絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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第11話は3部構成となります。これはその前編となります。

2016/6/18:一部修正(紛らわしいので乙女座をフェストゥムに統一)


第11話 クロッシング(前編)

「(!?)……戻らない?」

 

3体バーテックスによる連日の襲撃、その最中にフェストゥムまでも襲来という事態に見舞われたが、東郷が勇者になった事で窮地を脱し殲滅に成功した。しかし、樹海化は解けずにいたせいか風・樹・友奈の3人は困惑した表情で辺りを見渡している。

 

「まだ敵がいるって事なんでしょうか……」

 

一騎と共に合流した東郷が辺りを見渡しながら呟いた。

 

4人は一騎と総士の方を見ると警戒を解いていないようで総士に至っては次々と出る画面の情報を処理している。

 

「きゃぁ! な、何!?」

 

樹が驚く中、警報音と共に『SOLOMON』の文字が描かれた画面が現れ、既に開かれていた画面が赤く染まる。

 

「(ソロモンに応答…また新型だと……)そのまさかだ…新手だ!」

 

「みんな! あれを!」

 

友奈が声をあげ他のみんなはそちらの方へと見ると、壁に近い海とも呼べる場所で、

 

――― 砂のようなものが渦を巻きながら集まり何かが形成し始められていた。

 

「「「「「「な!?」」」」」」

 

形成されたその正体を見て一同は驚愕した。

 

「う…嘘。あれは昨日の」

「何であんなのがまた出てくるのよ」

「お…お姉ちゃん、あれって…」

「『乙女座』のバーテックス!」

 

昨日、勇者の初陣にて襲来した『乙女座』のバーテックスとうり二つであった。

 

「でも、色が違います!」

 

「(!?)あの個体から『フェストゥム』と同じ反応を示している」

 

その色合いは白が基調だったのが金色が基調となっている。未知の存在が迫る前に総士は一騎への思念での会話を始める。

 

【一騎、連戦で辛いが……】

 

【大丈夫だ。俺はまだやれるよ】

 

【……あの存在、恐らくはフェストゥムだがお前に任せる】

 

【分かった。けど、友奈たちはどうする?】

 

【どの道フェストゥム相手では無理だ。それと…】

 

総士は一騎に勇者たちを出させたくはない理由を一騎に話した。

 

【……それは俺も気になってはいた……そういうことならみんなを頼む】

 

一騎は総士に告げるとその場から飛翔し友奈達から離れた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:前線

 

総士が友奈たちを下がらせている間、一騎は新たに現れたフェストゥムと対峙していた。

 

【フェストゥムがどこかでバーテックスについて学んだ……姿なのか】

 

「総士、友奈たちは!?」

 

【あぁ。今のところは抑えている。彼女たちには酷だがフェストゥムの恐ろしさは創造を超えているからな。……未知のタイプで不覚的要素も多い。消耗しきる前に片づけるぞ】

 

一騎はバーテックスの連戦で消耗しており、相手は未知数だ。結局は出たとこ勝負しかない。

 

【!?】

 

フェストゥムはその体の構成が終わると一騎の姿に気付いたのか、いきなり尾から漆黒の卵状の塊と飛ばしてくる。

 

「昨日のやつと同じ?」

 

塊に狙いを定めるとレールガンで撃ち落とす。撃ち落とされた塊は膨れあがり黒い球体となって散った。

 

【ッ!? ワームスフィアの爆弾か!】

 

「だったら!」

 

地面を踏み込み駆け出し接近する。フェストゥムは塊を複数飛ばしてくるが、一騎は進路上の邪魔となるものをハンドガンに持ち替え撃ち落とし、避けやすいものをあっさりと避ける。

 

フェストゥムとの距離が近づと今度は塊の量を増やし直撃は避けられない程の弾幕を張る。

 

【!?】

 

一騎の傍らにいるザインが前に出て右手を前へと突き出すと塊が当たり炸裂しワームスフィアに包まれる。だが、その黒い球体から無傷の一騎が飛び出してくる。ザインがワームスフィアの塊を防いだようだ。

 

そして、残りも距離があっさりと詰まり肉薄するととルガーランスを乙女座の体を刺し貫こうと叩き込む。

 

しかし、その切っ先は突如発生した不可視の障壁に阻まれる。接触した影響で障壁とルガーランスとの間に火花が飛び散る。

 

「硬てえ……けど」

 

一騎はルガーランスを押し込むと障壁はひび割れていく。するとねじ込まれた切っ先が障壁を貫通し砕き、その無防備な乙女座の中心部あたりへと突き立てれる。

 

結晶体(コア)ごと体を吹き飛ばせ!!!】

 

ルガーランスの刃状の砲身が乙女座の体の傷口を広げ、一騎は武器のトリガーを引くとフェストゥムに弾丸を叩き込んだ。叩き込まれた弾丸が炸裂しフェストゥムは爆炎に包まれる。

 

「「やったッ!」」

 

必殺の一撃がきまった事で喜ぶ友奈と風。それに対し息を飲み、静かに見つめる東郷と樹。

 

爆煙から一撃を放った一騎が現れる。内蔵された一撃を放った影響か空中へと投げ出されていながらもその瞳は爆炎に巻き込まれた乙女座の方を見ている。

 

その時である。爆煙の中からしなる何かが横薙ぎに振り払われた。

 

「(!?)」

 

空中にいたためほぼ無防備な状態で横薙ぎの一撃を受けてしまう。ルガーランスを咄嗟に盾代わりにするも巨大な何かの一撃は無情にも一騎の体をピンボールのように弾き飛ばしてしまう。

 

「――― つぅ!!」

 

何とか受け身を取り地面へと着地しブレーキをかけその勢いを殺そうとする。地面を焦がしながらも何とか踏み止める事が出来た一騎はその正体を見た。

 

煙が晴れた事により乙女座の全容が現れる。ふと見ればマフラーのように身にまとっていた布のような部分がぶら下がっており横薙ぎの一撃は恐らくそれだという事が理解できた。そして、弾丸が叩き込まれた影響で乙女座の身体は抉られておりその部位から砂が流れている。

 

しかし、フェストゥムの抉られた部分に翡翠色の結晶が包まれるとそれが砕けると体は再生され元の姿に戻ってしまった。

 

「(!?)攻撃が……」

 

【再生能力……! それも瞬時にだと!】

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:後方

 

「ちょっと! これってまずいんじゃない!」

 

乙女座のバーテックスを模したフェストゥムと戦闘に入った一騎だったが状況はよくはなかった。何度もレールガンでの銃撃を叩き込む、ルガーランスによる斬撃や刺突を加えても片っ端から再生されてしまう。

 

それにより乙女座は一騎に攻撃を加えつつも勇者たちの方へ向け進行し始めており、現在は総士の指揮の下一騎がなんとか踏ん張っているような戦況であった。

 

「総士君、私達も!」

「このままだと一騎先輩が!」

 

「だめだ!!」

 

「……どういう…ことなんですか!?」

 

友奈と樹を声を荒げ強く窘める総士。あまりの豹変に2人は押し黙るもそれに疑問をもった東郷が尋ねる。総士は思い切って勇者たちに理由を打ち明けた。

 

「まずは、フェストゥムの読心能力を防げない君達勇者ではかえって足手まといになる」

 

フェストゥムが持つ読心能力の前ではあらゆる戦術や考えが読まれてしまう。常に先手をうたれ不利になるのは目に見えている。それを防ぐことが出来なければ対等に戦うことが出来ない。

 

「それに昨日の戦闘、今回結城が狙われた事でフェストゥムの目的に確信がもてた。奴らの狙いは……君達、神樹に選ばれその力をもった勇者との同化だ!!」

 

基本的に固有の意志を持たないフェストゥムだが、それを統括するミールの指示で動いているためある程度の狙いが読める。総士は一騎が狙われず、勇者たちが率先して狙われ同化に及ぼうとしたことや他の情報から目的を推測した事だったが、総士は包み隠さず話した。

 

「……君達勇者を守るには仕方のない事なんだ」

 

「「「「……」」」」

 

総士の衝撃的な説明に絶句する勇者4人。

 

「でも……それでも……」

「友奈ちゃん?」

 

「このまま放っておくなんて…私にはできないよ!!!」

 

そんな中、友奈は総士に強く反発する。普段は楽天家な彼女らしくない強い言葉に驚く一同。

 

「行けるなら僕も行っている!」

 

本当なら自らも援護をしたい。だが今総士が勇者たちから離れれば彼女らに何らかの危険が及ぶ可能性が高い。総士はその立場に付かなければならない事に歯痒い思いをしていた。

 

「あぁ! 一騎先輩が!」

 

樹が指差した方を見る一同。

 

「ぐあっ!?」

 

フェストゥムの布の尾の一撃が一騎に加えられた瞬間であった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:3人称

 

一騎は乙女座に猛攻を与えなんとか戦線を維持していた。それも驚異的な再生能力の前に無力化され、敵が怯まずに猛攻をしている中という不利な状況、連戦での消耗というハンデを背負っている中である。仕留めようと攻撃を加えていた一騎は乙女座の体に深々とルガーランスを突き立てた。

 

【!?】

 

それをわずらわしく思ったのか乙女座はその体を勢いよく揺らし抵抗の様子を見せる。空中にぶら下がった状態となってしまった一騎はルガーランスを柄を握り締め必死に耐えていたが、

 

「あ…」

 

勢いに負けついに投げ出されてしまった。そこをフェストゥムの布の尾の一撃が叩きつけられられる。

 

「ぐあっ!?」

 

「つぅ!?」

「総士!!」

 

直撃はザインが相殺するも叩きつけられた衝撃が一騎の体を貫く、その『痛み』は受けた一騎だけではなくシステムでクロッシング中の総士にも襲った。『ジークフリード・システム』で感覚などの共有されるためである。

 

無常にも乙女座は地面に叩きつけられた一騎に対しワームスフィア爆弾での追撃を加える。5人の目の前で炸裂、一騎はワームスフィアに呑み込まれた。

 

「「……!?」」

「「一騎君!」」

「かずきぃーー!」

 

総士の慟哭が樹海内に響く。昨日の戦闘にてワームスフィアの脅威を目の当たりにした勇者4人は思わず目をつぶり顔を背けてしまう。

 

 

 

 

 

――― その時、異変が起こった。

 

 

 

 

 

「――― え?」

 

一瞬、空耳かと思った樹が最初に目を見開いた。耳を澄ましてみると、

 

「…う、歌? どうして!」

 

樹海内に歌声がたしかに聞こえた。聴いたことはないが、澄み通っており、そしてどこか暖かくなるような歌を。

 

「誰が…歌っているの?」

 

樹の言葉に反応した友奈・東郷・風も突如聞こえてきた歌声が気になるのか辺りを見渡す。

 

「あれは!?」

 

ワームスフィアが消滅すると、一騎の無事な姿がそこにあった。彼の周りに4機の飛行物体が浮遊しており。それらが互いにエネルギーを共有し障壁を構成していた。

 

「歌? ……まさか!」

 

一騎が歌の聞こえる方を見上げると根の上に1人の少女が立っていた。その姿は一騎や総士を同じような制服のような服装だったが一騎たちのような男性が穿くスラックスではなく、こちらはスカートとなっているもので羽織っているコートは巫女装束を思わせるようなデザインとなっている。

 

「……乙姫!」

 

【私も戦うよ…新たな居場所を守るために】




というわけで、乙姫参戦です。

年度末なので忙しいですが残り2部も仕上がり次第投稿したいと思います。

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