黒川冬理の放浪記(旧『無と無限の落とし子』の番外)   作:羽屯 十一

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その3 復讐の子供たち (神様ドォルズ編)

 子供を泣かせた。

 凄い泣かれた。

 大切な大切な自分の案山子。もう一つの自分の身体と言っていいそれを、何か良く分からないがとにかく怪しくて気持ち悪い粘液でグッチョグチョのネッチョネチョにされたのだから、それは泣いてしまうだろう。

 

「つい出来心で」

 

 微塵も反省してない内面が出てる面に冷たい視線が注がれる。

 いや、あの液体が必要だから漬け込んだんであって、ただ悪戯目的でぶっ掛けた訳じゃない。そんないつも怪しい粘液とか常備している筈があるまい。

 まぁそれを碌に落とさず塗れたまま口から出して見せたのは、千年以上に亘って熟成された我が悪戯心の成す業なのであるが。

 しかし……

 ふ、隻だろうと所詮は子供よ。

 

「「ばかぁーーーーーーーー!!!!」」

「おっと」

 

 怪しげな粘液まみれで転がっていた玖吼理と武未禍槌が跳ね起きた。怒りに我を忘れている、とは聞き覚えのある言葉だが、あれは誰の言葉だったろうか? いや、それよりも恐ろしい事に玖吼理は戦いで出した右手のナイフをそのままで、武未禍槌はごっつい放電している。

 一斉に飛び掛ってきた。

 が、所詮は頭に血の上った子供である。譲り合いの精神が脳内で怒りに道を譲ったのか、ビーチフラッグのようにぶつかり合ったまま突っ込んで来た。

 余裕を持って飛び退いた。

 案の定、ゴリゴリいってた二体は、更に突っ込もうとした玖吼理と飛び上がろうとした武未禍槌の腕が絡まり、宙で無様にもんどりうつ。あー、大体の案山子は腕が横についてるからなぁ。

 

「ちょ、えっ!? あぶ――あぶないっ!?」

「黒川さん! おい詩緒やめろ!!」

 

 人に襲い掛かった案山子に史場 日々乃(シバ ヒビノ)さん、村を出た匡平のホームステイ先の娘さんがあわあわ悲鳴をあげ、匡平も慌てて詩緒を止める。

 反対に勾司朗は流石。平然としている。

 もっともそれは“たとえ案山子の攻撃が生身のこちらに直撃しようが”何の問題も無い事を知っているからに過ぎないが。

 だが知らない者からすれば、この勾司朗の態度は狂気の沙汰だろうな。

 

 

 

 

「勾司朗!?」

 

 匡平はこの場で唯一、戦いに加わっていない隻へ驚愕と疑問を向けた。

 村にいた頃の普段から理性的かつ常識的な勾司朗を知るだけに、助けようとしない今の行いが信じられなかった。

 そうこうする間も案山子は自分より小さな生き物に襲い掛かっている。

 隻からすれば案山子は自分の身体のようなもの。案山子の身体で可能な限りではあるが、視界を共有し思うままに動く。それは自分の身体とどう違うのだろうか?

 故に案山子持ちは自分で殴りかかるのに近い感覚で、案山子を他者へと向けてしまう部分がある。

 しかし案山子は案山子、ウェイトもパワーもスピードも人間の比ではない。

 それこそホンのちょっと『叩く』程度でも人死にが出かねないのだ。

 正統な隻として幼少から訓練を受けた匡平はその事を身に染みて良く知っているし、事実として空守村ではそういった“不幸な事故”が幾度もあった。

 ところが……

 

「うそ――だろ?」

 

 目の前の光景が上手く理解出来なかった。

 呆けた視線の先では何年か前に村で大騒ぎを起こした男が、飛び掛る二体の案山子を相手取っている。

 詩緒も桐生も本気で追いかけているのに、まるでひょいひょいと音が聞こえて来そうな避けっぷり。人間が案山子をどうにかしようというのは、素手で何百キロもある猛獣を相手にするより危険なのだが……見ていて全く危なげがなかった。リラックスした表情の目と鼻の先を、車すら持ち上げる玖吼理の腕が掠めるのは心臓に悪すぎる。

 知らず呑まれ、うかつに声をかけた途端に何かが崩れるような気がして声も掛けられない。

 ふと、勾司朗が脇に立っていた。

「匡平。お前はあいつが村を出るときの騒ぎには加わらなかったな」

「え――あ、ああ。あの時には詩緒が玖吼理の隻になってたし、隻でなくなったから会議にも入れてもらえなかったけど」

 顔は前に向いたまま、サングラスの下でチラリと目が此方を見たのがわかった。

「あん時は大騒ぎだった。案山子の脳に当たる部分がブラックボックスな以上、新しい案山子は造れない。それが村の常識だ」

「それをあの人が破った、んだっけ?」

「ああ。外からウチの村に来る人間は珍しいが、来て俺の宇輪砲(ウワヅツ)を見るなり村外れの掘っ立て小屋に引っ込んでな。まあ仕事で来た人間じゃないからって放っといたんだが――二週間ばかりして出てきた時にはあの神産巣日(カミムスビ)だ」

「ちょっと待ってくれ。あの人が一人? 俺は杣木(ソマキ)さんところの器師と一緒に造ったって聞いたけど……」

「百年以上も村の人間が手も足も出せなかったのを、外から来た若いのに二週間でこなされたってのは醜聞だからな。表向きは器師が手を貸して何とかって話になった。……神産巣日の能力も知らないだろう?」

 それは……確かに。

 新造された案山子だから、自然と今までの案山子とは別に考えていた。

 だが同じ案山子と考えるなら、造り手の意思で現存の八体と同じように特異な能力を持たせる事に成功しているかもしれない。

 そして勾司朗がこう言うからには能力があるのだろうが、仮にも隻に近い自分が何年も噂にすら聞かないとはおかしかった。

「何か凄いやつか?」

「とびきりだな。案山子の修復能力だ」

「それは……器師の仕事と何か違うのか?」

 思わず問い返した。

 案山子が案山子を直すというのは凄いんだろうが、器師にも出来る事が出来たからといって勾司朗が“とびきり”などと言うのは妙だ。

「いいや」

「凄いのかそれ?」

 

「神産巣日は、全ての案山子を全自動で、完璧に直す。欠損があろうがな」

 

 じわり、と言葉の意味が染みこむ。

 それはどういう意味を指すのか。

 脳が回るに従い、血の気が引いてきた。

「つまり、神産巣日には全ての案山子の設計図が入っていて……“神血(カムノチ)”まで造り出せる、って事か?」

「そうだ。あいつが神産巣日を造ってから先、山には一回も入ってねぇ。勿論器師の所から“神血”が無くなったって話もねぇ。完全自給自足だ」

「――『外』で、案山子が造れるのか?」

「否定しようがねぇな」

 答えた勾司朗は、どこか斜に構えたような、そのまま達観してしまったような声で続ける。

「で、あいつは痛んだ案山子を直したりしてたんだが――今考えりゃ調子を見てたんだろうな、しばらくしたらあっさりこの村を出るとか言ってきた」

「あいつらが出すわけがない」

「そうだ。そいつがあの大騒動の裏方だ」

「……勾司朗もか?」

「まあ、な。紫音の迦喪建角(カモタケツノ)は出払ってたし、玖吼理と武未禍槌はアレだ。結局、神産巣日に乗って出たあいつを追ったのは俺に暁、蒼也とまひるの四人だ」

 それぞれ枸雅か日向に属する隻となる。

 暁が火官土(カグツチ)、蒼也が弥隈利(ミクマリ)、まひるが禍津妃(マガツヒ)を操る隻だ。それにしても――

「隻が四人がかりかよ。まひるもか?」

「あいつは何かと好戦的だからな。むしろお前の方が良く知ってるんじゃないのか?」

「いや、避けられてるんだか最近ずっと会ってないな」

「あー。

 ………あいつも色気づいてきたって事なんかね」

「何だって、勾司朗?」

「いやいや何でもねぇ」

 小声過ぎて聞き取りづらかったが、まひるがどうかしたのか?

 何でもないというからには怪我とかじゃないんだろうが。

 

「話を戻すとだ。まあ俺達は案山子四体掛りで一人を襲って、ものの見事に逃げられた」

「今あの人が街にいるから予想は出来たんだが、信じられないな。神産巣日はそんなに強いのか?」

「いや。あれだよあれ」

「ん?」

 顎をしゃくる先には未だ続く鬼ごっこが。

「あれって……」

「神産巣日はあの一件で一回も戦闘に加わらなかった」

「まさか、今やってるみたいに四体の案山子を全部生身でどうにかしたのか!?」

 二体を余裕であしらえるなら四体でも。簡単に考えればそうなんだろうが、実際に自分で想像すればどうやれば逃げられるか全く思いつかない。

「ああ。ふざけてるとしか思えんが、火官土の分離砲台も弥隈利の大砲もどうやったか避けられてな」

「おい! まさか人間に撃ったのか!?」

「……爺どもには随分邪魔だったらしくてな。暁と蒼也には裏で指示があったらしい」

「クソッ!!」

 ぎしりと歯が鳴る。

 自分は村のそういった所が我慢なら無くて出たのだ。

 それを、改めてあの場所が自分たちの身勝手さで人を簡単に殺そうとしたしたなどと、もはや聞くだに反吐が出た。

 勾司朗も立場というものがあるが、やはり苦い思いが口の端に表れていた。

 

「結局身体一つで森に隠れられてな。しかも神産巣日が出てないお陰で逆に誰も見つけられねぇ。一度街へ入られたら案山子は使い難い。向こうにしてみれば神産巣日を盾にして目立てばそれだけでいいから、村もやすやすと手出しはできねぇ。そうこうする内に一年経っても二年経っても新しい案山子を作る様子は無いってんで、今のところはそのまんまだ」

「――聞いてもやっぱり信じられないぞ。元は何してた人なんだ?」

「聞いた事もねぇな」

 

 見る。

 まだ玖吼理と武未禍槌はからかわれている。

 詩緒は――流石に少しは冷静になってきたようだ。会話は無いが、桐生とお互いの邪魔をしない程度には連携してきてる。

 だが、同じ顔、さっき初めて会ったばかりでなのに、無言でお互いの動きが合わせられる。

 

(本当に――俺の弟なのか?)

 

 恐ろしい想像が匡平の頭をよぎる。

 村の人間は、特に神氏の人間は欠片も信用できない。あの環境で育った大人は染まっているから。異様な、異常な、気が狂ったような精神性に。それこそまとも(・・・)なら考え付きもしない事でもやりかねない。

 いつの間にかうつむいていた。

 手の平に爪が食い込み鈍痛がうずいた。

 二十メートルだけ先、神の抜け殻を素手であしらう男性が、羨ましかった。

 

 

 

 

 

「神――か」

 

 沈んだ匡平の傍らで、勾司朗も物思いに(ふけ)った。

 彼は先ほどの話で意図的に匡平へ伝えなかった事がある。それは匡平だけではなく、日向の当主にすら伝えていない事実。

 

 あいつ。

 黒川 冬理(クロカワ トウリ)と名乗っている男。

 あいつは人間じゃない、と。

 

 四年前。

 勾司朗が今より少し、血の気が多かったあの時。

 森の中の追跡で姿を見失った四人は別々に別れた。神産巣日が戦闘用として造られていないのは知られている。例え単独だろうと、他の仲間に知らせる間もなく倒されるとは考え難く、また自分達は幼い頃から隻として修行を積んだという自負があった。昨日今日案山子を得た新参に負ける筈がないという自信が。

 分散しての探索は当然の選択だった。

 そして、皆には見失ったと報告してあるが、実は勾司朗は黒川を見つけていたのだ。

 村では一等親しい仲ではあったから、その縁で挨拶に顔を見せたと言った方が正しいのかもしれない。少なくとも、今は真剣に姿を隠した黒川を己が易々と見つけ出せるとは到底考えられない。

 

 夕刻過ぎの森の中で一言二言、言葉を交わし、

 

 

 

 宇輪砲を叩き込んだ。

 

 

 

 殺すつもりだった。

 不意打ちで、せめても一撃で頭を砕いてやる決意を固めていた。

 

 勾司朗は匡平とは違う。

 匡平は逃げた。

 親も妹も親しい者も、全て置き捨てて村を出た。

 

 だが勾司朗には守る人がいる。

 愛しい人。

 妻がいる。

 そして自身は日向の次期当主に最も近い。

 村には家があり、妻の生活があり、それらを支える自分の仕事がある。これは集団に属する者としてのやらねばならぬ仕事なのだ。

 だが―――

 

 

『おいおい、物騒だな』

 

 宇輪砲は過たず黒川の頭を直撃していた。

 直撃して、叩き潰すことが出来なかった。

 神産巣日の能力かと疑った。

 だが違う。

 案山子は自分の身体と同じ。

 手応えはあった。これ以上は無いという会心の一撃。しかし案山子に奔った感触は、純粋に信じられないほど堅く、そして重いものだった。まるで巨大な鉄の塊へ体当たりしたかのような感触は断じて生物では、……いやそもそも外見からして考えられない。

 

 頭に宇輪砲を乗せたまま、黒川は勾司朗が初めて見る顔で笑っていた。

 嘲っていた。

 嘲笑していた。

 哀れみすら込めて『つまらない事を』と。

 まるで足元でもがく地虫でも見やるように。

 

 人間じゃないと感じた。

 総身に怖気が奔るとはあの事だろう。頭より先に本能が判断を下した。宇輪砲が刹那で両者の中間へ跳び、突撃する。

 胴。

 殺す?

 違う。あれを殺せるかなど、彼の中では論ずるまでもなかった。

 抑えつけ、逃げる時間を稼ぐ。仲間に助けを求める

 

 だが村で神と崇められる存在は、たったそれさえ出来なかった。

 その瞬間を勾司朗は宇輪砲の視界で見た。

 軽く上げただけの手が、力など入っていない曲げたままの腕が『百発百中の宇輪砲』を小揺るぎもせず受け止めたのを。

 育った環境故に自然と人より上位にいた案山子が、目の前で塵芥のように軽々しく扱われた時、勾司朗は己の常識が壊れる音を聞いた。

 三歩と進まず捕まった。

 肩に手が置かれ、動けなくなっていた。

『何で逃げる?』と小声が怖い。ホラーどころじゃない。自分の首筋を悪意の手が撫でていた。

 

 

 

 背を冷たい感触が滑り落ち、勾司朗は我に返った。

 小さく溜息をつき、いつの間にか握りこんでいた手を解く。

 大の大人が、あの森を思い出すと今でもこうなる。

 結局あの後黒川は何もしなかった。

 今考えれば本当に別れの挨拶程度だったのだろう。だがあの時ほど『また』という挨拶に心臓を締め上げられた覚えも無い。

 

 それから四年。

 黒川とは電話だけだが付き合いがあった。

 別に自分からかけた訳ではない。以前番号を渡していただけなのだが、幾度か向こうからの電話を取るうち、恐怖は薄れていった。

 あの時感じたものを忘れたわけではない。依然親しくなど思いもしないし、信頼どころか油断すらしたくもない相手ではある。

 だが勾司朗自身、思い返してみれば黒川から何かしたという話は聞かない。

 街でも聞く限り、あくまでたんなるニートでしかなかった。出不精でだらしがない唯の男にしか見えなかった。

 だから勾司朗は自分なりの付き合い方を定めた。

 表面的に付き合い、相手のフィールドには決して深入りしない。馬鹿話もするだろうが、あくまで上辺だけの付き合いに留める。でなければ命が幾つあっても足りないというのは、一度ならず人を殺してきた勾司朗の勘だった。

 

 

 

 

 

 

 黒川は素早く飛び退いた。

 たった今まで立っていた場所が寸毫(すんごう)の間で玖吼理に抉られる。腕がめり込み、公園の踏み固められた土が吹き飛んだ。

 目にだけ入らぬよう(すが)めるが、なんと玖吼理の後ろで武未禍槌が杭の様な武装に発電してやがる。あそこから雷撃が放てるのだが……ちびっ子どもめ、思い切りが良すぎるぞ。

 互いを押し退けようとする案山子自体を利用し避けていたが、双子は一向に当たらないのに焦れたり苛立ったりで、どうも微妙に連携してきていた。さっき初顔合わせに大喧嘩までした関係だが、双子のシンパシーか、声もかけていないのに動きがいい。

 ま、隻としちゃ神の抜け殻なんて信仰の対象を使って、ただの人一人捕まえられないというのは許せない事なのだろう。

 

 問題は、エスカレートした攻撃がどちらも致命域まで高まっている点だ。

 

 俺の案山子を割り込ませられればいいのだが、スタンダードUFOなんて形から察せられるかもしれないが、神産巣日(カミムスビ)は戦闘用じゃない。

 

 村の案山子に取扱説明書は無い。

 特に武装関係は目からビームが出たり丸い手が展開して刃物が突き出したりと、ギミック的な構造で内装されている物が殆どで、隻本人にすら分からない武器も実は沢山ある。隻となった者は、前任者が良く使用していたなどの知られている武装、あるいは自分で見つけた物の中から、更にもう一つの自身に合った武装や機構だけを選んで使っていた。  例えば玖吼理は、匡平が使っていた時は破壊力に特化したレーザーのようなものを好んで使用していたらしいが、詩緒が操る際はイメージし辛いらしく、徒手空拳が主となっている。

 

 言うなれば詩緒が使う玖吼理は“武装はあるが使い手の性質から戦闘に向かない”のであり、神産巣日は最初から戦いを想定して造っていない。

 

 

 それでも今の“詩緒の”玖吼理は案山子の外殻を抜くような武装が無いだけマシ。

 一方の桐生の武未禍槌は駄目だ。

 あれは戦闘用に偏った案山子らしい。攻撃力や電気を操り幅のある利用が強みだが、こと戦闘において特筆すべき点は、案山子の出力を最も強める強烈な感情が無くとも、操る雷撃それ自体が高いエネルギーを保有するので最低火力が高い事が上げられる。クサレ爺に頭を抑えられた萎縮した子供でも、それこそ車一台ぶち抜く程度には。

 

 結論として、武未禍槌の雷撃が当たれば俺の神産巣日は壊れる。

 特に今の玖吼理と武未禍槌は絶好調。

 先の喧嘩とは違い、村で見た時のように動きにキレが戻っていた。

 原因は自業自得で、しかも自分でした仕事の結果とはいえ、まさか直後に悪果となって己へ降りかかるとは。……置いてきた三姉妹の呪いだろうか? いやいやまさか。そんな恐ろしい。

 

 

 なんてやってる内に物騒なの発射。

 

 おい。

 

 おい。

 

 これ人が喰らったら胴が丸ごと蒸発するぞ。

 

 

 

 

 ガッ!!!

 

 もはやレーザーと言った方がいい閃光が奔った。

 昔なら電気でそんなんなるかと突っ込んだろうが、こういう現象が身近になって五十年程で慣れた。こういうものなんだと諦める事が肝心だと悟っただけかもしれない。

 

 間一髪、直撃を避けた。

 あぶねぇ。コートの裾を丸焦げにされた黒川は、背中に冷や汗をかいていた。

 武未禍槌も玖吼理も、操る人がこと戦いにおいて未熟なのは同じ。放電の軌跡を隻の目線から悟り、呼吸からタイミングを読んで避ける。達人技だが黒川からすれば簡単な事。が、流石に撃ち込まれた火力が大きすぎた。

 電気だから地面が溶けたりそこ等が燃えたりしてはいない。

 乱闘開始からの音や光も、さりげなく神産巣日で周辺に『惑い』の仙術を敷いてある。どうやっても来れないから巻き添えも考えなくていいし、流れ弾も“惑う”から、そういった面では安心だ。

 しかし俺の危険が危ない。まさか此処までヒートするとは。

 お気に入りのコートも駄目になってしまった。

 黒川は口の端を小さく持ち上げた。

 勾司朗も匡平も終わるのを待っている。もう運動もいいだろう、そろそろ止めようと。

 

 双子からすれば必殺のタイミングで攻撃したはずなのに、腹の立つ相手はぴんぴんしていたのだ。尚の事ムキになって突っ込んでくる玖吼理の腋の下を潜って見せ、挑発するように拾った石なんぞを頭に投げつけてみる。

「なんで!? なんで捕まらないだよ!?」

桐生(キリオ)うるさい! 黙って!」

 罵り合いの隙をとって避けやすい位置へ。

 頭に血が上った状態では、捻りを入れた意表を突く動きなんぞ夢のまた夢。

 傍から見れば気軽そのものの動きで、ひょいひょいとかわしてゆく。

(お、いい状況)

 玖吼理のパンチを跳んで避け、横薙ぎに叩きつけてくる武未禍槌の腕を軽く触り前転、風圧に乗るようにやり過ごす。ついでに勢い余った武未禍槌の顔面へ両足で着地、勢いも利用して軽業のように玖吼理の頭頂へと飛んだ。

 出来上がったのは案山子というよりコケシな外見もあいあまり、間抜け極まりない絵面である。

 そのまま挑発するようにお子様連中を鼻で笑った。

 最近ナマケモノレベルで動いてなかったから、ちょっとした運動が気持ちいい。

 もっともこういった真似が勾司朗に“人間じゃない”と思わせるのだろうが。

 

 案の定、今度こそ双子は本気でトサカに来たようだ。

 同じ顔を真っ赤にし、ふくれっ面で湯気でも立てそう。

 双子は同時にキレた(・・・)

 顔面蹴られた挙句、靴底で目を塞がれてすっころんだ武未禍槌が跳ね起きる。

 頭を踏まれ続け、怒りに震える玖吼理が両手を振り上げる。

「ばかにしてー!!!」

 電流咲き乱れる杭が突進の先端で輝き、

「つかまえたぁ!!!」

 車すら持ち上げる両腕が本気で叩きつけられた。

 それを「おおっと」なんてワザとらしい台詞で後ろへ倒れて避けた。

 玖吼理の両手は惜しくも獲物を逃す。

 

『いっっっ!?』

 

 そのまま突っ込む武未禍槌。

 頭の上で両手を合わせた玖吼理。

 その後頭部目掛けちょっと(・・・・)強めにドロップキックする俺。

 

 

 

 案山子は木で出来ているからだろうか。

 とてもいい音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神産巣日の特徴は分かったか? 玖吼理と武未禍槌の調子が良いのはあれだけ動かせば分かったろう」

「「………はぃ」」

 

 蚊の鳴くような声である。

 あれからまた勾司朗と匡平による説教があって、詩緒と桐生の心はボロボロである。

 かく言う俺も、その内容が襲った事より人目のある場所だったのがまずい等で、いかに己の安全面が勾司朗に軽視されているかが実に良く理解できた。おのれ。

 それにしても、子供が地べたに正座させられ項垂れているのは哀れを誘う。

 いやいや、俺も悪乗りして洗浄せずに両案山子を出したのは悪かった。

 無論の事、その後に煽ったのも大人と言うには余りに不埒である

 

「いやはや。

 勾司朗、そこまでにしとこうや。いい加減時間も経つ。離れたほうが良い」

「ん……そうだな」

 

 施した“惑い”はあれど、地を這う振動や空気の震えは中々誤魔化せない。未だ猶予はあるが、入れずとも外側に集まられては逆に“惑い”その物が目立ちかねなかった。

 勾司朗は結界に似たそれを知らずとも、すぐさま感情を収めて見せ、匡平へと踵をした。

「勾司朗――」

「……阿幾(アキ)に気をつけろ。堅気んなったんだったら関わるなと言ったが、今回の騒動を見りゃそうも言ってられん」

 

 匡平は頷いた。

 匡平とて阿幾の脱走は人事ではない。幼馴染であり、あの村で数少ない親友だったのだ。

 ――そして何より、阿幾は匡平に執着している。

 

 勾司朗は一つ頭を掻き言った。

「ま、あまり深く考え込まん方がいい」

 そこで顔を寄せ、

「そこの女を優先するんだな」

 と爆弾を投げつける。

 

 匡平は男女間のお付き合いなぞ縁遠い人生を過ごしてきた。

 つまりは、まあ、真っ赤になって口をぱくぱくしている。

 そんな子供のような反応を見て、勾司朗も笑って桐生の首根っこを引っつかみ去っていった。

 

 残るは未だ赤い匡平の一行と、俺。

 そして俺もそろそろお暇しよう。

 

「じゃあ、俺も帰るわ」

 そろそろ夕方だし、肌寒くなってきたし、コート丸焦げだし、本屋に寄りたいし、と零す。

「あ、はい。お疲れ様でした!」

 

 何故か匡平からの返答がバイト先のようである。その隣の史場(シバ)さんは酷くがっかりしたような、げっそりした顔をしていたが。

 ま、いい。

 

「ん、おつかれー」

 

 久方の運動に気分がいい。

 足取り軽く家路に就く背中に、足が痺れたらしい情けない悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 




まずい。
『なろう』にある本体の移転を決行しようとしたら、ずっと使っていたタイトルが中二で切ない……

いや、元々がコッテコテのオリ二次書きたくて衝動的にってのが走りだから仕方がないんだけど。
しかし、プロローグ入れた2010年4月から二年と四ヶ月ちょい。
投稿話数にして63部。(時の割りに少ないのはサボってたから)
総アクセス数 累計1,650,845 PV。
思っていたより大きくなったこの作品、果たしてこの中二ネームを続けていいのだろうか?
悩みは尽きません。

どなたか、もし似合うタイトルがあったら教えてくださいませ。
ごった煮状態のSSのタイトル……難しい。

PS:今のところ、我が弟よ~の『俺の両手は神殺し』だけです。提案後に両者揃って「中二から変わってない」との判を押されました。
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