2016/2/23 表現一部修正
2016/11/14 『鷲尾須美の章』にて須美達の担任の名前が確定したため修正
――― 樹海発生後から数刻後
-大赦 讃州地方支部-
「神樹様の神託の通りだ……」
「『バーテックス』だけでも十分な脅威なのに……早急に対策を練らねばな!!」
「しかし、どうすればいいのだ」
「それよりもあの2人はなんだ! 男の勇者なんて存在しないはずだぞ!」
この世界で神樹を祀り、その裏では人類の敵『バーテックス』を一手に担う組織『大赦』。しかし、今回の襲来で起きたイレギュラーの連続により現在は混乱の真っただ中にあった。
「……はぁ」
そんな中、冷静に状況を見つめている1人の薄めの茶髪の男性がいた。そして、自らに歩み寄る足音も聞こえそちらの方へと振り向くと背の小さな少女が立っていた。
「こんにちわ」
「…乙姫ちゃんか。戻っていたのか…けど、どうしてこちらに?」
「神樹にお願いして送ってもらったのよ、『春信』」
『春信』と呼ばれた男性はなるほどと頷いた。
「そうか。そうなると勇者たちと共に総士君やもう1人の『来訪者』も帰ってきているという事か」
「そうよ。…お願い、みんなを迎えに行ってあげて」
「手配は済んでいる。すぐに行動を起こそう」
――――――――――
――― 時間は少し戻って
-市立讃州中学 屋上-
敵との初戦を終えた勇者部の一行だったが突如として樹海が揺れ始め、舞い散る葉によって視界が阻害されてしまった。
そして再び目を開けた時、そこは見慣れた街並みが見える学校の屋上であった。
「あ…あれ? ここ…学校の屋上?」
「神樹様が戻して下さったのよ」
風がそう言うと立ち上がる。どうやら変身も解除されている事に友奈や樹も気づいた。そして、戻された時の配置のままで友奈はすぐ隣にいた東郷の前でひざをついて手を握り合う。
「東郷さ~ん。無事だった? 怪我はない?」
「友奈ちゃん…友奈ちゃんこそ大丈夫?」
「うん! なんともないよ! もう安全…ですよね?」
無事を分かち合った2人は風に問いかけると頷く。すると、学校の屋上に安置されている祠の向こうから友奈たちの方へ歩いてくる姿がある。
「一騎さん、総士さん! 無事だったんですね!」
「あぁ」
樹からの呼びかけに肯定の意を示す一騎。総士は無言ながらも頷いた。
「ほら見て?」
「みんな、今回の出来事気づいてないんだ……」
風に促され、友奈・東郷・樹は屋上からの景色を見つめる。
「そっ、普通の人からすれば今日は普通の平日。守ったんだよ、みんなの日常を」
「よかったぁ……!」
「ちなみに世界の時間は止まったまんまだったから今はモロ授業中だと思う」
「「「「えぇ!?」」」」
風の発言に総士を除いた一同は思わず振り向く。
「ま、後で大赦からフォローを入れとくわ…っと」
「うわ~ん、お姉ちゃん…怖かったよぉ~」
泣きながら胸元に飛び込んできた樹をまるで母親のようにあやす風。
「よしよし、よくやったわね。…冷蔵庫のプリン、半分食べていいから」
「あれ元々私のだよぉ~!!」
「……(みんなが無事でよかった…けど、私は……何もできなかった……)」
そんな姉妹の微笑ましい光景を見てつい笑みがほころぶ友奈と一騎。その一方で東郷は俯きながら何かを考えこんでいた。
そんな中、どこかへと連絡していた総士が口を開いた。
「……残念だが、今日は早退だ」
「「「「「……え?」」」」」
ぽかんとした表情になる5人。
「総士君、どういう事なの? …っ!」
東郷が問いかけようとしたが、学校の正門辺りに見慣れない車の列が到着した事に気付く。
「あれは…大赦の……『霊的医療班』! どういうことなの?」
「大赦から連絡があったからだ」
風がその列の正体に気付いたが、総士が間を割って風にメールの内容を見せると事情の説明を始めた。
「大赦で呼ばれている『金色のバーテックス』に接触した、結城と風先輩、それに一騎は一刻も早く検査を受けてもらう。その他みんなもだ」
「お、お姉ちゃんや友奈さん、そんなにまずい事なんですか?」
「多分大丈夫だと思うが一応…な」
総士は一騎の元へ駆け寄りそっと耳元でささやく。
「(…いくら生命限界がなくなったといえ、今の体で何が起こるかわからない。おとなしく検査を受けろ)」
総士のささやきに一騎は正直に頷く。
こうして6人は大赦の霊的医療班の車に連れられ病院へと向かった。なお、学校などには既にフォローが手配済みなのを補足しておこう。
――――――――――
-讃州地方 病院-
『霊的医療班』によって即連れ去られた勇者部の一行は病院にて精密な検査を受けた。大赦の『霊的医療班』は特に金色のバーテックスに接触した友奈と風、それに一騎にに対しては重々に行われた。
「う~ん、詳しく調べてみたけどいたって健康体よ。総士君が懸念していた症状も今のところはないわ」
「そうですか……」
「よかったね。一騎」
検査を終えた一騎に女性医師がその結果をえ、いつの間にかそこにいる乙姫は胸をなでおろす。
「…で、なんでこんな所に乙姫がいるんだ。それにこの人達は誰なんだ?」
検査が終わった一騎と総士は病院のある一室へと通された。そこには乙姫と共に薄めの茶髪の男性がいた。
「…学校の方は午前中で終わったよ。ここにいるのはみんなの無事を見たかったから」
「そのうち一騎にも顔合わせさせようと思ってたが…この人は僕たちの『事情』を教えた協力者だ」
「紹介が遅れたね。私は『
「……『
「あ…どうも」
春信と静流が自己紹介をし会釈をすると一騎もそれにつられて会釈をした。
「……教えてもよかったのか?」
「少なくとも僕と乙姫だけではやれることも限られている。それで大赦にいた伝手もあって協力者を募ったんだ」
いくら前の世界でアルヴィスに携わっていた総士でもやれる事は限られている。協力者を募ったという答えに一騎はとりあえず納得した。
「僕はもう少しこの人たちと話す事がある…一騎、お前ははどうする?」
「(この場にいてもなあ…)…よく分からなさそうだしロビーで待ってるよ」
「そうか」
「もし頭が痛いとかの何か違和感があったら誰かにすぐ言うのよ」
「お大事にね~」
優しく声をかけた静流に一騎はしっかりと頭を下げ部屋を後にした。
「…大赦は大騒ぎだ。神樹様の神託どおりの敵に『来訪者』である君らが本格的に動き出したことによるのが主な要因だな」
部屋に残った総士は乙姫と共に春信から大赦の内情が伝えられた。
「……それが当たり前の反応でしょう」
「でも、おかげで専門部署設立の後押しができそうだわ。…騒動を利用する形だけどこれで勇者たち共々あなた達のサポートしやすくなる」
「それと……乙姫ちゃん用のシステムがもう少しで調整が終わるって連絡もきたよ。先の戦闘でのデータも捉れた事で早まったみたいだ」
「ありがとうございます。春信、『静流先生』」
乙姫が静流に行儀よく頭を下げる。しかし、総士はそれを快く思って無い様な表情である。
「総士、何かあるの?」
「いや、しかし…」
「もしかして、私も戦うのが嫌なの?」
「そんなつもりではないのだが」
「…そういうの『えこひいき』っていうんだよ。私だってコアとして島を守っていた身だよ! そんなので仲間外れってのはもっと嫌よ!」
言い返せない総士に対して乙姫が言い詰めよる。そんなちょっとした兄妹喧嘩を春信と静流は微笑ましく見ていた。
それに対して話題が外れないようにと静流が咳払いをした。
「こほん…、総士君、勇者に選ばれた皆さんはどうなされるのかしら?」
「彼女らには……」
総士は一瞬だけ間を置くと、その瞳にはある種の決意のようなものをこめ大人達に返した。
――――――――――
「あ…」
「…ッ! 一騎君!!」
一騎は病院の廊下を歩いていると友奈と遭遇していた。
「そっちも検査が終わったのか?」
「うん。なんともなかったよ」
いつの間にか2人は共に歩き始めていた。しかし、友奈は珍しく黙り込んでおりいつものように話しかけてこない。一騎はどうしたものかと考えを巡らせていたが、
「……一騎君だったんだ…」
「どうしたんだ?」
「……初めて会った頃…あの時に助けてくれたの」
「あの時か…たしかに背負っては 「違うよ!」 え?」
「知ってるよ…あの時に本当に何が起こったのかを」
「…覚えていたのか!?」
「そうみたい…。思い出したのはあのバーテックスに捕まったときだけどね」
友奈は立ち止まり一騎に向き合うとふっと1回深呼吸する。
「……なんだが、凄かったなあ一騎君。2回も私の事を助けてくれたしまるで…」
「友奈ちゃん! 一騎君!」
「「ッ!」」
友奈が何か言いかけた時、2人の姿を見つけたのか東郷・風・樹が駆け寄ってきた。どうやら、いつの間にかロビー近くまでついたようで彼女らはそこで待っていたようだ。
「友奈ちゃん、本当に大丈夫なの? 一騎君も!?」
「うん、大丈夫だよ。異常なしだって~♪」
「俺も特には異常はないよ。何かあったらすぐ伝えてくれって言われたけどな」
「そう……。本当に良かった」
安心したのかほっと息を吐く東郷。
「そうだ! 風先輩は?」
「ヘーキヘーキ…」
心配そうな様子で制服の裾を掴まれている樹を傍らに風がいつもの調子で返した。
「みんなここにいたのか?」
「総士! 話の方は?」
「報告を受けただけだからすぐに終わった」
大赦の人との話を終えたのか総士と乙姫が病院の奥から出てきた。
「乙姫ちゃん、どうしてここに?」
「私も大赦の関係者だから…学校が終わった後にここにつれてこられたの」
「そう。…で、あんなに騒いでた総士さん…結局何もなかったけど、そこはどうなんですかね」
「……それはよかった」
風はジト目で総士を見つめるもなんとか返事を返した。
「そういやさ。総士、真壁あんた達本当はいったい何者なの? 乙姫ちゃんも大赦の関係者みたいだし…」
「う~ん。説明しときたいとこなんだけど」
「…外を見てみたらどうだ」
外を見るともう日が落ちかけ、辺りは暗くなろうとしていた。
「うわ~もうこんな時間か。こりゃあ部活もできなさそうね……依頼は明日にまとめて片づけましょ」
「そうですね。…急ぎのものではなかったのが幸いでしたね」
今日は色々な事がありすぎたためあってお流れにすることにした。風から翌日部室の方で話す事になり解散の流れとなった。
「時間も遅いから皆を送っておこう」
正面玄関には大赦所属の車が並んでおり、総士の計らいに友奈・東郷・風・樹は快諾した。
-結城家前-
「じゃね~東郷さん」
「まったね~」
「また…」
大赦の車は結城家の前に到着し下りた後、友奈と乙姫は手を振りながら東郷を見送った。東郷はいつも通りの挨拶で返すも先程から何か考え込んでいたようで若干暗く感じた。
「それじゃ私もこれで…」
「友奈!」
友奈が結城家へと戻ろうとしたが一騎に呼び止められそちらへと向いた。
「さっき何か言いかけてたんだけど…いいのか?」
「う~ん。遅くなったし、また今度でいいかな」
「そうか」
友奈は少し残念そうな表情で言った。彼女の気にしてないという感じから一騎は追求をやめ、言葉を変えた。
「あの時の事だけどさ」
「ん?」
「明日…話すから」
「(!?)……。うん、わかったよ! じゃね~3人共~」
友奈は笑顔で返すと手を振り結城家へと帰宅した。それを聞いたのか乙姫がいかにも気になるという顔で一騎の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
「…で、いいの、一騎?」
「あぁ。…あまり隠し事をしててもな…」
それを見た総士は一騎に向かいあう。そして、あの話し合いの時に大人たちに伝えた考えを伝えることにした。
「一騎、明日僕らの事をみんなに伝えようかと考えている。敵の脅威もあるがこれ以上黙っていてもデメリットしかない。…それでいいか?」
一騎は総士の考えに頷き同意を示した。
――――――――――
――――――――――
-市内某所 ???-
「うん…わかった…ありがとうね~」
ベットで横たわる少女が語りかけるようにある存在からの報告を聞いていた。そして、それを伝えたある存在は光が弾けるように消えていった。
「……はじまったの?」
「きゃ!」
入れ替わるように出てきた少年の声にぎょっとした声が出てしまった少女。声がした方を向くと彼女にとって見慣れた人物が立っていた。
「なんだ~。驚かせないでよ~!!!」
「ごめんごめん!」
少年が少女に謝ると姿勢を改めてベットの傍にある椅子に座る。
「新たな『敵』は確かにいたよ…でも、逃げられちゃったからどんな奴かは…」
「そっか~……。でも、『わっしー』達が無事でよかったよ~。それにしてもあの人たち強いね~」
少女は勇者を救った2人を賛美した。
「報告はこれぐらいしかないかな?」
「うんうん。いつも動けない私のために本当にありがとね~」
「気にすることはないよ、■■。さて、今日はどんなお話をしてくれるのかな?」
「えっとね~」
少年はその後時間を許す限り少女のする話を聞いていた。
色々とフラグを投下しました。そして、今作品のOTONAポジ一部登場。
●三好春信
ゆゆゆ原作キャラ『三好夏凛』の実兄。今作品のOTONAポジその1。裏で色々とやらせます。
●安芸静流
『鷲尾須美は勇者である』に出てきた担任の先生に名前をつけたキャラ。今作品のOTONAポジその2。ファフナーとのクロスなのでそれっぽい名前になってしまった。ポジション的にはファフナー原作キャラの『遠見千鶴』ポジションになると思います。
この度、公式にて苗字が確定したため修正しました(修正前:遠海→修正後:安芸)
活動報告にまたアンケートを実施しますのでご協力を。