絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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原作第3話、夏凜の勇者部襲来(2回目)のシーン。後半はオリジナル展開となります。


第4話 変化(前編)

-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

「――― 仕方ないから情報交換と共有よ」

 

翌日、夏凜は勇者部の部室へと足を運んだ。内心仕方ないという気持ちでいっぱいの夏凜は面倒くさいような表情だ。そこには昨日と同じメンバーが集まっていた。

 

「わかってる? あんた達があんまりにも呑気だから今日も来てあげたのよ?」

 

「…ニボシ?」

 

夏凜が袋から煮干を一尾取り出しかじる。風がその光景が気になったのかつい口に出た。

 

「何よ。ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA。ニボシは完全食よ!」

 

「っ……まぁいいけど」

 

「あげないわよ」

 

「「いらない」わよ!」

 

何とも言えない視線を送る風。夏凜が不機嫌な様子でニボシを引っ込め自分の物だと誇示する。それに総士までもツッコミを入れた。

 

「じゃあ私の牡丹餅と交換しましょう?」

 

「……何それ」

 

「さっき家庭科の授業で…いかがですか? 牡丹餅」

 

「東郷さんはお菓子作りの天才なんだよ~」

 

友奈が東郷の事を自慢する。東郷は白い箱に入った牡丹餅を夏凜に差し出し勧めた。夏凜は若干の戸惑いの様子を見せるが、

 

「い、いらないわよ!」

 

「そうですか…みなさんはどうですか?」

 

「もちろん、いただくよ」

「東郷、俺も」

 

東郷のお菓子つくりの腕前はあの一騎ですらも認めるレベルである。夏凜を除いた勇者部の一同は東郷の好意を甘んじて受けた。

 

「……話を戻そうか」

 

話題が外れかけていたこともあってなのか総士が話を元に戻すことを進言すると夏凜は自らが持つ情報を伝え始める。

 

「いい? バーテックスの出現は周期的なものとみられてきたけど、相当に乱れている。これは異常事態よ! 帳尻を合わせる為これからは相当な混戦が予想されるわ」

 

「確かに…1か月前も複数体出現したりしていましたしね」

 

勇者部の一同は菓子楊枝を用いて一口大にした牡丹餅を味わいながら話を聞いている。東郷はふと自分が勇者となった日の戦闘を思い浮かべながら発言する。

 

「そういや、この前現れたちっこいやつは何なのよ?」

 

「そいつらは『星屑』…バーテックスの兵隊ともいえる奴らね。御役目でバーテックスがたまに率いているけど所詮は雑兵。出現経緯などは現在大赦で調査中だけど…私なら大抵の事態なら対処できるから問題ないわ」

 

風から前回の御役目にて出現した敵に関しての質問に夏凜は淡々と答えるとここでなぜか一騎を一度にらむようにして視線を合わせる。

 

(あの時の事…根にもってるのか…)

「(まあ、こいつはいいとして…ぼーっとしている割にはやるみたいだし)。貴女たちは気をつけなさい。命を落とすわよ」

 

何か悪いことをしたのか? そもそも決闘を申し込んできたのはそっちじゃないか? と一騎は自問自答する。一騎がある種の不安にかられる一方夏凜はそういうイレギュラー的な状況にも対応できるように勇者たちに促すと。次の話題へと移す。

 

「それと戦闘の経験を貯めることで勇者はレベルが上がりより強くなる。それを『満開』と呼んでいるわ。自分の『満開ゲージ』はわかってる?」

 

勇者システムの切り札である『満開』のついての説明をし、風が勇者服についている満開ゲージと呼ばれる円の中の花の紋様の補足も加える。

 

「満開を繰り返し戦闘経験値を上げることで勇者は強くなる」

「ため込んだ力を開放する機能……」

 

友奈は右拳、東郷は左胸、風は太腿、樹は背中に刻まれてある紋様は満開のゲージを示している。それが勇者システムのアプリにて説明があったと東郷が友奈に告げ、友奈は感慨の声を挙げる。

 

「……少しアプリの説明を見せてくれないか?」

 

ここで総士が勇者システムの説明にある疑問を感じる。東郷は自らの端末のアプリ説明を総士に見せた。

 

「(やはり…な)……メリットしか書かれていないようだが」

 

「何が言いたいの? デメリットもなさそうだけど」

 

「だったらそう明言すればいい。……三好、実際に『満開』を体験したことは?」

 

夏凜は横に首を振る。

 

「ここにその『満開』を体験したことがある人がいない。実際にどんなものかわからないという未知がある事だ。戦闘経験値を上げることで勇者は強くなるならそれを具体的にいったほうがいい。このアプリの説明だけでは極めて不十分だ」

 

「……何が言いたいわけ?」

 

「『満開』も確認されていないだけでアフターリスク…すなわち何らかの代償が起こり得るかもしれない。僕としては積極的に使うのはおすすめは出来ない。不測の事態に陥ったらそれでこそ危険過ぎる…僕たちがフェストゥムと対抗するための力であるファフナーと同じだ」

 

「・・・ふぁふなー?」

 

「三好やみんなにも教える必要があるな」

 

ここで総士は夏凜や勇者部のみんなに一騎や総士が使っている力ファフナーについての説明を行う。勇者部の4人は一騎たちの世界の事を知っているが、大赦から派遣されてきた夏凜が聞いていたのはあくまで大赦側からの情報のみで詳細は知らない。

 

人類がフェストゥムに対抗するために専用開発した「思考制御・体感操縦式」有人兵器でフェストゥムの持つ読心能力、同化攻撃、空間歪曲攻撃に対抗することが出来るのがこの兵器最大の特徴である。搭乗者は脳内を特殊な状態に変性させ、機体と一体となることで戦うことでその真価を発揮する。

 

一騎たちが搭乗したファフナーにはメインシステムにミールの欠片、即ちフェストゥムのコアが使われており、高い対フェストゥム対抗性を有しているが、その未知の分野が多く所謂身に過ぎた力と言えるものであるためその力の代償である同化現象の危険と常に隣りあわせだった。

 

「……つまりは敵の力も使っているという事なのね」

 

「そういうことだ。だからこそ扱いには慎重になっていた」

 

「だけどそれはそれ。満開にそういうデメリットは…この力なら敵に完全勝利できるのよ」

 

「そうかな? 総士の話が本当なら……俺としてはあまり力を持ち過ぎる事は良くないと思う」

 

「一騎君? どういうことなの」

 

「俺もかつてファフナーに乗っていた時に仲間を同化しそうになったことがあった」

 

「「「「「(!?)」」」」」

 

その力の代償というべきものには身をもって知っている総士のあまりにも筋の通った説明に一騎がマークザインという規格外の力を奮っていた経験談も交える。

 

かつて仲間の一人である遠見真矢を同化しそうとする衝動にかられた事もあったため仲間たちにはその力をふるう事の危険性を示唆した。一騎は総士の説明もあってか勇者システムもそれと同じようなものという認識に至っていた。

 

その身も毛もよだつような経験談を聞いた勇者部一同と夏凜の顔が引きつった。

 

「力を持つって事はそういう恐怖も付きまとってそれと向き合う。そんなものだと俺は思うよ。……怖いだろ? そういうの」

 

「総士先輩や一騎先輩の話を聞いていたら、なんだか怖くなってしまいました……」

 

部室内の雰囲気が暗くなる。夏凜も総士の極めて合理的な説明と一騎の経験談により何も言い返せなくなってしまった。

 

「『なせば大抵なんとかなる!』」

 

それをかき消すかの如く友奈が声をあげる。夏凜は友奈の言葉に首をかしげた。

 

「なによそれ?」

 

「勇者部五カ条だよ」

 

友奈の指さす方向に一同は目をやる。

 

勇者部五箇条

一.挨拶はきちんと

一.なるべく諦めない

一.よく寝てよく食べる

一.悩んだら相談!

一.なせば大抵なんとかなる

 

「はあ、なるべくとかなんとかとか……あんた達らしい見通しの甘いフワッとしたスローガンね。まったくもう、あたしの中であきらめがついたわ」

「(それには同感だ……)」

 

こんな連中が神樹に選ばれたのかとため息をつき、勇者部五か条の内容に呆れ夏凜はある種の諦めがついたようだ。一騎は友奈らしいなと思い、総士は夏凜の呆れに半ば同情を示した。

 

「そんなの使わなくっても私達なら出来るよ! みんなで頑張っていこ」

 

「友奈の言うとおりね。……ま、アプリの説明じゃあある程度任意で発動できるみたいだし、使うのはここぞという時にしておきましょ。それじゃ次の議題に入るわよ」

 

風がこの議題を締めると樹が次の議題に使うプリントを配布していく。プリントの主題には『子供会のお手伝いのしおり』と書かれていた。

 

「――というわけで、今週末は子供会のレクリエーションをお手伝いします」

 

「具体的には?」

 

「えーと、折り紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたり、やる事はたくさんあります」

 

「夏凜にはそうね、暴れたりない子のドッヂボールの的になってもらおうかしら?」

 

「ていうかちょっと待って! 私もなの?」

 

風が夏凜をからかうように言う。夏凜はいつの間にか自分も参加対象になっているという事に素っ頓狂な声をあげる。

 

反論する夏凜に風が夏凜の名前が書かれた入部届けを突きつける。

 

「昨日、入部したでしょ?」

 

「け、形式上……」

 

「ここにいる以上、部の方針に従ってもらいますからねぇ」

 

「それも形式上でしょ! それにあたしのスケジュールを勝手に決めないで!!」

 

「大赦から来ている総士もやってくれてるし、妹の乙姫ちゃんも友達と一緒に手伝ってくれてるのよ」

「夏凜ちゃん日曜日用事あるの? じゃあ親睦会を兼ねてやったほうがいいよ! 楽しいよ~」

 

友奈が眉を下げ悲しそうな表情で見上げる。俗にいう上目使いと言われるものだが夏凜はため息をつく。

 

「……わかったわよ日曜日ね。ちょ…ちょうどその日だけ空いてるわ…!」

 

夏凜がそう返事をすると友奈は喜び、風もはにかんだ。その様子に緊張感のないとこぼすとプリント片手に夏凜は部室を去った。

 

夏凜がいなくなった後の部室で風は友奈に問いかけた。

 

「しっかし、よく気が付いたわね友奈」

「えへへ~」

 

夏凜がいなくなった後、6人はある計画について話し始める。友奈が夏凜に関するある項目を見つけたため、子供会と同じ日に並行してある計画をやる運びになったためである。

 

「総士、乙姫ちゃんの都合は?」

「問題ないそうです。本人がぜひと言っていました」

 

総士が答える。友奈と風が乙姫にも是非参加してほしいと頼み総士はすぐにメールで乙姫に送信したところその返事は早かった。ものの数秒で「友達と一緒に参加したい」と返ってきたそうだ。

 

「樹、ケーキの予約は?」

「お店の目星はついています。帰りに友奈さん、東郷先輩と一緒に予約してきますね」

 

樹も抜かりはないようである。

 

「風先輩、ケーキ以外に何か用意しておきましょうか?」

「え、出来るの?」

「溝口さんに相談すれば」

「それだったらお願いするわ」

 

一騎からの意外な申し出に風は了承する。こうして計画の準備の段取りが次々と決まったため早めの解散とし各々は行動を開始する事となった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

一騎と総士は喫茶楽園の店主である溝口の元に訪れ、勇者部であがったある申し出を頼むとあっさりと受諾された。あの出来事以来溝口が気に入ったのか何度も勇者部に依頼してきており勇者部のみんなはそれをこなした。そのお礼なのかこうして溝口が個人的に色々と引き受けてくれるようになったのである。

 

「それにしてもお前らしくもないな」

 

そして一騎は総士と共に帰路へとつく中、勇者部室内で総士があそこまで意見したことを尋ねた。

 

「なにがだ?」

 

「いや、なんかさ。あそこまで言うなんて珍しいなって思ってな」

 

一騎から見ても目を丸くするような光景だったらしく、あのように物申す総士が珍しかったらしい。そういうことかと総士は頷くと意味深な事をつぶやいた。

 

「…それが本当だったらとしたらな」

 

「お前…やはり」

 

総士が必要なことを言うが、隠すときは徹底的に言うことはない。そういう情報管理には徹底していた。一騎は長い間共にいたせいもあってそれを見抜いていた。

 

「お前の思う通りだ。近く、お前にも話すつもりだった」

 

ここで2人の足が止まる。総士は意を決してそれを告げようとした。

 

「……っ!」

 

ところが総士は告げるのをやめると一騎の腕を掴んで引き足早に走ると近くの裏路地へといざなった。

 

「総士、いったい「やはり見られていたようだ」…何?」

 

一騎は一瞬振り向くとそこ黒塗りの車が停まっているのが見えた。総士が足早に歩きながら話し続ける。

 

「ここ最近、僕たちをずっと監視している連中だ」

 

「何で俺たちを?」

 

一騎は自分たちが監視されていることを知り戸惑いつつも総士に質問をぶつける。こういう事態に関して容易に想像ができない。

 

「僕たちがこの世界に遣わされたのを知ったからな」

 

「知ったって。なんか問題があるのか」

 

「選ばれた少女しか使えない『勇者システム』。この世界ではバーテックスと呼ばれる人類の敵と戦うためのただ唯一といってもいい対抗手段だ。だが、僕らが来たことでそれ以外の対抗手段が見つかれば……一騎、人類軍の事は分かるな」

 

「……あぁ」

 

人類軍 ――― 一騎たちの世界では最大の総意決定機構である新国連の軍事組織。フェストゥムとミールは完全殲滅することを基本総意としているこの組織が島に行った非道は一騎も目の当たりにしている。

 

総士は人類軍を引き合いに出したことで、一騎はなぜ大赦が自分らを狙うのかおおよそ理解はできた。

 

「(!?)もしや」

 

「あぁ。大赦も狙っているのさ、同じ異能の存在であるバーテックスに対抗できる僕らの力を」

 

総士がそう呟くといつの間に家へとたどり着いた。しかるべき時と場所にてすべて話すと総士が告げると2人は別れ帰宅した。

 

この日一騎は総士の口からこの世界に来て自分らが置かれている立場を実感した。それはフェストゥムが島に襲来しあの平和な日が崩れたのと似ているように思えた。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

side:喫茶『楽園』

 

「ふぃ~」

 

喫茶楽園の店主である溝口は客が全くいない時間に大っぴらに椅子に腰かけ休んでいた。はたから見れば酒場の飲んだくれのような感じである。愛用しているスキットルを開けると中の液体をぐいっと一気に飲む。

 

「あー溝口さん、またですかー!」

 

ガランと大きな音を立て店奥から女性店員が飛び出してきた。この喫茶では実質のNo2である。

 

「いいじゃん、お客さんもいないんだし。それにこれはお酒じゃないぞ」

 

「それでもです。いつ来るかわからないお客様に失礼です。……それと電話です」

 

実際中身はただの水である。痴話喧嘩になりかけたが、面倒くさそうな表情で電話に出た。相手はどうやら彼にとって旧知の仲である。その人からある事が伝えられると、

 

「何? それは本当か」

 

溝口の表情が変わる。それは明らかに堅気ともいえるものではなく、纏う雰囲気から歴戦の兵ともいえるものである。電話相手からある頼みを引き受けた溝口は電話を切ると店内へと戻った。

 

「溝口さんどうしたんですか」

 

戻ってきた溝口を見た女性店員もそれに察すると溝口と同じような真剣な眼差しで見つめる。

 

「……悪いな。これから暫く店を開けることが多くなりそうだ」

 

「……了解しました。こちらは任せてください」

 

「ありがとよ。……さぁてと俺も働こうかね」




大赦がついに動き始めたようです。私がどうも大赦サイドを書くとどうやらブラックな立場として出してしまいます。

一騎たちに監視がつけるのは、そういう情報管理だけは徹底していた大赦なら当然の処置だと思います。

後編は夏凜の誕生日イベントが中心となります。

追記:『乃木若葉は勇者である』最新話を見終わった心境(勇者たちに対して行った住人達に対して)
「どうしてそんなことをした。言え! なんでだ!」

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