生命を守る盾   作:ノナリア

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みなさん大好きなあの人までの繋ぎのおはなし。


第十一の盾 仮面

 アインズ等と共に向かうエンリが目にしたのは村へと直撃する光の槍だった。

 村にはアイギスが向かったはずだが、これも彼女の魔法なのだろうか。

 そうだとしたらあの魔法を受けた村の人は無事なんだろうか。

 もしかするともう既に……。

 そういった様々な不安がエンリの頭をよぎる。

 

「……急がないと!」

 

 アインズの静止を振り切り村へ駆け出していく。村周辺の騎士たちはアインズが捕らえてくれたのだ。

 ならば次は村の心配をしなければならない。

 父や母はいったいどうなったのか。無事を祈りつつエンリは村の入口までたどり着く。

 村の人達はすぐに発見できた。おそらくアイギスの魔法で守られていたのだろう。

 彼らは光の球体に覆われていた。

 しかしどういうわけかあの騎士達がどこにもいない。

 もしかするとアイギスさんが追い払ってくれたのだろうか、と息をつく。

 

「アイギスさんはどこに……」

 

 探せど探せど見当たらない。

 正確には見えているのだが、エンリには村の中央にいる人物がアイギスだとは到底思えなかった。

 似ている点はいくつかあった。アイギスと同じく翼は3対であったし、身長もほとんど同じだろう。

 首を垂らして直立している姿からは顔を見ることはできなかったが、もし見えたなら確信が持てていたことだろう。

 だがあの人物からはアイギスのような優しい雰囲気は微塵も感じられなかった。

 

「あ、あの……」

 

 エンリが恐る恐る近づいていく。

 一歩、また一歩と正体不明の人物へ。

 このときの彼女には不安と心配、そして恐怖がどこかにあったのかもしれない。その人物の肩へ触れようとした瞬間、垂れていたはずの首がぐるんとこちらを向いたのだ。

 

「ひっ……」

 

 彼女が驚いたのは急に顔がこちらを向いたことだろうか。

 それともその表情によるものだろうか。

 しかし彼女が感じたのは驚愕ではない。身に迫る脅威、恐怖、あるいは死、そのものか。

 盛大に尻もちを着き、目を逸らしながら後ずさっていく。

 あの顔を見てはいけない。ちらっとしか見ていないはずなのに冷や汗が止まらなかったのだ。

 ならば自分ができるのは今すぐここから逃げ――。

 

「――エンリ!?」

 

 目を逸らしたほうから声がした。それは今。彼女が最も聞きたかった声だった。

 先程の恐怖からまだ目を前に向けることが出来ない。だが確かに声はその方向から聞こえてくる。

 

「エンリ! 大丈夫なの!?」

 

 両肩を同時につかまれ、再び名前を呼ばれる。なぜかこの時すでにエンリの中にあった恐怖心はほとんどなくなっていた。

 

「あ、アイギスさん、ですよね?」

 

「何変なこと言ってるの? 転んだ時に頭も一緒に打ったのかしら?」

 

 混乱する頭の中を整理しながらも会話を続ける。

 

「でもさっきそこにアイギスさんそっくりな人が……、あれ?」

 

 アイギスの後ろを覗くがそこには誰もいない。目を戻す時に見えたアイギスの翼も白色だった。

 

「……やっぱり頭を打ったみたいね。ほら、見てあげるから身体をちゃんとこっちに向けなさい」

 

「だ、大丈夫です! 私の勘違いみたいで、あはは……」

 

「そう? ならいいけれど、何かあったらすぐに言うのよ?」

 

「そうですよね……。気のせい……、ですよね」

 

 きっと先程見えたものは幻覚だったのだろうとエンリは思うことにした。そう思わずにはいられなかった。

 あれは自分が勝手に想像した幻覚なのだと。騎士達に追われていた恐怖心から生まれたものだったのだろうと。

 しかしそんなエンリの頭から、ちらりと見えてしまった顔が離れることはなかった。

 

「それでアイギスさん、この村にいた騎士は……」

 

「全て救済したわ」

 

 それがどういう意味を持つのかなんとなくエンリにはわかってしまった。

 つまりアイギスはこの村にいた騎士を皆殺しにしたのだと。しかしなぜ彼女がこうも遠回しに言っているのかは理解できなかった。

 

「えっと、村の人達は……」

 

「ああ、彼らは私の魔法で守っていたから無事だと思うわ。着いたときに死んでいた人はもう、ね」

 

 エンリは急いで生きている村の人の方へを駆け出していった。父と母の安否を確認するため様々な人に聞いて回っている。

 こうなっては彼女が事実に気付くのは時間の問題だろう。

 

「よかったのか?」

 

「……アインズさん」

 

 後からやってきたアインズからの問いかけに対し、彼女は返す言葉が見つからなかった。

 

「よかった、よくないで言えばよくない結果です。騎士はいなくなりましたし、村の人々も助けることができました。ですがこれほどまでに犠牲者が出ているなんて、村に着くまでは思いもしませんでした」

 

「あなたの魔法で復活させることができるのでは?」

 

 ――死者蘇生魔法。ユグドラシルでも重宝されたその魔法は死者をアンデッド化させることなく復活させるというもの。おそらくこの世界でも通用するだろう。

 

「そういう方法もあるんでしょうね。ですが――」

 

「死者への冒涜、ですか?」

 

 ここでその話を持ち出すか。やはり彼の前でその言葉を使ったのはまずかったかもしれない。

 

「……それはあなたが死者を蘇らせることに対して恐怖を抱いているからでは?」

 

「お前に何が分かる!!」

 

 先程まで助かった喜びで賑やかになっていた村全体がしんと静まりかえる。

 今までの彼女がこんな言葉を発するなど誰も思いもしなかっただろう。

 

「私にお前の気持ちなどわからんよ。過去にばかり囚われているお前の考えなど知りたくもない」

 

「私はそんなものに囚われてなんかいない!」

 

「であればどうして、いつも誰も傷つけないようタンク職をしていたのだ? なぜヒーラーに移行するのをあれほどまでに拒んだ? 答えは明白だろう」

 

「黙れ! 今すぐその口を閉じろ!」

 

「それはお前自身が死を恐れているからだ」

 

 私が死を恐れている? そんなわけない。だって私には4人の仲間とエリシアが。それに……

 あれ? どうして他の人の顔が出てこないんだろう。私にも現実の世界に家族がいたはずだ、友達も……、いたはず。

 いたはずなのに顔どころか声すら思い出せない。サービス終了日だって仕事を早めに切り上げて家に帰って、父と母にただいまと言って。思えばあの日も返事がなかったっけ。

 返事がなくなったのはいつからだったか、それすら思い出せない。

 友達にも週に一度は連絡を取り合っていたけどそれも気付けば返事がこなくなっていた。

 

 ああそうか。あの日以降、私はずっと一人だったんだな……。

 返事が返ってくるわけでもないのに仏壇に毎日手を合わせてお喋りをして、返事が返ってくるわけでもないのに友達との写真をずっと眺めて話しかけたりして。

 

「全部……、思い出しました……」

 

「あの言葉は、きっとあなたの、あなた自身へ対するものだったのでしょう」

 

 皆が死んだということを受け入れられずに、ずっとユグドラシルに逃げて、その中でも何かから逃げ続けて。

 

「死を受け入れられずに死者を冒涜してたのは私だっていうのにね……。ああほんと、情けないなあ……」

 

 繰り返し繰り返し口にしてきた言葉が自分に対するものだとはなかなか気付けないだろう。

 それこそ他人に指摘されるまでは。

 今までこういったことを指摘されたことがなかったアイギスは、ここでようやくその事に気づくことが出来たのだ。

 

「ありがとうございます、アインズさん。ようやく落ち着きました。先程はとんだ失礼を」

 

「私は気にしていませんから、頭を上げてくださいアイギスさん。それよりあなたも人並みに悩みなんてあるんですね。いやあ正直驚きましたよ、ほとんどその場の流れで話してましたから、ははは」

 

「うん? いまなんて……?」

 

「いや、その場の流れで――」

 

「その前です!!」

 

「ええとですね、アイギスさんも人並みに悩むんだなあと……」

 

「少し頭に来ました。ほんの少しですよ? ええ怒っていませんとも。ですからアインズさん、ちょっとそこを動かないでくださいね? アルベドも手出ししないように。大丈夫、殺したりはしないから」

 

 アルベドに下がらせ邪魔が入らないようにしておく必要がある。ここでアルベドが乱入しちゃうと後が大変だからね。

 それに私だって人並みに悩むことだってある。今回が特殊で、ちょっと取り乱しただけだというのに。

 

「アイギスさん、村の人も見ているんですよ!?」

 

「それぐらいたいした問題ではないでしょう? あとで記憶でもなんでも弄ってくだされば、ね? 大丈夫です。痛いのは一瞬ですから」

 

「えっと、それはつまり……?」

 

 指でアインズの上空を指す。それにつられ彼がそちらの方向へ顔を向ける。

 

「引っかかったな阿呆めがああ!」

 

 アインズに炸裂したのは聖なる極撃(ホーリー・スマイト)天より極撃(ヘブンリー・スマイト)ではなく、不意を突いたアイギス渾身の蹴りであった。

 

「さて、死んでしまった人の所まで私を案内してくれるかしら?」

 

 突然のアイギスの行動にしばらく動けない村人達であったが、村長が筆頭となり彼女を連れて回った。

 そうしてカルネ村は無事に一人も欠けることなく此度の事件を乗り越えることが出来たのだが。

 

「各員傾聴、獲物は檻に入った。汝らの信仰を神に捧げよ」

 

 またしてもカルネ村へと不穏な影が二つ。別々の方向から近付いていた。




最後に話してる人ですが、この人天使とか召喚しそうな感じがしますね!?
誤字に気付いて即修正

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