絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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原作アニメ第2話、樹海からの帰還からのオリジナル回(説明会含む)。

一騎、総士、乙姫の立場を勇者部のみんなにばらします。

2016/6/30 加筆修正(東郷が謝罪するシーンにて一騎が抜けていたため)


第1章最終話

一面に広がる樹海から現実へと引き戻され、6()()は帰還を果たした。初めの時のと同じ神樹の社がある屋上に立っている。既に服装は元に戻っており、東郷もいつの間にか車椅子に座っていた。

 

「なんとか帰ってこれたわね……2回目なのにキツすぎっしょ……」

 

戻ってきたのと戦いの後で気が抜けた影響か風は自分の身体が気だるく感じる。どうやら、相当な疲労が溜まっているようだ。ふと見れば、他のみんなも疲労が表れているのがはっきりと分かる程だ。

 

「……今回はみんなに色々助けられちゃったな」

 

「あぁ。ところでお前は大丈夫なのか、一騎?」

 

「一応な」

 

「……後で検査でも受けておけ、次に差し支える」

 

「……お前もな、総士」

 

「ふっ……」

 

一騎と総士がそんなやり取りをしていると勇者たちがざわめいているのにに気付く。

 

「あれ? 乙姫ちゃんがいない!」

 

友奈が辺りを見渡し、1人足りない事に気付く。いつの間にか共にいた乙姫の姿がそこにおらず、友奈の動揺した様子が東郷・樹までも伝播しオロオロと周囲を探し始める。

 

風がふっと一度息を吐くとみんなを安心させようと微笑みながら、

 

「みんな乙姫ちゃんなら心配いらないと思うわ。樹海が解かれた後は各地に点在する元いた場所に一番近い祠に転送されるから…乙姫ちゃん、たしか大赦の方で出ていたからそちらの方の祠…だよね、総士」

 

総士が頷くと着信音が辺りに鳴り響く。総士は発信元を見るとすぐさま端末を操作し、通話機能をみんなに聞こえる様設定した。

 

《みんな、無事に戻れてる?》

 

「(!?)乙姫ちゃん!」

「うん、みんな無事に戻れてるよ」

「ほら、私の言ったとおりでしょ」

 

友奈・東郷・樹はほっと胸をなでおろす。

 

《よかった~。早速で悪いけど、大赦の人たちに戻ってきたことを伝えちゃったからもうすぐ…》

 

そう乙姫が言いかけると屋上から正門付近に昨日来た大赦の『霊的医療班』の車が到着したのを6人は見た。

 

「……乙姫、『霊的医療班』がもう来たぞ」

 

《そっか。それじゃあ皆、何かあるといけないから検査を受けに行ってね》

 

「……これってまた活動がお流れ…ですよね」

「……友奈ちゃん…その通りだと思うわ」

 

どうやら本日の勇者部の活動もお流れが決定してしまったようだ。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-皆城家(讃州地方)-

 

時が変わって夕暮れ、特に異常はないという事で昨日よりも時間はかからずに解放された勇者部の4人は総士や乙姫から部室内では話せなかった内容を打ち明けたいと皆城家へと誘った。

 

今は話の内容をまとめるために一騎を入れて話し合っている所である。

 

「わざわざこんな事をする必要があるのか?」

 

「一騎の場合、結城に最初に関わった事件の事も話すのだろう? そうなると、僕たちとフェストゥムとの関連性も言わないといけないからな。……そこまで考えていたのか?」

 

「うっ……」

 

「私たちがいてよかったね。…一騎だけじゃあややこしい事になっていたかも」

 

図星を突かれた一騎。彼なりに友奈に話すつもりだったが内容を聞いた総士から不十分だと言われたのが発端である。そういうのは一騎は疎いのである。

 

「幸いなことに僕らの家なら部室内では話せない様な事も話せるし、僕たちのいた世界を知ってもらうために都合のいいものも置いてある」

 

「都合のいいもの?」

 

「見ればわかる」

 

3人は話す内容を決めると皆城家の居間へと向かう。そこには友奈・東郷・風・樹がくつろぎつつも待っていた。東郷は車椅子ではなく室内に置かれたソファーへと座っている。

 

「お待たせしました」

 

「ううん、それほど。で、何を話すのかしら?」

 

「はい。部室では途中で終わってしまいましたが全てお話します。その前に……」

 

風が代表して総士に訊ねる。総士は少し間をおいて4人に訊ねた。

 

「部室内で話した内容についてみんな理解の方は?」

 

「うーん、率直に言うとあんまし現実味がないんだよねえ」

「私もあの時、ああ言ってしまいましたが…冷静になってみるとどうも…」

 

風と東郷が本音を打ち明ける。友奈と樹も理解はやはり出来てはいない様子である。

 

「やっぱり、唐突に言われてわからないよね」

 

4人は頷く。「やはりか」と思った総士は次の手を打つことにした。

 

「口頭だけでは理解するのに限界がある。……みんなにはこれから僕たちの世界の事を説明するための映像資料があるからそれを見てもらってほしい。ただ…」

 

「? ただ……?」

 

「これから見せる映像は非常に酷で」

「とても悲しい物語なの……」

 

「そうなの、一騎君?」

 

「……あぁ」

 

総士の説明を聞いた一騎は自分らの世界の映像の内容を察し友奈の質問に肯定した。

 

映像作品は一騎たちの事情を知ってもらう為にも非常にメリットがあるものだが、反面…これまで平和を過ごしていた友奈たちにとっては悪影響が大きい。

 

勇者4人は悩んでいたが意を決して…、

 

「「「「……お願いします」」」」

 

「(!?)いいのか?」

 

「一騎君たちが話し合っている間にみんなで決めていたんです」

「このまま御役目であの…『フェストゥム』っていうんだっけ、そいつらとあたるなら聞いておいて損はないと思ってね」

 

どうやら4人で話し合って自分らの意思を決めていたようだ。それを目の辺りにした乙姫と一騎は総士を後押しした。

 

「……うん、これなら大丈夫だと思うよ。総士」

「……俺も話してもいいと思う」

 

「…わかった」

 

腹を決めたのか総士はどこからか出したメモリーをレコーダーに接続する。

 

「総士、それは?」

 

「僕たちの世界の映像がまとめられているメモリーだ」

 

映像は始まり、テレビ画面にその内容が映し出される。

 

 

 

それは太平洋に浮かぶ孤島『竜宮島』を中心に起こった記録。

御役目の受ける前は平和な四国で生まれた彼女たちにとっては関係のない物語。

島に声がこだまし、その平和は砕け散った。未知の生命体『フェストゥム』の合図である。

巨大なロボット『ファフナー』を駆って戦う一騎、それを指揮をする総士の姿。

島の中心部、人工子宮ワルキューレの岩戸の内部にて佇む乙姫の姿。

 

それを見た勇者部の4人は一騎・総士・乙姫が元々は別の世界の人間だと実感ができた。

 

島とその周囲の世界の物語は走馬灯のように語られていく……。一騎が島を出て行く出来事、北極ミールとの決戦、砕け散ったミールから生まれた新たなフェストゥムの群れとの戦い、アルタイルと呼ばれる存在を巡る国連軍までもが相手取った戦い。

 

最後は淡い金色の機体が光沢のある銀白色の機体を貫いたが、一騎が淡い金色の機体のパイロットに語りかけその正気と取り戻したが2機とも黒球に包まれるところで……。

 

 

 

「「「「………」」」」

 

「これで映像は終わりだ」

 

部屋は沈黙に包まれていた。…いや、誰も言葉を返せないと言った方が正しい。

 

「ひっぐ…ぐすっ…」

(なによ……私たちの比じゃないわよ………)

 

風の胸の中で樹は泣いていた。風も樹を宥めているが自らも俯きその目から涙を流している。

 

「……うぅ……」

「東郷さん…ぐすっ…」

 

東郷も両手で顔を覆いながらも涙と共に鳴き声を漏らす。友奈はそれを慰めようとしたが自らも溢れる涙は抑えられず嗚咽しながらテーブルに突っ伏した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 数分後、

 

勇者部の4人の心の負担が大きく、場が落ち着くまで時が流れた。ようやく落ち着いたのを見計らった総士は、

 

「心苦しい映像を見せて申し訳ない」

 

「いや、いいわよ。…アタシ達が決めた事なんだしさ」

 

風が遠慮がちに総士に返事をする。

 

「……何か質問はないか?」

 

「そういえば、総士君たちはいったいフェストゥムとどんな関係が…あの映像を見る限りだとなんか…」

 

ここで東郷が間を置く。勇者部内では大仰で堅苦しい物言いをすることがあり、最も頭が回るためか映像を見てその事に気が付いた。

 

言葉が詰まったが、東郷は喉まで出欠けたその疑問を投げかけた。

 

「…人間じゃあなくなっているような感じになってます」

 

東郷以外の3人が驚きの声をあげる。

 

「そうだよ。私と総士、一騎はフェストゥムに関わって様々な事もあって人から変わってしまったの……私はコア型っていう人間とフェストゥムとの独立融合個体」

 

「僕は北極での戦いで肉体が完全に同化されたため一時肉体を手放して再構成した。その結果、人間とフェストゥムの融合体に近くなったがな」

 

「……俺の場合は『存在と痛みを調和する存在』として島の祝福を受けた」

 

その言葉に場の雰囲気は凍りついた。東郷は自分の思っている通りの事となってしまった。

 

(そんな…私はなんていう事を聞いてしまったのかしら……)

 

東郷はある意味地雷を踏んでしまった事に罪悪感を感じてしまった。

 

「そんなの関係ないよ!」

 

「友奈ちゃん!?」

 

「乙姫ちゃんや総士君、それに一騎君がこうやって告白してくれて…あまりにも唐突な事でビックリしちゃったけど…今までの営みで笑ってたりもしてた。あの笑顔は本物だと思います。だから…一騎君は一騎君、総士君は総士君、乙姫ちゃんは乙姫ちゃん、私たち勇者部の仲間だよ!」

 

友奈の発言に東郷の沈んだ気持ちは戻された。同時に申し訳なくなった東郷は謝罪する。

 

「ごめんなさい、総士君、乙姫ちゃん、一騎君。余計なことを伺ってしまって……」

 

「気にしなくてもいいよ」

 

「それで結城はこう言ってるが、君たちはどうなんだ?」

 

「アタシから見れば、アンタ達も立派な部員でもあり仲間よ!」

「お姉ちゃんと同じ意見です。乙姫ちゃんたちが言った事を信じます!」

「私も…友奈ちゃんや勇者部の人たちを助けてくれたから…たとえ、あんな話を聞いても信じれます」

 

それを聞いた一騎・総士・乙姫は戸惑った様な表情をみせる。そしてまた静かになったが、

 

「すまなかった」

 

総士からの謝罪で6人はあっけにとられた。

 

「総士が謝った!?」

 

「何故か試すような事になっていたような気がしただけだ。それで謝るのは当然だろう!?」

 

「変なの~総士~」

 

「「「「「ぷっ…」」」」」

 

乙姫につられたのかどっと場は笑い声に包まれた。総士は羞恥心で顔を紅くし俯かせる。

 

「さぁってと、話は聞かせてもらったけど」

 

風は意を決したかのように立ち上がると総士に向かい合う。

 

「どうする気だ」

 

風が3人に目線を送ると友奈・東郷・樹は頷く。

 

「これで疑問も解決したし、こうして腹を割って話す事も出来たからあらためて勇者部部長でもありこの地域の勇者の担当者として言わせてもらうわ……バーテックスだけでなくこうしてフェストゥムっていう敵も出てきたし、私たちだけじゃあ手に負えないからこの四国の『国防』に協力してほしいわ」

 

「(!?)『国防』…!」

 

東郷がうっとりとした表情となる。それを聞いた一騎たちは、

 

「わかった。こちらこそ宜しく頼む」

 

互いに固い握手を交わした。この世界に転生した『来訪者』と選ばれた『勇者』が繋がりあったのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-結城家前-

 

友奈と2人きりになった一騎ははじめて出会った時の真実を語る事にした。

 

「それであの時、何があったの?」

 

「あの時はな……」

 

 

 

――― 回想:3年前

 

ラジオの『声』を知る一騎はなんとかしようと咄嗟に動いたが、『声』を聞いてしまった子供たちや友奈が倒れてしまう。

 

「っ!」

 

1人1人の安否を見る一騎、子供たちは気絶している程度だったが、

 

「(!?)友奈!」

 

友奈の異変に気付く、彼女の髪の色と同じ赤だった瞳の色が、

 

 

 

――― 金色へと変わっていた。

 

 

 

「同化…現象…」

 

一騎は突如目の前に起こった出来事に冷静ではなくなっていた。「このままでは『あの時』と同じだ。どうすればいいんだ」と思考を巡らせる。

 

総士に連絡…いや、それじゃあ間に合わない。今すぐ対応しなければ目の前の子がいなくなってしまう。

 

(今、どうにかできれば、同化をどうにかしないと)

 

そう思った時に、

 

【島のミールの祝福でフェストゥムとなったと聞きましたが、転生し新たに人として生まれ変わってもその力は健在です】

 

頭にそのメッセージが浮かんだ。試してもいないためどうなるかはわからないが、一騎は友奈に手を翳す。

 

(お前はまだそこにいろ!!!)

 

そう心で念じると友奈の眼の色が元に戻っていく。すると、

 

――― ボンッ!

 

という音と共にラジオの電気部分が壊れた。

 

回想終了 ―――

 

 

 

――― 現在

 

「ということがあったんだ」

 

「そっか~…。そうだ、あの子達は?」

 

「あの後、見たけど特になんともなかったよ…。一応、総士にも連絡して問題はないと言ってたけどな」

 

「よかった~」

 

友奈はホッと安心したのか息を吐く。

 

「一騎君ってたまに大人っぽいとこあったけど…」

 

「あぁ、20歳の時にこちらの世界へ『転生』したからな」

 

友奈たちにはこの世界へ来るために『転生』した事とそれを行ったのは神樹である事は伝えてある。友奈たちはこの四国を護るの神様である神樹の名を出されたときに大層驚いたようだった。

 

「ふ~ん。まるで『勇者様』だね!」

 

「…はぁ」

 

「だって、私たちを助ける為にこの世界に来たんでしょ。だったら、私たちと同じ『勇者』だよ」

 

一騎はきょとんとするも人一倍勇者にこだわりを持つ友奈はその意見を譲らない。なぜか、それを言われた一騎は悪い様な…そんな感じは一切なく純粋にうれしいと思えた。

 

夜も深くなってきたという事で話は切り上げ友奈は結城家の玄関へと向かった。

 

「それじゃあ、一騎君。まったね~」

 

「あぁ、またな」

 

友奈が自宅へと戻ると、一騎は思う。友奈といると遠見みたいについつい話してしまう。例えるなら、どんなものでも明るくする灯みたいな存在だ。それもどんな暗闇も照らしてしまうほどだ。

 

だからこそ、一騎はそれを消してしまっては駄目だと思った。それはこの先戦う為の決意を新たにするには十分な理由であった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

これが、僕たちの新たな航海の始まりだった。

 

出会うは星の名を関する侵略者と戦う選ばれた勇者と呼ばれる少女たち。

 

しかし僕たちは知ることになるだろう。

 

彼女たちにおとずれる残酷な真実とその裏に潜む新たな敵を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-四国某所 浜辺-

 

「ふっ! はっ! たぁぁああ!」

 

ある日の夕刻、浜辺にて少女が二振りの木刀を振っていた。その型は恐らく剣術が疎い人でも思わず魅入ってしまうような出来である。

 

彼女は一心不乱に舞うように木刀を振るう。

 

――― prrrr

 

その時、彼女のものと思われる自転車の荷物入れにある端末から着信音が鳴り響く。それに気付いた少女は剣舞を止めると端末を操作した。

 

「…遅かったわね」

 

端末に送信されたメールの内容を見た少女が呟く。相手先は大赦で……

 

【――― を以って、讃州地方への赴任を命じます。当地に赴任された担当者並びに選ばれた勇者と共同し御役目にあたるべし。

 

注意事項:神樹の神示にあった『金色のバーテックス』を確認、十分に警戒し事にあたられよ】

 

「『金色のバーテックス』…ね。そんなの関係ないわ。敵なら一挙に殲滅するだけ…それで完全勝利よ!」




ご都合主義過ぎたかなあ…ともかく、これでやっとゆゆゆでの日常回に入る事が出来る……。日常回2話ほどやったら第2章へと突入します。

ラストに出てきた子が第2章にスポットを浴びることとなります。……いったい何ぼっし-なんだ……。

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