無機質な機械音が聞こえてからどれくらい経ったのだろうか?放心状態とも言える私はただ茫然と腕輪を見つめることしかできなかった。
「え、ええっと。アイギスさん、あなたはもしかしてまだ――」
失敗した、失敗した。どうして、ユグドラシル内ならどんな願いでも叶うんじゃないのか。まだやりたいことだってたくさんある。やり終えてないことだってある。それなのにどうして、この願いは聞き届けてもらえないのだろうか。放心状態の彼女にはモモンガの声は聞こえてすらいないだろう。なんとか他の策を、なんとしてもサービス終了を阻止しなければ、そういった考えしか今の彼女にはなかった。
サービス終了の知らせからまだ1日すら経っていないというのに、モモンガにはそれが何年も願い続けた希望が突然絶たれたように見えたことだろう。もちろん彼にだって悔いはある。みんなで作り上げたナザリックがなくなるのは悲しいし、何より思い出の場所がなくなるというのはとてもつらかった。それでも……
「……アイギスさん、あなたが何を思ってその願いを叶えようとしたかのはこの際聞きません。私ももしかしたらその考えに至っていたかもしれないんですから。私も諦めたくはなかったです。ですが私は皆と作り上げたこの場所を、最後まで守り抜くのが私の仕事だと思っています。いつ消え去るともわからないですが、誰も来なくなって忘れられてしまう。そういった終わり方が一番悲しいのではないでしょうか。私たちにとっても、ユグドラシルにとっても」
確かにその通りだ。でも私は……
「ありふれた言葉かもしれませんがこのナザリックにもメンバーそれぞれの思いがたくさん詰まっています。一緒に狩りをしたり、クエストをこなして、他愛のない話をして、そういった思い出を忘れないことこそが一番大切なのではないでしょうか」
皆がこのユグドラシルを忘れないように、プレイヤー達それぞれが作りだした思い出を記録としては残せなくても、私たちの記憶として……ああ、なんだか私だけ深く考えて馬鹿みたい。こんなことをしたいがためにユグドラシルをやってたわけじゃないもんね。たとえユグドラシルが終わってしまっても私の思い出は、皆との思い出が消えるわけではない。
「ふぅ、なんだか私だけ考えすぎていたみたいですね。それにしてもアンデッドだというのにまるで聖人みたいでしたよ? モモンガさん」
「そんなジョークが言えるようならもう大丈夫そうですね、アイギスさん」
「ありがとうございます、モモンガさん。おかげで目が覚めました」
ああ、私はもう大丈夫。諦めたというわけではない。ただ今はこの一瞬を、ユグドラシルで過ごすこの時間を記憶に残していこう。まだ3ヶ月もあるんだ。短い期間だけどこのユグドラシルという世界を思う存分満喫してやろう。未だ発見されてないダンジョンも、アイテムもある。もしかすると誰も発見できなかった世界級アイテムを手に入れることができるかもしれない。最後の最後に大暴れしてやるのもいいかも。ならば私は――
「永劫の蛇の腕輪よ! 私は願う!」
――願いは聞き届けられました。これよりその効果を適用します。