絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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追加戦闘回(オリジナル)決着編。三好夏凜ハードモード。

2016/12/4 一部修正


第7話 現実(後編)

一騎が夏凜の元へと向かった頃、勇者部員たちは星屑のほとんどの殲滅させていた。勇者部員たちはここぞという時の団結力が高く、数度の戦闘で勇者システムの力の使い方や総士の指揮もあって戦い方を理解したためでもある。

 

《来たか!》

 

そんな中、戦況を見定めてきた総士が樹海内に侵入してきた存在がついに視認距離へと入った。

 

《データに履歴あり。やはり同化特化の『コアギュラ型』か》

 

総士が敵の正体を告げる。混迷の色を見せる勇者たち、友奈と東郷・犬吠埼姉妹に夏凜のもとにも現れた2足歩行の生命体がそれぞれ1体づつ降り立つ。

 

コアギュラ型 ――― 明確な敵意を持たず攻撃をしないが、別名「スフィンクスの卵」とも言われるただひたすら同化のみを迫るフェストゥムである。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:三好夏凜

 

「―――ッ!」

 

夏凜は目の前にいるコアギュラ型のフェストゥムに苦戦していた。鍛え上げられた夏凜の斬撃は効かず、刀の投擲に切り替えるも炸裂する前に無力化されてしまっている。

 

対しコアギュラ型はその触手伸ばすも夏凜はすばやく距離をとる。元々彼女の使用している勇者システムは前衛向けに調整されており彼女の場合は速度を重視としており、動きの遅いコアギュラ型は彼女の速さに接近できずにいた。

 

(動きは遅いけど…埒が明かないわ。それに……)

 

これまで金色のバーテックスと呼んでいたフェストゥムが2体も現れ、背部が黒く発光すると彼女の進路を遮るように黒い球体(ワームスフィア)が発生する。倒せない敵に加え、敵は明らかに夏凜の軌道の先に置くようにして攻撃を展開。夏凜はなんとか反応し持ち前の速度でなんとか回避できているような状態であった。

 

この世界に来たもう一つの敵『フェストゥム』、勇者の候補生として敵を過小評価したつもりはなかった。勇者の力があったとしてもある意味バーテックス並かそれ以上の脅威は夏凜の予想をはるかに超えていた。

 

「あぁっ!」

 

そして、ついに追い詰められ空中へと逃れたがそれがいけなかった。ついにワームスフィアの一部が彼女を掠めてしまう。ワームスフィアによる空間湾曲で発生する膨大な熱が彼女に襲った。勢いを失った彼女の体は地面へと落ちた。

 

「つぅ…」

 

精霊のバリアが一部働いたのか夏凜の体が焼かれた形跡はなかった。しかし、熱さと焼けただれるような痛みに蹲っていた。

 

「……あ…」

 

蹲る夏凜はなんとか顔を見上げようとする。動けずにいる彼女の視界に広がっていたのはコアギュラ型が自分に目掛け覆いかぶさろうとする光景だった。

 

「くぅっ…あぁぁぁ!」

 

覆いかぶさったコアギュラ型は夏凜を土のような物体で体飲み込み拘束する。夏凜は必死にそれを振りほどこうともがき足蹴にするが、

 

「……」

 

奥に入り込むような感覚が彼女を襲う。その心地よい感覚が夏凜から抵抗するという思いを奪う。コアギュラ型はまるで優しく撫でるかのように夏凜の心の中の奥に入り込んでいく。

 

すうっと、ひどく自然に視界が暗転した。

 

「……いや…やめて」

 

惚ける夏凜だったがしばらくするとそれは嫌悪へと変わった。

 

「…心を見ないで!」

 

彼女の脳裏にあったこれまでの記憶が蘇り、勇者になった経緯や両親から正当に評価されず兄から離れ独りでいた記憶が呼び起される。心理的な侵攻に夏凜はそれを言葉をして思いっきり叫んだ。

 

(い…やだ…こんなところで終わりだなんて……)

 

夏凜の脳裏に今日の出来事が思い浮かばれる。それは彼女が勇者として青春を過ごし派遣されてきた地区で神樹に選ばれたとされたにも関わらず甘っちょろい人たちによって祝われた誕生日の出来事。フェストゥムは夏凜の心の奥まで読み取った。

 

(だれか………)

 

コアギュラ型は夏凜を本格的に『同化』し始めようとしようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:真壁一騎

 

筈であった。近くに浮遊していた2体のフェストゥムが真っ二つに寸断され消滅。コアギュラ型の目をもいえる部分に槍が突き立てられていた。

 

「……また、奪う気か」

 

妨害してきた一群を突破してきた一騎は今まさに捕えられ同化されようとする夏凜の姿を見た。ルガーランスを握りしめ静かに呟く。……その声に少し怒りが込められていた。

 

その間にもコアギュラ型に突き込まれた刀身がゆっくりとその傷口を広げていく。コアギュラ型の同化による浸食も進んではいない。一騎の非同化状態はもはや同化特化のコアギュラ型をも寄せ付けずにいた。

 

「そこだぁぁぁーっ!」

 

ルガーランスのトリガーを操作しコアギュラ型の傷口にプラズマ弾が叩き込まれる。一騎は引き抜くと夏凜を捕えていた触腕を切り裂き彼女をその傍らに抱くとその場から離れる。コアギュラ型は黒い球体に包まれ消滅した。

 

《っ! 遅かったのか》

「いや、まだ間に合う!」

 

夏凜の意識は戻っていない。同化の途中で引き離されたが、瞳が金色に染まりかけていた。一騎は総士の静止を後目に夏凜の肩に手を置き、静かに目をつぶり心を落ち着かせ意識を集中させた。

 

 

 

side:三好夏凜

 

(私…いったいどうしたんだろう…)

 

何の音も聞こえない暗い海ともいえるような空間に夏凜がいた。しかし、夏凜の体はまるで水底へと誘うかのように沈んでいたにも拘らず、水面へと浮き上がろうとはしなかった。否、出来ずにいた。

 

(勝手に飛び出して…できると思ってたツケがあたったのかしらね)

 

勇者となり初陣を飾り、自分は出来る。兄を超えられると思い込んでいた。その結果がこれだ。

 

(バカだったのはあたし…敵を見誤っていた…だけど、それを決めたのはアタシ1人…)

 

中途半端に終わってしまうがどうせ自分は独りぼっちだ。敵に敗れここまでだと受け入れようとした。

 

(!?)

 

途端、夏凜の手を何者かが掴んだ。虚ろな目で顔を見上げる。水面下といえるところに眩い灯りを見た。

 

「それでいいのか?」

 

その問いかけに夏凜ははっとした表情となる。そして、その灯りを目を凝らして見ると1人の少年のような姿が見えた。

 

「お前は1人じゃない!」

 

水面にはあの灯りの他にも幾多の灯りが見えた。いつの間にか夏凜の体はそれに目掛け浮上し始め引き込まれていった。

 

 

 

No side

 

「う……」

 

「三好、大丈夫か?」

 

夏凜の目が開かれる。朦朧としているため視界がぼやけていた。しかし、焦点が定まるとがじっとこちらを心配そうに見つめている義輝の他に一騎姿がそこにいるのが見えた。

 

「……あたし、どうしたのかしら?」

 

「フェストゥムに同化されかけてた。奴等は倒したし、同化も…問題はないと思う」

 

「そう。……あんたやあいつらはああいう奴等とやりあっていた訳ね……」

 

「立てるか?」

 

一騎の伸ばした手を握ると夏凜は引っ張り上げられる力を利用して立ち上がった。

 

「遅くなってごめんな。フェストゥムまで現れるなんてな」

 

「……心配かけたわね」

 

その身を以ってフェストゥムの脅威を目の当たりにしたのか夏凜は一騎に申し訳なさそうに言った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:勇者たち

 

《決して接近戦はするな! 同化されて取り込まれるぞ!》

「(これが総士君の言っていた…)私がやるわ! 友奈ちゃんは残りの星屑をお願い」

 

東郷は両手の散弾銃を連射し集中してコアギュラ型に弾幕を浴びせる。だが、放たれた弾丸はコアギュラ型の体に吸収されてしまい、動じていないのかゆっくりのっしりと東郷に近づいていく。

 

「攻撃はしてこない…けど、効いてない?」

《弱点以外の攻撃は無効だ。頭部にある目を狙え!》

 

東郷は頷くと拳銃に持ち替え両手で構えて頭部に狙いをつけて撃つ! しかし、コアギュラ型はその弱点を触腕で塞ぎ防いだ。

 

(防がれた! …これじゃあ)

 

コアギュラ型は東郷を獲物と見定めたかのようにゆっくりと歩み迫ろうとする。星屑の一群の掃討中の友奈だったが、敵は大切な友達の1人に魔の手を伸ばしているのを見た。東郷が何発も銃弾を撃ち込んで止めようとするが弱点以外はほぼ無力であり、かといって自らも攻撃すれば恐らく同化されてしまうであろう。せめて、あのガードを一瞬でも解ければと友奈は物思いに沈む。それにより生じた隙に星屑の最後の1体が襲い掛かる。

 

《結城!》

「(!?)」

 

反応が一瞬遅れてしまった友奈だったが総士の一声により我に返りギリギリで攻撃を躱す。

 

「てえやああああ!」

 

回避した勢いをそのままに反撃と言わんばかりに星屑に鋭い蹴りを入れる。星屑は蹴り飛ばされコアギュラ型に衝突、それに反応したのか星屑に対し同化行動へと入ると東郷からは弱点である目が露となった。

 

《東郷、撃て!》

 

拳銃から放たれた弾丸はコアギュラ型の目をえぐる。弱点を破壊されたコアギュラ型の体は黒い球体に包まれ消失した。

 

「東郷さん、ナイスだよ~」

「もう! 友奈ちゃん、そんな危ないことして……でも、助かったわ」

 

友奈が東郷を称賛する。一方、東郷はお互いに無事だったことにほっと胸をなでおろす。

 

 

 

「なんでもありなのこれぇぇぇ!」

 

その一方、犬吠埼姉妹は担当した区域にも突如としてコアギュラ型が現れ、風は先手をとろうと思いっきり大剣を叩き付けた。…が、コアギュラ型はその体で受け止めると腕部で大剣を接触し同化されてしまった。

 

「相性、最悪でしょこれ!」

 

コアギュラ型に悪態つく風。樹も援護したいがワイヤーで捕らえようとするも片っ端から同化されてしまい何もできずにいる。総士から弱点が告げられるも有効打がないためか焦る姉妹にコアギュラ型が迫る。その時 ―――、

 

【!?】

 

ノルンが姉妹からコアギュラ型の周囲を旋回し攪乱しつつ光弾を撃ち込む。隙が生じるとそのうちの数機がコアギュラ型に目掛け突っ込む。コアギュラ型は接触したノルンの同化行動へと入り動きを止めた。

 

「今だ!……アタシの女子力でも喰らって」

 

チャンスと見た風は再び大剣を具現化させ巨大化させると上段に構え思いっきり頭部目掛け振り下ろす。

 

「…くだばれえええ!」

 

弱点である目ごと頭部をたたき割り風はそのまま離脱するとコアギュラ型は消滅した。

 

「うし、大物撃破!」

「さすがだよお姉ちゃん! 乙姫ちゃんもありがとう」

【どういたしまして】

 

コアギュラ型の撃破に湧く姉妹はハイタッチをする。

 

《対象の殲滅を確認。……増援はないようだ》

 

担当した区域の戦闘を終えた友奈と東郷も姉妹に駆け寄りお互いの無事を喜び合う。

 

「総士君、夏凜ちゃんは? 大丈夫…なのかな」

 

【夏凜は一騎がなんとかしたよ】

 

友奈が慌てた様子で尋ね乙姫に無事が告げられたことにより一同は安堵の表情を浮かべる。

 

「あ!」

 

そこに一騎に手を引かれる形で夏凜が現れる。

 

「夏凜ちゃん。大丈夫? 怪我とかはなかった?」

「あ…うん」

 

矢継ぎ早に友奈は夏凜に心配事をぶつける。これには夏凜も素直に聞きいれるしかない。

 

「全くもう、1人で先走ちゃって!」

「その…ごめん」

 

夏凜が風にぼそりと呟くと同時に一同は樹海から現実世界へと戻された。こうして、突如として襲来した星屑とフェストゥムとの戦闘は終わりを告げた。




夏凜ファンにとってはきつい描写が多めになってしまった。

だけど、この回やらないと原作第5話や原作3~4話の間にあったあの出来事まで夏凜の戦闘がなしとなるもので……。

●コアギュラ型
接近戦主体の勇者たちにとっては事前対策なしだと天敵だと思う。特にファフナー無印の19話を見るとね。



以下、予告。
(なぜこんなことをしているのかっ!)

あの出来事でふさぎ込む夏凜。そんな彼女を勇者部員たちはある依頼へと誘う。

「何!?」
「えっとぉ…えっとぉ」

依頼をこなす中、夏凜を見つめる小さな影。夏凜はその依頼で変われるのだろうか。

次回続章2『皐月-かりん-』

「まあ、楽しくなくはないかもね」
「お姉ちゃんの弟子にしてください!」

…【あなたはそこにいますか】

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