絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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2部構成でお送りいたします。

皆城家に関して相当の独自設定が入ります。


第3話 真相と歪み(前編)

「『アルヴィス』だって!?」

 

「正確に言えば対フェストゥムを主目的として()()した組織だ。そして、私はそれを率いる立場としてここにいる」

 

『アルヴィス』司令官皆城公蔵が最後にそう付け加える。

 

「道生、戻ってきて早々すまないが、別室にいる要人たちを呼んできてくれないか。先に一騎君に我々の話をつける」

 

「了解しました」

 

初老の男性の一言で道生が部屋から退室していった。一騎は公蔵に促され会議室に備え付けられた席へその隣に総士と乙姫もつく。

 

「この部屋が似ているのは僕たちのいた世界、竜宮島アルヴィスの施設をそのまま再現したからだ」

 

辺りを見渡す一騎に対して総士が補足を加える。これまでの出来事で混乱気味だった一騎はようやく自分の置かれている状況を理解し始めたのか周囲を見渡す余裕ができた。

 

司令である公蔵は司令官の席へ、一騎たち3人と向かい合う形の席には初老の男性と白衣の女性がいることに気づいた。

 

「日野のおじさん!」

 

「また会えるとは…私も思ってもなかったよ」

 

道生の実の父である『日野(ひの)洋治(ようじ)』が懐かしむようにしながら答える。続いて一騎はその隣の女性に視線を送る。しかし、どこかで会ったのは確かであるがうまく思い出せない。雰囲気はどちらかといえば総士より乙姫に似ているような気がするが、

 

「さすがに私の事を覚えてはなさそうね」

 

女性の切り出しに一騎は困惑した表情を見せる。

 

「覚えて? 俺の事を知っているのか」

 

一騎の問いに女性は頷くと白衣の胸ポケットから一枚の写真を取り出す。

 

「え?」

 

「竜宮島の写真よ。島が航行し始めてから3年と経った頃のね」

 

それを受け取った一騎は心底驚く。一騎たちがかつていた世界と言われる写真に映っていたのは2組の夫婦。それぞれの母親に赤ん坊が抱かれていた。1組は一騎の父母である史彦と紅音の姿。そして…もう1組は総士の父である公蔵とその女性の姿だった。

 

(なんでだろう。たしかに会ったことがある…そう!)

 

一騎は記憶の奥底からその女性名を思い出し呼んだ。

 

「総士の…母さんなのか?」

 

「そう、『皆城(みなしろ)(さや)』。たった、数度しか会ってなかったのによく思い出せたわね」

 

物心つく頃、紅音とそう変わらない時期にいなくなった総士と乙姫の母『皆城鞘』が一騎の問いに肯定した。彼女の暖かな笑み、その昔少ししか会っていなかったが母である紅音とのつながりを思い出したことで一騎は少しづつ落ち着きを取り戻す。頃合いを見計らって総士が口を開いた。

 

「一騎、これがこの世界のアルヴィスだ。神樹の言っていた僕たちの活動に支障をきたさないための配慮との事らしい」

 

「総士の言う通り、我々の役目はこの世界の敵である『バーテックス』と何かが原因で襲来した『フェストゥム』へのあらゆる対応と支援。そして、君らを()()()から守るためにこの世界に遣わされたのだ。今回は緊急の事態ということで全員はそろっていないがな」

 

『人の手』、自分を捕えようとした一団の事なんだろうかと一騎は思った。

 

 

 

「一騎君、ここからは我々元竜宮島としての話となる。だが、その前に……」

 

その言葉とともに公蔵の表情が変わる。その何かに気づいたのか洋治が声を荒げる。

 

「(!?)公蔵、あの話をするのか?」

 

「ああ、これは私の罪でもあり、最後のけじめだ」

 

既に覚悟を決めているかのような表情で公蔵は返す。一騎はその意図がわからず困惑し始めていたが、公蔵が話を切り出してきた。

 

「まずは元の世界での…フェストゥムが襲来した真相を話す」

 

「ッ!?」

 

「この話をしなければ、私自身前へと進めん。…酷な事だがよく聞いてくれ」

 

公蔵から語られたのは、元の世界である竜宮島に対するフェストゥムの侵攻の真相と彼自身の話である。公蔵はそれを彼の『罪』と断言した。

 

当時司令だった頃の公蔵は後に司令に昇格した『真壁(まかべ)史彦(ふみひこ)』とは違い、フェストゥムに対して『決戦』という思想を持っていた事。そして、新国連の情報を事前に握っており、北極海ミールとの決戦である『ヘブンズドア作戦』の成功率がほぼゼロであることが容易に想像がついた。

 

それにより残された人類の兵力を失うことで竜宮島の未来が厳しいものになり、共生思想も理解できるがそれはあまりにも時間がなさすぎると。

 

公蔵は賭けに出ることために家族を犠牲にしてでも…否、後世に汚点を残してでも未来のためにすべてを投げ捨てる。竜宮島に戦いを余儀なくするために戦いを仕向けさせるためにすべてを知った総士を島の外へと出し、フェストゥムをおびき出させた事を。

 

「そんな……島を戦いに巻き込んだのは」

 

「私の仕業だ……」

 

一騎は怒りを露にする。今にも掴みにかかりそうな勢いだ。無理もない、島を戦いに巻き込んだ元凶ともいえる人が目の前にいるせいでもある。公蔵はまるですべてを受け止めるかのように一騎の罵声に何も言わない。

 

「だったら、また俺らを戦いに駆り立てようとするのか! あの大赦の使者っていう連中を同じように」

 

「その人はもうそんな事を考えてないわ!」

 

そんな一騎に鞘の制止する声がかかる。

 

「そんな事を考えていない…?」

 

「一騎君、落ち着いて! その気持ちもわかるわ…だけどその人は変わったの」

 

鞘が公蔵の告白を聞いた一騎に火消しの声をかける。その声は夫である公蔵を庇う様に思えるが、その声を聞いた一騎は鞘の眼にはどこか『信じてほしい』という感情が見え隠れしているような気がした。

 

「……これはこのアルヴィスの人たちほぼすべてに関わることなんだけど」

 

「私たちは知ってしまったのだ。竜宮島の戦いを……君たちが紡いだ『共生』という思想を」

 

さらに言葉を続ける。命を落としたと思っていた彼は島のミールと一体化し、島の戦いを見ていたと。それにより、フェストゥムとの共存に動いた島の出来事をすべて知った事により公蔵は自らの思っていた『決戦』という考えを改めなおした事。もう少し時間をかければ竜宮島司令となった史彦と分かり合えたかもしれないと語った。

 

「そんな事が…」

 

「アルヴィスに所属する人員のほとんどは前世の記憶、それと島のミールという存在になっていた事でこれまでの竜宮島の戦いの事も知っている。……だからこそ、私の考えを変えるには十分すぎた……。済まなかった。あの戦闘で多くの人命が失われてしまった事もある許してくれとは言わない」

 

ここで席を立ちあがる公蔵と鞘は深々と一騎に頭を下げた。鞘に宥められた一騎は冷静になっていたが再び困惑し総士に視線を送った。

 

「本当なのか?」

 

「僕も父の真相を聞いた時には何とも言えないような気持ちになった。…一騎、お前が思った通りの事を言えばいい」

 

総士はあえて一騎に委ねると示唆した。一騎は頭を下げる2人に口を開いた。

 

「顔を上げてください。島にとっては確かに許されない事だと俺は思います。だけど、それは過去の事でもう過ぎだ事です。あなたも総士と同じでそれに苦しんでいたのでしょう?」

 

公蔵も総士と同じで似たような苦しみを抱えていたのを告白してくれたのだ。その気持ちをある程度察した一騎は公蔵の『罪』を知った上で許す選択をした。

 

「俺を助けてくれたのは、そういう利用する気ではないんですね」

 

「…そうだ」

 

「わかりました。それを聞いたうえですが…俺はあなたを許します」

 

「…感謝する!」

 

それを聞いた公蔵と鞘は頭を上げるが、一騎の告白を聞くと公蔵は深々と頭を下げた。

 

 

 

公蔵の『罪』という告白を聞き終え場が落ち着くと会議室のドアが開かれる。溝口と道生を先頭に幾人かの人が入ってきた。

 

「溝口戻ってきたか」

 

「奴さんには話を着けた。今回の事件はお互いのためにない事にした」

 

「それでいい。今は事を大きくしたくない」

 

溝口から報告を受けた公蔵はこの場に必要な人材がそろったことで本題へと入ることにした。




次話は当小説での大赦の現状を語ります。

以下、解説
●司令役の裏話
公蔵:史彦の次点候補。ただし、こちらの場合『決戦』の思想をどうにかしないといけないがファフナーキャラを転生した前提にしたため、EXOでの設定を込みにして竜宮島の戦いを知ってもらい考えを改めてもらった。

史彦:諸事情で使いたくはなかった。カノンエンド版で出そうとも思っていたが、それだと失敗の後ろめたさもあったので断念。変わりにある場面で登場予定

ナイレン:後々にあるポジションで出すために断念。公蔵との2択だった。

●皆城鞘
皆城公蔵の妻で、総士、乙姫の母親。設定が明かされているのみで登場したのは『EXODUS』回想シーンのみである。公蔵の『決戦』での思想を変えさせるために採用。

設定のみのため作者の独自設定込みのオリキャラ化となっている。

余談だが、フェストゥムのタイプや位置を特定するAI「ソロモン」を設計した3人のうちの1人(他2人は近藤彩乃と要澄美)

●日野洋治
日野道生の実の父で、あのマークザインを作った開発者。当作品の技術チート枠である。

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