絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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原作2話後のオリジナル戦闘回

2016/5/15:感想欄指摘による誤字修正


第12話 クロッシング(中編)

-樹海内 神樹-

大赦の車で移動中だった乙姫は樹海の展開に巻き込まれた後神樹の元へといた。そこで神樹から力を受け取った乙姫は一騎や総士、勇者の4人を離れた場所から見守っていた。

 

「侵入したバーテックスは倒されたみたいね」

 

現在はちょうど侵入してきたバーテックスが殲滅された頃である。

 

【はい。……ですが、未来はいまだ変わっていません】

 

神樹からの思念と同時に壁に近い海ともいえる場所に『乙女座』のバーテックスとうり二つの生命体が現れる。

 

「あの姿はバーテックス、感じられるのはフェストゥムとも言うべきかな」

 

【えぇ。そしてあの存在が…】

 

「神樹が()()という未来でこの世界を滅ぼした存在の一つなのね」

 

戦闘が始まるも苦戦する一騎の姿を一度見ると乙姫は歩み出る。

 

「……だけどこの違和感は何なんだろう?」

 

【行くのですか】

 

「うん。消えてしまった私に新たな体と居場所を与えてくれたあなたやこの世界、それにみんなを滅ぼさせたくはないから」

 

【……乙姫さん、今のままでは分岐は動きません。一騎さんや総士さん、勇者たちに選んでもらわないと】

 

「その求めているのを与えるのが新たに生まれた私の役目…、本当に欲しいのかはもう一度選んでもらうためにね。……総士や一騎、そして幾多の中からあなたが選んだ勇者にも……」

 

【……そうですね。乙姫さん、再現したブリュンヒルデシステムを使用するためかその力のほとんどをシステムに回している分攻撃を防ぐ力はありません。……本来ならあなたのための精霊を用意できればよかったのですが……】

 

「ありがとう…でも、大丈夫…」

 

乙姫はアプリに触れ光に包まれる。すると、両手を掲げ歌い始める。

 

(そして、あのフェストゥムにも)

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 時は前話の直後へと戻る……。

 

フェストゥムの一騎に対する攻撃は乙姫の遣わしたノルンの障壁によって防がれた。その行動を感知したフェストゥムは乙姫を敵と認識したのか有無を言わさずに尾から爆弾を放つ。

 

「……そう。あなた達も会話のない道を選ぶの」

 

乙姫が寂しげな表情を見せると彼女の直上に4機の無人機動兵器『ノルン』が具現化され飛行し乙女座の姿をしたフェストゥムへとむかう。乙姫の思念で操作する飛行体は内蔵されたビーム砲を発射、爆弾を撃ち落としフェストゥムに光線を浴びせる。その光線は1発1発の威力は低いが確実にその体表を削り取っていく。

 

さらに、ノルンはフェストゥムが前進しようとしたら攻撃、反撃したら離脱させるように展開させる。フェストゥムは攻撃された箇所はすぐに再生するもノルンの手数や機敏性に対応できずその足は鈍った。

 

「行って!」

 

鈍った隙に一騎を保護していたノルン4機をフェストゥムの周囲に配置すると障壁で囲い込んで動きを封じた。その間に乙姫は一騎に思念を開く。

 

【一騎、大丈夫?】

 

「あ…あぁ。正直、少し危なかったけどな」

 

【武器は?】

 

一騎がフェストゥムを見上げると突き刺さったルガーランスまで結晶に包まれると再生と同時に砕け散った。

 

【……今、新しいのを送るね】

 

乙姫からの思念と同時に前の戦闘で飛来したコンテナが一騎の元へと飛来する。地面に刺さったコンテナが開くとそこには純白の真新しいルガーランスがあった。

 

「(これは! あの時のは乙姫がやったのか)このルガーランスは!」

 

【一騎にはこっちの方が合うと思って】

 

思念で会話しているうちにフェストゥムが動き出す。そして、障壁を展開しているノルンの内の1機を布の尾を翻して掴んでしまうとそのまま握りつぶしてしまう。

 

1機のノルンを失った事で障壁の強度が弱まってしまい簡単に壊される。そして、周りに配置された3機も布の尾を振り回し破壊した。

 

【(!?)動き出した! 一騎、お願いもう少し耐えて!】

 

「…とは言っても、あいつ再生しまくるぞ!」

 

乙姫はさらに4機のノルンを具現化。残っている4機と共同でビームの連射で動きを少しでも封じようとする。島のときより連射力が強化されたビームの雨ともいえる弾幕によりフェストゥムの前進をなんとか阻止する。

 

【…あれは学んで新たに分岐した存在…】

 

「え!?」

 

【さわりの部分だけどそう感じた…けど、それだけでは足りない。今はあのフェストゥムをもう少し知るための時間が必要なの…だから、お願い】

 

「……わかった」

 

ここで乙姫からの思念が切れる。一騎は気にはなったが一先ず頭の隅に追いやるとフェストゥムに穂先を向けるとルガーランスの刀身が左右に開かれエネルギーが収束される。狙いを定めトリガーを引くと開かれた刀身からプラズマ弾が発射される。

 

先程使っていたタイプは刀身の展開によりコアを露出させそのまま荷電式の弾を撃ち込むコンセプトのため射撃武器としての使用は適してはいない。以前の戦闘では露出しているかつほぼゼロ距離射撃に近かったから問題はなかった。

 

それに対し、乙姫が送ってきたタイプはプラズマ砲を内蔵したものとなっており遠近両用の武器としての使用ができる。一騎はそれを感覚的に理解できた。

 

放たれたプラズマ弾はフェストゥムの巨体を抉る。プラズマ弾は貫通こそはしなかったものの抉った表面が赤熱化するほどの威力でフェストゥムの身体が陥没しついに悲鳴をあげた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:後方

 

(間に合ったのか…乙姫)

 

乙姫が根の上から飛び降りる。あっという声を挙げた勇者4人であったが、乙姫はノルンを1機展開すると発生させた障壁の上に乗りそのまま5人のもとへゆっくりと降りたっていく。

 

それを見届けた総士は多くの情報からフェストゥムの分析を再開した。

 

(なんといっても即時の再生が厄介だな。速度も異常すぎる……。あれだけの再生能力、条件なしであそこまで可能なのか。……まさかな)

 

総士は敵の一番の特徴である再生能力に目をつける。フェストゥムが持っている能力である超次元現象(SDP)。そのひとつである『再生』。それは島の仲間である一騎や剣司、芹も同様の能力を扱った事もあった。

 

しかし、フェストゥムも同様の能力を使った場合は他の個体の同化にさせることによる再生であり、一騎たちの使ったSDPの方には条件があった。

 

乙女座の姿をした個体はほぼ無条件で再生し続ける事に総士は疑問をもった。

 

「乙姫ちゃん…その姿…」

 

「どちらかと言えば、総士や一騎と同じかな」

 

乙姫が5人の元へと降りたつ。樹ら勇者たちが戸惑っているのをよそに総士の隣に駆け寄る。

 

「総士、状況はどうかな?」

 

「ノルンでの援護もあってか先程よりは良くはなった。……しかし、さすがにああいう真似は許容は出来ないぞ」

 

「……どうしてもあのフェストゥムの事を知りたかったの」

 

「……そうか」

 

総士は乙姫を窘める。乙姫は目を瞑る。

 

「じょ、冗談でしょ…あんなもんくらってんのに!」

「このままではキリがありません!」

 

そこに犬吠崎姉妹の驚きの声があげたためすぐに総士は我に返る。見れば一騎の放ったプラズマ砲で深くえぐられたフェストゥムの損傷個所が結晶に包まれるとまたすぐに再生してしまう。

 

【効いているのはずなのに全く堪えてないなんて。こんなの初めてだ……】

 

これまで幾多のフェストゥムと戦闘した一騎でさえも戸惑っている様である。

 

「そう…そうなのね」

 

どうすればいいのかという雰囲気に包まれかけたが、乙姫は囁くように言葉を続ける。

 

「人への敵意は変わらないみたいだけど、……ただ一つ私等がいた世界とは違うものを感じたよ。私たちのいた世界にはなくてこの世界にあるもの……。あのフェストゥムはそれをもってしまった」

 

【(!?)なんだと!】

「乙姫、あのフェストゥムに」

 

「うん。少し呼び掛けてみたの」

 

乙姫は元は竜宮島のコア型と言われる人とフェストゥムとの融合独立固体であり、フェストゥムに語りかける事で意思疎通を図ることが出来る存在だ。彼女はその能力で感じたフェストゥムの印象を総士に伝えた。その言葉に風が乙姫に疑問をぶつける。

 

「乙姫ちゃん、あなた…あのフェストゥムっていうのと話せるの?」

 

「ちょっと違うかな。あくまで語りかけるだけっていうとこかな。でも、それで情報を得ることは出来るよ…」

 

乙姫は前線にいる乙女座の形をしたフェストゥムをじっと見つめる。

 

「一騎や総士の役目はあなた達と共に戦う事…私の役目はそれを導く事。それが、神樹から託されたこの世界での私の役目…」

 

「「「「神樹様!?」」」」

 

「総士や一騎は既に選んだよ。……あなた達は何を選ぶの?」

 

勇者部の4人が驚く中、乙姫は再びフェストゥムに語りかけはじめる。

 

【(!?)止まった】

 

それに呼び掛けに応じたのかフェストゥムの動きが止まる。すると、彼女だけに分かるある種の情報のようなものが彼女に流れ込む。

 

(そっか。あなた達は…あの時の)

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:謎の存在

 

別なミールと認めた戦士に対抗できる個体を送り込んだ。思惑通りうまくはいっておりその存在は上機嫌となっていた。

 

「いったいなんなんだよ」

 

しかし、乙姫が介入し確信を得ようとしている。その存在はそれに次第に苛立ちを募らせる。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

【お前はいったいなんなんだ!】

 

その情報から乙姫が確信に至ろうとしたが、突如として割り込んできた思念に乙姫が目を見開く。ゾッとするような心を刺すような敵意と共に6人の目の前に無脊椎動物のようなフェストゥムが現れる。初戦の時と同じ個体である。

 

「ひぅ……」

 

フェストゥムは勇者や皆城兄妹に明らかな敵意をぶつける。それに戦慄したのか樹が風の傍らで震えたじろぐ。それに気付いた風は妹をそれ以上に恐怖させないとなんとか気丈にも表情を引き締め守ろうと抱き寄せる。

 

東郷はフェストゥムを正面に見据えながらも友奈の様子を見る。ふと見れば彼女の表情がわずかに優れないように見えた。

 

「心配しないで東郷さん…大丈夫だから」

 

友奈は東郷を安心させようと答える。しかし、東郷は友奈の手が僅かに震えているのを見た。彼女は風と共にフェストゥムの同化を受けた身である。脅威が迫った事により一種のトラウマのようなものが呼び起されてると東郷は思った。

 

「(友奈ちゃん、怖いのに私を安心させようと…なら、私が友奈ちゃんや風先輩、樹ちゃんを守らないと)」

 

今回の戦いで勇者に変身する事ができ、ある種の覚悟を決めている東郷は脅威にさらされていた中で唯一我を保っていた。

 

東郷は震える友奈の手を握ると、もう一方の手に銀の狙撃銃を具現化させ、万一に備える。

 

【これ以上、僕等の邪魔をするな! 勇者を寄越せ!】

 

謎の存在の感情に呼応するかのようにフェストゥムは敵意と共に口が開く。その内部には生物でいうサメ歯のような結晶刃で構成されている。

 

「「「「っ!!」」」」

 

明らかに邪魔者を喰らおうとする姿に囚われ萎縮する勇者4人。フェストゥムはじりじりと迫ってくる。

 

「どうしてそう勇者に固執するの?」

 

乙姫が堂々とした態度で疑問をぶつけるとフェストゥムの動きは止まる。

 

【そんなのお前等、他のミールには関係ない!】

 

「あなた達からは勇者を固執するほかにはっきりとした事が言えるよ。あなた達は勇者…神樹の力を恐れている。そんなに言葉を使えるのに…会話ができるのになぜなの」

 

謎の存在に呼応するかのようにフェストゥムは明らかに動揺をみせる。

 

【知ったように言いやがって…もう、いい。僕らに食われてしまえ!】

 

だが、謎の存在が会話を無理やり遮るとフェストゥムは乙姫に食らいつこうとその口を大きく開いた。

 

「(!?)乙姫、これ以上は無理だ。みんなと一緒に逃げろ!」

 

総士は限界だと悟り乙姫に逃げるように促せ武器を構える。

 

【うおおおおおっ!!!】

 

一騎はみんなの救援に向かうために即時再生する乙女座の形をしたフェストゥムを再起不能に追い込もうと奮闘する。

 

異世界から来た3人は絶望的な状況でも決して諦めを見せてはいない。勇者4人その目の光は失われず光り輝いているように見えていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:勇者4人

 

「みんな…」

 

「友奈ちゃん?」

 

「私たちにも出来ることは…本当にないのかな? このまま諦めてもいいのかな?」

 

「友奈!?」

「友奈さん!?」

 

「一騎や総士君、それに乙姫ちゃんはあんな怪物と向き合ってるのに諦めてないよ。これって勇者部五箇条の「なるべく諦めない」だよね」

 

「「「(!?)」」」

 

決して諦めていない一騎・総士・乙姫の姿を見た友奈が東郷・風・樹に問いかける。はっとした表情をしている勇者3人に友奈は意を決したように決意を述べた。

 

「私、行きます! 総士君に止められたけど、ただ見てるだけなんて出来ません。…そんなの勇者じゃないよ!」

 

友奈が飛び出そうとしたが、誰かに手を引っ張られてその足を止めた。

 

「……東郷さん?」

 

「友奈ちゃん、私も行くわ…あの時は本当に怖かった…けれど仲間を目の前で失いたくありません。……勇者として、覚悟はできているわ!」

 

東郷が並々ならぬ決意を顔に浮かべ同行する意思を示す。

 

「あ~もう。黙ってれば勝手にすすめて……後輩たちが無茶しようとしてんのに先輩として部長としては黙っておれないわ! 樹、あんたは「お姉ちゃん、私も行くよ!」って樹!」

 

「怖いけど…お姉ちゃんやみんなと一緒ならやれそうな気がします! だって、なにがあってもついていくって決めたもん」

 

犬吠埼姉妹の決意も受けた友奈と東郷は頷く、そして4人は目の前の脅威に目を据えた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

【食われて僕らと一つになれ!】

 

フェストゥムが大口を開けて食らいつこうと皆城兄妹に迫る。

 

【総士、乙姫!】

「ッ!逃げろ、乙姫!」

 

「総士、一騎、ありがとう。でも、大丈夫……」

 

総士がフェストゥムに対抗しようと機関砲(ガルム44)のトリガーを引こうとし、乙姫はそうつぶやくとまるでその出来事を受け入れるかのように目を閉じた。

 

「選んだのは私たちだけじゃないよ。フェストゥム!」

 

突如としてフェストゥムの口内が炸裂し、その身がたじろいだ。

 

「ッ!」

 

総士は機関砲(ガルム44)での攻撃は仕掛けていない。つまりは自分がやったのではない。彼は自らの背後を見た。

 

「……!」

 

「東郷!」

 

「はああああぁぁぁぁ!」

 

見れば東郷が狙撃銃を構えていた。状況から銃撃を行ったのであろう。総士が驚いている間に友奈が凄まじい速度で駆けフェストゥムの懐に飛び込むと下顎の辺りに拳を叩き込みつつも足に力を込め踏ん張り振り抜く。叩き込まれた巨体は上空へと吹き飛ばされた。

 

敵と認識したフェストゥムは触手を刃に変えると友奈に向け放つ。

 

「させません!」

 

触手が緑のワイヤーに絡め取られ、友奈への反撃が不発へと終る。ワイヤーはさらにフェストゥムの巨体を縛り上げた。

 

「お姉ちゃん、今だよ!」

 

「ナイス樹ぃー! でやあぁぁぁ!!!」

 

風が大剣でフェストゥムの巨体を一文字に唐竹割りした。見事に分かたれた巨体の内部に光り輝く結晶体(コア)が露となる。

 

「君達…」

 

「ごめんなさい、総士君」

「私たちを助ける為に遠ざけてくれたのはわかるけど……」

「やっぱり黙っては見ることは出来ません」

 

「しかし!」

 

「あーもう。グダグダ言うのは後ででいいわ。私たちだってこの世界を守るのに選ばれてしまったけど…これくらいならなんとか出来るし、協力させて」

 

【あな…たは、そ…こ…にい…ます…か】

 

予想だにしない反撃にフェストゥムの声は絶えたえである。

 

「(!?)復活する前にコアの破壊を!」

 

「任せてください! でぇぇぇい!」

 

総士が咄嗟に指示を飛ばす、それに答えた友奈がフェストゥムの結晶体(コア)を殴りつける。結晶体(コア)はあっさりと砕け散り友奈はすぐさまその場から離脱。フェストゥムは黒い球体に包まれ消滅した。




乙姫の電波タイム。勇者部の4人がある意味で覚悟を決める回でお送りしました。

苦戦の7割方が乙姫の語りなのであった。

次回、勇者部一同がクロスならではの強化されると思います。

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