――― 時は少し遡って
視点:皆城兄妹
夕日も沈みかけ辺りが暗くなってきた頃、勇者部の一同は帰宅の途に着くことになった。自宅まで距離がある風・樹・夏凜を一騎が家まで送ることになっている。一同は友奈と東郷の家の近くに着くとその場で解散の運びとなった。
「それじゃあ、真壁を借りていくわね~」
「私たちもここで。総士君、乙姫ちゃんまたね」
「まったね~」
「一騎!」
総士の呼ぶ声に一騎は振り向く。
「……気をつけろよ」
「ああっ!」
友奈と東郷はそれぞれの家の門をくぐり、一騎は犬吠埼姉妹と夏凜を送るために歩んでいった。それを見届けた総士と乙姫は自らの家へと歩み始める。
「一騎を行かせてもよかったの?」
意味深な事を問う乙姫に総士は淡々と答える。
「彼女たちもいる。変に手は出してはこないだろう…少なくとも今はな」
「まだ一騎には話せないんだ」
「機密の都合もある。……しかし、無理に混乱させないよう段階的には教えている」
ふーんと乙姫は相槌をうつ乙姫。皆城家の前に差し掛かった時
「その総てを伝えるのが今だったらどうするのかな?」
「(!?)」
「春信?」
突如背後から声がかけられた。振り返る兄妹の目に映ったのは春信であった。
「……どういうことですか?」
春信が乗ってきたと思わしき車から1人の男性が降りてくる。以前、総士とも話していた男性だ。
「父さん!」
「お父さん!」
「状況が変わったのだ。……上層部にいる輩が動き出した」
総士と乙姫に動揺が走る。その一言は2人にとって衝撃的な事が起きたと確信させるには十分である。2人は父と呼ぶ厳格そうな男性と春信から詳細を聞く。
「(予想されていた事態のひとつとはいえ早すぎるな)わかりました。僕たちも動く必要がありますね」
「うむ。まずはミールの戦士たちの保護を最優先とする」
今この場では総士にできることはない話を終えると総士は一騎の無事であることを思い、乙姫を気遣いながら迎えに来た春信の車へと歩を進めた。
――――――――――
視点:真壁一騎
「俺を迎えに来た?」
一騎は突如として現れた大赦の遣いと自称する者たちに問いかける。
「はい。大赦では神樹様に選ばれた勇者と供に戦う『来訪者』。その方々を正式にお招きすることとなりまして、その前段階として少しだけお話を伺おうと……」
遣いの者が一騎を大赦に招くための口上を述べる。長く事務的な内容に近いため割愛するがようは大赦側が一騎たちから話を伺いたいとのことだ。
「今からですか?」
「今回は大赦としても急に決まりました事から……時間の方をあまりとらせませんので」
一騎としても大赦の遣いの口上はある程度の筋は通っている。しかし、突如として現れたことの謝罪や細かい要点で違和感を抱いていた。
「総士は?」
「は?」
「俺を『来訪者』って呼ぶなら総士と乙姫…俺の仲間である2人は?」
一騎はさらに遣いの者達に問いかける。
「ええ、あなたと同じように大赦の遣いの者が迎えに行っています。あなたの仲間である2人もきっと神樹様奉る我らの元へ向かうと仰っているでしょう」
遣いの代表は一騎の発した意外そうな表情となるが一騎の問いに答える。総士たちも他の遣いの者を派遣しておりその言葉を快く受けているであろうと言い放つ。
「……」
「だから一騎様も我らとともに」
一騎は口を閉ざす。
遣いの者たちは一騎に対してまるで選択肢を与えないかのように自分らとともに来ることをさらに推し勧めようとする。大赦の調べでは彼の者はこういう頼みには断れないというのが調べについている。供にこの世界に来た親友たちの名を出した事で少なくとも自分らの言い分を聞いてくれるであろうと遣いの者たちは思いこんでいた。
「……本当に総士がそう言ったのか?」
「え…えぇ。そうですとも」
一騎から返した言葉は遣いの者の予想しているモノとは違っていた。
「いや、急に決まりました事で総士様にも」
大赦の遣いの者たちの言葉を躱す一騎。どうにも遣いの者たちの言動に一騎は疑問を持ち始めていた。
(総士が大赦に気をつけろと言われていたけど…この人たちの事か…)
こうして対峙してみると仮面をつけた怪しい一団である。竜宮島を出ていき人類軍に捕まった経験やシュリナーガルでの出来事もありある程度の猜疑心が身についていた一騎はそれでもくいさがる大赦の遣いに警戒を抱く。それ以前に、仮面越しだが一騎にむける視線が人類軍に捕まった際の兵士や研究者たちのものに似ているような感じがした。
「どうも納得ができないです。総士に確認をとってもいいですか?」
一騎は以前、総士から大赦が一騎たちの力を狙っていると告げられていた事もあり何かあった際は優先的に確認の連絡を取るように言われておりそれを実行に移そうとした。
「……どうせ、私らが言った通りになりますよ」
総士に連絡を着けたいと進言した一騎であったがその言葉と共に遣いの代表に纏う雰囲気が変わる。多数の白き喪服の合間を縫うように多数の人影が乱入してきた。その装いは大赦の遣いのものと同じだが一回り大きいガタいの良い体形をしていた。
「どういうつもりですか!?」
「大人しく着いてくれば悪いようにしなかったのに……真壁一騎、大赦のためにあなたを連行します」
「ッ―――! そうか、やはり俺を騙すつもりだったんだな!」
「騙すとは失敬な……ああ、なるほど。もう一人の来訪者の入知恵か」
遣いの代表は1人納得に至る。
「だから、最初からこうすりゃあよかったんだよ」
「これは我々の最大の譲歩です」
「俺たちをどうするつもりだ!」
「あなたのお仲間も今頃は私らの元へと連行されている頃でしょう。…連れて行きなさい」
一触即発の状況、一騎は豹変した一団から逃れようという考えに至るが、彼の周りは一団に取り囲まれている。一団は今まさに拘束しようと一騎に手を伸ばそうとした。
――――――――――
視点:????
一騎が大赦の遣いという一団に接触した頃、現場から少し離れたところに黒塗のバンが停まっていた。その車内には黒いタクティカルベストなどはたから見ればどこかの特殊部隊を思わせるような姿の男性が2人いた。
「……やぁっと見つけたんだが。あーらら、大捕りものかな」
「警察だったら現行犯逮捕もんですね」
「もみ消されるのが目に見えてますが…な」
2人は本性を現した一団にそれぞれ言葉を漏らす。助手席の男性がスキットルの中身を一口あおり、頭にバンダナを付けた運転席の男性が車内に備え付けられている無線機からの報告を受ける。
「全員現場に到着、位置に着いたようです。……それにしてもいいんですか? 俺の担当がこんな簡単もんで?」
「かまわねえよ。新婚ほやほやのお前も引っ張り出したんだからな。奴らの相手は年長者の勤めだ。それにお前さんは一騎を無事に送り届けるっていう大役があるだろうが」
「はは…だったらさっさと一騎の野郎を迎えに行くとしましょうか」
「おうよ」
一騎を知っているとされる男性2人は顔を見られないようにするためにマスクとゴーグルを装着。バンダナの男性はバンのアクセルを思いっきり踏み込んだ。
『―――ッ!』
勢いよく加速されたバンは一騎と大赦の一団との間を割るようにその車体を滑り込ませる。突如乱入してきた車両に一騎や大赦の一団は反射的によけた。
「なんだ!?」
「馬鹿な! この周辺一体の封鎖は完璧なはずだぞ!」
事前の根回しが完璧だと思っていた大赦の一団は驚愕する。それを余所にバンはまるで一団から一騎を守るかのように目の前で停車し助手席側のドアと後部ドアが開けられ、助手席側から1人の男性が降車する。
「一騎、乗れ!」
「(!?)え、あなたは!?」
「ほら、さっさと乗った」
一騎はその男性の声に聞き覚えがあったような様子で訊ねようとしたが、男性は一騎を後部席に押し込み後部ドアを閉める。ドアが閉められると同時にバンは発進しその場から立ち去ってしまった。
「……貴様、我らを大赦と知っての狼藉か! ―――!」
「知ってるよ。だけど、協定を先に破ったのはそっちだろう?」
残された男性に詰め寄ろうとした大赦の一団であったがすぐに止められた。見渡せば男性と同じような装備の一団に消音機のついた小銃を突き付けられ取り囲まれていた。
「おっと、動くなよ。一騎や皆城の兄妹をとっちめて何かをしようっていうのは調べがついているんだ」
「―――ッ!」
万事休すな状況に唇を噛みしめる大赦の代表。
「ここはお互いのためになかった事にしようや」
「ふざけるっ…」
男性はその一団に対して交渉を始める。悪態つく代表であったが、
「見なかったことにするって言ってるんだよ。……それとも?」
男性は一切の抑揚がない口調で告げる。それに気圧されたのか代表は黙り込んだ。
(さぁってと、後は頼むぜ…『トリプルシックス』)
――――――――――
視点:真壁一騎
一騎はバンダナを着けた男性の運転するバンに乗せられどこかへと向かっていた。訳の分からない表情で一騎は運転手であるバンダナの男性に訊ねる。
「あのう…」
「懐かしいなあ」
「え?」
バンダナの男性はまるで一騎を懐かしむように言葉を続ける。
「あの時は島から出たファフナーパイロットであるお前を機体ごと捕獲。今回はお前を狙う輩から救出。何の因果かねえ。……相変わらず、巻き込まれてんな一騎」
「俺の名前を…」
「この辺なら…問題ないな」
一騎はバンダナの男性に聞き覚えがあった。バンはその途上で停車すると男性はマスクを取り外す。
男性の顔はその記憶の片隅に覚えがある。一騎は心底驚きつつもその男性の名前を呼んだ。
「道生さん!!」
「よぉ、一騎。色々聞きたそうな顔だな」
急に崩れたような態度で返す『
「これだけ言っておく。おれはお前の敵じゃない」
「なんで…ここに?」
「あいつらがお前を捕獲するっていう情報を掴んでな。早いが俺はお前を迎えに来たってわけだ」
「迎えに…そういやあの人は?」
「溝口隊長だよ」
「溝口さん!?…それに隊長って」
「俺が今所属している特殊部隊の隊長さんさ。俺は副隊長の立場」
「な……!」
一騎はぽかんとなった。あまりにも出来事の連続でどうやら思考が停止したような様子となっている。
「ひとまずこれから総士がいるところに向かうから言いたいことはあいつに言いな」
道生は一騎を拉致しようとした一団の対策なのか複数のルートを使い分け警戒しつつもある場所へと向かうために車を走らせる。数十分ほど車に揺られ、一騎はやがてある施設へと到着した。
「ご苦労様です」
道生は乗ってきたバンをその施設の職員に預ける。一騎は目の前の施設と車を預けた職員に交互に視線を送る。
「こっちだ」
思考にふけろうとしたのを道生が制す。彼が先導し一騎は施設の中に誘われる。
「この施設は?」
「俺の職場って言ったところかな」
簡単に答える道生。2人は施設内へと歩を進める。
「ここだ」
そして、ある部屋のドア前へ到着すると道生に促され入室する一騎。その大部屋にはコンピューターのコンソールやタッチパネルの付いた近未来的なテーブルとゆったりと座れるような大きな椅子、奥には大画面のモニターがある。
一騎はその部屋に見覚えがあった。
「一騎!」
「総士、乙姫!」
「一騎、ケガはない? あの人たちに何かされていない?」
「何もされていないよ乙姫」
部屋には数人の大人と皆城兄妹がいた。乙姫が一騎に気づきすぐさま駆け寄り、遅れて総士が一騎の目の前へと立つ。一騎は総士に対して矢継ぎ早に質問をぶつける。
「……総士、お前の言っていた通りになった。お前、いったい大赦で何をやったんだ!? それにここはいったい?」
総士と乙姫も先ほど見た職員と同じ服装となっていた。その服装は白を基調とし紺の差し色が入った色合いで、総士は袖なしのインナーベストとスラックス、乙姫はスリットの入ったスカートと一体化したインナー。その上に長袖のジャケットに首周りに赤いマフラーのようなネクタイを着けている。
一騎は2人のその服装にも見覚えがあった。
「一騎、まずは落ち着こうか。話したいことも話せない」
「あ…あぁ」
余裕もなくどことなく興奮気味の一騎を総士はなだめる。
「司令、お連れいたしました」
「ご苦労」
すると、後ろに控えていた道生が部屋にいる責任者と思わしき人物にそう報告をする。ここではじめて一騎はその奥、中央側の席に座っていた人物の一人に気が付いた。
「この世界では初めましてと言うべきかな。一騎君」
その厳格そうな顔に見覚えがあった。竜宮島での最初のフェストゥムとの戦い、一騎は慣れないファフナーで出陣したものの唯一の武器を失い、新たな武器を受け取らなければ初陣で彼は死んでしまったかもしれない。
「総士の……父さん」
「そうだ。久しぶりだな」
それを自らの命を引き換えに送り届けた人物…『
「ようこそ…一騎君。ここが ――― この世界の守護のために設立された機関『
――― 『絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち』…第17話『その名は…
ついにこの組織の名が出せた…次話はゆゆゆの世界にアルヴィス設立などの経緯を一騎に打ち明ける回となります。
以下、解説
●日野道夫
ファフナー無印に登場した新国連のファフナー搭乗者。666(トリプルシックス)というコードネームを持つ優秀なパイロット。気さくな性格で兄貴分気質。
原作では23話にて壮絶な最期と遂げた。
●皆城公蔵
ファフナー無印及びROLで登場した総士の父親で、史彦の前に就いていたアルヴィス司令。
原作では史彦司令とは違い、フェストゥムに対して決戦の思想を持っていた…が、今作品ではある事情でその思想が変わっている立場となっている。それは次回に語ります。