絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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出だしのようなものなので短めです。


第3章 【賢者達-アルヴィス-】
第1話 闇


視点:『古い価値観』を持つ大人たち

 

「……以上が御役目のご報告となります」

 

大赦上層部では御役目…前回の戦闘の報告が行われていた。神樹の防御結界である『樹海』が展開されても大赦ではその全容を把握できる。必然的にそれは一騎たちの戦闘内容も大赦側に伝わるという結果になっていた。

 

「……凄まじいものだな」

「事実、読心を防ぐ力が反映された勇者たちの戦闘結果はかなりのものとなっております」

 

『来訪者』たちの力に驚きの声を上げる一同。上層部の会議は続く。

 

「あの力、やはり我らのものとするべきでは?」

 

「例の機関が拒否をした。こちらへの技術公開はしたくないそうだ」

 

「そうなると…やはり」

 

「来訪者のうち2人はあの機関の身内のものだ。口惜しいがガードが堅い」

 

「もう1人いるではないか。こちらはただの一般人だ。……こういう時のために我らは大赦の権力を手中におさめている。あとの事は神樹様と大赦という名のもとにどうとでもすればよい」

 

「その通りです。では、彼らを向かい入れるのです。……勇者システムが完成を迎えたからこそ、今度はこの世界にもたらされた力でさらなる躍進を」

 

神樹を信仰し奉っているとは思えない発言が飛び交い、その一団の会議は閉幕した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-皆城家(讃州地方)-

 

夏凜が本格的に勇者部の活動に参加してくれるようになってから1週間が過ぎた。前回の依頼の出来事などで彼女の中で何か変化があったようである。相変わらず個性的な勇者部員のペースに色々突っ込みを入れ嫌々ながらも依頼をこなしているようだ。

 

一騎も夏凜が自分なりに友奈たちと接している様子からもう大丈夫だろうと思うことにした。友奈たちもそんな慣れない夏凜を温かく受け入れ仲睦まじく交流している様子に一騎もつい笑みが綻んでいた。

 

夏凜が勇者部員として慣れてきた頃、総士から夏凜に対して自分たちの事を話しても問題はないと判断しそれをみんなに伝えた。そして、一同は皆城家へと訪れていたが、

 

「……で、夏凜はどうなの?」

 

「結城・東郷が様子を見ています」

 

「本当に悲しい物語ですから…私たちもあんなにショックを受けてしまいましたし、夏凜さんも……」

 

一騎たちの事情を教えるために件の映像作品を見た夏凜だったが静かに『……少し1人にして』と告げてきた。そんな夏凜の様子を察し一同は別室へと移り、志願した友奈と東郷が夏凜のいる居間のすぐ近くで様子を伺っている。

 

「みんな、夏凜ちゃんが落ち着いたわ」

 

会話している間に時間が流れ、東郷から夏凜がようやく落ち着きを取り戻したと声がかかる。

 

「……」

 

「夏凜ちゃん、大丈夫? 泣い「泣いてなんかないわよ!」…はぅ」

 

友奈の慰めに粋がるも夏凜の眼の瞼の下はほんのり赤かった。恐らくは一騎たちのいた世界の事実を知り涙し思いっきり泣いていたであろう。

 

「…ここまでの辛いものとは思ってなかったから、落ち着けるのに時間がかかっただけだからね!」

 

「まあ、何度でも見れるようなもんじゃないしね。アタシらもまた泣いちゃったわけだし」

 

(ツンデレ…)

 

明らかに強がっている夏凜がそっぽを向く。一騎はクラスメイトの男子が前に「そういう女子がいい」と前に小耳にはさんだことを思い出す。総士は夏凜がなんとか話せるような雰囲気であると見計らうと訊ねた。

 

「三好、話を続けてもいいか?」

 

「…いいわよ」

 

「これが僕たちが実情だ。これを見て君は?」

 

「どうってことないわよ。むしろ、包み隠さず教えてくれて清々した。……だけどなんであたし達にここまで教えるの?」

 

「……私もそれは気になってました」

 

夏凜と東郷を筆頭に勇者たちがざわめく。

 

「『何かを隠せば、信頼を失う。信頼が、今の我々の力だ』」

 

『え?』

 

「…僕たちがかつていた島『竜宮島』の司令官の方針だ。こちらの信頼を作りあげるために大体的な情報公開もしていたほどだ。だから、僕らはそれを示すために信頼できる人にはすべてを話すと決めている」

 

一瞬懐かしそうな表情を見せつつも決心めいたように勇者たちに理由を告げる総士。一騎は前の世界の父の事を引き合いに出してきたことに意外そうな表情となる。

 

「そう。……別にあたしもこれといって変えるつもりなんてない。…信じる事にするわ」

 

夏凜は納得すると一騎たちの事情を知った上で素っ気ない態度なものの受け入れることを表明する。

 

「ありがとう、三好」

「三好の勇者システムもクロッシングができるよう調整はしておいた。これからも頼む」

 

「……頼らせてもらうわよ」

 

一騎と乙姫は夏凜に微笑み。総士が夏凜の勇者システムもジークフリードシステムの恩恵を受けられるよう調整した旨を伝えた。

 

(それにしても大赦の記録映像よりも凄惨だったわ。だけど…)

 

するとここで夏凜が一騎たちの世界の映像作品を見たうえでふとある思いを抱く。それは元々は素人の勇者部とは違う正式な勇者として訓練されていた彼女だからこそ気づけた。

 

(あいつらは…『戦争』をしてきた?)

 

夏凜は今は胸の内にしまっておくことにした。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

 

夕日も沈みかけ辺りが暗くなってきた頃、勇者部の一同は帰宅の途に着くことになった。自宅まで距離がある風・樹・夏凜を一騎が家まで送ることになっている。一同は友奈と東郷の家の近くに着くとその場で解散の運びとなった。

 

「いやぁ~。夏凜も勇者部員として活動してくれるようになって、この犬吠埼風部長、実に感動した!」

 

「何よ、それ…」

 

「照れちゃって、このこの!」

 

「ちょっと! やめなさいって!」

 

帰り道、風が夏凜が勇者部の活動に参加してくれるようになってから気分が良く。最近はこうやって揶揄うことが多い。夏凜はたまったものじゃないという感じで返し、樹と一騎は少し引き気味に笑みを浮かべている。

 

「前よりかは柔らかくなったかな」

「ですね~」

 

以前は常に厳戒態勢のような夏凜の態度だったが、勇者部との交流で鳴りを潜めていると一騎は感じていた。夏凜にとってはいい影響かはわからないが、ひとまずは仲良くしていることに安心感を抱いている。

 

「一騎先輩はすごいです! 夏凜さん、最初は尖ったナイフみたいでしたのに…今はああですから」

 

「そう大したことしたわけじゃあないんだけどな」

 

夏凜の雰囲気が変わった事もあり樹が一騎を称賛する。引っ込み思案の樹だが男子としては大人しめな部類に入る一騎なら分け隔てなく接することができる。対して、一騎は謙遜した様子で返した。

 

「大したことですよ。一騎先輩がいたからこそ、夏凜さんもこうやって勇者部の仲間として見てくれてますし、それにお姉ちゃんも仲間が増えてうれしいんですよ」

 

「そうか」

 

姉の風の事を語りながら一騎と共に歩む樹。一騎はそんな樹の会話を聞いていた。

 

「……お姉ちゃん、いつも一人で抱え込んでるから…もっと力になれればなあ」

 

「樹?」

 

「え、あっ…。今のは気にしないでください!」

 

「(!?)あ、あたしこっちだから!」

 

樹が一瞬見せた暗い表情に一騎は気に留めたが、風のじゃれつきを振りほどいた夏凜が叫ぶように一同に言う。交差点に差し掛かると住んでいるアパートの方向へと歩む。

 

「それじゃあ、ありがとうね真壁。助かったわ」

「一騎先輩、また明日です♪」

「……じゃあね」

 

「ああ、また明日な」

 

風と樹も夏凜とは反対方向へと歩み姉妹の住んでいるアパートへ歩む。

 

「さて、俺も帰るとするか。総士や乙姫も待ちかねているしな」

 

気づけばもう街灯に灯がともる時間で辺りの人通りも皆無である。いつもの道が少し不気味なように感じるがそう時間はかからないであろう。家へと戻りながら今日の夕食のメニューでも考えるかと一騎は足早に帰ろうと思った。

 

「(!?)」

 

その時、突如として数名の人が現れ進路を塞ぎ、すぐさま一騎を取り囲んだ。

 

「なんだ?」

 

現れた一団は白を基調とした喪服のような礼服に烏帽子、5つの根に7つの葉が描かれた仮面を被っている。一騎はその一団に身構え警戒を露にした。一団の長と思わしき人が一騎の前へと出る。

 

「真壁一騎様ですね?」

 

「……」

 

「失礼しました。私らは大赦の遣いの者です。あなたを迎えに来ました」

 

一団は自らの素性を告げる。名を出してきたのは神樹を奉り、この世界の守護を司る機関の名であった。




当作品の大赦は『乃木若葉は勇者である』も加味した。ある意味闇の部分が増長し暴走した組織形態となっています。そのためこの大赦という組織の人たちで不安を煽るような展開になるかと思われます。

これもこの章で本格的に参入する人たちを活躍させるために設定したものです。わかりづらい点などがございますがご承知置きください。

――― 次話では、裏で暗躍していた人たちがついにお披露目となります。

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