クロスの影響のせいか序盤にしては勇者部の人数が多めとなっております。
2016/1/29 誤字修正
――― 昔々、ある所に勇者たちがいました。勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王に説得するため
に旅を続けています。
そしてついに勇者は魔王の城へ辿り着きました。 ―――
「やっと辿り着いたぞ魔王!もう悪いことはやめるんだ!」
「私を怖がって悪者扱いを始めたのは、村人たちの方ではないか~!」
「だからって嫌がらせはよくない! 話し合えば分かるよ!」
「話し合えば、また悪者にされる!」
「君を悪者になんて、しない!!!」
ここはとある幼稚園、ここの一室にて園児たちは人形劇に夢中になっていた。ちょうど一番の盛り上がり所とも言える『勇者』が『魔王』を説得する場面であったが、勇者役の人形が一番ここまで言い切ったところで、
「あ、あわわわわ~!?」
演技に熱の入りすぎたのかセットの張りぼてを倒してしまった。それにより勇者・魔王役を演じていた2人の女子学生の姿が現れてしまう。突然の出来事に園児たちはにわかにざわめき始める。幸いだったのか倒れた張りぼてが園児たちに当たってないことに2人は安堵した。
しかしながら、人形劇はまだ続いている。勇者役の子は演目を続けようとうぅ~と唸り声を挙げる。
「勇者キッ―――ク!!!」
「ちょ!おまっ!話し合おうってさっき!」
勇者人形の勇者キックが魔王人形に見事に決まる。予想外の事態に魔王役の子は勇者役の子のアドリブに突っ込みを入れた。
その一方 ―――、
「…全く、僕はこんな力仕事は向いていないというのに」
「そうは言うなよ」
そんなトラブルが起きている事も知らず人形劇が開催されている教室へと向かう男子学生が2人、
一方の男子は大きめの寸胴、もう一方の男子は大きめの釜を持ち運んでいた。
教室の前へと辿り着いた2人だったが、目的の教室内がざわついているのに若干気になり顔を見合わせる。
「こちらですよ」
案内をしていた保育士の女性が教室のドアを開ける。
「わっはっはっはっは~! ここが貴様の墓場だ~!」
「魔王がノリノリに!…おのれ~!」
男子学生2人が見た光景は、台本とは違う内容になってアドリブで演じている2人の女子学生、どうすればいいか分からずあたふたしながら『魔王のテーマ曲』を選んだ音響役の女子学生の姿があった。
「……いつから、脚本が変わったんだろう?」
「……さぁな。恐らく、ステージ倒した事によるのだろう」
黒髪の男子はきょとんとした様子で、土色髪の男子はその光景を呆れながらも恐らくこうなったであろうと予想たてながら様子で見ていた。
「みんな!一緒に勇者を応援しよう!が~んばれ!が~んばれ!」
『は~い。が~んばれ!が~んばれ!』
そんな中、唯一冷静だった車椅子の女子学生のナレーションにより子供たちを煽動し、
「ぬぉぉぉぉ!みんなの声援がわしを弱らせるぅ~」
「お姉ちゃん!いいアドリブ!」
魔王役の女子学生のアドリブにより人形劇はなんとか持ち直して来た。音響役の女子学生が思わず褒める。
「今だ!勇者…パ~~ンチ!!」
「いってぇぇ~~」
勇者が必殺の一撃で魔王を倒した。魔王役の子は本気で痛がるような演技を見せる。その絶叫の迫力に園児は釘つけになる。
「これで魔王も分かってくれたよね。もう友達だよ!」
「シメて、シメて……」
「―――というわけで、みんなの力で魔王は改心し祖国は守られました」
「みんなのおかげだよ~ブイっ!」
『ブイっ!』
『万歳ー!万歳ー!』
魔王役の女子学生の指示で車椅子の女生徒がナレーションで締める。勇者役の女子学生が喜びを露にすると園児たちも同じように返した。
「なんとか大団円といったところ…かな」
土色髪の男子学生は頭を抱えている中、黒髪の男子学生は園児たちに好評だった様子に一応は微笑んだ。ハプニングはあったもののなんとか人形劇は大盛況に終えることができた。
――――――――――
side:結城友奈
ふぅ…張りぼてを倒してテンパっちゃったけど園児たちに好評で良かったよ~。
と、こんな感じで校外活動に青春を燃やしている私達。
後輩で部長の妹、
黒い髪の女の子が私の大親友
「はい、みんな~。勇者部のお兄さんたちがお昼ご飯を持ってきたわよ~」
『わ~い』
そして、今回の劇に参加してないけどこうして園児たちの昼食を持ってきてくれた私と同じ学年の男の子2人もいます。
「おいし~♪」
「誰が作ったの~?」
「こちらのお兄さんが作ってくれた。…こら、割り込むな!」
「まだ十分にあるからな」
黒髪の男の子が
土色髪を長く伸ばしている男の子が
最後に勇者役と務めたのが私
この6名が
実施するクラブ ――― そう讃州中学勇者部なのです。
side out
――――――――――
――― 翌日
-讃州中学 友奈・東郷のクラス-
「起立、礼!」
「神樹様に、拝」
「はい、さようなら」
生徒達は先生の号令に従い、立ち上がり、頭を下げる。そして、神棚の方へ向き礼をしたまま手を合わせ、日頃の恵みをもたらす神樹様に感謝と信仰を捧げる。神世紀の世界の住人にとってはいつもと変わらない儀式のようなものである。
挨拶を終えた生徒たちは、それぞれ帰路につく者、部活へと向かう者などに分かれていく。何も変わらないいつもの学校の風景である。
「友奈~!今度の対外試合、助っ人のお願いしたいんだけど……」
「ん?おっけー、いくよ~」
友奈と東郷は荷物を纏め帰り支度をしていると後ろの席の眼鏡の子が声をかけてきた。頼みを快く引き受ける旨の返事をすると斜め後ろの東郷の席に回り込む。
「今日も忙しいの?部活?」
「勇者部だよ!」
「そう、勇者部」
「……なんか、何度聞いても変な名前だね~」
「そぉ?かっこいいじゃん、じゃね~」
眼鏡の子の疑問に友奈と東郷は顔を見合わせ微笑みながら答える。2人は眼鏡の子に手を振ると教室を出た。
廊下を暫く歩くと、ちょうど隣の教室から見慣れた2人の男子学生が出てきた。
「あ、一騎君~、総士君~。おつかれ~」
「お疲れ様です」
「あぁ。お疲れ」
「お疲れ。結城、東郷」
1年の時は同じクラスだったが2年になった際に4人はちょうど隣のクラスに分かれてしまったのである。
「も~『友奈』でいいのにぃ~総士君」
「す、すまない。この呼び方は僕の癖みたいなものだからな…」
(相変わらず、不器用だな)
(不器用ね)
友奈は少しむすっとした態度をとり、それを見た総士はつい謝ってしまう。合流した4人は共に話をしながら廊下を歩き続けると『家庭科準備室』『勇者部部室』のプレートがある部屋の前へと辿り着いた。ここが勇者部の部室である。
「こんにちわ~、友奈・東郷・一騎・総士入りまーす」
「こんにちわ~」
「こんにちわ」
「…失礼する」
一騎が扉を開けると友奈が先に挨拶をする。東郷・一騎・総士は各自それぞれ挨拶をする。東郷は器用に車椅子を動かすと部室内での定位置であるパソコンの前に着いた。
「お疲れ様です~」
「お、来たわね~」
4月から入部し机で占いで使うタロットカードをいじっていた樹が友奈達に気付き挨拶を返す。奥から出てきた部長の風が体を出して手を振ってきた。
「昨日の人形劇、大成功でしたね~」
「え~? ていうか何もかもギリギリだったわよ」
「結果オーライで~」
「みんな喜んでましたね~」
「友奈ちゃんのアドリブ良かった~」
「……受ける私は、激ハラドキドキ丸よ」
「勇者はクヨクヨしてても仕方が無い!」
「いつもポジティブですね~」
「ポジティブなのはいいんのですが……」
「ハプニングがあったとはいえ…何も知らない僕たちにとってあの状況は理解が出来なかった……
あの時の風先輩の苦労も分かるかもな」
「うぅ~2人はアタシの苦労を分かってくれるのね~」
風は自らの苦労に関して一騎と総士に同意を求めてくる。2人はたじろぎながらも頷いた。
「こほん……じゃあ今日のミーティング、始めるわよ~」
「「「はーい」」」
「「分かりました」」
風は切り替えるとみんなに指示を出し、本日の勇者部の活動を開始した。
「うへぇ~、かっわい~♪」
「こんなにも未解決の依頼が残っているのよ~」
風が取り上げたのは『子猫の飼い主探し』。勇者部の初期からやっている活動のひとつだ。
「こんなにですか…」
「た、たくさんきたね…」
結構な数だったので呆気にとられる樹と一騎。
「なので、今日からは強化月間。学校を巻き込んだキャンペーンにしてこの子達の飼い主を探すわ!」
「オオォッ!!」
「学校を巻き込む政治的発想はさすが一年先輩です!」
「あ、ありがとう……」
「せ、政治的な発想はともかく、極めて効果的だな」
感慨の声をあげる友奈に、少し他とはずれたような褒め方の東郷。風と総士は苦笑いしながらもお礼と突っ込みを言う。
「学校への対応はアタシがやるとして、まずはホームページの強化準備ね。――東郷・総士任せた!」
「はい!携帯からもアクセスできるように、モバイル版も作ります。総士君、この際だから色々改装しちゃいましょうか」
「さすが~、詳しいね~」
「そうだな。では僕は……」
友奈はまたもや感慨の声をあげる。彼女はこうして褒める事で雰囲気を良くするムードメーカー的な立場となっている。
東郷と総士は色々話し合うと、東郷はパソコンのキーボードを打ちはじめ、総士はどこからか取り出したタブレット(自前)の操作を始めた。
「俺たちはどうしましょうか?」
「えっとぉ、まずは今まで通りだけど……今まで以上に頑張る!」
「アバウトだよ、お姉ちゃん……」
一騎の問いに適当な返答をする風。妹の樹はその様子にどうすればいいのかわからずおどおどとしている。
「それだったら、海岸の掃除行くでしょ?」
「はい」
「そこでも、人に当たってみようよ!」
「ああ!それいいです!」
「それしかやれる事はなさそうだな」
友奈が樹に提案すると一騎と樹はそれに同意すると、作業に没頭していた東郷と総士の手が止まった。
「完了した」
「ホームページ強化任務、完了です」
「早いな、もう終わったのか?」
「「「え、はやっ!!」」」
一騎は総士の技量を知っているため反応は薄かったが、その他3人の目が丸くなった。
「しかもよくできてるぅ」
「……すごぉ」
東郷は敬礼しつつも、総士は腕を組みながら佇んでいた。
「……東郷も総士並に凄いんだな」
「総士君、やりますね」
「これくらいなら簡単だ」
総士と互角の技量を持つ東郷に対して一騎は素直な感想を述べた。
――――――――――
「はい、お待ち」
「は~い♪」
「三杯目……」
部活も終わり、勇者部のメンバーは行きつけのうどん屋である『かめや』に足を運んだ。一騎や総士もこの世界の住人になってからこの地域のうどんの味に慣れたようで食べることが多い。中でも一騎に至っては、
『……駄目だ。今の俺じゃあここまでのうどんは作れない……。どうなってるんだこのコシは!』
と始めて食べた時に大絶賛するほどであった。今でもうどんの試行錯誤をしているのはまた別な話である。
(そのうち、メニューに『一騎うどん』でも増えそうだな)
それを知った総士の心境はこのようである。話は少し脱線したが元に戻そう。
「うどんは女子力をあげるのよ~」
((そう言いながらどれだけ食べるんだ))
ここは言葉にしてはいけないと思い、一騎と総士は突っ込みを心の中で留めた。
「でも…2人共ホームページ強化すごかったです!」
「あの短時間で仕上げるとか」
「プロだぁ~」
「凄いよ。総士、東郷!」
それぞれが総士・東郷を褒め称える。2人は少し照れつつも一騎たちにお礼を告げる。
「先輩、天ぷらどうぞ」
「おぉ~気が利くね~。君、次期部長は遠くないよ~」
「いえ、先輩見てるだけでおなか一杯に……」
風の食べっぷりは凄まじく、周りのお腹が膨れてしまうほどの潔さだ。そして、今東郷から頂いた天ぷらごと三杯目も完食し器を置いた。
「いらっしゃいませ~!3人様でしょうか?」
「すみません~ここで待っている人たちがいて~」
「乙姫、こっちだ!」
聞きなれた声に気付いた総士が自らの席に来店してきた3人の小学生っぽい女の子を招く。
「お~いいタイミングで来たわね。『特別部員』達」
「「「お邪魔しま~す」」」
先頭に立っていた乙姫と共に彼女の友人であるセミショートとおさげの少女がやって来た。乙姫を中心とした小学生組3人は勇者部の『特別部員』として部長である風が認めている。偶然にも勇者部の活動を知ったこの2人の少女が乙姫と同じクラスメイトでもあり顔見知りであった事もあってか意気投合したらしい。
なお、余談だがこの事もあってか乙姫たちの後押しにより総士が勇者部に入る原因になってたりもする。
3人もうどんを頼むと勇者部の人たちはこの前あった人形劇の出来事など他愛のない話を広げる。しばらく団欒が続いたが、
「あ、そういえば先輩。話って?」
友奈が思い出したように話題を振ってきた。風がそろそろかと話題の口火を切る。
「あぁ、そうだ。文化祭の出し物の相談」
「え、まだ四月なのに?」
「夏休みに入っちゃう前にさ、色々決めておきたいんだよね~」
「確かに。常に先手で有事に備えることは大切ですね」
「東郷と同じ意見だな」
「今年こそ、ですね~」
「去年は準備が間に合わなくて、何も出来なかったんですよね~」
「男手の一騎が運動部の助っ人にとられまくったからねえ……」
「えっと、……なんかごめんなさい」
「……そんなことがあったのか」
「ふふん、今年は猫の手も入ったしね~♪」
そう言いながら風は樹の頭を撫でる。樹は突然撫でられた事でつい声を挙げてしまっていた。
友奈は頭をうならせるも考えが付かず話し始める。
「う~ん、せっかくだから一生の思い出になる事がいいよね~」
「尚且つ、娯楽性があって、大衆が靡くものでないと」
「えぇ~、でも何したら……乙姫ちゃんたちは良い考えないかな?」
「う~ん、難しいなあ。2人はどうなの?」
「全然だよ~」
「こっちもあまり~……」
樹が乙姫ら小学生組に振るも不発のようで、一同はこれといった意見が出ずに風がいったん締めた。
「それをみんなで考えるのよ~。はい、これ宿題。それぞれ考えておく事~」
風の一声に女性陣は声を挙げ、男性陣も賛同の意思なのか頷いた。
「うん、いい返事! すみませ~ん、おかわり~」
「「えぇっ!?」」
「四杯目!?」
風のまさかの四杯目の注文に小学生組を除く(来るまでにどれだけ食べていたか知らない)一同は驚愕した。
――――――――――
かめやの駐車場にて一同は解散となった。一騎・総士・乙姫は友奈・東郷と同じ方角だが、今回は真壁・皆城家では食材の買い出しに行かなければならなかったため、友奈と東郷はデイサービスの車に乗って先に帰っていってしまった。犬吠埼姉妹と乙姫の親友2人はどうやら同じ方向のようでともに帰ったようである。
「あ~今日も楽しかった~。話聞くだけでも色々楽しいね総士」
「あぁ。そうだな」
総士はご機嫌な乙姫の対応をしている中、一騎は何か物思いにふけているようだ。総士はその様子が気になったのか一騎に問いただした。
「一騎、何を考えている?」
「……なぁ、総士。今はこうしてこの世界で暮らしている訳だけど俺たちにこれ以上出来ることはないのか」
「……残念だが、今の僕らにできることはないんだ。島にいた時と同じで敵が来るまで待つしかない」
「そうか…」
「……一騎。やはり島の事が…」
「気になるって言えばそうとしか言えないな」
一騎の様子を見た総士は空を見上げながら呟く。
「あの時に僕が巻き込まなければ……甲洋と来栖が元の世界に」
「総士、俺はあの行動をとった事は後悔してないよ。さすがに生まれ変わるとは思わなかったけどね」
総士は一騎顔を見る。その目には後悔という色は全く見えない。総士は完全に思い過ごしと思い目をつむる。
「ふっ。そうか」
「2人共、なにしんみりしてるの?」
乙姫が2人を見上げるように見つめてきた。
「なんでもないよ、乙姫」
「そう?」
一騎はそれに答える。
その後3人は商店街で買い物をし皆城家へ向かうと一騎が調理した夕食を食べる。そして終えると、一騎はそのまま家へと帰った。
side:皆城乙姫
神樹が私達に3年も日常を過ごさせたけど、2人はもう大丈夫そうね。
敵との戦いの準備もあったけど、私は2人があの戦いに投じてた事を知った時から休ませたかった
…それは神樹や織姫も同じ考えだったわ。……神樹は何か他に考えを持っていたみたいだけどね。
私としては居場所は違うけどある意味で人として生きることができるようになったしこう言うのもなんだけどうれしいかな。
……だけど世界は待ってはくれない。
「乙姫?」
「あ…うん。なんでもないよ」
私達の新たなる航海の時が目前に迫りつつあるのは確かだよ……総士、一騎。
次回は樹海突入からのゆゆゆメンバー対乙女座の戦いとなりますが、ラスト辺りにイレギュラー事態となると思います。
以下、解説
●皆城乙姫
作者のファフナー贔屓キャラ。織姫は役目がある事もあったがどうしても2人を導くポジが欲しかったので採用。勇者部内での会話だとどうしても一騎・総士が空気化してしまうためその絡みの対策でもある。
神樹とつながってるのも仕様。・・・戦闘では空気化しませんよ。
●乙姫の友達2人
転入してからできた模様。イメージは賢明な人ならわかるはず。
●勇者部特別部員(当作品オリジナル要素)
当作品内での乙姫たちの勇者部での役割。ようは時間があった際のお手伝いさんみたいなもの。
活動報告内の専用ページにてアンケートを募集しております。機会があればどうぞ。