あ、どぞ
トラファルガー広場。
イギリスのロンドン、ウェントンミスターにある広場である。
1805年のトラファルガーの海戦における勝利を記念して造られた。当初はウィリアム4世広場という名前だったが、とある建築家の提案によってトラファルガー広場となっていた。
中央に噴水と隣の記念注からなる広いスペースで出来ていて、ナショナルギャラリーという美術館に通じる階段がある。
この広場は政治演説が行われることで有名で、週末にはなにかしらの集会が開かれている、ロンドン住民にとって正しく憩いの場である。
その広場は今、壊滅的なまでに破壊されていた。
美しかった噴水は根元から破壊され、美術館に続く階段はその機能を果たすことを出来なくなっており、人が賑わっていたであろう広場はクレーターだらけで、元の姿が跡形も無くなっている。
その破壊の限りを尽くされた広場の中心、噴水の隣に立っていた、3分の2が無くなった記念柱の根元に一人の少年が座っている。
彼の服はボロボロで所々血が付着しているのに対し、身体には傷一つない。
少年―矢島奈落は散々な気分であった。
突如の仕事で、卒業旅行に両親が行けなくなり意気消沈。しかし、暇と言っていた幼馴染みの草薙護堂思い出し一緒に行けないか、と誘ってみるもイタリアに草薙一郎、護堂の祖父の知り合いに届け物をしないといけないから無理と断られた。
もうヤケクソ気味に一人で飛行機へ乗りイギリスに来たのが二日前、事前にガイドブック・ネットから集めておいた情報をもとに有名どころを頑張って回った。
かつて英国の王族が住んでいたらしいロンドン塔。
奈落の家に飾ってある絵画、それに描かれてたので現物を見てみたいと思っていた、タワーブリッジ。
そして英国の象徴、ウェントミスター宮殿とビックベン。
ビックベンは前世の記憶にある有名な作品でも出てくる時計塔で、一番見てみたいと思っていた場所だった。
かつて見ることを憧れていた場所をその目に拝む事が出来て見蕩れていた時のことだった。
急に誰かからぶつかられたと思うやいなや、手に持っていた鞄を奪い取られた。一応こう言ったこともあり警戒や対策をしていたが油断していた。
それにあまりにも突発的な出来事だった事もあり数秒呆けてしまい、気付いた時にはもう遅い。
「しまった!」
犯人を捕まえようと走り出すが、人混みにすぐさま紛れたのか姿が見えない。
もう駄目かと、諦めて保険に用意していた荷物を取りにホテルまで戻ろうとしていた時だった。
「そこの異質な少年、盗られたものはこれかい?」
と、気になる事を言いながらも彼女は語り掛けてきた。
誰もが振り向くであろう美貌。程よく鍛えられ伸びている手足。すぐさまモデルにスカウトされそうな容姿を持つ彼女は盗られた鞄を奈落に投げ渡す。
慌てて感謝を告げる。
「有難うございます!いやぁ、取られた時にはどうなるかと思いましたよ」
「ここら辺は治安が悪いからね、気を付けないと一瞬だよ」
そう言って彼女は快活に笑う。
「まあ、しっかしあたしがいて良かったね。たまたまあんたの姿が目に入ったから珍しいやつが居るもんだと思ってたらいきなりだったからねぇ…良かった良かった」
珍しいやつ?ああ、観光名所に一人っきりで若い男が来てる事にか。その時、奈落はそう思った。
そして彼女はこんな提案をしてきた。
「あんた、ここらよく分かってないだろう。あたしはちょっとした野暮用でここよく来ているから案内しようか?」
正しく渡りに船、この提案に奈落はすぐさま乗った。
「是非!宜しくお願いします。あ、名前言ってなかったですよね。矢島奈落と言います」
「へぇ…奈落か奇妙な縁を感じるね。まあいい私の名前はスリスだ。よろしく」
そうして二人は様々な話をしながら人々の雑踏へと消えていく。
―ついぞ彼女が日本語で話している事に疑問を持たないまま
●
あれよこれよと時の流れに身を任せ、様々な場所へ行き。そしてトラブルが起こしたり起こされたりを繰り返すうちに神との殺し合いが始まり、生きるために必死に闘った。特典を使い必死に。
そして果てにはこの惨状である。神を殺し、カンピオーネとなった。
「訳がわからないよ」
思わず呟く。もう全ては終わったあと。
ある意味、長く短い祭りだった。
まつろわぬ神と呼ばれる、この世界限定であろう、神話の忠実に動き、凄まじい範囲に爪痕を残す神。
それらに関係する騒動に巻き込まれ、果てには神殺し。ここ数日の出来事としてはあまりにも刺激的で劇的だ。
しかも、神殺しなどライトノベル、ゲームでもそうそうお目にかかれない事柄である。
が
「ま、いいや、悩むのも面倒。次の観光名所を見に行こう。まだ日程残ってるしね、取り敢えずはボロボロになったこの場所の隠蔽作業をしなくては…!」
人生を根幹から変える出来事があった後だが、そもそもイギリスには観光で来ている。カンピオーネとか良く分からない称号貰ってもピンと来ないし。目下の目的を果たそう。
そう思い立ち上がると
「おい、お前は何を言ってる。神殺しという事柄なぞそうそう起きもしないということに気づけ。普通ならそれによる弊害を考えるのが先決だろうが」
頭の上から、刺々しい声が聞こえてきた。
頭の上、柱の上に青年がたっている。
優美に整った顔立ち、黒髪と白皙の肌。背は高く、体つきも引き締まっている。さぞかしモテそうだが、仏頂面なので近寄り難い雰囲気を醸し出している。
しかし、何だか護堂と同じようで違うような雰囲気がする。何と言うか、護堂は女性と出会うとその人の気持ちを考えながら色々動くけど、この人は女性のことなんぞ知ったこったか的な感じが、おのが道を行く他人なんぞ知らん的な。
「まつろわぬ神が出現した、と報告を受けてここに来たのは良いがまさか、新たな同族が誕生してるとはな」
有り得ないと、いった感じで語り掛けてくる。
そもそも先程までにそこに居なかった筈なのだが、何か超常現象みたいな事をしてここに来たのだろうか。
「お前、名はなんだ」
無愛想な顔で問いかけてくる。イラッと来るが前世の記憶で培った経験を活かしてガマン。あの上司から叱られ同期のどうでもいい愚痴に突き合わされ後輩からの小言に耐えきった自分の根性だ。それに年齢は確実にコイツより上の筈、余裕を見せようじゃあないか!
「こういう時はあんたから名を名乗るのが常識ってもんだろう?」
「そんなこと知るか、俺が聞いたのだからそっちが返すのが常識だろうが」
物凄くムカつくんですけどこの人、どうにもならないのか。折れないと延々と問答が続きそうだし、仕方ないから名乗ろうか。
「…矢島奈落」
「アレクサンドロス・ガスコイン、アレクと呼べ」
この男は一体なんなんだ、もうボロボロな気分のところに急に現れてまつろわぬ神を殺した何だら言ってたし。まつろわぬ神とかなんじゃそりゃという気分であるが。信仰されてない神様という事なんだろうか、祀られてない神様の事なんだろうか、でも彼女は祝日とか紋章とかになってたから信仰はあったはずだけど。
なんか良く分からない、この世界の法則でもあるのだろうか。
男―アレクは辺りを見回し何かを考えている。
何だろう請求書でも求められるのだろうか。されたら借金背負って生きなくてはならないのか、まあそうなっても草薙一族をカモにして荒稼ぎすればすぐ返せそうなのだが。
そんなことを考えている間に彼は顔を上げ此方を向いて声を発した。
「1つご教授してやろう。本来神殺しという偉業は不可能に近い、運だけでは無理だ。実力と様々な奇跡が絡んだときこそその偉業が達成できる。しかし、常人が何も持たず神と言う存在に立ち向かうのは無理だ。何せかの者達を傷つけられる力を持って無いのだから。そこでカンピオーネになる奴らは神にまつわるもの神具を使って、神に運命に打ち勝ち神殺しを成し遂げカンピオーネになる」
彼は1つ区切り
「さて、ここまでは良いだろう。ここからが問題だ、神具用いて神を殺したならば神具を使った影響で神気がそこらに貯まる。そしてその使い手にもその残滓は残る筈なのだが、矢島奈落」
有り得ないものをそして面白いものを見つけた子供のような眼差しで、言った。
「何故その貯まってる筈の神気、そしてその残滓が一切残っていないんだ?純粋な力で殺せない化け物をどうやって殺した?」
────アカン
一番バレては不味いものがバレかけていた。
「えーと」
これは不味い、特典の存在がバレかけてる。
言っても問題ないのだろうが余りにも異質な力である特典はバレると不味い。
この力は何かおかしい、今回の一件、まつろわぬ神となったスリスと闘った時に何故か今更ながら扱い方がわかって来た。散々練習して慣らしていた筈なのに、実践の方がどんどん成長してこれの扱いが上手くなっている。しかもまだ成長幅があるような気がするのだ
そもそも転生という事柄まで手繰られる可能性が微かに出てくる。そこまで行くとどうなるかわからない。
取り敢えずは誤魔化そう。
「実は神が自殺を…」
「そんな事をする訳が無いだろう、逸話は探せばあるかもしれないだろうがまつろわぬ神がそれをしてなんの意味がある。それ以前に自殺をした場合はお前がカンピオーネになれるわけ無いだろう」
すぐさま論破、どうにもならない。
「一応言っておくが、お前の戦闘は数名の魔術師らにかなり遠い場所からだろうが観察されていた筈だ、そいつらに聞けばすぐわかるようなことでもある。今言うのと言わないの違いだけだ」
「もうダメだろこれ」
「大人しく吐け」
もう詰みの状態にまでやられている。強行突破しかないのだろうか、無闇に争うのは嫌なんだが。
「嫌なんだけどなぁ…仕方ないか、じゃ言いマース私がどうやったかと言うと」
そこまで語り、
「誰が言うかよ…!」
アイテムのえんまくを使い煙を発生させ、丸いボールに目と口があるびっくりボールを投げる。閃光を出し目を晦ませ、逃走。その時に画鋲と金色のバナナの皮のゴールデンバナナをばら蒔く。やっとこさ逃げ出せたと思ったが
「全く、何故聞いただけでこうなるんだ。同族は話を聞かないやつが多すぎる」
目の前にアレクが現れる。速い、柱の上から飛び降りてきたにしても速すぎる。数々の妨害アイテムを使用したのに効果をなしていない。
彼は溜息を付き問い掛ける。
「何故言わん、その方が暴力的な解決手段を取らずに済んだだろう。穏便に済ませようという気は無いのか 」
逆に何故穏便に済ませられると思ったのだろうか、彼は1回ぐらい自分が言ったことを思い返した方がいい。
「ムカつくし、それに人に何かを聞く態度じゃないだろう」
理由としてはそれで充分。あとついでに言わせて貰うのならば新たに手に入ったある意味神様転生の力を存分に試させてもらいたい。彼は同族とか言ってたし大丈夫だろう、カンピオーネは頑丈だって誰かが言ってたような気がするし
「さっさとホテルで寝たいんだ、どいて貰うぞ」
片手にパイを出し
「おいお前どこからそれをだしt―」
顔面に叩きつけた。
当初の主人公の考えは煙幕で広場を隠そうとしてました
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