈黙した。
そしてしばらく考えるように目を伏せると、そのままゆっくりと口を開いた。
「似てたんだよ……お前と…オレの師匠が……」
「え?」
グレイの答えに、今度はなのはが目を丸くするが、グレイは構わず続ける。
「昨日お前言ってただろ? 教え子が日に日に成長していくのを見守る毎日が楽しいってよ。オレの師匠も、昔似たようなこと言ってたんだよ。だからあの時、なのはの顔と師匠の顔が重なって見えたんだ。オレの師匠……ウルの顔とな」
「私がウルさんと……?」
グレイの言葉になのはは首を傾げながら、彼の言葉を聞いている。
「だからかな……お前がティアナを撃ち落そうとしているのを見たとき、オレの心がざわつくのを感じた。んで、気がついたらナツと一緒に模擬戦に割り込んでた。たぶん見たくなかったんだろうな……オレを命懸けで救ってくれたウルと似ている奴が、教え子を撃ち落そうとするところを……」
そう言って軽く微笑を浮かべながら語るグレイに、なのはは胸の内から何やら熱いものが込み上げて来るのを感じた。
「そっか……ウルさんは優しい師匠だったんだね」
「あぁ……ウルは最高の師匠さ。家族を殺されたオレを拾ってくれた恩人でもあるからな」
「え……? 家族を……!? それってどういう……!?」
グレイが何気なく言った言葉に、なのはは目を見開いた。
「あぁ……当時オレが住んでいた街の近くでは、厄災の悪魔〝デリオラ〟っつう怪物が暴れ回っていた。そいつはオレの街にも現れ、街は壊滅した。唯一の生存者であるオレはウルに拾われたんだ。それからは色んなことを教えてもらったのさ。魔法の基礎や、造形魔法の素晴らしさなんかをな……」
「……本当に優しい師匠だったんだね」
「あぁ……だが、オレが全部ぶち壊しちまった」
「え?」
「当時のオレは心に闇を抱えていた。デリオラへの復讐という心の闇を……」
「…………」
それを聞いたなのはは察した。家族と街を全てを壊されて、怨まない方がおかしい。
「近くにデリオラが居ることを知ったオレは、ウルや兄弟子の制止も聞かずに飛び出したんだ。そしてデリオラに戦いを挑んだ。当然敵わなかったけどな。けど、そこへウルが駆けつけてくれた。デリオラがオレの闇ならば、自分にも戦う理由があるって言ってな」
それを聞いたなのはは、頭の中に最悪の結果を想像した。
「まさか……ウルさんは……」
「あぁ……ウルは命を懸けて、デリオラを封印した」
それを聞いたなのはは無意識に口元を押さえた。
「
―お前の闇は私が封じよう―
「ってな……」
「あっ、それって……!」
「あぁ、あの時お前に言った言葉さ。ウルのお陰で、今のオレがあるんだ」
グレイの話が終わると、なのはは俯きながら口を開く。
「そっか……じゃあ私はダメな先生だね。最近ティアナの様子がおかしいことはわかっていたのに、私は何もしてあげられなかった。ティアナの近くにいると思い込んでて、実際はあの子のことをまったくわかっていない……ううん、わかろうともしてなかったんだ……!!」
なのはの後悔と自己嫌悪が入り混じった言葉を聞いたグレイは、再び口を開いた。
「だったらこれからわかって行きゃあいいんだよ」
「え?」
グレイの言葉に反応して、顔を上げるなのは。
「自分の想いを伝えて、相手の想いを知る。しっかりと自分の想いをぶつけて、相手の想いをぶつけて貰えればいい。今からでも間に合うさ」
「っ……グレイさん……!」
グレイの言葉を聞いたなのはは目尻に涙を溜め……
「ありがとう…ございます…!」
感謝の言葉を口にした。
「よせよ。オレは思ったことを言っただけだ」
グレイは照れくさそうに言う。すると、なのはは涙を拭い、真っ直ぐとグレイを見た。
「グレイさん……みんなに話す前に、聞いてもらってもいいですか? 私の過去を……」
「……あぁ」
グレイは何も言わずにただ頷いた。
それからなのははグレイに全てを話した。
9歳の頃に、偶然魔法と出会い、魔法少女となったこと。
とある事情によりフェイトと戦ったこと。
様々なことがあった末、なのはの想いが届き、2人が『友達』になれたこと。
半年後。はやてやシグナム達が大きく関わった『闇の書』事件の際も、当時安全性が危うかった『カートリッジシステム』の使用により、辛くも危機をくぐり抜け、彼女たちとも親しくなったこと。
だが、幼いころから高威力の魔法を使ってきた彼女の体には、当然ながら見えない疲労が蓄積していたこと。
そしてそれが原因で少しだけ動きが鈍り、重傷を負ってしまったこと。
過酷なリハビリの末、今のように空を飛べるようになったこと。
フォワードの皆には、自分と同じ思いをさせたくない。だから、多少しつこいくらいに思えても、怪我をしないように基礎をしっかり固めておきたい、ということ。
「……以上が、私の過去の出来事」
「……そうか」
グレイはそれしか言えなかった。なのはが歩んできた道は余りにも過酷で、「大変だった」なんて言葉では片付けられない程に。
だから変わりに……グレイはこの言葉をなのはに送った。
「頑張ったな」
「っ……!!」
グレイの予想外の言葉に、なのはは驚く。
「お前のその真っ直ぐな想いなら、必ずあいつらに届くハズだ」
「あっ……!!」
グレイはすれ違いざまになのはの頭を軽く撫でたあと、なのはに背を向けた。
「んじゃ、オレは戻るわ。後でちゃんとはやてに報告しに行けよ」
そう言い残して、グレイは隊舎へと戻っていった。それを見送ったなのはは……
「ありがとう…グレイさん……」
と、軽く頬を染めてそう呟いたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方その頃、医務室では……
「ん……あ…あれ?」
眠っていたティアナが目を覚ました。
「あ、ティアナさん。目が覚めましたか?」
そんなティアナの顔をウェンディが覗き込む。
「ウェンディ……ここは?」
「ここは医務室ですよ」
ティアナの質問にウェンディが答えると、医務室の扉が開き、シャマルが入ってくる。
「あらティアナ。起きた?」
「シャマル先生? えっと…」
「昼間の模擬戦で撃墜されちゃったのは覚えてる?」
未だに状況が把握出来ていないティアナにシャマルが問い掛けると、ティアナは思い出したように目を見開く。
「……はい」
「なのはちゃんの訓練用魔法弾は優秀だから、身体にダメージは無いと思うんだけど」
と、ここでティアナはズボンを穿いていないことに気がつき、頬を染める。
「はい、ティアナさん」
すると、そんなティアナを心中を察したウェンディがズボンを差し出した。
「あ、ありがとうウェンディ」
それを戸惑いながら受け取るティアナ。
「どこか痛いトコある?」
「……いえ、大丈夫です」
そう答えながらティアナはズボンを穿くと、ふと時計が目に入る。
「え、9時過ぎ!? え、夜!?」
「すごく熟睡してたわよ。死んでるんじゃないかって思うくらい。最近ほとんど寝てなかったでしょ?たまってた疲れがまとめて来たのよ」
自分が予想以上に眠っていたことに驚くティアナ。
「あら? そう言えばなのはちゃんは? さっきまでそこで寝てたはずなんだけど……」
シャマルはなのはが眠っていたベッドが空になっていたのに気付く。
「なのはさんなら、さっきもう大丈夫と言って、部屋に戻りましたよ」
その問いにウェンディが答えると、シャマルは「そう…」と言って返す。すると、その会話を聞いていたティアナが問い掛ける。
「あの、なのはさんが眠ってたってどういうことですか?」
「なのはちゃんも、ティアナと同じように気絶して隣のベッドに寝てたのよ」
「気絶!? なのはさんが!? どうして!?」
なのはが気絶したということが信じられないティアナは声を上げる。そしてティアナがその事に関して問い詰めようとしたその時……
ヴーーヴーーヴーー!
六課全体に、警報が鳴り響いたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それからしばらくすると、ガジェットが出現したという報告が入り、フォワード陣と妖精の尻尾
フェアリーテイル
のメンバーはヘリポートに集合した。
「今回は空戦だから出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の三人」
「みんなは
「そっちの指揮はシグナムだ留守を頼むぞ」
「「はい!」」
「「はい……」」
元気に返事をするライトニングの二人に対し、スターズの二人の声は沈んでいた。すると……
「待てよ」
グレイがストップをかけた。
「なのは、お前は今回は外れとけ。代わりにオレが出る」
『えぇ!!?』
グレイの提案に全員が驚愕した。
「ズリィぞグレイ!! だったらオレも行くぞ! オレも暴れてえんだ!!」
「そんなんじゃねえよ」
反論するナツを軽く無視してグレイは真っ直ぐなのはを見据えて言う。
「なのは、お前にはやるべきことがあるだろ?」
「で、でも……!」
「でももクソもねえ。とにかくお前は外れろ。いいな?」
グレイは有無を言わさずなのはを丸め込むと、フェイトとヴィータに視線を向ける。
「と言う訳だ。オレがなのはの代わりに出る。戦力としては申し分ねえだろ?」
「そりゃそうだけどよ、お前空中戦できんのか?」
「ハッピーを連れて行くから問題ねえだろ」
「えぇっ!? オイラも!!?」
「けど、今からメンバー変更するにはちゃんとはやてに許可取らねえと」
「なら今から許可を取ってくれ。それ位出来るだろ?」
「……わかった。聞いてみる」
そう言うと、フェイトははやてに念話を送り、会話を始める。そしてしばらくすると、フェイトが口を開く。
「うん、許可が下りたよ。その代わり、出撃を認めるのはグレイとハッピーだけだって」
「十分だ」
そう言ってグレイは笑みを浮かべる。そして、それを面白くなさそうに見ているナツ。
「ちぇ、いいよな~オレも暴れたかったのによ」
「そう言うな。グレイにも色々と考えがあるのだろう」
ふて腐れるナツをエルザが嗜める。
「それにさ、ナツが出るとなったらヘリに乗らないといけないんだよ?」
「うっ……や、やっぱいいや。うぷっ……」
「想像で酔うのやめなよ」
そんなナツとハッピーの漫才のようなやり取りが繰り広げられた後、フェイトとヴィータ…そしてグレイとハッピーを乗せたヘリは現場に向かって飛びだって行った。
「(ありがとう…グレイさん……)」
なのはは心の中でグレイに感謝すると、FWメンバーに向き直った。
「みんな、話したい事があるの」
◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻。ジェイル・スカリエッティのアジトでは、スカリエッティがルーテシアと通信をしていた。
「おや、これは珍しい。君から連絡をくれるとは嬉しいじゃないか。ゼストとアギトはどうしたんだね?」
『……今は別行動。遠くの空にドクターのおもちゃが飛んでるみたいだけど』
「気にしなくていい。
『……レリック』
「だったら、真っ先に君に報告しているさ。私のおもちゃの動作テストなんだよ。破壊されるまでのデータが欲しくてね」
『壊されちゃうの?』
「ふっふっふ、私はあんな鉄クズに直接戦力は期待してないんだよ」
「誰が鉄クズだコノヤロウ」
と、突然部屋に響く乱暴な声。スカリエッティがそちらに視線を向けると、大量の鉄を持った黒髪の男性が立っていた。
「いや、君のことではないのだが…まぁ、気に障ったのなら謝ろう」
『ドクター、その人は?』
「あぁ、彼は次元漂流者さ。この間近くで倒れているところを拾ったんだ」
「人をモノみてえに言ってんじゃねえよ」
そう言うと、男性は手に持っていた鉄を口へ運び……
「ガジガジ……」
なんとそのまま鉄を食べ始めたのだ。
「相変わらず、変わった食生活だね」
「ほっとけ」
男性がそう言うと、スカリエッティはルーテシアとの通信に戻る。
「さて、さっきの続きだが…アレは私の作品たちがより輝くために
『……そう。レリックじゃないなら、私には関係ないけど…でも、頑張ってね、ドクター』
「あぁ、ありがとう。優しいルーテシア」
『じゃあ、ごきげんよう』
その言葉を最後にルーテシアとの通信が途切れる。その瞬間、スカリエッティの顔に不気味な笑みが浮かぶ。
「ふっふっふ……私の作品は、やはり良い出来だな」
スカリエッティがそう言うと、鉄を食べている男性が口を開く。
「オレの世界のヤツらも大概だが、テメェも相当イカれてるぜ」
男性がそう言うと、スカリエッティは男性に視線を向ける。
「ふふ…人間、少しはイカれてる位が丁度いいのさ。それより、君の相棒はどうしたんだい?」
「向こうで小娘どもの訓練の相手をしてるよ。あれでも昔は一国の師団長をしてたからな」
「そうか。まぁ、私は君たちには期待しているからよろしく頼むよ……ガジル君」
「ギヒッ」
スカリエッティにそう言われ、男性・『ガジル・レッドフォックス』は楽しそうな笑みを浮かべた。
そして彼の左肩には、ナツ達と同じ
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……以上が、高町なのはの失敗談でした」
そう言って、なのはは話を聞いていたメンバーの方に顔を向ける。
なのはによる昔話と、彼女の気持ちが語られた後、メンバーはずっと俯いていた。
「無理をし過ぎて、今後に支障を与えないように導く。これが教導官として1番大事な事。話そうとは思っていたんだけど、正直この話をするのが怖かったの。それで先送りにして行った結果がこれ……グレイさんに言われて、ようやく決心がついたの」
何故ここでグレイの名前が出てくるのかメンバーは疑問を感じたが、あえて口には出さなかった。
「導いていくはずの立場なのに、生徒を傷付けて…生徒のことも知ろうとせず勝手に決め付けて…。こんなんじゃ私、教導官失格だよね」
「そんな事ありません!」
なのはの言葉をティアナが力強く否定する。
「なのはさんは悪くありません! 全部私が悪いんです! 私が……!」
ティアナは溢れ出てくる涙を拭おうともせず言葉を続けようとするが、中々出てこない。すると、なのはが口を開く。
「ありがとう、ティアナ。でも、これは私なりのケジメだから、ちゃんと謝らせて」
「……はい」
「あとね、ティアナが考えたこと、間違ってはいないんだよね」
そう言うなのはの手にはいつの間にかクロスミラージュが握られていた。
「システムリミッター、テストモードリリース」
『Yes』
「命令してみて。モード2って」
なのははそう言ってティアナにクロスミラージュを渡す。ティアナは戸惑いながらもそれを構え…
「…モード…2」
と言った。
『Set up. Dagger Form』
直後、ティアナは起こったことに絶句する。クロスミラージュから魔力で造られた剣が出現したのだ。
「コレ……!」
「ティアナは執務官志望だもんね。此処を出て執務官を目指すようになったら、どうしても個人戦が多くなるし将来を考えて用意はしてたんだ」
「っ……う、うわぁぁぁあ………!!」
なのはの想いに、ティアナは再び涙を流した。泣きじゃくる彼女を、なのはは優しく抱きしめたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「………んで、なーんでオレがこんなことしなくちゃ何ねーんだ?」
廊下を歩くナツは一人愚痴る。いや、正確には一人ではなく、ナツの背中にはティアナが眠っていた。
あの後ティアナは泣きつかれたのかそのまま眠ってしまい、何故かナツが彼女を運ぶ役に任命されたのだ。
当然ナツは「同じ部屋のスバルが運べばいいだろ!?」と反論したのだが、当のスバルが「私はちょっと用事があるから」と言ってどこかに走り去ってしまったのだ。
さらには「ナツ君、お願いね」「大変ですけど、頑張ってください」「ファイトです、ナツさん」「男の役目だ。行け、ナツ」と様々な人から様々なことを言われ、結局ナツが運ぶことになった。
「ん……あれ?」
「おっ! 起きたか、ティアナ」
「ナツ? あれ?私……」
「あの後お前が寝ちまって、何故かオレが運ぶことになったんだよ」
「そうなんだ……って、えぇ!!?」
その瞬間、彼女の寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。
「ちょ、何でナツが!?」
「知るか!! オレだって不本意だっつうの!!」
「って言うか、降ろしなさいよ!!」
「うおっ!? 暴れんじゃねーよ!! 今降ろすから!!」
閑話休題
「んじゃ、あとは自分で戻れるよな?」
「う、うん……」
「んじゃあな」
そう言ってナツは立ち去ろうとする。が…
「ま、待って!」
グイッ キュッ
「ぐおっ!!?」
ナツを引き止めるためにティアナはナツのマフラーを引っ張るが、それが原因でナツの首を絞めてしまった。
「何すんだコラーー!!?」
「ご、ごめん! でもちょっと言いたいことがあって……」
憤慨するナツに素直に謝罪するティアナ。
「で、言いたいことってなんだよ?」
「その……ゴメン! それと、ありがとう」
「……は?」
突然のティアナの謝罪と感謝の言葉にナツは目を丸くする。
「あの時、ナツが私に言ってくれた言葉の意味がようやくわかった……お前みたいに周りが見えてないヤツは、一生強くなんてなれない。私、見えてなかったのね……私を心配してくれている〝仲間〟のことを……」
ティアナは一呼吸置いて、言葉を続ける。
「ナツは私のことを思って言ってくれたのに、私はそれを聞き入れようとしなかった。だからその謝罪と……その、模擬戦の時に助けてくれたでしょ? だからその……」
モジモジと言葉を捜しながら話すティアナ。そんなティアナを見たナツは……
「気持ちわりー…」
と言った。
「な、何ですって!!?」
当然ティアナは憤慨する。
「だってオメェ、ガラにもなくモジモジしやがって…似合わねぇ」
「あ、アンタねぇ……」
ティアナはプルプルと身体を震わせる。そして……
「人がせっかく素直にお礼を言ってるのに、普通に聞くことも出来ないの!? このバカナツーー!!!」
と力一杯怒鳴った。するとナツは何故か二カッと笑って言った。
「やっといつものティアナになったな」
「え?」
そう言われたティアナは一瞬呆然とする。
「やっぱそうやって気が強え方がティアナらしくて、オレは好きだぜ?」
「なっ……!?」
ナツの言葉を聞いたティアナは顔を赤くした。
「ば、バカナツ! 変なこと言わないでよ!!」
そう言ってティアナは赤くなった顔を隠すようにナツに背を向ける。
「あ? オレが何言ったんだよ? ってか、何で後ろ向くんだよ?」
ナツがティアナの顔を覗き込もうとすると……
「う、うっさい!!!」
ボゴォ!
「ぐはっ!?」
顔面を思いっきり殴られた。
「いってぇ!! 何すんだよティアナ!!」
「………ア…」
ナツが憤慨していると、ティアナは何かを呟いた。
「あ? なんだって?」
「ティア!! これからはそう呼んでっ!!」
「な、なんでだよ?」
「いいから呼びなさい!!」
ティアナのいきなりの申し出にナツは戸惑いながらも……
「ティア」
と呼んだ。すると、ティアナの顔がこれでもかと言うほど真っ赤になった。
「そ、そう! それでいいのよ! それじゃあ私はもう部屋に帰るわ!! じゃあね! お休み!!!」
ティアナは早口にそう言うと、ナツを取り残して走り去って行ってしまった。
「な、何なんだよ?」
そんなナツの呟きは、誰もいない廊下に虚しく響いていった。
つづく