絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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原作第2話での勇者部での説明会シーン。


第9話 異世界からの来訪者

-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

「遅れました~友奈、東郷入ります~」

 

翌日の放課後、日直の仕事を終えた友奈が東郷と共に勇者部の部室へとやって来た。どうやら彼女たちが最後だったようで部室内には既に勇者部部員が集まっていた。

 

「その子懐いてるんですね~」

 

「えへへ、名前は牛鬼って言うんだよ」

 

「可愛いですね~」

 

「ビーフジャーキーが好きなんだよね」

 

「牛なのに!?」

 

「……共食い?」

 

友奈が頭の上に精霊『牛鬼』乗せながら樹と会話しつつ椅子に座り、東郷がその隣へと車椅子を動かした。その友奈の牛鬼についての話に樹の突っ込みが入り、一騎は見方によっては若干ブラックに聞こえる反応を返した。

 

そんな中、風が黒板に何かを描き込み、準備が出来たようで皆の方に振り向いた。

 

「……さてと、皆元気でよかった。乙姫ちゃんは総士から大赦の用件で呼び出されて来れなくなったけど…早速だけど昨日の事をアタシと総士から色々説明していくわ」

 

風が自らの描いた…友奈や樹から言えば個性的かつ現代的なアート画を使って説明を始める。簡単にまとめると、

 

・昨日の敵である『バーテックス』は合計で12体。人類が住めなくなった壁の向こうから来る事が神樹様のお告げで分かった事。

 

・『バーテックス』の目的は神樹様の破壊。以前にも襲っており追い返すのが精一杯だったが、神樹様の力を借りて勇者と呼ばれる姿に変身し人知を超えた力を扱う『勇者システム』として運用している事。

 

・注意事項としては戦闘時に展開される結界である『樹海』が何かしらの形でダメージを受けるとその分日常に戻ったときに災いとして現れるといわれているらしい。

 

「(隣町の事故はそれの事だったんだ)」

 

友奈は教室で級友が話していた事件の話を思い出した。複数台が絡む事故で2・3人と怪我人が少なからず出て、一時その処理に道路が寸断された程の大きな事故だったそうだ。

 

「派手に破壊されて大惨事、なんてならないようにアタシたち勇者部が頑張らないと」

 

「……その勇者部も、先輩が意図的に集めた面子だったという訳ですよね?」

 

「…………うん、そうだよ。適正値が高い人は分かってたから」

 

東郷からの指摘に風は申し訳なさそうに答える。東郷は総士の方へ振り向く。

 

「…総士君もなんですか?」

 

「そうだ」

 

「アタシ達は神樹様をお奉りしている大赦から使命を受けてるの。この地域の担当として」

 

「僕と乙姫がこっちの地方に赴任してきたのは担当者や勇者たちのサポートが目的の一つだからだ」

 

「知らなかった……」

 

「黙っててごめんね」

 

風は改めて今まで黙っていた事をみんなに謝った。そこに友奈は問いかける。

 

「次は敵、いつ来るんですか?」

 

「明日かもしれないし、一週間後かもしれない。そう遠くはないはずよ」

 

部室は静まり返る。またいつ来るかもしれない未知の存在からの脅威にさらに空気が重くなった。

 

「それと今回は神樹様の御神託で『金色のバーテックス』と呼ばれる敵も出てくるとあったの。それで実際に出たんだけど……」

 

「風先輩、ここからは僕が話します」

 

「……わかった。東郷、この事だけど私にも分からないことがあるから総士にお願いするわ」

 

風が友奈たちの下へ向かい。変わりに総士が一騎と共に黒板の前へと出る。

 

「ちょ、ちょっと待って。なんで真壁もそっちに?」

 

「俺もどちらかと言えばこっち側だから」

 

一騎が風に答える合間に総士が黒板に何かの画を張り付けた。

 

「あ…!」

「それって昨日の『金色のバーテックス』!」

 

総士の張り付けた画にはバーテックス『乙女座』のあとに現れた『金色のバーテックス』が映っていた。

 

「…風先輩、大赦ではこの『金色のバーテックス』の事はどこまで聞いていますか?」

 

「……大赦で聞いていたのは、『同化』と『読心』の能力事。それに出現した場合は質問に答えずに担当した勇者候補と早々に逃げる事。…それしか聞いてないわ。説明する人が相当念を押していたから唯事ではないと思ったけど……」

 

総士の質問に風は思い出しながら答えた。勇者の講習の際になぜかその話に関しては担当者が相当必死だった様子で語っていたというのが印象に残っていたからだ。

 

「(どうやら春信さん達がそっちのほうをうまくやってくれたようだな)『金色のバーテックス』は大赦の方で調べた結果、バーテックスではない()()()()()という事が実証されました」

 

「そ、その生命体っていうのは?」

 

樹が呟くように総士に問いかける。

 

「……『フェストゥム』、『祝祭』の意味を持つ生命体だ」

 

友奈たちは驚きの声をあげる。そして、総士が改めたかのように4人に問いかける。

 

「僕と一騎、それに乙姫はこの存在の事を知っているが。正直に言うと皆にとってはとても信じがたい内容だと思う」

 

部室内がにわかにざわめく。突拍子もない事を言われ4人は動揺するも風が総士と一騎に問いかける。

 

「なんでそう言えるの?」

 

「僕…いや、僕と一騎、乙姫の正体も含めての事になるからだ」

 

「「「「(!?)」」」」

 

4人はぎょっとした表情になりさらにざわめく。そんな中、一騎は友奈がこちらにじっと見つめているのに気付いた。その表情は突然の事にどうすればいいか分からず少し不安になっている様だった。

 

「大丈夫…いつかは話さなければいけないと思っていたから」

 

一騎は安心させようとわずかに微笑んで頷いた。

 

友奈が他の3人に同意を得るかのようにひそひそと話し合う。そして、代表するかのように意を決して口を開いた。

 

「……一騎君、……総士君、あなた達はいったい?」

 

一騎と総士は互いに顔を合わせると彼女たちに告げる。

 

 

 

 

 

「俺と総士、それに乙姫は」

 

「この世界ではなく。こことは違う世界からある敵を倒すためにやって来たんだ」

 

 

 

 

 

最初に総士は友奈たちとは違う世界の事を大まかに可能な限り話した。

 

ケイ素で構成された生命体『フェストゥム』、一騎たちが守り戦った楽園『竜宮島』、人類がフェストゥムに対抗するために専用開発した「思考制御・体感操縦式」有人兵器『ファフナー』の事。

 

そのあまりにも大きく信じがたい内容に友奈たちは驚くしかなかった。

 

「……まるでSFのような世界ねえ」

 

「無理はないと思う。だけど、本当の事だ」

 

「一騎さん達の精霊である。この2体が……」

 

「あぁ。これが『ファフナー』だよ。こっちの世界に来た時にこうなったみたいで随分と小さくなったけどな」

 

風が総士に率直な感想をもらす中、一騎たち傍らにはこの世界でいう精霊という立場となり現界されている『マークザイン』と『マークニヒト』に対して樹が訪ね。興味ありげにそれを見る友奈・東郷、それに彼女たちに付き従う精霊たち。

 

【…!!!…!!!】

 

「牛鬼~どうしたんだろう?」

 

そんな中、友奈の精霊である牛鬼はニヒトに対し冷や汗をだらだらと流しながら震えている。

 

「こほん、次の話をしよう」

 

次に一騎たちの世界の出来事を話す。事前に乙姫も交え話し合ったのもあってか悲しい出来事を語るのは避けた。一騎と総士が最期を迎え既に命を終えた乙姫と共にこの世界に襲来した敵を倒してほしいと()()()()に頼まれこの世界に来た事にして話を締めくくった。

 

「…以上が僕たちの正体だ」

 

「「「「……」」」」

 

部室内は静寂に包まれる。有り得ないような内容だったのか困惑しているように見える。

 

「(やっぱり4人には信じられない内容だったかな…)」

 

一騎がそう思っていると、

 

「それでも……その話が本当の事だったとしても…風先輩も…総士君も……なんでもっと早く、勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか。友奈ちゃんも樹ちゃんも、死ぬかもしれなかったんですよ」

 

聞き手にまわりここまで喋る事はなかった東郷が口を開く。暗い顔をしつつ東郷が苛立ちを込めた口調で風と総士に詰め寄っている。その声は怒りにより少し震えていた。

 

「…ごめん。でも、勇者の適正が高くても、どのチームが神樹様に選ばれるか敵が来るまで分からないんだよ。むしろ、変身しないで済む確率の方がよっぽど高くて…」

 

「そっか。各地で同じような勇者候補生が……いるんですね」

 

「…人類存亡の一大事だからね」

 

風が謝り、理由を伝えるも東郷の怒りは治まらない。

 

「……こんな大事な事、ずっと黙っていたんですか!!」

 

「黙っていたのは事実だ。だが…」

 

「……こういう事になるくらいなら…ちゃんと話してほしかった…」

 

東郷は部室から出て行ってしまった。

 

「東郷さん!…私行きます!」

 

「…っ! 総士、すまない。俺も行ってくる」

 

「……あぁ」

 

友奈がすぐさま東郷の後を追う。少し遅れて一騎が総士に一言言うと友奈の後を追った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎・結城友奈・東郷美森

 

他の部活も活動中のざわめきが聞こえる中、部室を出て行ってしまった東郷の後を追った一騎と友奈。東郷は車椅子という事もありその行動範囲は限定されるため渡り廊下にて1人佇んでいる所をすぐに見つけた。

 

「おまたせ、一騎君」

 

声をかけようとどうすべきか考えていた一騎だったが、その場からいったん外れていた友奈が戻ってきた。その手には自販機で買ってきたのかお茶のパックが握られていた。

 

「どうするんだ?」

 

一騎が問いかけようとしたが、友奈が東郷の元に駆け寄ると、

 

「…友奈ちゃん」

 

「はい、東郷さん。私のおごり」

 

いつもの笑顔を振りまきお茶のパックを東郷に手渡した。東郷は戸惑いの反応を見せる。一騎は友奈の行動に驚きながらもその推移を見守る事とした。

 

「え…なんで」

 

「さっき、東郷さん私のために怒ってくれたから…ありがとうね、東郷さん」

 

その友奈の笑顔に東郷は、

 

「ああ…なんだか友奈ちゃんの笑顔が眩しい」

 

恥ずかしさのあまりなのか顔を抑えながら反応を返した。友奈は頭の上に乗っている牛鬼と共にとぼけた表情を見せる。

 

東郷は自らの気持ちを吐露する。

 

昨日の戦闘の際に東郷は戦闘の恐怖に震え勇者へと変身が出来なかった事で勇者部の役にたてなかった自責の念が生まれてしまった。さらに大赦の使者である事を隠していた風と総士に反感した事でその苛立ちを抑えられずにただ感情的にぶつけてしまった。

 

落ち着き気持ちが整理されたことでそれが過ちだと気付いたが、

 

「それにね…総士君や妹の乙姫ちゃん、友奈ちゃんの幼馴染の一騎君の秘密まで知ってしまって。あんなこともあったから勇者部で過ごしたみんなとの日常が消えてしまいそうで……それで怖くなってしまったのもあって……」

 

友奈が頷きながら東郷の告白を素直に聞き入れる。

 

「友奈ちゃんは皆の危機に変身したのに…国が大事時なのに…私は…私は……勇者どころか…敵 前 逃 亡!」

 

「わ~、東郷さん! そうやって暗くなってたらダメー!!!」

 

その吐露に歯止めが効かなくなったのか東郷の濃ゆい一面が出てしまい暗い言葉ばかりが続いてしまった。友奈は必死にそれを止め、なんとか東郷を落ち着かせた。

 

そして、東郷は一息付いて問いかける。

 

「…友奈ちゃんは風先輩や総士君達が隠していた事について怒ってないの?」

 

「んー、そりゃあは驚きはしたけど。でも、風先輩や樹ちゃん、総士君や乙姫ちゃん、それに一騎君に出会えたのもこの適性のおかげだったら嬉しいかな」

 

友奈は自分の思った事を東郷に出していた。

 

「……私は…中学に入る前に、事故で足が全く動かなくなって、記憶も少し飛んじゃって。学校生活送るのが怖かったけど、友奈ちゃんと一騎君がいたから不安が消えて、勇者部に誘われてから、学校生活がもっと楽しくなって。……そう考えると、適正に感謝だね」

 

「これからも楽しいよ。ちょっと大変なミッションが増えただけだし」

 

「そっか、そうだよね。友奈ちゃんって前向きだね」

 

さっきまで暗かった東郷の表情が笑顔がほころぶ。それを見て友奈もつられて笑顔になっていた。すると扉が開く音がして2人は渡り廊下の勝手口の方を見た。

 

「っ! 一騎君」

 

「東郷、もう大丈夫なのか」

 

「……うん」

 

一騎が近づき東郷に気をつかいつつも声をかけた。東郷が申し訳なさそうに声をかける。

 

「さっきはごめんなさい。話の途中だったのに、2人にあんな事を言ってしまって」

 

「気にしてないよ。…それに俺もお互い様だ。こうして秘密を隠してきたんだから」

 

「ううん、それは気にしてないわ」

 

「東郷さん! 一騎君も暗くなっちゃってるよ!」

 

友奈の突っ込みに東郷はあっという表情するも一騎もつい頭を下げてしまった。

 

その時であるドンッ!という大きな衝撃が周囲を包んだ。

 

「なんだ?」

 

一騎が辺りを見渡すと、外で練習に励んでいた運動部の人たちの動きが止まっていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:皆城総士、犬吠埼姉妹

 

「……甘かったかなアタシ」

 

一騎と友奈東郷の後を追い出て行ってから風がやっと口を開いた。隠し事をしてしまった事で東郷があそこまで怒ってしまった事でさらに落ち込み。そのため部室内の雰囲気は暗くなっていた。

 

樹はどうすればいいかわからずオロオロと風と総士を交互に見つめている。

 

「……後悔しているのか?」

 

「…うん。総士が言ったとおりにこういう時が来ちゃったわけけど…。なんというか、ずっしりではなく潰されるほど重くくるなんてね…。こうなるんだったら最初から説明しておけば良かっただなんて…」

 

「今回のは結果的にそうなってしまっただけだ。その決断が甘かったという見通しがあったかもしれないが、無駄だったという訳ではないと僕は思うが、…で、君はどうしたい?」

 

総士は敢えて厳しく風に接する。

 

「どうするって?」

 

「東郷の事だ」

 

「たしかにああいう結果になってしまった。だが、君はこの地区の勇者候補の担当者なんだろう? 起きてしまった事は仕方がないし、部長としても放っておけないはずだ」

 

「…人が落ち込んでいるに手厳しいわね。まるで、そういう事が手慣れているみたい」

 

「僕もこういう立場にたっていたからな。何度も人間関係で衝突した事もあったし、時には今みたいな事もあった。…結局は向き合ってみないと和解もできないし、理解することも出来ない。ずっと後悔して過ちを犯すくらいなら僕はそうする」

 

これには総士の過去も関係している。

 

指揮官として合理的に非常な対応を努めてしまったため仲間から孤立し、一騎だけなら自分の苦しみを理解してくれると思っていたが島から出て行ってしまった出来事もある。後に和解する事は出来たが、この世界での人類の護り手に選ばれた彼女たちにそういった事をさせないと不器用ながらも語った。

 

「そうね…分かった。アタシなりに東郷と向き合ってみるよ」

 

風は樹に特技のタロット占いを頼むと風の精霊である犬神を相手に見立て謝罪の練習を始めた。彼女なりに東郷と向かい合ってみることにしたのだろう。

 

総士はやれやれといった表情で佇んでいると、

 

「…あれ?」

 

樹がタロットカードをめくろうとしたが、その一枚がめくる途中で空中に静止した。

 

そして、辺りにアラーム音が鳴り響くと犬神が風の端末を運んできた。

 

「…まさか2日連続でバーテックスが!!!」

 

災厄は勇者と異世界からの来訪者の平穏を許すはずがなかった。




一騎たちの立場を勇者部のみんなに一部バラしました。隠していてもデメリットしかないと思いますので。

ここからしばらく原作2話の展開が続きます。その話が終われば次章に突入しにぼし大好きのツインテールのあの子回となります。

以下、次回予告。
「待っててね。倒してくるから」

連日での襲来、バーテックスは勇者たちの脅威に戦力を増やしていた。

「3体同時に来たか……」

「お…多すぎない…」

「なんとかしないと!」

そんな中、祝祭が再び勇者を襲う。

「一騎、『フェストゥム』の狙いは!」

「友奈ぁ~!」

「友奈ちゃんを…いじめるなぁ~!!」

次回、第10話『三つ巴』

【見せてもらったよ。僕と違うミールの子たちよ…なら、これはどうかな?】

…【あなたはそこにいますか】

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