絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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原作第3話、夏凜の勇者部襲来(1回目)~浜辺のシーン。夏凛編スタート。

2016/9/5  誤字及び表現修正。
      会話内容(総士の夏凜に対しての印象、一騎と夏凜の会話内容)加筆。
2016/10/1 時系列の誤りを確認。転入日を原作通りにするため序盤を修正。


第3話 転入生

-讃州中学 一騎&総士のクラス-

 

「なんだか騒がしいな」

 

バーテックスとの戦闘からしばらく経ち6月9日の木曜日、クラス内では休み明けという事である意味で憂鬱とも言える日…なのだが今日はうって違って落ち着きがなかった。一騎はその様子に気づき呟いた。

 

「よっ。一騎、総士」

 

クラスメイトの一人である早瀬が声を掛けてきた。一騎と総士も簡単に挨拶を返すと経緯を聞いてみることにした。

 

「何かあったのか?」

 

「朝から職員室に見慣れない子がいるってもちきりで、それで転入生じゃないかとかの噂が広まって騒めいているそうだ」

 

「転入生? こんな時期にか」

 

転入生が来たという経緯を同じクラスの一員である矢島が答える。

 

「降矢がどっかから拾ってきたきた情報だと…釣り目で髪はツインテールの女の子だそうだ。転入試験は満点ということらしい」

 

「満点? 総士以来だな」

「そういえばそうだったな」

 

余談だが、総士も讃州中学へと転入した際に受けたテストでは満点だった。本人は大したことはないと気にしてはなかったようだ。

 

「だけどどこのクラスに入るかまでは分からなかったそうだ」

 

(転入生か……面倒事にならないといいが…まさかな)

 

ふとある予感を抱く総士だったが担任の教師が教室内に入ってきたため話は切りあげる。

 

SHR中、友奈と東郷のいる隣のクラスがにわかにどよめいていた。ある意味でその予感が的中するのは放課後の時である。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

勇者部には一騎・総士を含めたメンバー6人と黒板を背に腕を組んでいる少女…昨日のバーテックスとの戦闘中に現れた『三好夏凜』がそこにいた。友奈たちと同じ讃州中学指定の制服を身に纏っている。その横には彼女の精霊と思わしき鎧武者のような存在が浮いていた。

 

「――― そう来たか」

 

「転入生のフリをするのも面倒くさい。でもまあ、私が来たからにはもう安心ね! 完全勝利よ!」

 

「なぜ今になって? どうしてもっと早く来てくれなかったんですか?」

 

東郷が尤もな事を夏凛に問う。

 

曰く、すぐに出撃したかったが大赦の意向でそれが出来なかったらしい。大赦は二重三重の策を練っており万全を期するために友奈たち先遣隊のデータを基に完全な勇者を完成された。それが自らの事だとスマホを見せびらかしながら夏凛は語る。

 

「その上、あなた達トーシロと違って戦闘のための訓練を長年にわたって受けてきている!!」

 

夏凛が近くにあったモップを手に取り振り回しポーズを決める。……が、黒板に当たったがためなんとも締まらない結果になっている。

 

「黒板に当たってますよ」

「狭いところで振り回すのは危ないぞ」

 

東郷と一騎から率直な突っ込みが出る。

 

「しつけ甲斐がありそうな子ねー」

 

「なんですって!?」

 

風が鼻で笑うと、夏凜が憮然とした表情を返した。

 

「…まあ、いいわ。…で、こっちのが『皆城総士』に『真壁一騎』…あんた達が神樹様に遣わされたっていう『来訪者』ね…まあ、1人足りてないようだけど小学校じゃあ時間が違うからいいわ。あなた達の事は大赦から報告は受けているわ。あたしが来たからにはバーテックスやらフェストゥム。どちらも大船に乗ったつもりでいなさい」

 

夏凛が一騎と総士をにらみつけながら自信高々に自らの話を締める。

 

「…なんでこっちをにらむんだ」

「まるで好敵手とみているかのようですね」

 

一騎がぼやく中、友奈が立ち上がると夏凛の前で立つ。

 

「よろしくね。夏凜ちゃん」

 

「いっ、いきなり下の名前!?」

 

「嫌だった?」

 

「…フン、どうでもいい。名前なんて好きに呼べばいいわ」

 

友奈はいつものように微笑み夏凜に話しかける。呼び方が決まると続けて、

 

「ようこそ、勇者部へ」

 

「……部員になるなんて一言もしてないわよ」

 

「え? 違うの?」

 

「違うわ。私はあなたたちを監視するためだけにここに来ただけよ」

 

夏凛は友奈の申し出をはっきりと否定するも明らかに戸惑っている様子である。

 

「もう来ないの?」

 

「……来るわよ。そういう御役目だから」

 

「なら、部員になっちゃった方が早くない?」

 

「う……」

 

友奈の提案に考え込む夏凜だったが一理あるという事で同意することにした。

 

「ま、いいわ。そういうことにしておきましょうか。その方が監視しやすいでしょうしね」

 

「監視監視ってあんたねぇ。見張ってないと私達がサボるみたいな言い方やめてくれない? それにここに大赦から派遣された人もいる事忘れてないかしらね」

 

風が夏凜の言い分にご立腹である。だが、夏凜はそれを鼻で笑うとさらに偉ぶって、

 

「偶然選ばれたにすぎないトーシロがでかい顔するんじゃないわよ! 「ムッ!」 大赦のお役目はおままごとじゃない。なのに大赦から派遣されたはずのこいつがいるのに全くなってないなじゃいの!?」

 

今度は総士をにらみつけ指を指す。弁説の矛先が総士に向いたようだ。

 

総士は夏凜が自らに言いたいことは大体予想は出来ている。ようは偶然に選ばれた勇者部の一員が自覚がないことを指摘しようとするのだ。それは総士も理解はしていたが前例(最初のころのファフナーパイロットたちの事)があることである程度は許容はしていた。が、流石に夏凜の図々しい部分が大き過ぎる事もあり彼はそれの対処を考えていた。

 

「あんたがもっとしっかりしてれば、こんなトー……ぎゃああああああああ!!!」

 

ヒートアップした夏凜は総士に言葉をぶつけようとしたが、突如絶叫し、それに思わず耳をふさぐ一同。その視線の先には…友奈の精霊『牛鬼』が夏凜の鎧武者の精霊の頭にかじりついていた。

 

「ななな、何してんのよこのくされチキショー!!!」

【ゲドウメー】

 

「外道じゃないよ牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊くんなんだよね」

 

「自分の精霊のしつけも出来ないようじゃあやっぱりトーシロよ! ともかく、なんとかしなさいよ!」

 

夏凜がギャーギャーと喚き散らす。友奈が牛鬼の好物であるビーフジャーキーをチラつかせるもかじり応えが相当気に入ったのか牛鬼はなかなか離れない。

 

「…これじゃあ収拾がつかないな…」

 

収拾がつかないため総士はある手段に出ることにした。

 

「このぉーーー離れなさいよ!!!」

 

【~~♪・・・・・!?】

 

「とれた……ってぎゃぁぁああああああ!!!」

 

牛鬼が視線の先にいる存在に気づき夏凜の精霊を解放した。何かがいる気配を察知した夏凜が振り向いた先には……、

 

【・・・・・・】

 

ニヒトがただそこに浮いていた。それを間近に見てしまった夏凜は本日2度目の絶叫あげた。

 

「ななな、何よ。こいつ!!!」

 

「総士君の『ニヒト』よ。普段は牛鬼にかじられてしまうからみんな精霊を出せないの。でも、ニヒトがいると妙に大人しくなっていう事を聞いてくれるのよ」

 

「な、なるほど…そ、それはともかくその精霊さっさと引っ込めなさいよ!」

 

「この子勝手に出てきちゃうの…ごめんね。牛鬼驚かせちゃって」

 

牛鬼は友奈の差し出したビーフジャーキーにかじりつくと彼女の傍でおとなしくなった。

 

「あんたのシステム、壊れてんじゃないの!?」

【ゲドウメー】

 

「それで僕に何を言うつもりだったんだ?」

 

「……いや。もう、いいわよ」

 

さっきのドタバタ模様で夏凜はその気が失せてしまったようだ。

 

「そういえば、この子、喋れるんだね」

 

「ええ、名前は『義輝』。私の能力にふさわしい協力な精霊よ」

 

「あ、でも東郷さんには3匹いるよ」

 

「はい。……出ました」

 

誇らしげに夏凜が自慢するが、友奈が思い出したかのように言うと東郷がアプリを操作する。すると東郷の元に3体の精霊が現れた。

 

「牛鬼が大人しいうちにアタシらも出しときましょ」

「はいです」

 

「ほら、真壁も」

「俺もですか」

 

部長である風の指示で樹は素直に、一騎は必要あるのかと思いながら顕現させる。夏凜は複数の精霊を持っている東郷になんともいえない気持ちになるが、

 

「なんかロボットみたいわね」

 

「夏凜ちゃんは1体だけなんだね~」

 

「わ、私の精霊は一体で最強なのよ。義輝、言ってやんなさい」

『ショギョームジョー』

 

(ほう、姿も本質も常に変わるものということか……)

 

義輝の言葉に夏凜は愕然とした。その意味に総士はある意味関心できていた。

 

「達観してますね」

 

「そ、そこがいいのよ」

 

東郷のフォローを甘んじて受ける夏凜。

 

「…どうしよう、夏凛さん…」

 

「今度は何よ!?」

 

タロットカードによる占いを試みた樹がその結果に思わず声をあげる。出たカードは……、

 

「夏凜さん死神のカード……」

 

――― ポクポクポク…チーン

『死神』、夏凜を対象とした占いの結果はどうやら厄日のようだ。

 

「「不吉だ」」

「不吉ですね」

「極めて不吉だ」

 

「不吉じゃない!!!」

 

風・一騎・東郷・総士に不吉だと言われた夏凜は全力で否定する。

 

「ともかく、これからのバーテックス、それにフェストゥムっていう輩の討伐は私の監視の元励むのよ」

 

「部長がいるのに?」

 

「そうなのか、総士?」

「そういうのはとくには聞いてないが」

 

夏凜は友奈の発言によりまたペースを崩された。一騎の質問に対しては総士は聞いていないと語る。

 

「部長よりも偉いのよ」

 

「ややこしいな……」

 

「ややこしくないわよ!」

 

ずっと友奈のターンである。乗せられた夏凜の突っ込みがキレる。

 

「事情は分かったけど、学校にいる限りは上級生の言葉を聞くものよ。事情隠すのも任務の中にあるでしょ?」

 

「ふん、まぁいいわ。残りのバーテックスを殲滅したら、お役目は終わりなんだしそれまでの我慢ね」

 

「うん、一緒に頑張ろうね」

 

「うっ、頑張るのは当然! 私の足を引っ張るんじゃないわよ」

 

これ以上付き合えないと思ったのか夏凜が学生鞄を担ぐとそそくさと部室から出ようとする。

 

「ねえ、一緒にうどん屋さんに行かない?」

 

「……必要ない。行かないわよ」

 

「待て…ひとつ、いいか?」

 

黙って聞いていた総士が感じた疑問を夏凛に尋ねると夏凜の足が止まった

 

「なによ。皆城総士」

 

「大赦から派遣されたのは君だけなのか?」

 

「? そうよ。神樹様に選ばれたのはあたしだけみたいだし。それがどうかしたのよ」

 

「そうか…邪魔をさせた」

 

夏凜は首をかしげたが部室から早々と去って行く。部室内はまるで嵐が過ぎ去ったかのように静かになった。

 

(彼女は監視と言っているが建前上のようだな。試してみたが特に動揺した様子もなかったし、隠している素振りもなかった)

 

総士は夏凜の人柄をある程度予想すると窓の外を伺う。すると、視線の先にはある人物がおり、総士側から見ればまるで此方を窺っているようだ。

 

(おそらく、本命はあちらだろう)

 

「まるで嵐のような子だったわね。ああいうお堅いタイプは張り合い甲斐があるわね」

「張り合うの……?」

「頑なな感じの人ですね」

(……頑ななってなると…なんか似ているな)

 

部室内では夏凜の雰囲気にそれぞれの感想を述べたり思ったりする一騎たち。

 

一騎は夏凜の事を島にいたころのかつての仲間に1人に準えていた。幼い頃にフェストゥムに家族や友達を奪われ戦場に生きていた彼女も島での生活には最初はぎこちない態度だった。それが大赦の勇者として来た夏凜と似通っているように見えた。

 

そんな中、友奈はうーんと頭をうねるようにして考え込んでいた。

 

「友奈?」

 

「うーん、どうやったら仲良くなれるのかな……?」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

(……くだらない)

 

夕焼けの中、黒のインナーに白のタンクトップとショートパンツ。鍛錬の時の服装姿の夏凜は1人自転車に乗りながらそう考えていた。彼女にとっては学校というものはどうでもいいものであり、特に勇者の候補生として選ばれてからはさらに遠いものとなっていた。

 

(別に期待していなかったけど想像以下ね)

 

浜辺へとたどり着くと木刀を2本取り出し鍛錬を始める夏凜。ここには引っ越しをした際に見つけたところだ。鍛錬をしながら今日の事を振り返り勇者部を辛く評価する。特に勇者部の和気藹々とした雰囲気が気に入らなかった。青春を勇者になるために費やした夏凜にとっては受け入れがたい環境であった。

 

そして―――、

 

(『皆城総士』に『真壁一騎』…その妹の『皆城乙姫』、大赦が言っていた神樹に遣わされた『来訪者』。力を持っている…なのになんでああいうチンチクリンな奴らに何も言わない訳?)

 

バーテックス襲来の最中に現れたフェストゥムと対峙する戦士である総士たちを批判する。自分と同じ『敵』と戦うための戦士。だが、彼女には分からなかった。何故、選ばれたトーシロをそうまでして彼女の思う『勇者』にしないのか。

 

いらだつ夏凜は型の円舞を一心不乱に舞う。そんな雑念を振り払うかのように最後は思いっきり空を突く。

 

「……」

 

突いた状態で型をぴたりと止める。どうやらその日の工程を消化し終えたようだ。

 

「……凄いんだな」

「っ!?」

 

ふと彼女を賛美する声に夏凜はぎょっとする。没頭しすぎたせいなのか背後が疎かとなっていた。

 

「…!? 真壁…一騎!」

 

振り向いた先にはあの部室にいた男子の片割れである一騎の姿であった。

 

 

 

side:一騎

 

うどん屋で解散となった一騎は総士や友奈たちを別れいつもと違うルートで帰路についていた。

 

「……まさか、醤油がなくなってるなんてなあ」

 

不運にもいつもの帰り道のお店では売り切れていたため風が贔屓にしているお店を聞いてそっちで買った。

 

「今日は母さんと父さんが帰ってくるが時間に十分余裕はあるな。…けど何もないから戻るか」

 

一騎は海沿いの道を足早に歩いていると、浜辺の方に今日見たある少女の姿があった。

 

「…三好?」

 

今日転入していた夏凜が浜辺で木刀の素振りをしていた。ただ振っているのではなく素人目から見ても剣術型ともいえる一種の円舞である。一騎は足を止めると暫く彼女の剣舞を見つめていた。

 

夏凜は剣舞のラストを飾るかのように2本の木刀で思いっきり空を突く。夕焼けの光景もありそれは美しく映えた。

 

「……凄いんだな」

「っ!?」

 

思わず賛美の声をあげる一騎。それに気づいたのか夏凜は振り向いた。

 

「…!? 真壁…一騎!」

 

side out

 

 

 

「……何でここにいるのよ?」

 

「通りががっただけなんだけどな」

 

正直に答える一騎。夏凜が一騎を一瞥したが手に持っている買い物袋を見掛けたためそう思うことにした。

 

「ここで何をしていたんだ?」

 

「……鍛えてた。いつ『敵』が来てもいいようにね」

 

「ずっとなのか?」

 

「……そうよ」

 

嫌々ながらも一騎の質問に夏凜は淡々と答える。一騎もそれなりに話せるじゃないかと思っていた。

 

(…どうも結城友奈と同じ感じがするわ)

 

夏凜が感じた一騎の印象はそれである。話は続かず浜辺は静寂に包まれ2人の間に沈黙が流れる。

 

(どうしたものかしら……。ここで会うとは思ってもなかったから話が…そういえば)

 

夏凜は大赦から監視の命を受けている身なため一騎や総士の事はある程度聞いていた。そして、この前の戦闘にて個人的にある種の興味を持ったためか思い切ってある提案をしてみることにした。

 

「(こちらとしてもある意味都合いいしね)真壁一騎、ちょっと時間があるかしら?」

 

一騎は特に用事もなく、まだ時間にも余裕がある。夏凜の申し出に頷いた。

 

「あたしと戦いなさい」

「は?……どうしてなんだ?」

 

突然の提案に唖然とする。それは一騎にとっては無意味なことである。だが夏凜は、

 

「……樹海で戦っていたあんたの実力が気になった…それで純粋に剣士としてあなたと手合わせしたいだけよ。それだけじゃあ駄目なのかしら?」

 

夏凜なりの事情を聞いた一騎は少し考え込むが、

 

「わかった……それでいいのなら」

 

こういう挑戦だったら何度も受けている一騎としても下手に断るのも夏凜にとって悪いと思い申し出を受けた。

 

夏凜は木刀を一騎に手渡し、一騎は讃州中の上着を脱ぎ裸足となり砂浜に入る。

 

一騎は剣道でいう一般的な構えである中段の構えをとる。夏凜は2本の刀による二刀流を主としているが一騎に一本渡したため一刀で脇に構える。

 

(さすがに怪我をさせたらまずいか)

(…なんもない構えね。剣術に関して疎いと見ればいいのかしら。まあ、こっちから仕掛けさせてもらいますか)

 

互いに出方をうかがう両者だったが、夏凜が腰を低くして飛び出し横一直線に振るう。一騎は後ろに少し引き避ける。一騎は上段に構えると縦一直線に振り下ろす。夏凜は捻って躱すと一騎の死角に回り込み袈裟に振るう。一騎はそれにすぐさま反応し木刀で防ぐ。

 

(二刀だったらとれそうだったんだけど、力比べはあまり望むところじゃないわね)

 

鍔競り合いになるが力比べは夏凜にとって分が悪い。夏凜はわざと押される力を利用し後ろに引くと一騎と距離を置く。

 

(ここだ!)

 

バランスを少々崩した一騎に突きを加える。だが、一騎はすぐに立て直すと渾身の突きもあっさり回避した。

 

(嘘、このタイミングで避けた!?)

 

一騎は伸びきった姿勢の夏凜の木刀を叩く。夏凜は持っていた木刀を落とした。そして一騎は無手となった夏凜の首筋に木刀を添える。

 

「ええと、俺の勝ちってことでいいのか」

「……負けた…」

 

夏凜はその場にぺたりを座り込んだ。夏凜的には全力でやりあったが負けて悔しがっているようだった。

 

「これで…いいのか」

「十分よ。最後にいいかしら」

 

一騎は首をかしげる。

 

「どうしてかしらね……勇者以上の力を持つあんたがあんなチンチクリンと付き合うのが分からないんだけど。いざとなればそれであのトーシロ連中の目を引けるのに」

 

「そういう事はしないよ。勇者部のみんなは…仲間だからな」

 

「は? それだけ」

 

声をあげる夏凜であったが、一騎は荷物をまとめるとその場を後にしようとする。

 

「明日も来いよ。友奈たちがまた来ないかって心配してたぞ」

 

「……余計なお世話よ」

 

そっぽを向ける夏凜。一騎はその場を後にした。

 

「……フン、やるわね」

 

そっぽを向けた夏凜の顔は赤くしながらぼそっと呟いた。

 

彼女はまだ知らない。未だに1人で戦う彼女に問って一騎の言った仲間の意味に気づくのはまだ先の出来事である。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:総士

-皆城家(讃州地方)-

 

「お久しぶりです。父さん」

 

一騎と別れた総士は自宅へと直帰していた。そこには大赦に意見していた厳格そうな男性がいた。

 

「うむ。滞りなく犠牲もなしに進めたみたいだな総士」

 

「はい」

 

「なにか変わりはあったか?」

 

父と呼ぶ男性に対し総士は報告を続ける。

 

「……今日、大赦の監視者らしき影を見ました」

 

「そうか。遅かれ早かれこうなるとは思ってたが…総士、彼らも現段階では大きくは出ないはずだ。警戒は必要だが、そのうち…」

 

「時と場所を見て一騎には僕から話しておきます」

 

「頼むぞ。私はあの準備を進める。ひとまずこの話は仕舞いにしよう」

 

「はい、父さん」




何番煎じになるかもですが、対三好夏凜でお送りいたしました。

●大赦の方針への突っ込み
大赦の増援に関しての突っ込みは総士が内部事情を知っている設定なためなしとなりました。ただ、次回あたり勇者システムのあの機能に関しては総士が突っ込みと思います。

●一騎対夏凜
やりたかったネタシリーズ。一騎を勝たせたのは『蒼穹のファフナー』小説版にて道場娘(名前は出ていないが恐らく『要咲良』)にあっさり勝利した実績があったため。夏凜も二刀流じゃないですしね。

以下、予告。
「仕方ないから、情報交換よ」

翌日、情報共有のために夏凜は勇者部へと足を運ぶ。

「『星屑』…バーテックスの兵隊ともいえる奴らね」

「戦闘経験値を上げることで勇者は強くなる」
「ため込んだ力を開放する機能……」

「危険すぎる」

情報を共有する中、総士は勇者システムのある機能に明らかな否定を見せる。

「と、いうわけで今週末は子供会のレクリエーションをやります」

次回、第14話『変化』

「た、誕生日なんてやったことないから…」

…【あなたはそこにいますか】



追記:今週の『乃木若葉は勇者である』にてまじで心が散華しそうなんですが……。先週から崩壊の序曲みたいなのが始まってしまったし。

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