2016/8/9 次回予告追加。一部加筆修正。
-四国大赦本部-
大赦内部では大人たちによるある話し合いが進められていた。それはバーテックス以外の人類の脅威でありこの世界では未知の敵『フェストゥム』。神樹の神託があったとはいえ起きてしまったさらなる危機に対しある方針が採択されていた。発起人らしき厳格そうな男性が中心となり大赦の現在の主要な幹部に意見していた。
この男性はこれまで外部協力機関を率いる立場として大赦内では特に勇者システムの開発や『霊的医療班』への支援を行い大赦外ながらも大赦への繋がり並びにその影響力はかなりのものであった。ここまで上り詰めた境遇もあってなのかその卓越した手腕は大赦にいたすべての者を明らかに圧倒していた。
話し合われている内容は厳格そうな男性が設立したある機関が今回の事態に協力し対応したいとの事である。
その男性の意見に対し明らかに難色を示し一部の大人たちが反論する。意見するのはこれまで中心となっていた大人たちの派閥である事件後の勇者の方針を決めた事でその地盤を盤石なものとしていた。言わせれば『古い価値観』を持つ一団あげてくる意見は所詮は建前のようなものでその本質はどこか自分の保身を感じさせるように聞こえていた。
(これが…今の大赦なの)
傍聴席にいる静流が神樹をあしらった仮面の下で小声で呟いた。
そして、厳格そうな男性はそういった『古い価値観』を持つ派閥を正論で返す。
「その短絡的な考えでは決して奴ら…『フェストゥム』には勝てん! 先に見せた通りかの生命体は『バーテックス』をも凌駕する能力を持つ。特に『フェストゥム』がもつ同化能力は勇者システムの障壁が効かない事が判明した。これではあの一件…いや、それ以上の悲劇が起こるのは明らかだ」
そして男性の意見に呼応して大赦で格式の高い3家である乃木・鷲尾・三ノ輪もそれに同調する。あの事件以降『古い価値観』を持つ大人が決めた方針に疑問をもった名だたる家系が厳格そうな男性の一派に名を連ねているようだ。
「…それはわかる。が、それよりも樹海内に入って来た勇者以外の3人はいったい何者かね? そして、何故貴様らはその3人を知っているような素振りを見せているのかね?」
議論を行うたびにこうして対立が露となり白熱する。『古い価値観』を持つ大人たちがのらりくらりと何度も躱そうとし話はまだ平行線をたどるかと思われた。
「待ってください!」
『(!?)』
そのとき、会議中にも関わらず少女らしき声と共に一団が部屋内に入って来た。ひときわ目立つのは格式の高い人が乗るような駕籠とその周囲には駕籠にいる人物の従者らしき成人男性が2人、巫女服を纏った女性が3人、明らかに子供と思われる姿の人物が1人という構成である。
「あ、あのお姿は!」
大人たちがその正体に気づき辺りが騒めき始める。従者が駕籠を下ろす。
「■■様、どうしてこちらに!」
「重要な会議中申し訳ありません……。本日はこの件に関して神樹様からの神託がおりましたので参りました」
「神樹様から!?」
「いったい何が?」
「お静かに!」
大人たちが騒めくが、巫女服の一団がそれを宥め押さえ込んだ。
「神樹様からの神託の内容はあの3人の事とこれからについてでした。…あの3人は勇者と共にバーテックス並びに未知の脅威である『金色の祝祭』…フェストゥムと呼ばれる生命体と戦うための戦士が2人、それを導く子を遣わしたということです」
大人たちは驚愕するも巫女服姿の女性の代表は言葉を続ける。
「これまでこの3人は神樹様の神託の元、これまで外部協力者である機関に委任させてきました。大赦としてはこの機関と協力。共に2つの脅威に対応せよということです」
「それは分かった…だが、神樹様はなぜ我らを頼らなかったのだ?」
「それに関する神託はありませんでした。何か考えがあっての事でしょう」
その言葉に一部は黙り、一部は納得がいかないのかブツブツと文句を言う者がいた。そして、厳格そうな男性は一団に尋ねた。
「では、これを聞いた上での大赦側の見解は?」
「大赦側としては今回の御役目に関して機関に協力を要請。機関にも自由に動けるための権限を認め共に今回の事態にあたってほしいのですが」
「それを大赦からの正式な要請と受け取っていてもよろしいのですか?」
「私から大赦の代表としてお願い申し上げます」
駕籠の中にいる少女が幕越しに告げる。大人たちは明らかに驚愕するも言い返せない。駕籠にいる少女がどんな存在か分かっており、たやすく反論できないのだ。
その後、一団の神樹様からの神託を聞いた上で議決をとったが、結果は明らかなものであった。
「く…。反対意見はなし。よって、機関の今回の御役目に対する協同を認めることとする」
「正式な通達などは追って対応します」
大赦側でフェストゥムに対抗できる手段をもつある機関の介入を認める採択がここに決定された。厳格そうな男性は会釈をすると同調した一族の者たちを引き連れ部屋を後にした。
――――――――――
視点:『古い価値観』を持つ大人たち
「なんという事だ! あの御方まで出てくるとは」
採択が既決された事に悪態つく大人たち。あの事件後に直々に管理することにした少女がここまではっきりと意見を物申すとは思っていなかったようだ。調べでは最近までは確かに無気力で人形のようになっていたというのに。
「慌てることはありません」
一団の中心にいる人物が宥め続ける。
「ともかく、奴らは『勇者システム』以外のバーテックス対抗手段を持っていることは確だ。……だからこそ、まずは調査が必要だな」
「はぁ…調査ですか…?」
「強味を持っているからなのような強硬に出られたのでしょう。だからこそ、奴らの弱みを見つけるのです…そして、奴らの対抗手段を確実に大赦のものとするのです」
「おお」
「さすればあのような下賤な奴らにいい顔はさせれまい」
今回は自分たちの都合通りにはうまくはいかなかったが、この期に及んで『古い価値観』を持つ大人たちの悪意はさらに助長したようだ。
――――――――――
視点:????
「……ふぅ~緊張したよぉ~」
会議終了後、その場を後にした一団だったが駕籠に乗った少女は緊張が解けたのかどうやら素に戻ったようだ。それを見た一番小さな従者が駕籠に近づく。
「■■、大丈夫?」
「うん~なんとかぁ~。……『■■■■』~これでよかったのかな?」
声の感じから10代の少年のような声だ。駕籠の中の少女がその従者に対して愛称のようなあだ名で呼ぶ。どうやら2人は親しい関係のようである。
「十分だよ。ありがとう、■■」
「だけど~また大人たちがうるさく言ってきそう……」
駕籠を支えている従者が何かを伝えようと視線を小さな従者へと送る。
「……任せてだってさ。もしもの時は俺もなんとかするよ」
「そっか~。……お願いね、『■■■■』」
――――――――――
視点:皆城乙姫
-讃州地方 ?????-
「それでね。この前はこんな事があったんだよ」
乙姫は白く清潔感がある静かな部屋にいた。彼女はその部屋にあるベットに横たわる少女に語り掛けるように話す。話す内容はこれまでにあったことなど他愛のないことが多い。それでも少女は反応を見せずまるでおとぎ話に出てくるような眠り姫のように穏やかに眠り続ける。
「……今日も目覚めず…か」
そのとき部屋内にぶわっと風が入り込んできた。そして乙姫は部屋内に気配を感じ窓側へと見るといつの間にか部屋内に備え付けられた窓が大きく開けられておりその傍には人間の女性がいた。
桜色のまっすぐ美しい長髪で神々しい装束のような和服に身を包んでいた。
乙姫はその女性を一瞥し微笑むと
「その姿は久しぶりね。『神樹』」
「えぇ、お久しぶりですね。乙姫さん」
『神樹』と呼ばれた女性がはにかむ。ベットに眠る少女に気づくとその頬に触れた。
「……あなたから見てこの子はどうかな?」
「変わりありませんね…あんなことがあったのに」
「そっか~」
『神樹』と呼ばれた女性が改めると乙姫に告げた。
「今日、あなた達の事を大赦の上層部に伝えました。これ以上隠し通すのは無理そうです」
「その大赦の上層部っていう人たちはどうしたのかな?」
「脅威に対してなのかひとまず合意はしてくれました。ですが…」
『神樹』と呼ばれた女性は悲しげな表情をみせる。それを見た乙姫も同様だ。
「おそらく…また自分たちの都合のいいような解釈をしてしまうでしょう」
「仕方ないよ…人っていうのはそれぞれあるから…思うようにはいかないの事の方が多いよ」
乙姫は椅子から立ち上がるとまるで諭すかのように告げ始める。
「本当だったらね変えるためには色々と知って選ばなきゃいけないの。何度でも何度でも、それが未来に繋がっていくために必要なことだから。だけど…この世界は知ることを隠し、選ばせることができない。これは私がこの世界に生を受けて知ってしまった事……」
「だけど、こんな事で変わるのでしょうか…それともまた変わらないのでしょうか」
「あなたはそれを変えたいと思ったらそれを選んだ。この子も本来ならこの世界から消えてしまうはずだったけど、それが変わってしまった。……少しでも変わりつつあるんだよこの世界は」
意味深な事を告げていると2人は部屋の外に誰かが近づいてきているのを感じた。
「ここまでですね…乙姫さん、世界の事、勇者の事。これからもお願いいたします。今の私はこれしたできないもので」
「『神樹』は十分にやってるよ、だけど……」
『神樹』と呼ばれた女性は首をかしげる。
「今度来るときはあなたの本当の名前を教えてほしいかな。神様の集合体だし『神樹』だと全体をさす言葉になっちゃうから…あなた自身の事を知りたいな」
「そうですね…今度は…是非」
『神樹』と呼ばれた女性はその意味を理解すると微笑みながらその部屋から消えた。すると、部屋にノック音が響く。
「乙姫ちゃん、名残惜しいけど時間だよ」
「わかったよ。春信」
春信に呼ばれたことにより面会時間の終わりが近いため名残惜しそうに立ち上がる乙姫。数歩歩むと振り返り横たわる少女に向け呟いた。
「あなたはいつ目覚めるのかな?…そして、どちらを選ぶのかな?
――― ■ちゃん」
――――――――――
視点:厳格そうな男性
会議後、機関のトップともいわれる厳格そうな男性は自らと同じ意志を持つ同士のもとへと訪れていた。
「それでは設立の見込みがたったということか」
「ああ。……外部の協力の方が大きかったがな」
話し合いの中心にいるのは厳格そうな男性と壮年の男性。
「よく大赦にいる派閥も合意してくれたものだな、■■」
「それに関してだが『彼女』が動いたことにもよるらしい」
「大赦に奉られたあの子か!」
思わないところで事が大きく動いていたことを知り驚愕した声があがる。
「それでは、かねてより進めていたあの計画をこの世界でも」
「うむ。この件に関してほかに何か」
部屋内が静寂に包まれる。どうやら、この場にいる人たちには異論がないらしい。
「異論はないと見た……現時刻を以って『
次章以降で出す予定の重要キャラの顔出しとファフナー勢が関わったことによる大赦の動きをお送りいたしました。
以下、解説。
●『古い価値観』を持つ大人たち
『乃木若葉は勇者である』にて大赦の前身である大社の時点で真っ黒な組織内情が明らかになってしまったためゆゆゆでの大赦でも反映。
これが感想内で言っていた『勇者を捧げるのを静観するだけの立場の人』ですが、はっきり言うと今作品ではファフナーの人類軍に近い奴らになるかと。
●会議中に現れた一団
少女は言わずもがな奉られたあの少女です。原作よりも活動的になっています。
●眠れる少女
クロスオーバーならではのイレギュラー対象キャラです。正体は……まあ、ある意味世界からいなくなるはずだった『~は勇者である』シリーズでは重要なキャラです。
以下、次回予告
「勇者部ファイトぉぉ!」
前回の襲撃から数えて1か月。バーテックスの3度目の襲来に対抗する勇者部。
「バーテックス確認…ってなんかいっぱい出てきた!?」
「あれもバーテックスなの!?」
バーテックスも大幅に戦力を増大させ神樹を目指す。
「思い知れ、私の力!!」
「まさか…あの子…1人でやる気!?」
そして、その戦場に突如参入してきたのは紅き装束を纏った少女。
「もしかして、あなたは春信の?」
次回、第2章『援軍-さんせん-』開幕…第12話『星屑』
「ふん、ちょろい。私にかかれば…完全勝利よ!」
…【あなたはそこにいますか】