第五の盾
どういうことだろうか。0時を過ぎたというのに強制的にログアウトさせられない……?もしかしてサービス終了が延期に!?
「よっしゃあああああ!! 明日が仕事だとか関係ない! 気が済むまで遊んでやる!」
まずはサービス終了延期記念にアインズ・ウール・ゴウンに殴り込み! そして結局使えなかった光輪の善神の発動! それからそれから――
「どうかなされたのでしょうか? アイギス様」
この場は生命の樹の中枢、5つの椅子と大きなテーブル以外はほとんどなにもない場所のはずだ。ケルヴィやソロネさんはいないはずだし、ミカエラとジブリールもついさっき見送ったばかりだ。とするとこの声の正体は……
「も、もしかしてエリシア……?」
「はい! あなた様に生み出して頂いたエリシア・ファティマでございます!」
彼女こそ、生命の樹で唯一のNPCである。良くも悪くもアイギスの願望そのものが詰まった外見となっているため、出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいて、とアイギスからすれば非の打ち所がないような存在である。
いや問題はそこではない。なぜNPCである彼女と私は普通に会話しているのだろうか。もしかすると0時になったと同時にNPCの会話機能が追加されたとか? いやでも口とか動いていたし、そういうことならコンソールから運営のお知らせを確認すればいいじゃないか。そう思った私はいつものようにコンソール画面を開こうと目の前の空中を指でつつくが何も反応がない。
「……コンソールが出現しない?」
どういうわけかコンソールが出現しない。それどころか直後に行ったGMコールすら反応がない。
「ごめん、エリシア。ちょっと手間をかけるようだけど生命の樹の外がどうなっているか見てきてくれないかな? お礼は後でしっかりするからさ」
「お、お礼などとんでもございません! 私にとってはあなた様のために働くことこそが一番の幸せでございますので! で、ですが強いて言えば私にもミカエラ様やジブリール様になされていた、その、頭ナデナデというものをして頂けると……い、いえ! 今のは忘れてください! それでは偵察任務、喜んで行ってまいります!」
あ、あれ? 私が設定した時と性格が変わりすぎていないかなあ? たしか高貴で強くてかっこよくて、そんな感じの設定だったはずなのに。でもそういえば一時期だけ皆にエリシアの設定をちょこっとだけ弄ってもいいよと言ったことがあったような……
「なんであんな乙女チックな子になっちゃったかなあ……」
先程までエリシアがいた場所に落ちていた羽根を手に取りながら考える。エリシアに偵察に行かせたのはアイギスの頭の中に一つの仮説が浮かんでいたからだ。コンソールも開かず、GMコールも通じない。こんなことはユグドラシルでもめったになかった。そして自由自在に動いたり話したりするNPCと謎の性格設定。あと一つ、何か確証得られるようなことがあれば、
「《メッセージ/伝言》エリシア」
《メッセージ/伝言》の魔法を使いエリシアとの通話できる状態にしておく。
「はいこちらエリシア、一通り見て回りましたので報告に戻らせていただこうと思いますがいかがいたしましょうか?」
「そうだね、じゃあいくつか質問するから答えてみて。生命の樹を出てすぐに見えていた浮遊城は見えているかしら?」
「浮遊城……ですか? 噂には聞いていましたがそのようなものはどこにも……」
「では二つ目、生命の樹の根元付近には教会があったはずだけどそっちはどう?」
「教会も……ありません。生命の樹の近辺は見渡す限り草原が広がっています」
「じゃあこれで最後の質問よ。エリシア、あなたの設定を弄ったのは誰かしら? これに答えられ次第帰ってきていいわ」
「ええと? ケルヴィ様とソロネ様です。あの時は新しいおもちゃを見つけた子どものように目を光らせていらっしゃいました。 では任務完了致しましたのでこれより帰還いたします」
やっぱりあの二人か……、ソロネさんはともかく大半の書き換えはケルヴィによるものだろう。全く、私がこんな目にあっているというのにとんでもない置き土産を残していってくれたみたいね。
しかし、これで確信した。ここはユグドラシルではない別の世界。そして私とエリシアはその世界に生命の樹ごとやってきてしまったのだと。
「エリシア・ファティマ、ただいま帰還致しました!」
勢いよく部屋の扉を開きエリシアがこちらに向かって歩いてくる。やはり彼女に行ってもらってよかった。偵察に行かせてからまだ10分すら経っていないのだ。ならば早急に次の行動に移していく必要がある。だがその前に……
「ありがとねエリシア、それじゃあお礼についてだけど――」
「いえ! その感謝の言葉だけで報われます!」
なかなか素直になってくれないなあ、あの二人に設定されたとはいえここまで断られると、ねえ。
「はぁ、仕方ない。エリシアちょっとそこに屈んで」
まるで王に仕える臣下のようにエリシアは片膝を着き頭を垂れる。その状態のエリシアの正面までアイギスは歩を進める。こういう子は強行手段に打って出ないと自分を内側に内側にと押しとどめてしまう。そうなればただストレスが溜まっていく一方だ。
「あ、あの、アイギス様。失礼ですがいったいこれにどんな――」
エリシアが次の言葉を発する前に正面から抱き着く。ケルヴィに何千回と抱き着かれた私だ。自然とベストな抱き着き方もわかる。これだけ密着していると彼女の体温が直に伝わってくる。彼女はこの世界で生きているのだと、そう認識するのにこれ以上のものはなかった。そして時間が経つにつれて彼女の心臓の鼓動が速くなっていくのが感じ取れた。
「あああアイギス様!? きき急にどうして――」
「本当にありがとね、エリシア。今までずっと私たちも見守り続けてくれて、思えばこのギルドはずっとあなたに頼りっぱなしだったわね。いまはこんなことしかできないけど、いつかはエリシアの本心を聞かせてくれると嬉しいな。そして願わくば、これからもずっと私と共にいてほしい」
彼女の頭を右手で優しく撫でる。何度も何度も、彼女の鼓動が治まっていくまで。
「すこしぐらいは素直になってもいいのよ。ちょっとぐらい甘えてもいいじゃない。今は私とあなたしかいないんだから。でも、ふふっ、あのエリシアが頭をナデナデして欲しいなんて、エリシアもまだまだ甘えん坊さんね」
その言葉を聞いた瞬間エリシアの体がピクッと跳ねる。そしてすぐに私の手を振りほどき入口の扉の前まで瞬時に移動する。
「わ、私はもう子どもじゃないんですから! ほ、本当は頭を撫でて欲しくなんて! ちょっとは嬉しかったけど……」
なんだか本心が見え隠れしてきてるね。あれ、まさかあの二人が変更した設定って……
「で、でも勘違いしないでくださいね! アイギス様が撫でようとしてこられるものですから仕方なく、そう! 仕方なく撫でられてあげてただけなんですからね! 本当ですよ! じじじじゃあ私は部屋に戻りますので、これにて失礼します!」
すごい勢いで扉を開いていったけど、大丈夫なのかなあの扉。でもこれで一つまた新たに分かったことがある。
彼女――エリシア・ファティマは、ツンデレになっていたと。
生命の樹に属する人は全て種族に天使が含まれています。
それはもちろんNPCにも。