絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち   作:黑羽焔

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一騎と総士の会話が中心となるオリジナル回の二部構成前編となります。ゆゆゆの世界で起きたある事件の真相を総士から語られます。


第5話 やがて来る日を選ぶために(前編)

視点:アルヴィスの大人たち

 

「で、これでいいのか公蔵?」

 

一騎にアルヴィスの目的を話して数刻後、閑散としたアルヴィスの会議室にて溝口が訊ね。公蔵は無言でうなずいた。

 

「あの様子じゃあ『やる』って言ってもおかしくはなかったぞ」

 

「一騎君自身がそう言ってくる可能性も否定はできない。だがあえて総士たちと話させ考え選択するための時間を与えた」

 

「んな回りくどい事しなくてもいいのにねえ」

 

すると会議室に1組の男女が入室してきた。

 

「……それにこうなってしまったからにはもはや彼1人の問題ではないからな。一騎君がこの世界にあった事を知った上での『意志』を聞きたい」

 

「……皆城、一騎に何が起こったか話してもらうぞ」

 

「そのつもりだ」

 

(なるほど、こういう建前でもあるのかい)

 

男性が単刀直入に話を切り出す。公蔵と溝口は彼と旧知の仲である男女に対しての事情説明が始まった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

 

現在、一騎は施設内に用意された一室にいた。

 

『今日はもう遅い……大赦上層部の事後処理は我々に任せて今日のところはこの施設で休みたまえ』

(あの様子だったらアルヴィスに入ってくれなんて言われるかと思ったけど)

 

公蔵はアルヴィスの目的を話した後に夜も更けている時間であるという理由から話を切り上げ、一騎を保護並びに大赦への事後処理する事を告げた。一騎自身はその余地を与えてくれたのに言われた理由を考えていたためかあまりよく眠れなかった。

 

(総士たちは何を見て知ったんだろうか)

 

一騎は昨日の総士たちの様子からその心境やこの世界の事について知った事が気になっていた。こちらの世界に来てからは敵が動き出すまで総士たちに事の次第を任せていたため些細な事しか話していないためだ。

 

時は経ち、気づけば朝となっていた。すると気配を感じ扉の方へと目を向けた。

 

「「おはよう、一騎」」

 

「……おはよう」

 

「眠れなかったのか?」

 

総士と乙姫がごく当たり前のように朝の挨拶をし入室した。訊ねた総士に一騎は頷いてから返す。

 

「昨日は色々ありすぎた……」

 

「そうか。少し話がしたい。来てくれるか?」

「朝食を兼ねてだけどね」

 

総士の手にはバスケットが握られており、中にはサンドイッチと水筒が入っていた。一騎自身も総士に聞きたいことがあるので頷くと踵を返し先導する総士と乙姫の後に続く。言葉を返さなくても互いにやる事がわかるといった感じである。

 

3人は部屋を出ると通路を進みエレベーターに乗る。一騎は昨日総士から言われていたがこの施設が前の世界のアルヴィス構造にある種の懐かしさを感じていた。

 

(前も何もわからない俺に「話すことがなければ、黙って歩くだけでいい」っていう感じだったな)

 

エレベーターから降りると通路を歩き、ある大部屋の自動ドアが開かれる。

 

「ここで話そう」

 

そこは『展望室』と呼ばれる。この施設の職員が利用する休憩所の一種と総士から説明を受けた。内装は竜宮島アルヴィスの展望室がほぼ完全に再現されているが唯一の違いといえば大窓には施設外の風景が広がっている。

 

「出来合いの物だが」

 

備え付けられたベンチに腰掛ける。そういや昨日の出来事の後、この施設に来てから何も口にしてなかったなと思いながら一騎は簡素な朝食をいただいた。総士や乙姫も食事に夢中である。終えてから話すつもりなのであろう。

 

「驚いたか?」

 

総士がコーヒーを入れた紙コップ片手にそう言った。乙姫はじーっと黙って成り行きを見守っている。

 

「…正直、まだ信じられないよ」

 

かつて亡くなった人たちとこの世界でまさかの再会を果たし、その人たちの作り上げた組織、この世界の組織である大赦の現状。あまりにも多くの情報で一騎は少し混乱しているようだ。

 

「僕や乙姫も最初に知ったときはそうだった。黙っていたことを聞かないのか?」

 

「いや、黙っていたのも何かあるんだと思って」

 

総士の短い一言に恐らく自分が今抱いているものと同じ思いをしたのだろう。一騎はそう思い一息つく。すると、大窓から見える朝の風景を見つめあることに気づいた。

 

「え……あれって……」

 

「気が付いたか」

 

大窓から見える風景は一面に広がる海だったのだが……それに相応しくない構造物が見えた。総士も一騎の様子に気づいた。

 

「『瀬戸大橋』だ」

 

総士はかつて橋だった構造物を淡々とした口調で教えた。同時に一騎はこの世界に来た頃に四国で起きた大きな事件を思い出した。

 

「2年前に大きな自然災害で壊れたっていうやつか」

 

「……表向きはな」

 

「えっ……」

 

思わず腰を浮かし、目が点になる。

 

「昨日の話覚えているか?」

 

「あぁ」

 

昨日語られたこの世界の話を思い出す。大赦の成り立ちとその方針、現在の大社の現状と分裂、起きてしまった勇者に関する決定的な出来事。

 

「……風先輩たちが勇者に選ばれる前に大きな戦いがあった。あの崩壊した瀬戸大橋はその戦いの跡だ」

 

静かな声で総士は告げる。

 

「一騎、勇者の戦いに関わり始めた今のお前なら自然災害が起きた原因がわかるはずだ」

 

【樹海が何かしらの形でダメージを受けるとその分日常に戻ったときに災いとして現れると言われているわ。派手に破壊されて大惨事、なんてならないようにアタシたち勇者部が頑張らないと】

 

総士は淡々とした説明を続ける。風の言葉、そして昨日の大赦の一族にあった勇者たちの話。一騎の疑念は確信に変わってしまった。

 

「……お前、見たのか」

 

「……見た」

 

【……普通の女の子があそこまでやれるなんてな。ある意味凄いな】

【……そうだな】

 

勇者の事を快く思ってなかった言葉も思い出される。総士の言葉は彼が目にしたであろう光景の恐ろしさを感じさせた。

 

「大赦にいた頃はその組織の方針の都合、あまり多くの事を話すわけにはいかなかったんだ。……だけど、いつかは話すつもりだった。一騎も神樹からのメッセージにあった役目を見ただろう」

 

「あぁ。俺の場合は『とある女の子を護る』。友奈の近くに引っ越してきたから彼女の事だったんだろう」

 

「後にわかった事だが結城の勇者適正は歴代最高だそうだ。恐らくはそれが要因だろう」

 

納得したような感じで一騎は頷く。一騎から見ても友奈はいつも前向きで自分より他人の事を優先するお人好しな普通の少女である彼女を守るという神樹からの神示の意味がこれでようやく理解できた。

 

「そういや、お前のは聞いてなかったな…」

 

「僕と乙姫が神樹から託された使命は2つあった。1つ目が『来るべき時に備え、戦闘態勢を整える事』。2つ目が『この世界に関するあらゆる事を知る事』。その一環として勇者たちの戦いを見守ってほしいとの事だった。一騎が結城と出会ったように、僕たちも勇者に選ばれた少女たちに出会った」

 

総士が神世紀298年にあった出来事を話し始める。その頃の総士たちは戦闘態勢の準備とも言える段階だったため、公蔵らと対フェストゥムに向けての準備と並行しつつ、この世界の敵であるバーテックスから四国を守り彼の敵と戦うために選ばれた神樹の『勇者』と呼ばれる3人の少女のサポートも行っていた。

 

「勇者として選ばれる少女は神樹によって選ばれるがそれは襲来直前まではわからない。その時に選ばれたのは歳は今の僕たちと同い年だ」

 

総士が淡々と続ける。そのサポートという役柄の都合、その3人の少女と接する機会が多く、乙姫とともに日常を送っていた。

 

「乙姫も彼女らにはよく懐いていた」

「……だけど、それは長く続かなかった……」

 

乙姫が表情を暗くしながら呟き、総士が話を続ける。その少女たちと関わり深くなっていたが突然おとずれた悲劇で終わりを告げた。詳細は大赦の一族の三ノ輪が話した通りである。

 

(総士はまた『犠牲』を間近に見てしまったのか)

 

一騎はただ総士の語っているの話に耳を傾けた。そうすることを望んでいるかのように思えたからだ。

 

「その勇者たちはどうなったんだ?」

 

「1人は大赦により直々に管理するという名目で今の大赦上層部の元にいる。もう1人は勇者に選ばれたことで大赦の一族の養子として招かれたが戦いの後に元の家に戻されたそうでその後の消息はわかっていない」

 

「3人目は……三ノ輪っていう人の言う通りか」

 

「そう…だな」

 

一騎は総士の語りからまるで苦しみを吐き出しているように感じられた。

 

「なんでそのような話をしたんだ?」

 

「僕たちが見てきたのをお前にも知ってほしかったからだ。無意味に混乱させるのを避けようとして……本質を言わなかったためにお前とのすれ違いを生んでしまった事もある。…結局は今になってしまったがな」

 

そんな事もあったなと前の世界の事を思い出す。あの頃の一騎と総士はすれ違ったまま戦っていた事もあり、総士自身その点を踏まえて告げた。

 

「総士…お前はその勇者たちを助けることは出来なかったのか?」

 

「無理だ」

 

総士がそう断言した。

 

「神樹によって僕たちの世界の力を持ち出すことはできた…が、使用するための開発もすぐに行ったが間に合わなかった」

 

「けど―――!」

 

「戦えるならとっくにそうしていた!!」

 

声を荒げ本気で怒りそうな一騎に総士は感情的に返した。辺りは一色触発の雰囲気になりかけた。

 

「総士、感情的になってはだめ! ……一騎も落ち着いて」

 

「乙姫?」

 

「ここで言い争うと伝えたいことも伝わらくなっちゃう。今は総士の話を聞いて…ね」

 

「あ、あぁ…」

 

「……すまない、感情的になりすぎた」

 

乙姫からの火消しともいえる一声により2人は踏みとどまった。気まずい雰囲気なのか互いに目をそらす。少しの静寂が流れる。

 

「……一騎、この世界はどう思う?」

 

総士は長い溜息をついた後、唐突に訊ねてきた。

 

「どうって……」

 

「お前の見たり感じたりした程度でいい」

 

「……竜宮島と同じで穏やかで平和なくらいしか」

 

その質問に戸惑いながらも答える。

 

「そうだ。バーテックスという災厄に苛まれながらも平和を維持してきた。だが、その平和は誰が守ってきたんだ?」

 

「誰がって……この世界だと勇者か……あ」

 

一騎はファフナーパイロットである自分らとこの世界の勇者たちに関してある点に気が付いてしまった。

 

「この世界も同じなんだ。誰かが勝ち取った平和を譲ってもらっているんだ」

 

「俺たちと同じ…か」

 

一騎は顔を俯かせる。総士は立ち上がると一騎の正面に移動する。そして、彼の中で決めていたこの世界を見て、知って、考えた末の思いを告げた。

 

「この世界は……竜宮島と同じだ。ここには島と同じ平和が守られている。最初はフェストゥムの脅威があったからこそだったが、それを抜きにしても守りたいと思えた。もう、同じような悲劇は繰り返したくない」

 

「総士…」

 

「一騎、僕に力を貸してくれ」

 

一騎は総士の告白に「お前も変わったな」とポツリと呟くと、総士の瞳をじっと見つめ

 

「『助けたい』と思ったからここに来た。俺もやるよ」

 

一騎なりに強い意志を込め総士に告げた。




わすゆでの出来事を語るタイミングに悩んでましたが、当作品でゆゆゆの組織である大赦の一派、ファフナーの組織であるアルヴィスとの対峙による発足もあったためこのような運びとなりました。

以下、解説

●今話時点での総士
これまで伏せてきましたが、ゆゆゆの世界に来た時点で大赦側にいた事もあり『鷲尾須美は勇者である』の出来事に既に関わった状態となります。

また、シリウスコミック版での総士の心情シーンやPSP版での設定を考慮した結果、少々正直すぎる総士となってしまいました。まあ、一種の変化ということになります。

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