生命を守る盾   作:ノナリア

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いくつかのルートを考えていたんですが、結局これが一番しっくりくるなあって


第六の盾

 さて、と。じゃあ早速状況の整理と今後の方針でも考えますか。

 まずここはユグドラシルではない別の世界、もちろん私がいた世界にもこんな場所があるなんて到底思えないからこれは間違いないだろう。また《メッセージ/伝言》が使える事からこの世界でもユグドラシルの魔法は使えるようだ。他の魔法でも検証する必要があるかもしれないが。

 そしてエリシアが言う通り辺り一面が草原ともなると他の生命体すら見つからなかったのだろう。この世界にも話が通じる相手がいるのか、確認しておかないといけない。

 あれこれと考えていくうちにいくつもの推測が頭の中を駆け巡って行く。しかしまず最初の生命の樹としての方針は……

 

「意思疎通できる生命体との接触……かあ」

 

 言葉が通じなかったりする場合はまだいい。最悪ジェスチャーでもなんでも手段は多々存在する。注意すべきなのはそこに住む人の価値観や倫理観がどういったものなのか、ということだ。極力戦闘は避けたいし、この世界のレベルがわからない状態では迂闊に動く事すらできない。その辺にいそうな村人がユグドラシルには存在しなかったレベル200クラス! なんてこともあり得るのだ。さすがに会って早々に戦闘になるなんてことはないと思うけど……

 

「まあそんな確証どこにもないからねえ」

 

 思い立ったが吉日。さっそく出かける準備をしよう。エリシアはお留守番ということで放置していても大丈夫だろう。いざとなったら《メッセージ/伝言》で連絡すればいいしね。

 3対の翼を展開し《ゲート/転移門》を用いて生命の樹の根元付近に降り立つ。

 

「太陽はあるみたいね。となるとあっちが東でこっちが西、樹の正面が北を向いている、と。それじゃあまずは北側から探しに行ってみましょうか」

 

 6枚の翼を羽ばたかせアイギスは空中へ飛び上がる。そしてその場からあたかも一瞬で消えたかのような速度で北を目指し進んで行った。この世界にはユグドラシルとは違う何かがある。そういった確信を胸に秘めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とてつもない速度で飛んでいるため何度か村のようなものを素通りしてしまっていた。途中とてつもなく巨大な法国家のような場所もあったが、誰が好き好んで人が多そうなところにいくものかと。そう思いそこも素通りしさらに北を目指して行った。誰かに見られている気もしたけどおそらく気のせいだったのだろう。

 それからしばらくしてようやくとある村の手前で止まることが出来た。この村がいくつめだろうとか、そんなことは考えてはいけない。決して。誰にも見られないよう付近の森の中に降り立つ。

 

「村を見つけることができたのはいいものの、真夜中だしなあ……自分で言うのもなんだけど、こんな時間に出歩いてるなんていかにも怪しいじゃない」

 

 いったいどうしたものだろうか。そう考えていると村の方角の草むらから物音が――

 

「あの、そこに誰かいるんですか……?」

 

 声からすると10代ほどの少女だろうか、村の近くなんだから人がこの森にいる可能性は十分にある。しかしなぜこんな時間に?

 

「あ、あのどなたかいらっしゃるなら手を貸してもらえないでしょうか? ついさっき足を挫いちゃったみたいで……」

 

 そういうことなら助けない手はない。声のした方向の草をかきわけ声の主を探す。何かの罠だとか魔物の擬態だとかそういう可能性もあった。ましてやここはユグドラシルですらない異世界。何があっても不思議ではない。それでも、見捨てるということはできなかった。

 

「大丈夫? 呼んでいたのはあなたね? ほら、治療してあげるから足の状態を見せてみなさい」

 

「あ……て、てんし、さま?」

 

 少女が大きく口を開け茫然としている。どこに天使がいるのかと見渡すがそのような存在はどこにも見当たらない。もしかして挫いた時の痛みで幻覚でも見えているのではないか。だったら大変だ、すぐに治療をしなければ。

 

「天使なんてどこにもいないわよ? きっとその足の痛みが原因で幻覚が見えているのね。大丈夫、私がちゃんと治してあげるから」

 

「……あなたは天使様ではないのですか?」

 

 なにを言ってるんだこの子は、確かに戦闘時とか移動中の私には翼が生えているが、そうでもないのに翼が生えてるなんてそんなわけないじゃない。そそ、そんなわけ……

 恐る恐る自分の背中に手を回す、マシュマロのような羽根のさわり心地、何度も触ったことがあるから間違えるはずはない。つまりこれが意味しているのは――

 

「――降りたときに消し忘れてたああああああ!!」

 

 やらかした。ユグドラシルの時はこんなヘマしなかったのに。ほら、目の前の子なんて目をきらきらさせちゃってるもの。これは治療してあげる代わりに口止めを……

 

「あ、あー! これ!? これはねー、そ、そう! 私なりのお洒落なの! はは、やだなあ私ったら。こんなところにまで付けてきちゃうなんて!!」

 

 ……できなかった。基本的に善意で行動する彼女だ。何かをしてあげたとしてもその見返りを強制するなんてことは今までに一度もなかった。それはこれからも。

 

「え、でも今消し忘れてたって……」

 

「やだなあ言葉の綾ですよ言葉の綾! だ、だいたいこんな翼生やして出歩く人なんていないでしょう! ほ、ほら今すぐ足を治してあげるからね! 《ヒール/大治癒》!」

 

 アイギスが素早く魔法を唱えると少女の足は痣どころか傷一つなかったかのような状態まで変化していった。

 

「足だけじゃなくて腕の疲れも……やはりあなたは――」

 

「足の痛みは消えたみたいね。よかったよかった、それじゃあ私はこれにて!」

 

 翼を動かさないように走ってその場を後にしようとする。こうなっては誤魔化しきれない、さっさとトンズラさせてもらおう。

 

「あ、あの! どうか私の家でお礼をさせてもらえないでしょうか! 村はすぐそこなのでぜひとも!」

 

 こういったことはユグドラシルでもよくあった。通りがかった狩場で全滅しそうなパーティーを助けたら、なんと神器級(ゴッズ)アイテムをお礼にと言われたことがあったし、争いあっている二人組を仲裁したらなぜか彼らの引退時、あの日のお礼として数えきれないアイテムを渡された。他にも様々な事があったが、それら全てで彼女がお礼を断ることはできていなかった。しかし今回こそは断ろう、そう思い少女の方へ振り向くが、

 

「せめて今日だけでも! もうこんな時間ですし魔物も活発になってますから!」

 

 ああ、今回も駄目だったよ。だって彼女の必死な目を見たら断れるわけないじゃない。

 

「し、仕方ないですね! あなたの言う通り魔物は危険ですからね! 今日ぐらいはお言葉に甘えさせてもらいます!」

 

「ふふ、天使様ってみんなすごく怖いのかなって思ってたんですけど、全然そんなことはないんですね。」

 

 あ、もう完全にばれちゃってるね。こうなってはもはや記憶を書き換える以外に方法はない。しかしこんな純真無垢そうな少女の記憶を弄るなんてことは絶対にできない。

 

「ま、まあ中には怖い天使もいるんですけどね! そういえば自己紹介がまだでした。私はアイギス・セラフィ、あなたは?」

 

「私はエンリ、エンリ・エモットです。じゃあ早速村に行きましょう! お父さんやお母さん、ネムにも紹介してあげなくちゃ!」

 

 ああ、私はどうなってしまうんだろう。




怖い天使って誰のことなんでしょうか! いやあ全くわからないですね!
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