黒川冬理の放浪記(旧『無と無限の落とし子』の番外)   作:羽屯 十一

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その2 現代の神守たち (神様ドォルズ編)

 とある山間の谷間に、小さな村があった。

 住人が空守(カラカミ)と呼ぶその村は、枸雅(クガ)日向(ヒュウガ)という二つの神官の一族を中心に、外界から隠れ潜むように人々が暮らしていた。

 神官の一族がまつりごとを行う以上、人々の精神の中心には崇める神が存在する。

 大和時代後期に百済(クダラ)より伝来し広まった仏教ではなく、日本古来よりの神道、でもない。

 村の者ですら定かではないが、古くからある“神の抜け殻”と呼ばれる御神体を崇めた。

 八つ、現存するそれらは、確かに20世紀を過ぎた現代の科学でも説明できない機能を有し、実体ある“神”として廃れることなく今も存在する。

 

 

 人の心を写す土木より成る異形のからくり人形。

 総じて『案山子(カカシ)』と呼ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

「ったく。余計な手間かけさせやがって」

 

 がみがみ叱っている唇ピアスの大人は勾司朗(コウシロウ)日向 勾司朗だ。

 日向はあれら『|案山子(カカシ)』と呼ばれる人形を、神の抜け殻と祀る隠れ里的な村『空守村(カラカミムラ)』の神官の血筋。

 実は里にはもう一つ神官の家があり、そちらを枸雅(クガ)という。

 ちょうどいま勾司朗に正座で叱られている双子の片方、女の子の方が枸雅 詩緒(ウタオ)で、その後ろに立っている兄貴分が枸雅 匡平(キョウヘイ)となる。

 あともう一人匡平の傍に髪の長い女性が一人立っているが、そちらには見覚えがない。気付かれないよう見るに、案山子の乱闘という状況を飲み込もうとしているようだ。となれば村の住人ではないだろう。匡平の女だろうか? そうであれば面白いのだが。

 

 ちなみにしょうも無い話なのだが、空守に過去十機、今は八機が現存する案山子は両家別れて管理し、閉鎖的な小さい村で権力争いしているのが特徴。

 

 かつて村にいた頃の気が滅入るような記憶が出るわ出るわ。

 首を振り振り無かった事にしていると、ようやく説教が終わったようだ。叱られて丸くなってしまった双子を残して勾司朗がこちらへ来た。

 ようと手を上げ迎えた。

 こうして顔をあわせて喋るのは実に久方ぶりだ。

「悪かったな、今回は手間かけさせた」

 勾司朗とは以前から交流がある。

 あそこは狭い村だ。しかも俺は神産巣日(カミムスビ)の関係で何年か前に大騒ぎを起こしている。顔見知りというには向こうが少々苦かろうが、まあ気安く話せる仲ではあった。

 

「気にするな。ちょうど昼寝三昧の毎日に飽きが来はじめてな」

「オイ、出てって四年もたった今頃か?」

 珍妙な顔をする勾司朗。

「いや以外と飽きないもんだ」

「働けバカヤロウ」

「食っていけりゃ、それでいいさ」

「住む場所も老後の心配もいるだろうが。嫁さんも」

 お前は俺のおかんか。

 自分が結婚したからって、人の嫁の心配までせんでいい。

 

 何気にこやつ、唇ピアスにグラサンと強面だが面倒見はいいし器も大きい。しかも案山子持ちながら冷静な判断ってのができる、あの村では非常に稀有な人材だ。

 私見だがとてもクソ村の二大クソの一つ、日向の筆頭後継者とは思えない出来たヤツだった。

 

「ンなことより、なんで案山子持ちが東京でゴタまいてんだ? しかもカメラがあちこちにある街ん中で人目はばからずたぁ、ずいぶんと荒っぽいじゃねえか。なんの任務だ?」

「……ま、言っても大丈夫か。牢から阿幾(アキ)が逃げた」

 二十一世紀になろうというのに、村で自前の牢に自分達で捕まえた罪人いれてるとか、もう相変わらずの駄目っぷりで鼻で笑いたくなったが、それよりも聞いたような名前に首を捻った。

 村にいたときに事件がどうとかこうとか、聞いたような、聞かないような?

「あーあーあー……あ、あれか。暗密刀(クラミツハ)か。阿幾って枸雅の、たしか暗密刀の(セキ)だったよな」

 ちなみに隻とは案山子の使い手のことである。

 暗密刀の方は、凶悪な鎌状の手がついた物騒な案山子。

「俺が来る前に外から来た教師レイプして殺したクズ共、十匹ばかり八つ裂きにしてブチ込まれたんだっけ?」

「そうだ」

 俺だったらよくやったと褒めるところだが……

「逃げたってことは、暗密刀は? 新しい隻は聞かんから、まだ継承の儀してないんじゃね?」

「持ってっから厄介なんだよ。こっち出てきて一度やりあったが、ヤロウ勘が利くのか俺の宇輪砲(ウワヅツ)を最後まで避けきりやがった」

「おいおい、そらすげえ」

 

 苛立たしげに頭を掻く勾司朗には悪いが、これは素直に感心するところである。

 実際、勾司朗の宇輪砲はかなり強い――というより厄介で、見た目こそ二メートルちょいのチェスのルークだが、空間転移からタイムラグ無しで体当たりしてくる。これが実は他の案山子には真似出来ない。

 いや、空間転移や物質透過自体は他の案山子も出来るのだが、隻の精神力をドカ食いする上に行動後はすぐ動けない。ぽんぽん飛べて、飛んだ瞬間に突撃できるのは宇輪砲の専売特許だ。

 付いた異名は“百発百中の宇輪砲”

 そりゃそうだ。案山子なのに弾体扱いなのは笑えるが、やってる事は一メートル以内にテレポートした石柱がそのまま百キロオーバーで突っ込むようなもんだ。狙われた側からすれば笑うに笑えない。もちろん人は言うに及ばず、戦闘態勢の案山子でも避けきれる訳もなし。案山子の性能はともかく操ってる隻が反応できん。

 そこを避けたって言うんだから、確かに阿幾ってのは勘が利くんだろう。

 

「で、以降梨の(つぶて)と。

 ――それで? つまり何で玖吼理と武未禍槌がこんな市街地で戦ってるって?」

 空気を読まん質問をあえて投げかけてみる。

 なんせ街中でドンパチ。武未禍槌の雷撃まで行使して道路や家屋に少なからぬダメージも与えているのだから、聞かずにはいられない。

 隻としても戒められていると思うのだが。

「…………兄弟喧嘩だ」

 心底から言いにくそうに告げられたのは、欠片くらい予想しながらも、まさかそんなわけないだろうと外したものだった。

「うそだろう」

 信じられないと呆れる反面、少なからずありえると思ってしまう部分も、実はあった。ありえるというのは、あの村の環境で育った隻がまとも(・・・)か、という点に他ならない。そこが怪しい時点でアウトだ。信用ならん。

 もう一つ。

 

 

 連中を気配で探る。

 双子で何か話しているらしく、こちらへ注意を払ってはいない。

 

 

「詩緒と匡平は見たことあるし知ってるが、もう一人のは?」

「日向 桐生(キリオ)。今回の相棒だ」

「ごまかすなよ」

 

 俺が知らない隻。

 十歳を過ぎた辺りだろうか。詩緒と瓜二つの顔の、服装からおそらく男の子。

 知らないという事は、それはつまり最近に隻へ就任したという事になる。

 あの村じゃ隻は神の抜け殻とされる案山子に己の魂を入れ、生きているかのように操る――半ば現人神的な巫女扱いで、案山子の継承も隻の就任も大きな祝い事だ。当然村中に知れ渡るし、そうなれば数人だが電話で話す事がある俺がまったく知らんというのは、ちとおかしい。

 だが継承して間もないと言うには案山子に慣れ過ぎている。

 先の戦いで終始玖吼理を圧倒していた。

 魂を入れると称すほどの同調システムを使っていると俺は考えているが、それにしたって人の体とまったく造りの違うものを動かすのだ。操作は一朝一夕に形になるものではない。つまり……

「さっき兄弟喧嘩とか言ったな。玖吼理は枸雅で武未禍槌は日向。見たところ双子だが、それを生家に知らせず引き離したか」

 そして、何かに使う(・・)ために、裏で仕込んでいたか。

 

「――ああ。俺も今回初めて引き合わされたんだが、うちの爺が黒幕だ」

 やはり勾司朗も身内の行いに思うところがあるのだろう。むっつりと口を引き結ぶ。

 この男のまともな感性からすれば、これまでの人生でいい加減慣れたとはいえ、身内の欲で小さな子供が歪んだ育て方をされたとなれば、それをたとえ口には出さずとも心を痛めているのだろう。

 

「この年まで隠し通したんだ。だろうよ」

 どちらともなく、溜息がでた。

「どうも屋敷の奥の爺の蔵かなんかに、あの歳まで幽閉されてたらしくてな。日向でも枸雅でも聞いた事が無ぇ」

「……ほんとクタバレ干物が。つうかクサレ爺だけじゃねぇだろ? 子供一人を十年以上隠そうってんだ、絶対に手を貸した奴が何人もいるはずだ。って、あの村は他にもそういう事やりそうなヤツが多すぎる……! いい加減滅ぼしたほうがいいな、あそこ」

「うちは新築だぜ。掠り傷でもつけたら殴るぞ」

 

 半ば本気、半ば冗談を交わす。もう二人で恒例になったやり取りだ。

 いや、俺は本気が八割五分だ。何か切っ掛けがあれば皆殺しにしたい。なんせ自分たちは正気だと信じてる狂信者の村だから。

 

 と、勾司朗の袖を例の桐生が引いた。

「おう、どうした?」

 怒ってたのを後に引かない勾司朗。ここら辺がいい大人だ。

 ところが本人が喋らない。

 言いたい事があるから袖引いたんだろうが、俺も注目したら勾司朗の影に隠れやがった。微妙に引っかかるその動き……

「俺か。俺変か?」

「まあ真っ当じゃねぇな」

 畜生め。

 改めて格好を見下ろす。

 ロングのシャツに黒のズボン、その上から古臭くて安っぽい、おまけによれた(・・・)紺のコートを羽織ってる。

 コートか? コートが駄目か? 季節は春だが、未だ冬用コートってのは変か。

 ……変なんだろうな。うん、わかってた。

 

 造り自体は人間のマイボディ。

 しかしアレやらコレやら科学にオカルトとまぁ、“異世界”なんて概念の、更に外っかわがホームグラウンドの俺が使う以上、まとも――ではない防護がないわけがない。

 面倒くさい言い回しだが、つまり『百人乗っても大丈夫』をシロナガスクジラでやっても大丈夫。あれが地球環境で生存限界ギリギリの二百トン近く。それを百匹だから……まぁとてつもなく頑丈なわけだ、オレが。

 ようはそんな殻で覆ってるから、その一部に当然外気に対する調整機能が入っていると。

 うん。いや――結局ものぐさで季節の服の入れ替えが面倒だっただけです。

 

 

「あー、こいつはお気に入りなんだが……」

「時期じゃねぇのを着てりゃあな。ただ、案山子に乗れば寒いからなぁ。かく言う俺も、まだ宇輪砲に乗る時はきいちゃんのくれたジャンバーが手放せねぇ」

「はいはい、嫁さんノロケは聞き飽きたよ」

 つい話がずれる。

 そんな大人にいい加減じれたのか、それとも人見知りなりの勇気を絞ったのか、

「……ちがう」

 と、ようやっと声を出した。

 もっとも相変わらず本人は身体半分も覗いていないが。しゃきっと出んかい。

「お、喋ったよ」

「かえせ」

 むう、こういう態度は子供らしいと言うのだろうか? 歴史レベルで昔になるが、幼い頃の自分の周囲には無愛想なほど引っ込み思案な子供はいなかったのだが。

 どちらにせよからかうには幼すぎるし、親しさも全くもって足りていない。

「武未禍槌か?」

「っっっ!!」

 大人でいうなら憤懣やるかたないって顔でぶんぶん頷く。でも子供だから顔色へストレートにでる。見事なまっかっか。頬まで膨らませたその顔は、詩緒を追い詰めていた時の小生意気な印象を拭うものだ。

 それでいて武未禍槌が心配って顔をちらりと覗かせるあたり、会ったことすら無くともやはり詩緒と双子だなと思う。

 あちらも感情豊かな人見知りで、特に気持ちが高ぶると顔を真っ赤にして息を詰め、頬を膨らせてくる。まだ村にいたとき、匡平(キョウヘイ)の後ろにくっついてたのを一回からかったらフグみたいになった。

 

 流石にそんな子供をいじめて泣かすのも難なんで、我が案山子である神産巣日(カミムスビ)を寄せた。

 古式ゆかしいUFOの形をした、灰皿を逆さにしたような神産巣日が空中を滑るように近づいてくる。

 すぐに開放はせず、触れてみて中の様子を確かめた。

「ん、ん、ん……もー少し、いやそろそろいいか」

 ちなみに勾司朗は神産巣日の機能を知っている。だから案山子が食われた事態にも落ち着いている。これが知らなければ、再度案山子を建造する技術の無い空守村の一員として大慌てなんだろうな。

「どんな具合だ?」

「外はともかく中がな、結構ボロボロ。正直なとこ、オーバーホールして稼動部を総とっかえしたいくらいだ」

「チッ。おおかた爺のやつ、隠してたもんで器師んトコ持ち込めなかったか」

「そんなところだろうよ」

 喋りながら小さく指を動かす。

 キーボードを打つような動きを桐生(キリオ)が怪訝そうに見るが、その頭へ勾司朗が手を置いた。桐生も勾司朗の落ち着いた様子に気が静まったのか、やや不満げながら黙る。

 

 

 

「ああ――ま、こんなもんか。じゃあ出すぞ」

 

 あれから三分。

 黙ってりゃ長いが、ラーメン作ればあっという間な時間で作業は完了した。

 ようやく武未禍槌が戻ってくる、そう分かって桐生は嬉しそうだ。いつの間にか 匡平(キョウヘイ)と詩緒も近くにいて待っている。匡平の方は神産巣日の能力を知っている。落ち着いたものだ。詩緒は……まぁ桐生と似たようなものだな。

 さて。

 

 

 げろり

 

 でろり

 

 

「「――――――――ッッッ!!??」」

 

 

 

 

 

 




読んでくださった方、待っていてくださった方。お待たせしました。
うーむ。スランプと語っておきながら書こうとしたのは間違いだったか……
こう、一話一話の短編みたいなのが一番書きやすいんだろうけど、そうすると原作知ってないとまるで分からないだろうし、作者自身マイナーなの書きたいのでワカンネェよって人が続出するんだよなぁ。きっと。
たとえば『彼女は戦争妖精』とか『薔薇のマリア』とか。
逆に書きたい有名どころだと『這いよれ!ニャル子さん』、『鋼殻のレギオス』とか。

うーむ。なやましい。ちょっと書いてみようかな?
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