原作ではあっさり終わった山羊座戦ですが、当小説では戦闘を盛った再構成という形でお送りします。
-樹海内-
「あれが5体目……」
全体を見渡せる高所から東郷が狙撃銃のスコープ超しに出現したバーテックスを捉える。樹海の展開される前に全員変身済みである。
「(バーテックスは12体…全部倒せば御役目は終わる…残ってるのはあいつを含めてあと8体…その前に)…総士、フェストゥムは?」
「…現在は確認されていない」
風は5体目のバーテックスを前に気合いを入れる。総士が情報を確認したがフェストゥムの姿は今のところはないらしい。
「……今回は近くにいない。どこか遠くから私たちを見てるのかな…それとも…」
「乙姫ちゃん、誰の事なの?」
「この前のミールの事だよ。今はなにもする気配がないけど。念のために気を付けてね樹ちゃん」
「うん、わかったよ」
「みんな、ここで撃退するわよ」
風が勇者たちに喝を入れようとする。そんな中、友奈は不安な様子を見せていた。
「……1か月ぶりだからちゃんとできるかな……」
「え…えーとですね…ここをこうこう」
「ほうほう」
「勇者システムのアプリ説明ってこうなってるんだね~」
「……元々は一般人という事を差し引いても緊張感がなさすぎる…」
スマホを片手に説明する樹。それに相槌をうつ友奈と興味津々な様子で見る乙姫。総士はその光景を見て頭を抱えた。
「あ、でもフェストゥムがまた急に出てきたらどうしよう……」
「そこは総士がうまくやってくれるよ。考える担当だからな」
「一騎!」
「本当の事だろ。俺が戦闘に慣れていない頃そんな事言ってたじゃないか」
「ふふ~ん、頼りにさせていただくわよ。皆城指揮官」
一騎の純粋な言い分に総士は思わず声を荒げる。ちょっとした漫才のような光景となり風がそれを茶化した。その合間にバーテックス『山羊座』が結界の境目を超え切ったのを見た風は攻撃前に勇者部に対し攻撃前の檄を入れようとした。
「勇者部ファイトぉぉ……」
「オーーー!!!」
女性陣が風の号令に呼応する。――― がその直後バーテックスの頭上に何か突き刺さり炸裂、爆発が起こった。
「……えっ…ちょ……っ」
「東郷さんが!?」
「……私じゃない」
東郷が狙撃銃を構えているものの発砲はしていない事を告げる。
「(!?)それじゃあ、一体だれが」
「(!?)システムに反応。あそこに誰かいる!」
総士の一声と共に周囲を見渡していた風がその姿を見つけた。その瞬間そこにいた少女らしき姿の子はその場から飛翔した。
視点:突如乱入した少女
その少女は薄茶色の髪を2つのテール…風とは違ってツーサイドアップの髪型をし、赤を基調とした装束に身に纏い2本の刀を携えている。左肩にはサツキの花の刻印が刻まれており、その傍らには友奈たちの精霊と同じような存在…デフォルメされた鎧武者のような生き物が追従していた。
「ちょろい!」
少女は次々と刀を顕著し投擲。山羊座に命中し突き刺さった刀は次々と炸裂し、その爆発で山羊座の巨体がよろめく。
「(!?)」
刀を続けて投げようとした瞬間少女はバーテックスの後方にいた存在に気が付く。すると彼女にめがけいくつもの光弾が飛んできた。少女はすぐさま反応し二振りの刀でそれをはじき返すも迎撃を受けたがため勢いが止められ着地した。
少女が辺りを見渡すと、どこからか現れた無数の生命体が彼女を取り囲む。彼女はその生命体を一瞥する。
「フン、大赦の言っていた奴らね」
大赦から事前に聞いていた少女はその正体に気づく。同時に生命体は勇者姿の少女へと襲い掛かった。
「だけど、あたしの敵ではないわ!」
その刹那、少女は二振りの刀で一閃し切り裂く。切り裂かれた生命体は光となり消滅した。
視点:勇者部
突如現れた勇者姿の少女が大群相手に大立ち回りを演じている中、勇者たちはバーテックスを守るかのように追従している生命体に驚きを隠せないようだ。
「…なんかいっぱい出てきた!?」
「あれもバーテックスなの!?」
「…『星屑』」
「大型のバーテックスのなり損ないみたいなものだ。だが、あれもバーテックスと同じ存在だ。(それにしてもあの子は…先生の言っていた大赦から派遣されたという勇者か)」
皆城兄妹からその正体が伝えられる。
「それよりもあの子はいったい何者なんでしょう。同じ勇者のような姿ですが……」
「ともかくあの子を助けないと!」
星屑に関して詳しく聞こうとしたがそういう状況ではない。友奈たちは突如として現れた少女の方が気になっているようだ。
少女のおおよその正体を掴んでいた総士はすぐに指示を出した。このまま放っておけば勇者たちが前線にいる少女の元へ向かってしまうとの判断である。
「一騎、先行して道を切り開け」
「分かった!」
「風先輩と樹、結城は一騎が突破した残りを掃討しつつカバーしながら前進。東郷は狙撃による支援を」
「了解! 勇者部突撃ぃ~! バーテックスとあのちっこいのを討伐、あのツインテールの子に続くわよ!」
「「「了解!」」」
勇者部が風の号令に元気よく返事をする中、一騎はルガーランスの穂先を展開、挨拶代わりと言わんばかりに群がる星屑の一団にプラズマ弾を発射。放たれた光弾が炸裂し星屑が吹き飛び道が開かれる。すると一騎はすさまじい速さで加速し突入した。
「一騎君、早っ!!!」
友奈たちは慌てて一騎の後を追う。
「乙姫、ノルンでみんなの援護をしてくれ」
「わかったよ。総士」
残された総士兄妹は高所からの狙撃援護をする東郷と共にジークフリードシステムでのサポートへと入るのであった。
――――――――――
プラズマ砲で崩れた星屑の大群に一騎が突撃する。星屑も彼を敵と認識したのか迎撃態勢を取ろうとする。
「でやぁぁぁ!」
尋常ではないスピードのまま、ルガーランスで横薙ぎに振るい数体を切断。星屑は光となって砕ける。どうやら、バーテックスのなり損ないとも言われるのか個々の戦闘力は高くないようだ。
北極でのミールの決戦、シュリナーガルでの戦いなどで無数の敵を相手にした一騎にとって多数の戦いは問題にはならない。尋常ではない反応速度で次々と襲い来る星屑を切り裂き突破口を作る。一騎の突入した事で大群の一陣が真っ二つに割れていく。
《このままあの少女のところを目指し、山羊座を叩くぞ》
一騎は頷くとさらに殲滅速度を上げていく。
「はぁっ!!」
その開いた道を少し遅れて友奈が続く。
打撃系の武術(本人曰く中学に入ってからはある程度しかやっていないそうだが)の心構えがある友奈は早さと重み両方を兼ね備えており星屑の体を拳で打ち抜いていく。
「ふっ……てやぁぁぁ!」
少し大きめで丈夫そうな個体に対し足を高く上げ勢いよくかかとを落とす。空手の試し割りをするかのように星屑を真っ二つに割った。
その大技の隙を狙ったかのように他の星屑が襲い掛かるが、
《…そうはさせない!》
狙撃地点から東郷が狙撃銃による援護射撃。友奈に襲い掛かろうとした星屑をすべて1発で撃ち貫いた。
「東郷さん、ありがとう~」
《どういたしまして…撃ちもらしは任せてね、友奈ちゃん》
友奈が手を上げ感謝の意を示すもののすぐに一騎の後へと続く。東郷は狙撃銃についているカードリッジのようなものを入れ替え装填しなおすと再び星屑に狙いを付けた。
犬吠埼姉妹も一足遅れなものの群れの中と突破していく。
「おりゃぁぁぁ!!」
風はその手に持った大剣の威力と大きさを活かし叩き切り、大剣の腹での豪快なスイングで星屑をぶっ飛ばす。
「こ…来ないでーーー!!!」
樹はワイヤーでなんとか1体1体絡め引き裂いていく。接近戦が得意な友奈と風とは違いある程度離れたところから出来るのが強みだが、明らかにその殲滅速度は遅かった。
それを隙と見た星屑は樹に狙いを定め取り囲もうとする。樹は必死で逃れようとしたが、
「あぅ…!」
尻もちをついて転んでしまう。その隙に星屑は一斉に襲い掛かる。樹は迫りくる恐怖に思わず目をつぶる。
しかし、樹の身には何も起こらなかった。
再び目を開けると襲ってくるはずだった星屑が切り裂かれたり、また穴だらけになっている個体までが目の前にあった。
「樹、怪我はない?」
【樹ちゃん、大丈夫?】
樹にとって頼もしい姉である風がそこにいた。その周囲には援護してくれたのかノルンまで浮遊していた。
乙姫からの思念と共に我に返った樹に風が手を伸ばし引き起こす。
「(…お姉ちゃんもみんなもやっぱり頼もしいや)」
「立てる?」
「うん…」
自分のふがいなさに少し気分が沈むも姉である風の姿を見てそう思う樹。引き起こす合間に星屑は姉妹を取り囲んだ。大部減らしたにも拘わらずかなりの数がいた。風が大剣を握り構えなおす。
(どうしよう…1体1体じゃあお姉ちゃんに負担がかかっちゃうよぉ)」
樹が風に負担をかけまいとどうするか考える。ふと、頭に前回の戦闘の事が浮かんだ。
「(あの時は巨大なやつを縛り上げたんだよねえ。結構伸ばしたんだよなあ…)あ、そっか」
「樹?」
樹は右手の花環状の飾りを頭上に掲げる。星屑が姉妹に襲い掛かろうととびかかって来た。
「まとめてぇぇぇーーー!!!」
迫りくる星屑だったが姉妹の目の前で身動きができなくなった。風が周りを見ると結界状に編まれた樹のワイヤーにより星屑が囚われた。樹は一気に引っ張り上げると周りにいた星屑が豆腐のように切り裂かれ消滅する。
「やるわね樹!」
風が樹の頭をなでる。そして、姉妹は臆することなく星屑を確実に撃破していった。
(へえ…トーシロながら結構やるじゃない)
星屑を見事な刀捌きで殲滅している少女が勇者部たちの活躍を見て呟く。
(って言ってる場合じゃなかった。こいつら…しつこい!)
遠距離攻撃を持つ小さな星屑が光弾を放ってきた。樹海が傷つくことを嫌った少女は刀で踊るように上空へとはじき返す。しかし、山羊座がその隙を狙ってなのかレーザーじみた怪光線を放ってきた。
「(!?)ちょ、そんな大きいの…っ!?」
防御態勢をとった少女だったが、突如目の前に展開したノルンの障壁に阻まれる。
「とりゃぁぁぁ!!」
肉薄した友奈と東郷の狙撃により牡羊座周辺の小さな星屑が撃破される。
「このぉ!?」
そして、星屑の大群を突破した一騎がルガーランスを同化させると穂先にエネルギーを充電し山羊座に向け高出力のビームを放った。
【!?】
山羊座は第2射をすぐさま放つ。2つの閃光は一騎と牡羊座の中心辺りで衝突。押し合いになるかと思われたが白銀の閃光が牡羊座のビームを飲み込むとその残光が山羊座に直撃した。あまりにもの威力でその巨体はかなりたじろいだ。
「(今だ!)封印開始! 思い知れ、私の力!!」
「まさか…あの子…1人でやる気!?」
樹と共に遅れて到着した風が驚きの声をあげる中、少女はその隙に刀を一本投擲しその刀が地面へと突き刺さる。すると『封印の儀』の術式が展開されその陣内に取り込んだ
取り込まれた山羊座の上層部の装甲が開かれ中から御霊が飛び出る。しかし、御霊のせめてもの抵抗なのか大量のガスが勢いよく吹き出てきた。
「なにこれガス!?」
「けほっ、けほっ」
「何も見えないよ~」
友奈たちの精霊が障壁を張りガスから身を護る。一騎もどこからか飛んできたノルンが障壁を張りそこでやり過ごそうとする。
「くそっ!」
《撃つな、一騎! 引火性のある可能性がある。爆発したらみんな巻き込まれるぞ!》
一騎がルガーランスでの射撃でガスを吹き飛ばそうと判断したが総士がそれを止める。
「そんな目暗まし…気配で見えてるのよ!!」
少女がガスで視界が悪い中その場から飛翔。刀を両手で上段に構えるとそのまま振り下ろす。
「殲…滅!」
【
少女が決め台詞を言うと御霊はあっさりと真っ二つに切り裂かれた。御霊を失い残った山羊座の本体も砂と還った。
――――――――――
今回襲撃したバーテックスがすべて殲滅されたのか少女は友奈たちの目の前に降り立った。
「えーと、…誰?」
友奈が少女の事を尋ねようとし、後方にいた東郷・総士・乙姫も一騎たち4人の元へと駆け寄って来た。
「……まぁ、少しは出来るようだけど…揃いも揃ってぼーっとした顔してんのね」
その様子を見ていた少女は戦闘が終わり間の抜けた友奈たち勇者を見て口を開き、集まった勇者部の面々を一瞥する。
「こんな連中が選ばれた勇者に…そっちの3人が神樹様が寄越してきた『来訪者』ね」
「あの…「なによ、チンチクリン!」チン…はうっ」
少女にぞんざいに扱われた友奈が思わず声をあげる。さらに少女はどうだと言わんばかりに鼻で笑った。
「あたし『
「「「「え、えぇぇぇぇぇ!!!」」」」
三好夏凛と名乗る少女の言い草に勇者たちは驚きも含めて叫ぶ。
「ん~」
「な、何よ!」
乙姫がいつの間にか夏凛の近くまで忍び寄っていた。乙姫はいつもの調子で興味ありげに夏凜を見つめていた。
「どこか似たような感じかと思ったら……もしかして、あなたは春信の?」
「うぇ…な、なんで兄貴の事を」
「あ~。どおりで面影があると思ったよ~」
乙姫から見るとどうやらその面影があるらしい。思わないことで自身の兄の名前を出されたためか毒気が抜かれてしまい逆に素っ頓狂な声をあげてしまう夏凛。
そうこうしているうちに樹海が揺れ始め現実世界へと戻されようとしていた。
「と、ともかくこれ以上の話は今度よ!」
夏凜が勇者部に対し意味深なセリフを残すと一同は現実世界へ引き戻されたのであった。
やっとにぼっしーが出せた。
ここからのバーテックス陣営には『樹海の記憶』や『乃木若葉は勇者である』の要素を加えある程度強化して登場させます。
●三好夏凜
ようやく登場した完成型勇者。原作とは違い勇者部と共闘したためある程度の実力は認めた模様。
以下、予告。
「私が来たからもう安心ね。完全勝利よ」
襲撃からの翌日、友奈たちのクラスへと転入した自称完成型勇者『三好夏凜』
「よろしくね。夏凜ちゃん」
「いっ、いきなり下の名前!?」
夏凜と仲良くなりたい友奈だったが、夏凜は考えの違いから拒否する。
「真壁一騎…異世界から転生したっていう『来訪者』ね」
その最中来訪者である一騎に対し、夏凜がとった行動は?
次回、第13話『転入生』
「真壁一騎、あたしと戦いなさい」
「…どうしてなんだ?」
…【あなたはそこにいますか】