絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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ゆゆゆ原作第3話の戦闘前の導入回となります。

作者のオリジナルフェストゥムの説明会でもありますが少し短めです。

2016/8/12 加筆修正(勇者たちの会話を盛り気味に)
2016/8/14 誤字修正


第2章 【援軍-さんせん-】
第1話 星屑(前編)


視点:襲来したミール

-四国 壁の外の世界-

 

前回の襲撃から数えて1か月半、壁の外には4本の牙のようなパーツが特徴的な大型のバーテックスが迫りつつあった。

 

【あれだけやられたってのにこりないねえ……まあ、お互いさまだけどさ…おや?】

 

それを少年のような存在がその様子を垣間見ていた。前回の戦闘では乙姫の問いかけに対し明らか拒否の意思を見せたミールの意思のひとつである。

 

【随分と増やしたものだな……僕のコアやミールが来るのにまだまだ時間がかかりそうだから…今回はバーテックスに譲ってあげよう……神樹は僕の物にするけどね】

 

前回の戦闘で消耗し、他のコアの集結も完了していないためどうやら高みの見物の状態らしい。

 

ふと見ると、山羊座の名を冠するバーテックスの周囲に金属質のロボットのようなもの、何かの生命体に近いもの…様々な種類の小さな個体が群がり追従し始める。

 

次なる襲来の時は間近へと迫っていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 時間は少し遡って

 

視点:勇者部

-皆城家(讃州地方)-

 

「……いやぁ~。平和ですねえ~」

「そうねえ~」

 

晴れ晴れとした日曜日、友奈と風が皆城家の軒下にてゆったりと過ごしていた。

 

「お姉ちゃん、友奈さん……平和なのは分かるんだけど」

 

それを樹は明らかに呆れたかのような様子で見つめていた。ここ1か月の間、バーテックスやフェストゥムの襲撃が来なかったことで彼女らはいつも通りの日常を過ごしていた。そのため、その緊張がどうやら抜けきってしまったようだ。

 

「友奈、風先輩。そろそろ戻りましょうか」

 

「ふぇ~。一騎君~もう少しここで日向ぼっこしたいよぉ~。今日はこんなにいい天気なのに~」

「そうよぉ~樹。今日は依頼もないし~」

 

だらけた顔で友奈と風が言うが、

 

「そうなんだけど…」

 

樹と一騎が申し訳なさそうに視線を送るとそこには東郷と明らかに不機嫌そうな態度で佇んでいる総士の姿があった。

 

「総士と東郷があの様子だからな」

 

「「……はい」」

 

その姿を見て友奈と風はある意味現実へと引き戻された。

 

「うぅ~東郷さん~あんな数覚えきれないよう……」

「もう座学も大切よ友奈ちゃん。せっかく総士君が教えてくれてますもの。さあもう一息よ」

 

「全く…重要なことだっていうのに」

「総士もそこまでにしておけよ。友奈と風先輩、それに樹が怖がってるよ」

 

「(がたがた)」

「(ぶるぶる)」

「あぅぅ…総士さん怖いです」

 

不機嫌さが総士の顔に出てしまったため、その怖さに部長で年長者であるはずの風、友奈と樹が震えた。

 

今日皆城家に勇者部が集まったのは、戦闘のブランク期間をある意味危惧した総士が風に進言したためである。総士としては情報の共有や選ばれた勇者たちが神樹の力により戦えるが素人も同然であるため指導だ。基礎的な訓練は勇者システムの都合上できないのでせめて座学をという事らしい。

 

今回はフェストゥムの種類・特性や友奈たちの勇者の特性に合わせた戦術方法などである。

 

「一騎君たちは前の世界で……こんなのやれてたの? 時間とれてたのかな」

 

「いや、こんなにやっても意外と暇な時間はあったぞ」

「そこは考えられてスケジュールを組んでいたからな。これも極めて影響が出ないように僕が組んだ」

 

「合理的なんですね」

 

友奈の質問に答えた2人に東郷が感慨の声をあげる。

 

「それにしても改めて思ったのですがこんなに種類があるんですね……どうも横文字だらけですが」

 

「そうだな。種類は数多く発見されて反映されてきたからな。……それと今回新たに出現した個体。最初のは形は独特だが『スフィンクス型』と言われる最も出現頻度が高いタイプと全く同じ特徴を見られた。よってこの個体の名称は『スフィンクスDS(Der Stern)型種』と呼ぶことになった」

 

「この前出てきた乙女座のバーテックスに似たようなのは何て呼ぶんですか?」

 

「個体名称は『レナトゥス型 ユングフラオ種』と呼ぶことになっている。こいつは完全に新種だな」

 

「レナトゥス?」

「ユングフラオですか……」

 

「意味はそのまま『再生』と乙女座のドイツ語読みだ」

 

「ほうほう、なるほど。ドイツって授業でやっていたけど昔あった国でしたっけ?」

 

「そうよ友奈ちゃん」

 

「詳しい解析の結果、外周部の装甲は攻撃に反応して即時再生するというバーテックスの性質に非常に近い事が分かった。『再生』とつけたのはその特性からだな。僕たちのもつミールの力に反応して発動していたようだ。……勇者の神樹の力によって阻害されていたようだが」

 

「この世界に来たミールはそれを恐れていたかもね」

 

乙姫が差し入れなのか飲み物と人数分のコップを持って戻って来た。その周りに手伝いなのか飲み物を抱えている精霊たちの姿があった。

 

「すっかり懐いちゃってるね」

「うん、とってもいい子たちだよ」

 

はにかむ乙姫の姿を微笑ましい様子で視る樹と風。

 

「乙姫ちゃん、意味深な事言ってたけどどういうことなの?」

 

「うん、あのミールに途中で拒否されたからすべては分からなかったけど……。神樹からあのミールがバーテックスを同化したって聞いてたの。もしかしたら、バーテックスを同化してその特性も引き継いでしまっていると思うよ」

 

「そうなのか、乙姫!?」

 

乙姫の発言に一騎は思わず声をあげた。

 

「間違いないと思うよ。だからこそ、あのミールは神樹を恐れてたの…多分勇者を同化して神樹の力の源を知ろうとしている」

 

「それで知ってどうする気なのよ」

 

風の纏う雰囲気が変わりそれが部屋中に伝播する。見れば全員が乙姫の事を見つめていた。乙姫は真剣な様子で話を続け、自分の考えを伝える。

 

「バーテックスはともかく、どうしてフェストゥムが四国の結界を抜けれないかがずっと気になっていたの」

 

「竜宮島のバリアに侵食できるほどなのにか?」

 

フェストゥムには島を覆い侵食するなどの個体も確認されている。それを知った総士は乙姫に疑問をぶつけたのだが彼女は首を振り明確に否定した。

 

「これもこの前語り掛けたときに分かったことだけどね…彼らは既にあらゆる手で侵攻しようとしたけど出来なかった。…バーテックスと同じに性質になってしまったからこそこの結界を抜けれないと思うの」

 

「それって神樹様がある意味でフェストゥムからも四国を守っているという事ですか」

 

「そうだよ美森ちゃん。それに気づいてしまってさらにその途上でミールは勇者の事を知った。だからこそ、神樹の結界の力の根源を学習しようというのが私が導き出した敵の目的ってこと」

 

「なるほどね。それがアタシ達勇者が狙われる理由っていうことね……」

 

予想以上に進んでいた事態に勇者部一同暗くなっていた。

 

「もちろん、そんな事は絶対にさせないよ。総士や一騎もあなた達と一緒にバーテックスと戦うし、フェストゥムの好きにはさせないよ。今回のもそのためだよね、総士」

 

「あぁ、そうだ。今回のもそれを防ぐための一環だ」

 

乙姫は安心させようと微笑みながら語る。

 

「ごめん3人とも…アタシ達そんなに真剣な話だと思ってなかった…。そんなにアタシ達勇者の事を思ってくれてたなんて」

 

事の重大さに気づいた風が頭を下げる。一騎はそれを宥めた。

 

「気にしなくてもいいですよ風先輩。俺の同期も後輩も最初はそうだった人が多かったですから」

 

風以外の勇者も現実的な事だと認識を改めた。そんな中、ふと東郷が思ったことを口にした。

 

「それですと私たちも『勇者システム』を使いこなすために鍛錬を行う必要がありますね」

 

部内でも最も頭の回る東郷が意見を続ける。

 

「一騎君たちと共に戦うことになるし、私たちもある程度の実力を持てば一騎君たちの負担も必然的に減るわ。総士君はどう思うのかしら?」

 

「たしかにその方が楽になるな」

 

「いい考えだよ東郷さん~それだったらみんなで朝練しようよ~」

「いいですね~」

 

「東郷……友奈は朝起きれれるのか?」

「起きれなかったことの方が多いわね」

「樹、あんたもよ」

 

3人に指摘され出鼻をくじかれた友奈と樹はゴンとテーブルに頭をぶつけた。その時である。

 

「「ひゃぁ!?」」

 

すると端末から警告のアラームが鳴り響く。風と総士が真っ先に端末の画面を見た。

 

「『樹海化警報』だ!」

 

「あぁ~もう。あんた達はお呼びじゃないっての!!…みんないいわね」

 

風が立ち上がると出撃前に気合いを入れるために喝を入れた。

 

「勇者部出撃ぃ!! 1か月ぶりだけどなんとかするわよ!」

 

「「「「おーーー!!」」」」

 

友奈・東郷・樹・乙姫は手をあげ気合いを入れた。一騎と総士は形式上手を上げただけであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 同時刻

 

-讃州地方 某アパート-

side:????

 

あるアパートの一室、ここに引っ越してきた薄茶色の髪で左右のツインテールにしている少女が荷解きを終えると休憩なのかベットへと横になっていた。

 

少女は横になりながら物思いに更けていた。

 

(ついに始まるのね。ここでの生活…、そして御役目が)

 

彼女は大赦からの御役目を受けた身である。この時のために長らくその御役目のために鍛えてきたのだ。そして正式に憧れていた御役目につくことができたことで彼女の心は高揚していた。手を伸ばすとその拳をギュっと握りしめる。

 

(ちょっと興奮しすぎたわね。とりあえず…今日の夕食とサプリ、あとは…にぼし買ってこなきゃ)

 

その時である。机の上に置いた端末からアラームが鳴り響く。彼女はすぐに端末に手を取ると

 

「フン、おあつらえむきね。私の初陣…魅せてあげるわ!!」

 

彼女は端末を手に取り立ち上がり端末のアプリに触れる。すると、彼女の装いが変わるとともに窓の外から光が迫り彼女はそれに飲み込まれた。

 

 

 

 

 

――― この時の私はなんにも知らなかったわ。この御役目で出会った妙にチンチクリンな人たちのおかげで、居場所と仲間があることの意味を知ることになるなんてね。




次回、ついにサプリ&にぼし好きなツインテールのあの子が本格的に参戦します。戦闘回なため構成には少し時間がかかります。

以下、解説
●オリジナルフェストゥム
・スフィンクスDS(デア シュテルン)型種
「~は勇者である」の世界に出てくるバーテックスの基本個体である星屑を模した外見をもつ。バーテックスを同化、情報の反映により外見が変化した模様。基本的な能力はスフィンクスA型種と同じ。

フェストゥムではやられ役のポジション。

・レナトゥス型種(タイプ:ユングフラオ)
バーテックス(乙女座)の外見にフェストゥムの能力(読心、同化、爆弾のワームスフィア属性付与)を加えたもの。『再生』に特化したSDPをもち、同じミールの力に反応し発動していたため一騎の手にもおえなかった。しかし、勇者たちの神樹の力の因子によりSDP能力が阻害され外殻を破壊。直接のコアへの攻撃により殲滅された。

総士が持ち帰ったデータにより新種であるレナトゥス(ドイツ語で再生 これはバーテックスの残骸から生まれ変わった事によりつけられた)型と名付けられた。タイプ名はドイツ語での12星座意味。

レナトゥス型種はあと2体ほど出す予定。

●敵ミール
戦力の合流が間に合わず今回は見学の模様。

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